新Mac Pro実力検証

レタッチ、映像編集の現場で実際に使ってわかったMac Proの実力

VONS Pictures

レタッチカンパニーのVONS Picturesでは、いち早く12コアのMac Proを導入し、レタッチや映像編集などの実戦投入に向けて様々な検証を行なったという。同社のレタッチャー5人に集まってもらい、Mac Proの使い勝手について語ってもらった。

レタッチ業務における新Mac Proの実用性

検証に用いたマシンのスペック
  CPU メモリ グラフィックス ストレージ
新Mac Pro Intel Xeon E5
2.7GHz 12コア
64GB AMD FirePro D700
6144MB×2
512GB
SSD
旧Mac Pro Intel Xeon
2.66GHz 6コア
×2
32GB NVIDIA Quadro 4000
2048MB
512GB
SSD

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磯崎大介
CGディレクター

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濱中英華
CGディレクター

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根津鉄平
チーフCGデザイナー

───まず、VONS Picturesでのレタッチ業務で、新Mac Proを使ってみた実感を教えてください。

磯崎 B0、B1ポスターを4テーマずつという同時展開が多い仕事は、ADの立ち会いは1テーマ1マシンで作業しないと時間的に間に合わなかったんです。立ち会い後の作業に関してもストレスがかかるし、納期まで時間がない中での作業はいつもぎりぎりでした。

今回新しいMac Proでその時のファイルを4つ同時に開いてみたんですけど、新Mac Proでは1分30秒、旧Mac Proでは7分10秒かかりました。ファイルを開くだけでも結構違いますよね。この仕事の時は、納品時に16bitに変換するのも時間がかかっていたので、そのあたりも新Mac Proでは解消するんじゃないかと思います。

濱中 8bitから16bitに変換するのは、新Mac Proはすごく速かったですね。私の最近の仕事で空や車のグラデーションをレタッチするものがあったのですが、丁寧にやりたかったので8bitから16bitに変換して細かい作業を行なっていたんです。大きなデータだったので、旧Mac Proで変換した場合は10分はかかるなあというところだったんですけど、新Mac Proの場合は数分という印象です。

───16bit化後の作業時のもたつきなどはいかがでしょうか。

根津 16bitで作業する時も、結構違いますね。今まで16bitで作業する時ってレイヤーがたくさんあるとどうしても重くて描画が遅れたりしていたんです。なので、レイヤーを統合して16bitにしていたんですけど、新Mac Proは16bitで普通に動きますもんね。

ほかにも、細かい作業をする時にズームしても描画が追いつくのを待つのがストレスだったんですけど、新Mac Proはもうパッってかんじです。これは衝撃的でしたね。

磯崎 そうだよね。寄りたいんだけど描画が追いつかないから、我慢して引いたままの状態で作業してた(笑)。新MacProならそのストレスがない。

───そうなると、画像処理の現場には、新しいMac Proはかなり役立つという印象でしようか。

濱中 そうですね。ただ、数枚のレイヤーでちょっとした調整をするぐらいの用途だと、違いはわからないかもしれません。私たちレタッチャーのようにレイヤーをいくつも使った画像で、データが重くなればなるほど、新しいMac Proの恩恵を実感できるんです。

撮影現場で活躍が予想されるMac Pro

───レタッチ業務の前段階の、撮影立ち会い時などでは、新しいMac Proの特徴は活かせそうでしょうか。

根津 僕らはMacを現場に持って行くことは少ないですが、カメラマンさんがMacを持ち込むことは多いですね。スタジオの場合でも持ち運びの面でMacBook Proを持ってこられるカメラマンさんがいらっしゃいますが、新しいMac Proならひょいっと気軽に持って行けるというのはありそうですね。

磯崎 新Mac Proは5kgでしたっけ? 旧Mac ProやWindowsのデスクトップマシンだと、こうはいかないかもしれない。

───撮影現場ではどんな活用が考えられそうでしょうか。

磯崎 まだ実際は現場に新しいMac Proを持ち込んだりしていないのですけど、現場で大量の写真を現像する場合も速そう。デザイナーさんに渡す用にデータを軽くするなんてこともよくありますから。

撮影後のデータ受け渡しも助かりますよね。今まではフォトグラファーのMacからFireWire800のポータブルHDに撮影データをコピーして持って帰っていたんですけど、100GBぐらいの撮影データだとコピーに1時間近く待ったりして。

しかもデザイナーやクライアント確認用に現像したりだと何人も順番待ちがあるんですよね。僕らレタッチャーは最後の方まで待っているので、撮影終了から2時間以上かかったりする事もあり、気がつくとスタジオはすでに撤収されていて、一人待ちぼうけみたいな事も…。

