2017年09月12日
「BRレンズ」で徹底的に色収差を抑え込む
今回はキヤノンのLレンズ、EF35mm F1.4L Ⅱ USMを取り上げた。Luxuryの名のごとく、最新の技術と素材を惜しみなく投入し、超高性能を目指した一本である。
外観は、Lレンズを示す赤いラインが刻まれる他はいたってシンプルである。全体は他のEFレンズ同様、落ち着いた黒色ハンマートン仕上げである。手にしたとき、一見してレンズ第一面の反射の少なさが印象的で、黒い瞳を覗き込むようだ。
ピントリングの動きはスムーズでアソビも微小であり、送りと戻しを繰り返すような、マニュアルで精密なピント合わせをするときにもストレスはない。機構としては、大口径なリングUSMを用い、リアフォーカスにしたことで、マニュアル時のみならず、AFの速さやスムーズさを作り出している。また、大口径レンズにしては珍しく、最小絞り値はF22である。
レンズ第一面の反射は非常に少ない
レンズ後玉の大きさも特徴的だ
レンズ後玉の大きさも本レンズの印象的な点だ。デジタル時代のレンズでは、センサー面に投射される光束がセンサーに対してより垂直に近くなるように設計される。その面でも、DSLR最大口径のキャノンEFマウントは有利である。
さて、本レンズで初採用された素材に、BRレンズがある。BR光学素子と呼ばれる、特に青色の屈折率を高めた光学素子を間に挟み込み、一群を形成するレンズである。これらとUDレンズを組み合わせ、徹底的に色収差を押さえ込んだことも本レンズの特徴である。
BRレンズは異常分散性を持ち高屈折率、UDレンズは同じく異常分散性を持つが低屈折率である。この組み合わせによって従来以上の色収差補正が可能になる。これほど入念に色収差補正のために技術と素材を投入することは、望遠レンズ以外では珍しいことと言える。これは今後のキャノンLレンズの方向性を示す一歩なのだろうか。そうだとすると楽しみは尽きない。
写真を撮る行為について問いかける力を持つ超高性能レンズ
EOS 6D F1.4 1/13s ISO100 絞り優先オート WB:オート
この写真が1枚であるなら、お台場、夢の大橋を記録したものにすぎない。しかし、複数の写真を組み合わせることで、東京という地域や空想の中のものへと変わってゆく。写真も編むものであるのだと思うのだ。
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今や東京で写真を撮れば、それは必ずや聖地巡りになってしまうと言っても過言でないほどに、ドラマやアニメの聖地が東京には散りばめられている。その背景には制作予算の関係もあるかもしれない。しかし、東京が舞台であるということは、原作者が東京に何かしら関係や思いを持っているからに他ならないからだろう。
物語の舞台となる場所は、その場所の持つ意味合い、場所性によって、主人公の属性や性格・行動を規定している。平たく言えば、主人公が普通の人なのか、魔法使いなのか、どんな日常を送り誰と付き合うのか。それは場所性に関連し、それによって物語が進むと言える。
それゆえ、同時代の物語であり特定の場所が舞台であれば、主人公は魔法使いでも、超能力者でもなんでもない普通の人であり、ストーリーは恋愛、人間ドラマ、サスペンスなど、現実という枠の中で「あるかもしれない」物語であると思っていた。
そこで一つ目が醒める思いがしたのが、西尾維新氏の「物語シリーズ」だ。舞台は「直江津東高校」が存在する架空の街であるが、東京、あるいは日本全国にある現実の風景を寄せ集めて、架空の街を作り上げている。既存の場所の持つ属性や価値を抽出し、新たな価値を与えている。
この手法を音楽にたとえるならば、DJ文化に通じるものとも考えられ、とても現代的で興味深い。DJは既存の曲、つまり完成された素材を大量に用い、それらが持つ表現を集合することによって、一つの新たな本流を作り出し価値を与える。
しかし、はたと立ち止まってみれば、写真も同じ手法をとることが多いのだと気づく。風景は写真家が創作したものではなく、既存の価値である。それを数多く寄せ集め、取捨選択することで、写真家は自分の意図や感情を表現、つまり新たな価値を与える。そうした写真家の行為は、既存の物語世界を追体験する聖地巡りとは少し違っている。
現代のレンズは、様々な技術革新のおかげで無収差に近い性能を獲得している。冷徹な観測器であり、叙情的な表現をもたらす道具ではない。それゆえ、写真家たるもの自ら写真を編む意図をより熟考すべしと、超高性能レンズを前にして思うのである。
中心部の「解像感」はF2.8でほぼ最大の解像力を示す
それでは早速レンズの評価に移ろう。まずは解像感の検証結果から見てゆく。
EOS 6D F1.4 1/320s ISO200 絞り優先オート WB:オート
