2017年09月01日
夏の新色ムスメ
Interview 田中達也(ミニチュア写真家)
野菜や文房具、日用品など、身近な物と小さなフィギュアを組み合わせて不思議な見立ての世界を構築する田中達也さんの「MINIATURE LIFE」。写真集、カレンダーの発売に加え、今春のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックを担当。さらに台北の中正紀念堂で大規模な展覧会「微型展・田中達也的奇幻世界」(2017年6月29日~9月10日)を開催のほか、新宿高島屋(9月1日~12日)、大丸梅田店(9月20日~10月2日)でも展覧会「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」が開催されるなど国内外で注目を集めているアーティストだ。この「MINIATURE LIFE」。実はソニーαで撮影されている。なぜミニチュアなのか。そしてなぜαを選んだのか。創作の秘密に迫る。
(DRAWING AND MANUAL)
1981年熊本出身。ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立て、独自の視点で切り取った写真「MINIATURE CALENDAR」がインターネット上で人気を呼び、雑誌やテレビなどのメディアでも広く話題に。広告ビジュアル、映像、装画など手がけた作品は多数。2017年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックを担当。写真集「MINIATURE LIFE」、「MINIATURE LIFE2」発売中。
ミニチュア人形を被写体に創作を開始
──MINIATURE LIFEはいつ始めたのですか。
田中 2011年4月からですね。鹿児島の制作会社でデザイナー、アートディレクターをしていました。その頃はフォトグラファーに依頼する立場でした。「こういうレンズで撮って欲しい」とか、「絞りはこのぐらいがいい」など具体的に指示できるように勉強しようと考えていて、その頃ちょうどInstagramを始めたということもあり、スマートフォンで写真を撮ってみようと思いました。
それが6年前。どうすれば「いいね」が増えるのだろうと考えていたんですが、人気のあるのはモデルがいる写真が多い。明確な被写体いた方が絵が締まる。しかしモデルを使って撮影する時間も労力もない。そこでミニチュア人形を被写体にすることにしました。もともとジオラマが好きだったので、プラモデルで作った戦車やロボットなどに添える人形を持っていたんですね。人形が1つあると物語ができる。そこからMINIATURE LIFEを撮り始めました。
花火ボンボンボーン盆
αが一番しっくり来た
──ソニーαを使うきっかけを教えてください。
田中 スマートフォンでは満足できなくなって、コンパクトデジタルカメラを使い始めました。それでも満足できなくて、一眼を使おうと思った時に、どのカメラにしようかと各社触ってみたのですが、αが一番しっくり来ました。そこで、α55を買いました。それからα77に、今はα7R IIを使っています。
──ソニーαを使い続ける理由はなんでしょうか。
田中 もともとファインダーを覗いて撮らないので、画角を決めて撮って行く上でαのライブビュー機能が使いやすかったんですね。三脚を立てて、位置を調整して、アングルが決まったらリモコンでシャッターを切るのにαがちょうど良かった。ミニチュア撮影に一番向いているカメラではないかと思います。
チャーハン?サーフィン?チャーファン?チャーフィン!
──「MINIATURE LIFE」を仕事としてやっていこうと思ったのはいつ頃ですか。
田中 2013年に写真集を出したんですね。その写真集はクラウドファンディングで募って自費出版のつもりだったんですけど、思ったよりも人が集まったので、出版社が手伝ってくれることになって、そこから契約をかわして1冊目の写真集を発売しました。写真集がきっかけで2014年以降、ミニチュア関係の仕事が入るようになって、その頃から制作会社の仕事よりもミニチュアの仕事の収入の方が上回るようになってしまい、自分の中で矛盾を感じてきた。子育ても忙しくなってきた。子供の面倒を見ながら会社勤めしてミニチュアをやるのは厳しいなと思って、2015年10月に独立しました。大学卒業から鹿児島の制作会社に11年間勤めました。勤めていた会社で一緒だったフォトグラファーにレンズや三脚など機材のことなどを教えてもらいました。ライティングは独学で、写真に温かみを出すために白熱電球で撮影することが多いです。
作品に使えそうな材料は常に集めている
──創作の際に絵コンテは作るのですか。
田中 クライアントのあるものに関しては絵コンテを描きます。一旦決裁をもらった後に材料を揃える必要があるので。毎日の作品の場合は、「○○で○○」といったように文字でアイデアをメモしています。「ブロッコリーで木」「畳で田んぼ」のように。シンプルだけどインパクトがある。それを求めた結果、“ワンアイデア、ワンモチーフ”になりました。SNSで「いいね」とたくさんもらうには共感や発見が必要。僕の場合、その共感や発見の要素が“見立て”なのです。