ストレスなく実作業するためのMac Pro

img_special_macpro06_06.png 今後、現場でのデータ受け取りの主流になるであろうSSD。Thunderboltに接続できる「GoFlex Thunderbolt Adapter」(Seagate)に挿して利用。

磯崎 新Mac ProのThunderboltと外付けSSDという組み合わせなら、コピー時間も大きく縮小できると思います。試しに、冒頭の4ファイルで13GBのファイルのコピーを検証してみたんですけど、旧Mac ProのFireWire 800から外付けSSDにコピーしたら4分30秒かかったのが、新Mac ProのThunderboltから外付けSSDにコピーした場合はたった30秒でした。これが100GBクラスになると、もっと差は開きますよね。

───現場でのデータのやりとりはThunderboltを使ってSSDへというのが、標準になっていきそうですね。

磯崎 ええ。でもまだ撮影現場のMacがThunderboltを搭載していない場合も多いので。ぜひ撮影現場もMacProを導入してほしい(笑)。

濱中 タレントさんを使った場合は事務所チェック用にコンタクトシートを出さなくてはならないんですけど、私たちがPhotoshopやBridgeで作ることも結構あるんですね。この時の時間も結構違いました。100枚の写真をA4の中に2枚ずつ、計50枚のコンタクトシートを作成するのに、旧Mac Proは9分45秒かかったんですけど、新Mac Proだと6分10秒。まあ、これが待てない時間かと言われれば待てるんですけど(笑)、ストレスが軽減されますよね。

───マシンパワーがアップしたり、高速なポートが搭載されたりといった利点は多いです。しかし、新Mac Proの内部の拡張性という意味ではできることはなく、ほとんどが外付けになります。このあたりは業務上どうでしょうか?

磯崎 旧Mac Proでも外付けのHDDだったりといったものを使っているので、そんなに気にならないですね。Photoshopを使う分にはグラフィックボードはあんまり関係ないので今でもそのまま使っていますし。ただ、光学式ドライブがないのはちょっと気になりますが。

映像編集のレンダリング作業に大きな効果を見せたMac Pro

img_special_macpro06_07.jpg 映像担当の大里氏と3DCG担当の大槻氏は同室で作業する。大里氏は旧Mac Proから新Mac Proへ移行中。大槻氏はZ820を3DCG用に構築中だ。

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大里宗也
映像部ディレクター

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大槻昌平
チーフ3Dデザイナー

───映像編集においては、新しいMac Proはいかがでしょう。

大里 最近はAdobe After EffectsとAdobe Premiereで編集作業をしているんですが、どうしても4Kサイズで作業をやっていると重いんですよね。最終的なレンダリングするところでかなり時間がかかってしまいます。

試しに、4Kの映像で標準のフィルタを多数使用し、レイヤー数はかなり多めの10秒のコンポジションファイルデータをAfter Effectsでレンダリングしてみたんですけど、旧Macで21分かかるところが新Macでは12分で終わりました。新Mac ProではThunderbolt 2対応の外付けHDD(Pegasus 2)にキャッシュを割り当てられるようになっているので、これも高速化の大きな要因だと思いますね。

もう1つ、After Effectsの中で3Dを作るプラグイン「ELEMENT 3D」を使って、数万ポリゴンのオブジェクトが弾け飛ぶアニメーションを作ってみました。ノイズやモーションブラーなど高負荷が掛かるであろうフィルタを多数使用しています。このレンダリングも旧Macだと17分かかっているのが、新しいのは7分ぐらいで終わってしまいました。

───かなり旧Mac Proとの差が出る結果になりました。

大里 そうですね。ここまで差が出てくると、これまでの動画編集にありがちだった「本番レンダリングは夜にまとめて」という考えは一部改める必要もあるかもしれません。

───Premiereでレンダリングをした場合の感触はいかがでしょうか。

大里 フルHDサイズの1分程度のプロジェクトファイルをPremiereでレンダリングした結果を比べてみました。これは、グラフィックボードの違いを見ることができます。旧Mac ProのグラフィックボードはQuadro 4000なので、Adobe MercuryプレイバックエンジンのCUDAによる処理ができるわけです。でも、新Mac ProのグラフィックボードはFirePro D700なのでCUDAが使えず、代わりにOpen CLで処理することになります。

結果は、旧Mac Proでは1分、新Mac Proでは40秒ぐらい。つまり、Open CLとFireProというグラフィックボードでもそこそこ速いんだなあという印象を持ちました。

───レンダリング以外の作業で何か感じたことはありますか?