今回の撮影は曇りの日の薄暮時であるため、被写体コントラストが低い。常に現実の撮影では、レンズにとって好条件とは限らない。より現実に近いテストと認識していただければ幸いである。本稿では解像感と表記しているが、被写体も条件も違い、他レンズと直接比較できる数値としての結果ではないので、解像感であって、解像力ではない点も留意していただきたく思う。また全てのテストに於いて、EOS 6Dを使用した。
中心部の解像感 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
画像中心部を300%に拡大し、キャプチャーした。F1.4からシャープな描写であることは当然の結果ではあるが、色収差の少なさが際立つ。街灯の周りにパープルフリンジが現れているがその量は微小であり、通常の被写体や光源が弱ければ全く気づかないであろう。
F2に絞るとさらに解像感は向上する。F2では軸上色収差の影響を全くと言っていいほど感じさせず、街灯の周りのパープルフリンジも消えている。このF2と比較した時にF1.4の時に物体輪郭の甘さが残っていたのだと気づく。F2.8ではさらに画像が引き締まる。低周波である物体輪郭もさらにシャープな印象となるほか、高周波にあたる細かなディテールがよく見えてくる。
F4では解像感は向上せず、F2.8と同等。街灯の周りに回折起因のハロが発生し始める。F5.6で解像感は低下しているが、これは機構ブレを含む可能性がある。続くF8でも、F4より高周波、低周波共に解像感は低下しているが、F5.6時もF4同様のシャープさであると判断する。以降絞るごとに回折の影響を受け解像感は低下してゆく。
F11の時の解像感は、F1.4の時と相当する。またゴーストも発生していない。強い光源を画面に配置して絞り込むのでなければ、ゴーストの発生を気にする必要はないだろう。
多くのレンズでは解像力が最高になるのはF5.6からF8であるが、これは残存収差と回折ボケとのバランスポイントということだ。しかし、本レンズではF2.8でほぼ最大の解像力が出てしまっており、かつほぼ軸上無収差となっている。これは同じ残存収差量であるなら、口径が大きい、つまりF値が明るいほど解像力が高くなるからだ。
周辺部の解像感 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
周辺を見るとF1.4では中心部ほどのシャープさはない。特に高周波が低下している。しかし印象的であるのは、遠くの光源がきちんと点像として写っている点だ。サジタルコマが少ないのだ。このため、解像感は低下するものの不自然な描写ではなく、むしろ人間の視覚のように周辺に行くに従って意識が薄れるようで自然な描写と感じる。
F2に絞ると解像感は向上するが、中心部ほど大きく向上するわけではない。F8で解像感は最良となるが1段絞るごとに比例的に向上し、F11以降は回折ボケによって解像感が低下してゆく。周辺と中心部の実写結果から写野全域の解像感を優先する撮影ならF4〜F8、もしくはF11までの幅広い絞り値設定で使えるレンズである。
また本レンズでは明るいレンズには珍しくF22まで装備している。当然回折ボケによって解像感は低いが、DPPの機能であるデジタルレンズオプティマイザを使い、RAW現像をすることで相応に改善されるので、表現の幅として良い選択である。
撮影意図によって「ボケ」の表現を使い分けることができる
EOS 6D F1.4 1/400s ISO100 絞り優先オート WB:オート
ボケの評価は比較的近距離の被写体で行った。ピントを合わせた花までの距離はおよそ70センチである。ボケ量は多く周辺まで美しいボケである。
ボケの連続性 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
まずはボケの連続性を見てゆく。F1.4では急にボケが始まる印象である。このカットではおよそ70センチがピント位置であるが、およそ1m程度のところから急にボケが大きくなる。その後およそ3m程度の位置でボケ量は最大となってその後は変わらない印象だ。
F2ではボケの立ち上がりがおよそ1.5m程度の位置に移動する。F2.8まで絞るとボケは連続性を持ち、距離に応じたボケ量となる。その後は絞るに連れボケ量は減ってゆくが連続性は維持し、この撮影距離の場合、F16でほぼパンフォーカスとなる。
後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
後ろボケはボケ量も多く、また柔らかい。どの絞り値においてもほぼ二線ボケ傾向もなく、まるでガウスぼかしをかけたようなボケである。良い意味で、「ただボケた」画像である。ことにF1.4からF2.8の溶けてゆくようなボケは美しい。
