徹底検証・高画素デジタル時代のレンズ

大口径広角単焦点レンズ「SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA」を徹底検証する

茂手木秀行

開放F1.4、35mmフルサイズ対応の大口径広角単焦点レンズ

本連載第2回目は、SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZAを取り上げる。本レンズはSONY Eマウントであり、α7シリーズ、α9に使用できる。

SONYはDSLRメーカとしては後発と言えるが、近年のレンズの拡充は目覚ましく、幅広いレンズのバリエーションを一気に揃えつつある。中でも本レンズの属するZeissレンズ群、およびGシリーズと呼ぶSONYのオリジナルレンズ群は、ハイスペック、高品位な画質を両立させた注目のレンズ群である。

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フルサイズのとき、35mmレンズの対角線画角は約60度であり、人間の視覚において色と形をよく判別できる範囲にマッチし、自然な視野を得られるものとされる。50mmを標準レンズとするのに付随して、準標準レンズと呼ばれることもある。いずれにせよ、日常的な視覚を得るのに適切なレンズであると言える。

マットで落ち着いた黒色アルマイト仕上げとシンプルなデザインは落ち着いた高級感があって好ましい。シンプルな外形の中に目立つのはレンズ右手側に設けられた、CLICKスイッチである。

本レンズには絞り環が装備されるが、1/3段ごとにクリックが設けられている。このCLICKスイッチをオフにすると、絞り環のクリックもなくなり、F1.4からF16までクリックなしでスムーズに動く。この際の動きはピントリング同様、アソビを感じさせないが、微小トルクから反応するスムーズで感触の良いものだ。動画ユーザーにも配慮の行き届いた、良い機構と出来である。

マウント面は全て電磁機構であるがゆえ接点のみが並ぶ。また、後端には四角い窓状のバッフルが配置されており、フレア対策にも細やかな配慮がなされている。

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レンズ右手側に設けられたCLICKスイッチ

レンズ後端に配置された四角い窓状のバッフル


鄙びた漁村からアクアラインを望む風景

SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZAとα7R Ⅱの組み合わせで、撮影を行った。今回のロケ先は木更津だ。東京湾アクアラインのたもとにある小さな漁村を訪れた。海苔養殖が主な産業であると地元の方に伺った。鄙びた漁村からアクアラインを望むこの風景は、時間と記憶を象徴するもので、折あるごとに出かけている好きな風景である。

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※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

アクアライン完成以降は長らく変化のなかった風景だが、近年は異変が生じている。このカットを撮った場所から後ろを振り向けば、ほんの少し前まであった田園地帯はもうそこになく、市街化の波が押し寄せている。きっかけはアウトレットモールができたことであるが、造成工事によって田園が消え街が出来上がっていくのはほんの数年の短い間の出来事だった。今も造成されたばかりの空き地が目立つが、次に訪れる時には街としての風景が出来上がっていることだろう。

木更津といえば、2002年のテレビドラマ「木更津キャッツアイ」を思い出す。アクアラインで東京に近くなったにもかかわらず、都会化とは程遠く取り残されてしまった街に蔓延する、若者の鬱屈した気分をシュールなタッチで描いた作品だ。ドラマの登場人物だけでなく、「東京に近い、けれど、田舎」となってしまった頃の街全体の気分であったかもしれない。

だが、アクアライン開通以前、1986年の「男女7人秋物語」では、明石家さんま演ずる主人公は、東京湾カーフェリーで木更津から川崎に通勤していた。実際にそうした方は多かったはずだが、なんともそのシチュエーションはロマンチックで、「木更津キャッツアイ」に蔓延する気分とは随分と違っている。

この漁港もそうした時間の流れの中にあるはずだが、風景として切り出すと、アクアラインの有無だけが時間経過を語るものとなるだろう。しかし、その時間感覚もそろそろ終わるようだ。「振り向けば都会」になってしまうまで、あと1年ほどではないだろうか。

さて、この写真は東京湾を遠望しつつ、f2を選択することで、近景は前ボケとした。ピント位置は漁船にしたので、遠景もボケている。距離感を作ることで、時間経過も象徴するためであるが、ここでf2を選択したのは、大きなボケが得られつつ、フリンジが収まるからだ。フリンジ自体は表現として「アリ」と考えるが、本レンズはf1.4からf2へと絞る間に大きくフリンジが減少する。つまり、ボケを活かせる絞りの間で、フリンジの量をコントロールできるという特性があるのだ。