大里 After Effectsで32bitに変換して色を調整するという場面でも、新Mac Proは速いかなと思いますね。8bitでトーンカーブ調整をするとすぐトーンジャンプが出ちゃうところが、32bitだとグラデーションがきれいなまま保てることが多いんですよ。

でも、遅いマシンでやっている時は32bitにすると動作が重くなります。After Effectsではプリコンポーズ(Photoshopでのレイヤーフォルダ)にしたレイヤーがどうしても増えてしまいますが、それをいっぱい作っていって、色を調整をしたりすると32bitだともう動かなくなったりするんですよね。だから泣く泣く8bitでやって最後に変換していたんですけど、作業のところから32bitでやっても結構動くなと感じました。

Windowsの最新マシンとの印象の違い

───3DCG業務でWindowsマシンを使われている大槻さんは、比較して新Mac Proをどう感じましたか?

大槻 3DCGのソフトはMac版がほとんどないので、2年ぐらい前まではMacで画像処理をして3DCGはWindowsマシンを使うという作業方法にしていました。でも、HP WorkstationsのZシリーズを導入してからは、画像処理もWindowsでやるようになっています。今回、新Mac Proとほぼ同時にヒューレット・パッカードのZ820 Workstationを新たに導入しました。こちらは3DCGソフトAutodesk 3ds Maxに特化したマシンとして、現在構築中です。

3ds MaxはMac版はないのでその意味では比較できないんですけど、その前段階の画像処理に関しては新Mac ProはZ820に遜色ないぐらいの仕上がりになっていると感じましたね。

───3DCGや映像業務では信頼の高いZ820と比べても、それほど差がなかったということでしょうか?

大槻 今回導入した新Mac ProとZ820はメモリなどの構成が違うので純粋な比較ではないですが、使用感としてはそれほど差がないなと。

  CPU メモリ グラフィックス ストレージ
新Mac Pro Intel Xeon E5
2.7GHz 12コア
64GB AMD FirePro D700
6144MB×2
512GB
SSD
Windows
マシン
(HP Z820
Workstation)
Intel Xeon E5
2687Wv2
(3.4GHz,8コア,
25MB,1866MHx)
×2
24GB NVIDIA Geforce
GTX780Ti
480GB
SSD

大槻 Photoshopで開くことや保存にかかる時間は新Mac ProもZ820ほぼ一緒でした。最近のPhotoshopには「バックグラウンドで保存」という機能があると思いますが、オフにすると何割か速くなるので検証はオフで行ないました。

結構大きく違ったところは、レタッチ中の複数レイヤーを保持したままで150%拡大という作業でした。新Mac Proだと8分43秒のところが、Z820だと12分かかっていたので、そこはMacのほうが得意なのかなと思いました。ただ、ぼかし(レンズ)は新Mac Proが3分、Z820が42秒と差が出たので、得意不得意の分野がありそうです。この辺りはもう少し使い込んでみないとわかりませんね。

───総合的に、新Mac Proをどう評価されますか?

磯崎 撮影後のタレント事務所チェックだったり、納品までの時間だったりが短くなってきているので、待っている時間がなくなるのはすごくいいですよね。作業中もストレスが少なくなりますし。仕事がかなり楽になる…かも(笑)。

大里 映像編集では、レンダリングの時間が大幅に短くなるのが一番大きいですね。ちょっと前からレタッチや映像業界の人もWindowsに流れていたので、「やっぱりWindowsのほうが速いのかな」と思っていました。でも、新Mac ProはZ820とも互角だったので、Mac派の僕的にはほっとしました(笑)。

img_special_macpro06_09.jpg VONS Picturesが2月18日にオープンさせたシネマグラフ特設サイト「CINEMAGRAPHs」(http://www.vons.co.jp/cinemagraphs/)。シネマグラフとは静止画の一部だけを動かすという手法で、高精細な写真表現とダイナミックな動画表現をミックスさせたものだ。同サイトでは、ゾンビや半魚人などを題材とした7つのシネマグラフ作品を見ることができ、さらに4K版のYouTubeで4Kバージョンを楽しむこともできる。VONS Picturesでは、これから4Kが本格化するのに合わせて、デジタルサイネージのモニターも4K化していき、その市場では高精細なシネマグラフの需要が高まるだろうと見ている。シネマグラフの制作現場では新しいMac Proが活躍するに違いない。
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※この記事はコマーシャル・フォト2014年4月号 特集「新Mac Pro 実力検証」を転載しています。

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