連続性と合わせて考えると、F1.4とF2では被写体を背景から浮き上がらせる表現、F2.8とF4では自然な距離感の表現と二面性を持ち、撮影意図によって使い分けることができる。また、開放であっても中心から周辺までボケ像の均一性もよく、一見でさえ印象の良い写真となる。
大口径なので「周辺光量落ち」は発生するがコントロールはしやすい
EOS 6D F1.4 1/4000s ISO100 マニュアル露光 WB:オート
大口径レンズには周辺光量落ちはつきものと言える。一方で、周辺光量を落とすことは主要被写体に対して視線を誘導する手段でもある。銀塩プリントでも、デジタルプリントでもプリント時には周辺を焼き込み、あえて周辺光量を落とすことで中央に視線を誘導する。それゆえ、周辺光量落ちは表現手段のうちの一つであると考えることができるが、レンズ起因の周辺光量落ちの場合、その度合いが表現としてコントロールしやすいかどうかがポイントだ。
周辺光量落ち ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
F1.4開放時の周辺光量落ちは大きめだ。最周辺ではおよそ1.5段近く落ち込んでいる。しかし、光量の落ち方はなだらかで、中心から周辺に向かって暫時暗くなってゆく。
F2では大きく周辺光量は改善されるが、四隅で急激に暗くなり段がついた印象。F2.8ではほぼ周辺光量落ちはなくなって見えるが、四隅の光量落ちはまだ少し残っている。F4で周辺光量落ちは解消し、以降同じである。
本レンズで周辺光量落ちを作画に生かす場合は、F1.4が向いている。F2の際に気になる四隅の落ち込みはDPPでのRAW現像時に解消できるので、F2での撮影であっても好結果を得られる。
「光の透過率」は全体的に良好で、ヌケが良いレンズ
スペクトルメーターを使って、光の波長ごとにレンズの透過率を測る検証を今回も行った。測定方法については連載第2回を参照してほしい。
光源のみの測定結果 ※クリックで拡大
レンズを通した結果 ※クリックで拡大
演色評価指数とは、国際規格の基準光と比較して、その光源がどれだけ色がずれていないのかを0〜100の指数で表したもの(100が最良)。評価にはR1〜R15の色票が用いられるが、平均演色評価数(Ra)はそのうち8色(R1〜R8)の平均値。R1〜R15がどんな色なのかは、それぞれのグラフの色で示している。
光源のみの測定結果
レンズを通した結果
保存日時 | 2017/08/11 18:10:06 |
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タイトル | CANON-35-f1.4_04_5628K |
測定モード | 定常光 |
デジタル / フィルム | デジタル |
色温度 [K] | 5628 |
⊿uv | -0.0018 |
照度 [lx] | 12100 |
基準色温度 [K] | 5500 |
LB指数 [MK⁻¹] | -4 |
LB カメラフィルター | -- |
LB 照明フィルター | -- |
CC指数 | 0.3G |
CC カメラフィルター | CC025G |
CC 照明フィルター | L278 1/8 PLUS G |
演色評価 Ra | 96.4 |
演色評価 R1 | 97.7 |
演色評価 R2 | 97.5 |
演色評価 R3 | 92.4 |
演色評価 R4 | 97.4 |
演色評価 R5 | 96 |
演色評価 R6 | 92.2 |
演色評価 R7 | 98.8 |
演色評価 R8 | 99.1 |
演色評価 R9 | 96.8 |
演色評価 R10 | 91.5 |
演色評価 R11 | 95.8 |
演色評価 R12 | 71.7 |
演色評価 R13 | 98.9 | 演色評価 R14 | 95.3 | 演色評価 R15 | 96.2 |
保存日時 | 2017/08/11 18:10:06 |
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タイトル | CANON-35-f1.4_03_5410K |
測定モード | 定常光 |
デジタル / フィルム | デジタル |
色温度 [K] | 5410 |
⊿uv | -0.0003 |
照度 [lx] | 11900 |
基準色温度 [K] | 5500 |
LB指数 [MK⁻¹] | -3 |
LB カメラフィルター | ----- |
LB 照明フィルター | ----- |
CC指数 | 0.1G |
CC カメラフィルター | -- |
CC 照明フィルター | -- |
演色評価 Ra | 96.2 |
演色評価 R1 | 97.5 |
演色評価 R2 | 97.4 |
演色評価 R3 | 93.2 |
演色評価 R4 | 96.5 |
演色評価 R5 | 95.5 |
