2014年04月21日
Final Cut Pro Xでの4K編集と書き出し
まず最初にMac ProとFinal Cut Pro Xの組み合わせで検証を行なった。モニターはEIZO ColorEdge CG277を使用。 撮影:坂上俊彦
ProRes 422素材で行なう4K編集は驚くほど快適
前項で述べたように、Mac Proは新しいアーキテクチャーや考え方で作られているため、アプリ側もまたそれに対応してチューンしないと、そのポテンシャルを十全に活かすことは難しい。
その意味でアップル純正の映像編集ソフトであり、Mac Proの出荷開始と同時にアップデートが公開されたFinal Cut Pro X(以下FCP X)は現在、もっともMac Proに最適化されたソフトウェアであると言え、Mac Proのポテンシャルを計るベンチマークにもなるはずだ。
Mac ProでFCP Xを操作して最初に気がつくのが、ネイティブ編集力が高くなっていること。つまりカメラで撮影したデータのまま編集作業を行なっても、優れたパフォーマンスを発揮してくれるのだ。
FCPはProRes 422という中間コーデックがウリだった。別の言い方をすれば、この編集に向いた優秀なコーデックの存在こそMacが愛用されてきた理由でもある。それゆえFCPを使うなら、撮影したデータをProRes 422に変換するのが当然だったし、同時にそのトランスコード時間がFCPの弱点でもあった(FCP Xになってバッググラウンドでトランスコードが可能になり、変換待ちはなくなったものの、それでもバックグラウンドでの変換中はレスポンスが低下した)。
Mac Proでは、H.264にせよAVCHDにせよ、ネイティブのままでの編集レスポンスが大きく改善している印象。フルHDファイル(EOS 5D Mark III)での編集レスポンスは、ネイティブ(H.264)とProRes 422で大きな差を感じなかった。それだけMac Proの処理能力が高いとも言えようか。
ただし4Kムービー編集になると、ネイティブとProRes 422の差は有意に体感できる。主に試したのはEOS-1D Cの4Kファイル(4096x2160 / 24P)だが、このネイティブファイル(Motion JPEG)と、ProRes 422とではビデオレートに大きな差がない。だが再生時のレスポンス、複数ストリーム再生時のコマ落ちは、明らかにProRes 422の方が有利だった。
そしてProRes 422素材で行なう4K編集は、これまでにないハイレスポンスなものだった。
検証に使用した4K映像素材
筆者がEOS-1D Cで撮影・制作した4Kのサンプルムービー。検証に使用したMac
Mac Pro | 機種 | MacBook Pro |
---|---|---|
12コア | コア数 | 4コア |
Intel Xeon 2.7GHz | CPU | Intel Core i7 2.6GHz |
32GB | メモリ | 16GB |
デュアルAMD FirePro D700 | グラフィックス | NVIDIA GeForce GT650M |
512GB SSD | ストレージ | 512GB SSD |
4Kマルチカム編集ではコマ落ちなしで16面を同時再生
一言に編集がスムーズと言っても、パソコンの能力に依存する部分はいくつかに分類される。おおまかに言えば
・準備(読み込み、変換)
・オフライン的編集(レスポンス)
・オンライン的編集(レンダリング速度)
・書き出し(エンコード速度)
の4つである。
読み込みに関しては、前述のように変換を要しないネイティブの実用度が高まったほか、バックグラウンドでの変換中の影響(表側が遅くなる)がほとんど感じられないのは、処理能力に余裕があるからか。
FCP Xの編集時のレスポンスの良さはもともと定評のあるところだが、この部分の快適さは更に向上。4K素材も引っ掛かりなくスクラブでき、マウスへの追随性、再生操作への反応もフルHDと変わりない。
圧巻は4Kのマルチカム編集だ。マルチカム編集とは複数の映像素材を同時に再生しながら切り替える手法のことだが、4KのProRes 素材を16面、コマ落ち無しで同時再生できるのは、最上位のGPUであるD700の可能性を垣間見た瞬間だった。
Final Cut Pro Xの書き出しとレンダリングの速度
(素材1分)
Mac Pro | MacBook Pro | |
---|---|---|
QT書き出し | 2分53秒 | 5分4秒 |
レンダリング | 50秒 | 4分50秒 |
エフェクト等のレンダリングにかかる時間も、MacBook ProやiMacの数分の一。ここは制作時間の短縮に大きく寄与する部分である。
一方、完成形の書き出しやエンコードにかかった時間はMacBook Proの半分程度と、今回のテストの中ではもっとも速度向上が少なかった部分。また、テスト機は12コアだったが、筆者個人所有の8コア機でも所要時間は12コア機とほとんど同じだったことから、FCP Xがまだマルチコアをフルに活かしているとは言い難い。今後の最適化に期待したいところ。
全体の使用感は数値以上のものを感じる。これは画面表示をはじめ操作レスポンスが非常に高速になっていることと関係があろう。操作への追随性はほんのコンマ何秒でも体感では大きな差になるし、編集作業の多くの時間は、そういった人とシステムの相対する部分に割かれるからだ。
また、内部にHDD等の駆動部分を持たない(大型のシロッコファンがひとつ)Mac Proが、とても静粛性が高いことも特筆すべき特徴だろう。
※この記事はコマーシャル・フォト2014年4月号 特集「新Mac Pro 実力検証」を転載しています。
斎賀和彦 Kazuhiko Saika
CM企画/演出時代にノンリニア編集勃興期を迎える。現在は駿河台大学メディア情報学部、デジタルハリウッド大学院等で理論と実践の両面から映像を教えながら、写真、映像作品を制作。
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