「解像感」は絞り開放から高く、周辺でも落ちない

それでは早速レンズの評価に移ろう。まずは解像感の検証結果から見てゆく。

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現代の単焦点レンズに求められるのは、F値の明るさだけでなく、開放から解像力が高く、画面全体に均質であることだ。この定義自体はいつの時代も同じだが、現代においてはより厳しいものが求められている。より高い次元をいつまでも求めるのはもはや欲望と言えるかも知れないが、やはり解像力は最も気になるポイントである。撮影は夕刻で、コントラストが低く、かつ水面上の被写体を撮影しているので、水蒸気、気流の乱れの影響を大きく受けており、本来の能力よりも解像力が低下してしまう条件である。


中心部の解像感 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

まずは写野中心部の比較である。RAWデータをPhotoshop Camera Raw Pluginで表示し、400%に拡大した画面をキャプチャーした。本稿のすべての項目で同一であるが、明るさとトーンの調整については特記しない。しかし、明瞭度、シャープ、周辺光量などレンズの描写に関わる項目は、すべてのカットにおいて、Photoshop Camera Raw Pluginの初期設定から変更しないものとしている。

さて、前置きが長くなってしまったが、まずはf1.4の時である。被写体の周りにパープル、グリーンのフリンジが生まれているが、解像感は高く素晴らしい出来栄えである。

f2に絞るとフリンジがほぼ解消するとともに、f1.4の時にあったフレアっぽさも解消している(単独でf1.4を見ている時には問題にならないフレアっぽさであるが)。さらに明らかな解像感の向上が見られる。

さらにf2.8、f4と順当に解像感は向上してゆく。f5.6では高周波での向上が若干認められるものの、中間周波数では向上していないように見える。以降f8、f11、f16では小絞りボケの影響を受け、順次解像感は低下する。


周辺部の解像感 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

次に周辺部に目を移す。f1.4の時、中心部の解像感から比較して、極端に解像感が落ちた印象ではない。このことから、写野全体の均質感は良いと言える。また、被写体周りにフリンジが少ないことは特徴だ。このことから、中心部でのフリンジは倍率色収差よりも軸上色収差が主因であると思われる。

周辺部の評価に関しては、被写体自体が遠く、大気厚みと揺らぎ、海面からの気流の影響が大きいので、これら評価用の画像では正確性を欠いていることを念頭においてもらいた。また、画像が暗いのは周辺光量落ちの影響である。

続くf2では高周波の解像感が改善している。奥の楕円形は風の塔、少し手前の構造物が海ほたるパーキングエリアであるが、建物外部の階段と、海面の杭が評価ポイントである。

このまま絞ってゆくと、f8までは順次解像感は向上し、f11で若干低下、f16で明らかに低下となる。また、f2.8あたりから、海面の杭に倍率色収差主因のフリンジが見えてくるが、その量は大変少ない。

中心、周辺部の解像感の結果から、本レンズでボケと解像感を両立させるのはf2〜f2.8、解像力を優先するならf5.6〜f8を選択するのが良い。


「ボケ」は距離に応じて大きくなり、自然な距離感を表現できる

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明るいF値の単焦点レンズを使うのは、明るさによるシャッタースピードの向上もメリットだが、ボケの大きさを求めることが、最も大きな理由である。しかし、ボケ量がただ大きいことだけが評価基準ではなく、距離に応じてボケが大きくなってゆくことが必要である。ボケ量が推移することによって初めて、二次元平面で距離を表したことになると考えるからだ。その上で、ボケの性質を考えるべきである。


ボケの連続性 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

ここではボケの連続性を中心に見ていく。主要被写体にしたのは大型建機用と思われる大きな廃タイヤである。ここにピントを合わせたが、距離はおよそ4mである。

f1.4のとき、大きなボケ量でタイヤは浮き上がって強調される。しかし、ボケの連続性はよく、距離が増すにつれボケ量も多くなっており、自然な距離感を表現できている。手前の雑草に注目し、前ボケを見ると、ほんのわずか二線ボケ傾向のガサつきが見られるが、気になるほどの量ではない。

f2では解像感も向上するので、背景のボケ量が小さくなってもタイヤは浮き上がって強調されている。手前の雑草のボケはボケ量が減ったことでガサつき感も減少し、自然なボケに見える。

f2.8も同様な傾向であるが、背景ボケ量の減少により落ち着いた印象の距離感だ。f4では被写界深度が深まり、合焦している部分からの立ち上がりが問題となる。f2.8までの穏やかな立ち上がりからすれば、若干急な立ち上がりに見える。

f5.6、f8では被写界深度はさらに深まるが、ボケ量が減るので、立ち上がりも気にならず穏やかにボケが連続している。f11でほぼパンフォーカスとなる。f16では、当然高周波の解像力は低下するものの、この被写体では問題となる物体を含んでいないため、パンフォーカスでシャープな画像に見える。