演色評価 R6 | 92.5 |
演色評価 R7 | 98.6 |
演色評価 R8 | 98.6 |
演色評価 R9 | 96.3 |
演色評価 R10 | 91.1 |
演色評価 R11 | 95.3 |
演色評価 R12 | 72 |
演色評価 R13 | 98.4 | 演色評価 R14 | 95.8 | 演色評価 R15 | 97.1 |
透過率のテストは上に掲げた表の通りである。色温度の差は約200Kであり小さい差であると言える。CC指数では色かぶりを示すがG補正が減っているので、0.2Mマゼンタ寄りである。ゼラチンフィルターでの補正で言えばCC0125M程度の補正となるので、隣接比較をしなければわからない程度だ。
上図は、スペクトル測定グラフのキャプチャーをPhotoshopレイヤーに取り込み、描画モードを差の絶対値にして重ねたもの。重ねる際に、レンズを通した測定結果のレイヤーを下方に移動させ、最も透過率の良いポイントを重ねている。このため、カラーのついた部分は最も透過率の良いポイントに対して、さらに透過率が落ちている周波数を表している。カラーが付かず、グラフが全て黒になれば、全ての周波数を均一に透過していることになる。
本レンズで透過率のピークはおよそ630nmである。およそ480nmで透過率の落ち込みはあるが、430nm付近から640nm付近までよく透過している。500nmから650nm付近までは特に透過率が良い。フイルム時代よりEFレンズは木々の緑の発色が良い印象であるが、それはこのあたりの透過率が良いことが理由であると推察する。近赤外域を見ると650nm付近から透過率が悪化しているが、デジタルカメラの場合、この付近から赤外カットフィルターによって入射をカットされてしまうので、カラーに影響を与えることはない。
焦点外内像のテストで「収差」の少なさが実証された
この連載ではレンズ評価のために「焦点内外像」の検証を毎回行っている。あまり耳慣れない言葉だと思うが、簡単に言えば、ピンホール光源を撮影した時のボケの形状から、レンズ収差の発生状況や前後ボケの非対称性などを読み取れるものだ。連載第1回でわかりやすく解説しているので、詳しくは第1回の焦点外内像についての説明を参考にしてほしい。
中心部 合焦時 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
ピンホールテストの結果は開放時から素晴らしいものである。今回も合焦位置は1mとした。青いフリンジが軸上収差を示しているがその量はわずかなものだ。F2に絞るとこの色付きもほぼ解消してしまう。点画像の直径と明るさの分布が集光度であり、画像のシャープさに結びつく。
ピンホール画像でのピークはF5.6である。このことから実写時には機構ブレが含まれていることが明らかとなった。しかし、本レンズではF2.8からF8までの集光度はほぼ変わらず、ことにF4とF5.6の比較ではどちらがピークであるか判断に迷うほどだ。以降F11からF22では回折ボケにより像は肥大してゆく。
これはレンズの縁によって発生する光の回折による効果であるので、本レンズ固有の特徴ではない。しかし、F11とF16では点画像中心部への集光度が高いので、結果シャープな画像を得ることができる。
中心部 焦点外像:後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
外像は後ろボケに当たるが、本テストではピンホールは1m先にあり、レンズを最短撮影距離にすることで後ろボケとしている。レンズ全般として撮影距離が変われば収差量も変化するので、全ての撮影距離で同じ結果になるわけではない。しかし、本レンズはリアフォーカスであり、撮影距離による収差量の変化も抑えられていると思われる。
結果を見て見ると、F1.4のとき、芯の揃った綺麗な同心円である。このことは製造工程に瑕疵がなく、またピントを送るための機構にアソビやガタがないことを示す。しかし、同心円の明度は均一ではない。これは非球面レンズの切削痕であると思われるが、その量は少なく、実写で感じることはない。最周辺がリング状に見えるので、ボケは被写体によっては二線ボケ傾向となるはずだが、実写ではそのようになっていない。
点光源に対してはリング状の傾向は見えているが、ボケ量自体が大きいので光源状の被写体でなければ自然で美しいボケになっている。また、ボケ像下側に欠けが見えるが、これはミラーボックスによるケラレである。
F2に絞ると最周辺も明度が揃いリング状ではなくなる。球面収差、色収差も改善されるので、シャープさとボケの自然さ、美しさを同時に得ることができる絞り値である。気になる点は、円形絞りではあるがやや角があり、多角形に見えることである。F2.8以降も引き締まりつつ同様の傾向を示す。