──モチーフとなる材料はどうやって揃えているのですか。
田中 普段から集めて棚にたくさんしまってあります。創作の時はそこから選びます。例えば、歯ブラシをモチーフにするという時には、たくさん集めた歯ブラシの中から、その作品のアイデアに合った形状の歯ブラシを選び出す。アイデアが思いついた時にでもいい材料がないなと思ったら、材料が見つかるまで作品にはしません。買い物する時にメモを見ながら探しています。
カレンダーに「○○の日」ってあるじゃないですか。そういう時にはそのアイデアに合わせて作るようにしています。例えば「豆腐の日」だったら豆腐をモチーフに考えたり。「○○の日」は日本独自の語呂合わせの場合が多くて、海外の人には意図が伝わらない場合が多いので、ハロウィンやクリスマスのような世界で共通している事柄に関して特に着目して作るようにしていますね。
また、万国共通で理解してもらえることを考えると、食べ物をモチーフにすることが多くなります。ブロッコリーならこのぐらいの大きさだとわかりますよね。文房具や道具の場合は典型的な形を探しますね。例えば珍しいカッターがあったとして、それが何でどのぐらいの大きさなのかがパッと見た人に理解されないことが多い。それよりは典型的なもの。カッターらしいカッターを探すのが大事。モチーフのサイズが伝わらないと見立てが成り立たないので。
広告の仕事の時は撮影に立ち会いたいという要望が多いのでスタジオに人形を持参して、モチーフとなる材料は現地で揃えることが多いです。人形は鉄道模型のHOゲージ用のもの(1/87スケールで約20mmほど)をよく使います。ほかにもモチーフに合わせて1/160スケール・1/50スケール・1/32スケールなど、人形の大きさを使いわけています。人形は約5000体以上持っています。種類が多いのでいろいろな場面を作ることはできますが、作品によっては自分で作ったり、着色したりすることもあります。
──レンズは何を使っているのですか。
田中 マクロ90mm(FE 90mm F2.8 Macro G OSS)とマクロ50mm(FE 50mm F2.8 Macro)、あとはLAOWAのマクロ15mm(LAOWA 15mm F4 Wide Angle Macro with Shift)。マクロなのにワイド、しかも歪みがない。屋外のミニチュア撮影ではこれを使う時もあります。
毎日の作品はマクロ90mmで撮っています。作品に関しては写真というよりも、アイコンやイラストのように見せたいと思っているので、構図は歪みなく、背景をフラットにしたい。余白を設けて真ん中にポツンとある感じです。そう考えて行くとマクロ90mmはいいなと思っています。
当たり前の話ですけどソニーのカメラはソニーのレンズとの相性がいいですよね。それまでタムロンの90mmを使っていたのですが、α7RIIでEマウントに変わった時からソニーのマクロ90mmを使い始めたら撮りやすくて、「今まで何をやっていたのか」と愕然としました。それ以降、撮影の効率が格段に上がりましたね。
新緑抹茶御苑
──「これだ」と決めるまでに何点も撮るのですね。
田中 アングルを変えて10枚ぐらい。アングルが決まってからもボケ具合を変えてF値を4・5パターン撮りますね。大きい画面で見て納得できるものかどうかを確認します。展覧会用(横長)のアングルとインスタグラム用(正方形)のアングル。それぞれ撮っていきます。仕上げにトリミングすることが多いのでαの高解像度はありがたいですね。
「○○で○○」のアイデアに関しては常に考えていて、メモしたものをスマートフォンにストックしています。その時期に最適なものを選んで撮影し、コピーを考えてSNSに投稿するまで毎日2時間程かかります。
──インスタグラムの作品につけるコピーはどのタイミングで考えているのですか。
田中 写真を撮ってから考えます。30分ぐらい悩むこともあります。広告を作っていた時には絵コンテと一緒にコピーも考えていましたし。SNSの投稿で一言添えないとコメントなどの反応が少ないことが多いです。「写真を無言でアップしないこと」を心がけています。こっちが発信しないと相手も返してくれない。写真を無言でアップしている人にはそれを言いたいですね。
後編では広告のこと、αの解像感へのこだわりに加え、鹿児島のアトリエも紹介。さらに創作の秘密に迫っていく。
協力:ソニーマーケティング(株)
ソニーα Universe http://www.sony.jp/ichigan/a-universe/
- 【特集】 田中達也(後編):「クローズアップすると人形の塗装の粗まで見える。αの解像感に驚きました」
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- Vol.12 宮尾昇陽:ジャンルにとらわれず様々な映像を作るマルチなディレクター
- Vol.11 柘植泰人:その時その場でしか撮れないかけがえのない「瞬間」を切り取れるディレクター
- Vol.10 西村彩子:被写体に寄り添ってファンの喜ぶ表情を引き出すフォトグラファー
- Vol.9 スミス:実験的な手法を駆使して見る者を惹きつける映像を作るディレクター
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