後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

後ろボケについてはここで別途評価する。ボケ方の評価であるが、ボケ方は合焦位置と、合焦位置からの距離、及び被写体によって変化するので、この1枚の画像から得られる情報が全てではない。それはボケの連続性においても同様であるが、改めてここで再確認しておいてもらいたい。

この画像での評価位置は、合焦位置約4mから後方約100mの位置である。

f1.4の時、ボケ量は大きいが、やや二線ボケ傾向。特に縦のラインで目立つ。高周波では目立たないので、全体としては柔らかな印象だが、船体の文字などやや構造が大きなディテールはがさついて見える。

f2でも若干の二線ボケ傾向だが、がさついた印象は薄れる。f2.8ではさらにガサつきがなくなり柔らかい印象になるものの、二線ボケは目立つ。

f4、f5.6ではボケ量が小さくなるので、二線ボケが目立たなくなる。大きな構造のボケは柔らかい。f8では二線ボケは判別できない。まだパンフォーカスになっていないので、少しのボケが残る。f11、f16ではパンフォーカスであるが、f16の方がよりシャープである。


「周辺光量落ち」はf2.8でほぼ感じなくなる

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レンズの評価において周辺光量落ちは一つの評価軸であるが、作画する上では周辺光量落ちはあって良い。しかし、周辺光量落ちの主因は開口効率でもあるため、周辺部のボケ形状に影響を与える。それゆえ、光量の落ち方と開口効率のバランスが良いポイントを見つけることが大事だ。


周辺光量落ち ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

ここでは各絞りごとでなく全体で評価する。f1.4では輝度が均一な被写体であればはっきりと周辺光量落ちが見て取れる。その量は、およそ1段分程度である。絞ることで改善できるが、レンズ起因の周辺光量落ちがほぼなくなるのはf4の時であった。しかし、f2.8の時にすでに周辺光量落ちはほぼ感じない程度になっている。


「点光源」はf1.4からシャープな描写

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今回は特に明るいレンズであるので、点光源の実写テストを追加した。後述するピンホール光源でのテスト(焦点内外像)と重複するが、実写での結果として後ほど追認してほしい。


中心部 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

中心部を300%に拡大してキャプチャーした。f1.4から大変シャープな印象である。しかし、光源が下方に流れて見える。この個体では若干芯がずれているか、スケアリングが不正である可能性がある。

f2に絞ると、f1.4で見えていた光源の流れがすっきりと消えてしまう。このことから芯のずれ、あるいはスケアリングの不足があったとしてもごく微量であることがわかる。少し下方に見える船の手すりの解像感も素晴らしい。

f2.8ではさらに点光源が引き締まり、船の手すりの解像感も増す。f4では絞りの角による光条が目立ち始める。本レンズは円形絞りを採用しているとはいえ、微小ながら角があるので、光条は発生する。

f5.6では光条がはっきりと目立ち始め、光源自体が肥大して見え始める。f8でも同様の傾向で、さらに若干光条が強まる。ただし、これらカットはAFで撮影しているが、f8に関しては残念ながらジャストのピントではないようだ。f11からf16では、さらに小絞りボケによる回折が光源の周りに現れ、光源以外のディテールはシャープであるものの、点光源は肥大して見える。


周辺部 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

写野周辺に目を移すとサジタルコマ収差により、光源が鳥のような形になっている。しかし、赤い航空標識灯ではサジタルコマではなく、内向きではあるものの単純なコマ収差である。この違いが直接何かを引き起こすわけではないが、光の波長によって周辺部に出る収差に違いがあることがわかる。量としては微小と言えるレベルであり、星空や夜景など点光源がメインの被写体でなければ気にならないだろう。