中心部 焦点内像:前ボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
内像の撮影は、ピントを無限遠方向に送り、外像とおよその大きさが一緒になる位置で行なっている。これも収差変化について外像同様で、レンズの特性の一面を見ているに過ぎない。
F1.4の時は明らかなリング状である。このため、前ボケは二線ボケになるはずであるが、これもボケ量が大きいため、実写ではそのようには見えない。前ボケではミラーボックスのケラレは発生していない。
F2ではリング状も改善され、かつ色収差も解消している。この状態であれば前ボケも美しいものになる。F2.8でややリング状に戻るがそれ以降は円盤状であり、どの絞りでもボケは自然である。
周辺部 合焦時 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
写野最周辺での合焦画像は、F1.4ではサジタルコマ収差によって菱形、あるいはコマのような形に見えている。しかしその量は少なく、面積を持った光源であれば、特にサジタルコマを感じることはないだろう。しかし、F2に絞ってもその傾向は改善しない。
だがF2.8に絞ると改善されほぼ点像に見える。F4ではサジタルコマ収差は解消されるが、非点収差が主因であると思われる像の流れが認められるがその量は少ない。以降絞るに連れ像の流れは改善され、F11でほぼ点像となる。
倍率の色収差は全ての絞りでほぼ同じ量が認められるが、その量自体は大変に少ない。
周辺部 焦点外像:後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
最周辺外像ではF2.8までミラーボックスのケラレが認められる。レンズ鏡胴によるケラレはF4で解消するので、周辺光量落ちが解消するのもF4ということになる。
F1.4からF5.6までボケはリング状であるが、その量は少ないので二線ボケを感じることはない。これは実写でも同様の傾向だ。
非点収差の影響は合焦同様絞っても改善されず、F11までは像の流れとして認められる。
周辺部 焦点内像:前ボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示
最周辺内像も外像と同様の傾向を示す。F1.4ではミラーボックスのケラレがあるが、F2では解消している点が違う程度だ。
実写での開放時ボケについて
EOS 6D F1.4 1/250s ISO100 マニュアル露光 WB:オート
最後にピンホール光源のテストから離れて、実写での開放時ボケの参考画像を示す。ピントを1mに固定し、7mから10m先の人工光源を撮影した。
画面下に配された光源のボケ画像にミラーボックスによるケラレが発生している。開放で光源ボケを取り込む場合、画面周辺に配置しない構図とするかF2.8あるいはF4まで絞り込んだ方が良いだろう。
※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示(上の画像のみ)
EOS 6D F1.4 30s ISO400 マニュアル露光 WB:オート
夏の大三角に囲まれた天の川を撮影した。露光は30秒だが赤道儀で追尾している。
薄曇りかつ光害を受ける地域での撮影のため、写りは良くないが、周辺画像の参考とする。ピントは画面中心で合わせている。写野90%程度の位置からサジタルコマ収差によって、星像は十字形になっている。これには非点収差も含まれる。
ピンホールテストとは違う形状となっている。ピンホールテストでは、ピンホール像を中心においてピントを合わせたのちレンズ主点近傍を軸にカメラを回転させて像を周辺においている点、及び合焦位置が1mであることが参考画像と違う点である。
まとめ
本レンズはいくつかの気になる点を除けば、当代随一と言っていい高性能レンズである。ことにF2に絞った時の解像感の高さとボケの美しさの両立、全域に渡っての色収差の少なさが印象的であり魅力である。
気になる点の一つはミラーボックスによるケラレであるが、ミラーレスボディを使用すれば解消する可能性がある。それゆえ、フルサイズミラーレスの登場に期待したいが、本レンズの解像感の高さは光学ファインダーで覗いていてこそ、心地よいものである。
写真がレンズの描写結果だけを求めるものでなく、その道具を使うこと、そのことにも快楽があることを改めて考える次第だ。
茂手木秀行 Hideyuki Motegi
1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。
個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」
デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/