周辺部の解像力が低下するのは、面として結像している被写体も同様にコマ収差、サジタルコマ収差の影響を受けるからである。このとき、サジタルコマ収差の量が多いレンズでは、特にボケ部分において周辺が回転したような画像となってしまう。本レンズではそのような印象になるほどの量ではない。

周辺部の収差は絞っても改善しにくいとはいえ、f4程度に絞るとほぼ点光源と言える結像となる。しかし、非点収差は残存しており、f11まで絞って回折現象による像の肥大が非点収差の量を上回ると点像となる。一般的に夜景や星景写真を撮る場合など厳しく見ても、f4程度まで絞ればほぼ満足いく結果が得られる。


「ヌケの良さ」は光の透過率でわかる

今回より新たなテストを加えた。写真のように光源とスペクトルメーターの間にレンズをおき、光の波長ごとにレンズの透過率を測るものである。光源にはLightron MK350(LED光源)、メーターにはSEKONIC C700を使用した。

img_product_lens_2_65.jpg img_product_lens_2_66.jpg

高演色のLED光源(左)と、スペクトル分光式のカラーメーター(右)の間にレンズを置き、光の波長ごとにレンズの透過率を計測する。

まず、レンズのない状態で光源を測定し、次に間にレンズをおき、レンズを通して測定した結果と比較すると、レンズによって吸収された波長がわかる。全く同じ数値で結果が出れば、そのレンズはどのスペクトルも吸収しなかったことになる。それはすなわち、「ヌケの良いレンズ」ということだ。

しかし、そうしたテスト用としては装置は簡易にすぎ、細かな数値が得られるわけではない。かつ、これまで行われてきていない尺度での評価となるため、どの程度の数値がヌケの良さに繋がるかも判然としない。とはいえ、レンズの傾向の一つを見る手段として有効なものと考える。デジタルの時代、カメラ側によってカラーの補正が行われるため、レンズがもたらす色合いがわかりにくかったからだ。

今回の結果は、以下にグラフで示すが、本レンズを通すことで色温度が400Kほど下がった。グラフからG、M傾向にはずれていないのでアンバー傾向のレンズということになる。波長ごとの傾向は演色評価R1〜R15で見ていただきたい。ひとつ注意点は、Raが向上している点である。これはヌケがよくなったことを示すのではなく、波長ごとの吸収が違った結果、各色のバランスが向上したということである。ヌケの良さとは、あくまで光源と同じ測定結果になることである。

光源のみの測定結果 ※クリックで拡大

レンズを通した結果 ※クリックで拡大

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スペクトル分光グラフ

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img_product_lens_2_69.png
ホワイトバランス補正量を示すグラフ

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img_product_lens_2_71.png
演色評価指数のグラフ

img_product_lens_2_72.png

演色評価指数とは、国際規格の基準光と比較して、その光源がどれだけ色がずれていないのかを0〜100の指数で表したもの(100が最良)。評価にはR1〜R15の色票が用いられるが、平均演色評価数(Ra)はそのうち8色(R1〜R8)の平均値。R1〜R15がどんな色なのかは、それぞれのグラフの色で示している。


光源のみの測定結果 

レンズを通した結果 

保存日時 2017/07/15 17:00:52
タイトル SONY35-14_01_5580K
測定モード 定常光
デジタル / フィルム デジタル
色温度 [K] 5580
⊿uv -0.0005
照度 [lx] 99600
基準色温度 [K] 5500
LB指数 [MK⁻¹] -3
LB カメラフィルター --
LB 照明フィルター --
CC指数 0.1G
CC カメラフィルター --
CC 照明フィルター --
演色評価 Ra 95.4
演色評価 R1 97.2
演色評価 R2 96
演色評価 R3 91
演色評価 R4 96.1
演色評価 R5 95.3
演色評価 R6 90.8
演色評価 R7 97.5
演色評価 R8 99.2
演色評価 R9 97.8
演色評価 R10 87.9
演色評価 R11 94.6
演色評価 R12 70
演色評価 R13 97.3
演色評価 R14 94.7
演色評価 R15 97.6
保存日時 2017/07/15 17:00:53
タイトル SONY35-14_02_5155K
測定モード 定常光
デジタル / フィルム デジタル
色温度 [K] 5155
⊿uv -0.0002
照度 [lx] 158
基準色温度 [K] 5500
LB指数 [MK⁻¹] -12
LB カメラフィルター 82
LB 照明フィルター L218 1/8 CTB
CC指数 0
CC カメラフィルター --
CC 照明フィルター --
演色評価 Ra 96.2
演色評価 R1 97.5
演色評価 R2 97.2
演色評価 R3 93
演色評価 R4 96.5
演色評価 R5 95.5
演色評価 R6 92.4
演色評価 R7 98.6
演色評価 R8 98.9
演色評価 R9 96.9
演色評価 R10 90.7
演色評価 R11 95.1
演色評価 R12 71.3
演色評価 R13 98.1
演色評価 R14 95.7
演色評価 R15 97.2

*上掲の表でレンズを通した際に照度が大きく低下しているのは、本レンズは単体のとき、絞りが最小位置で固定されるためである。


焦点外内像のテストでわかった「収差」の少なさ

この連載ではレンズ評価のために「焦点内外像」の検証を毎回行っている。あまり耳慣れない言葉だと思うが、簡単に言えば、ピンホール光源を撮影した時のボケの形状から、レンズ収差の発生状況や前後ボケの非対称性などを読み取れるものだ。連載第1回でわかりやすく解説しているので、詳しくは第1回の焦点外内像についての説明を参考にしてほしい。

img_product_lens_2_73.jpg img_product_lens_2_74.jpg

本レンズ中央部の焦点外像:後ろボケ

本レンズ中央部の焦点内像:前ボケ

ピンホール光源による焦点内外像のテストで、印象的であったのは内外像の対称性の良さである。これは、無収差に近い補正が行われていることを示す。ボケ像に現れている同心円は光の回折現象によるもであり、規則正しく並び、かつ明度の変化がなければボケが自然であることを示す。

本レンズでは、前後ボケとも同じような傾向を示すことになるが、外像(後ろボケ)の方が同心円周辺部が明るくなっている。これはボケが若干リング状になっていることであり、実写ではボケのガサつきに結びつくものだ。実写を厳しく見ると後ろボケのわずかな二線ボケ傾向がある。

背景ボケで縦線が二線ボケに見えたのは、線状のもののボケ量と配置・距離によるものであると推察できる。一方前ボケは、ボケ量も多くなることから柔らかい描写に見え、実写全般で自然なボケを示している。


中央部 合焦時 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

上は合焦時の各絞りごとの結果。ピンホール光源は1m先に置いた。f1.4の時、実写でも見えていたずれが確認できる。しかし、f2に絞ると解消してしまう程度なので、原因が芯ずれであれスケアリングであれ、問題とならない微小なものである。ともあれf2に絞った際の軸上色収差の収束が素晴らしい。また、中心像の大きさ自体が絞ってもあまり変化しないので、開放時から球面収差の補正は良好であるものと考えられ、実写での解像感の高さにつなががっている。


中央部 焦点外像:後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16


中央部 焦点内像:前ボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

開放時の内外像については先に述べたが、f2に絞った時の外像が印象的である。f1.4の時には、周辺が明るくリング状になっていたものが均質に改善している。これはf2に絞った際の実写でもボケの印象の良さにつながっている。

f4まで絞るとまた外周が明るくなるので、焦点位置と被写体によってはガサついたボケと感じることが稀にあるかもしれない。以降絞るにつれボケは均質に収束するので、f5.6以上では常に自然なボケが得られるはずだ。


周辺部 合焦時 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

上は写野周辺部の合焦時の結果だ。開放時のサジタルコマは少ない方に分類される。写野95%程度の位置であるので、この少なさは良好な結果と言える。以降絞れば改善してゆくが、星景写真など点像となる被写体でも、f2.8〜f4で満足いく結果を得られる。


周辺部 焦点外像:後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

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f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16


周辺部 焦点内像:前ボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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f1.4

img_product_lens_2_116.jpg
f2

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f2.8

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f4

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f5.6

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f8

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f11

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f16

周辺部のボケに関しては中心部と同様の傾向。ボケ像のかけ具合から判断すれば、f2.8で既に開口効率は100%に近く、実写の結果と一致する。とても開口効率の良いレンズである。

上記結果から、SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZAは、開放時のボケの良さはもちろんのこと、f2に絞った時のボケ感と解像感の両立が素晴らしい。一方絞った際にも描写全般が崩れることなく、ことに像面湾曲も少ないようで精密さを要する撮影にも使えるレンズである。絞った際もボケの連続性が感じられた点も印象的である。

写真:茂手木秀行

茂手木秀行 Hideyuki Motegi

1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。

個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」

デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/

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