徹底検証・高画素デジタル時代のレンズ

柔らかいボケ味を生み出す「富士フイルム フジノンレンズ XF56mmF1.2 R APD」を徹底検証する

茂手木秀行

アポダイゼーションフィルターの搭載で柔らかいボケを目指したレンズ

富士フイルム Xシステムでは、超望遠レンズはないものの、明るい単焦点レンズが充実していることが特徴だ。今回は、その中からフルサイズ85ミリに相当するXF56mmF1.2 R APDを取り上げる。

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レンズ外観は総アルミ、黒色アルマイトだ。絞り環や距離リングにもゴムが巻かれることなく、アルミそのままにローレットが刻まれる。カメラ自体がネオレトロデザインであり、レンズもそれによくマッチしたデザインだ。レンズキャップも含め、懐古趣味でもなく、スチームパンクでもなく、品の良い現代的なネオレトロでまとまっている。当然、工作も現代的で、各部の動作はスムーズで申し分ない。

カメラのセンサーがAPS-Cということもあり、全体として小振りにまとまっている点も見逃せない。カメラが小さくてもレンズが大きすぎては系として扱いにくく、またデザインバランスも悪い。本レンズは大口径中望遠としては小さなレンズだ。絞り環には白い指標と赤い指標が刻まれている。白は通常の絞り値を示すが、赤は実効絞り値だ。後述するアポダイゼーションフィルターによって減光されるからである。

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レンズを正面から覗くとアポダイゼーションフィルターで周辺に向かって減光される様子がわかる。

XF56mmには、「APD」という銘がつくモデルとつかないモデルの2種がある。これはアポダイゼーションフィルターという光学素子を使用しているか、していないかの違いだ。アポダイゼーションフィルターは、中央が透明で周辺に行くほど濃度が濃くなるフィルターである。

これを光学系内に挿入することで、光の回折現象を低減する効果がある。スリットなど、光を遮る物体の端から新たな波が発生する現象が回折であるが、徐々に濃度が濃くなるフィルターを挿入することで物理的な「端」を光学的に無くしてしまおうというものだ。回折現象を低減するとボケが柔らかくなる、回折ボケが低減されシャープになるなどの効果が見込めるものだ。本レンズは前者の柔らかいボケを目指したものである。


表現したいものによって、レンズに求めるボケの描写も違ってくる

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FUJIFILM XT-2 F1.2 1/8000s ISO100 絞り優先オート WB:オート
※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

夏の一日、この一本だけを持って千葉県夷隅郡大原に出かけた。海水浴場から少し離れた砂浜を歩く。延々と続く白い砂浜の先に岬が霞む。まさにステレオタイプに思い描く夏の風景がここにある。そうした風景はいつも少年の日の思い出と共に語られがちだが、常にそうとは限らない。

シャッターを押すには相応の理由があるはずだが、多くの場合は眼前の光景と記憶の中にある何かが繋がっている。その記憶のことをえてして「少年の日」などと言ってしまうものだが、今に繋がっている光景は昨日のことかもしれないし、アニメや映画で見た自分の体験ではない風景かも知れない。

ともあれ僕はここでシャッターを切った。抜き出したものは長い砂浜と遠くの岬。言葉で要素を書き出すと幼少の記憶であるどころか、どこにも普遍に存在するものだ。そこに誰もいないことと、散乱した流木が加わるとちょっと寂しい海になった。日差しは強いのにひとり海辺にしゃがみ込む、己の姿が少しばかり寂しかったのだ。

そのように何かと何かが繋がることでシャッターを押していくのだが、そんな時間を過ごしていると、写真とは、気持ちを逡巡させながら目の前のものといまの自分の何かを結びつけるゲームみたいなものだと感じるのだ。そのゲームのパラメーターの一つはボケという表現だ。そこに求めているのは心理的な距離感である。ボケればそれでいいのではない。ボケることで、近さ・遠さを表現して欲しいのだ。それが大口径レンズに求めるものだ。

XF56mmF1.2 R APDは中望遠大口径には珍しく、急激にボケが立ち上がる描写ではなく、比較的距離に応じたボケ感を示してくれた。それは手の届きそうな遠さを表現する。一方、ボケの立ち上がりが急激な場合は手の届かない遠さを表現する。この表現の対比は絵柄次第であるが、レンズの描写が変わると表現する心理も変わるということだ。


レンズ中心部の描写は十分に「解像感」を感じさせる

それでは早速レンズの評価に移ろう。まずは解像感の検証結果から見ていく。

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FUJIFILM XT-2 F1.2 1/170s ISO100 絞り優先オート WB:オート

木造建築の壁を撮影した。シュミクラ現象により、動物の顔に見えるところが面白い。距離はおよそ5メートル。よく晴れた午後、軒で日陰になっている。よく光が回っており、ディテールに対するコントラストは低い状態だ。


中心部の解像感 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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画像中心部を200%に拡大し、キャプチャーした。使用したカメラはXT-2であり、24Mピクセルであるので、300%に拡大するとドットの印象が強くなってしまうため200%とした。

まず中心部の描写だが、F1.2では芯はあるものの甘い描写だ。F1.4では柔らかい描写だが、甘さが抜けた印象、F2では十分にシャープな印象になる。その後も絞るごとにシャープ感は向上し、F5.6でもっともシャープとなる。F8で解像感は低下し始め、F11やF16では随分と柔らかい印象となる。


周辺部の解像感 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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周辺では、絞っても中心部ほど向上せず甘い印象が続く。甘い印象とはいえ木目などは十分に解像している。F5.6で最良となり、F8以降はボケて行く。F11ではF1.2と同程度の解像感になる。像面湾曲は少ないようで、最周辺で急激に解像感を失うことはなかった。


f1.2〜f2では明らかに「ボケ」が柔らかく見える

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FUJIFILM XT-2 F1.2 1/2000s ISO100 絞り優先オート WB:オート

ボケの評価は上の写真で行なった。石灯籠までおよそ1.5m。背景の樹木まではおよそ15mほどである。葉に当たった光の反射や隙間から漏れる光がボケを作る、もっともアポダイゼーションスクリーンの効果が出るシーンでもある。


後ろボケ(中心部) ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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解像感と対比させるためにピントを合わせた部分を右上に配置してキャプチャーした。F1.2の際もピント面がシャープであることがわかる。先の解像感のテストよりもシャープに見える。これは被写体によるもの、撮影距離による収差量の変化などが影響していると考えられる。

さて、後方のボケに目を移すと、F1.2〜F2の間でアポダイゼーションフィルターの効果がはっきりと出ており、ボケた円盤部分の明るさが、中心が明るく周辺が暗くなっていることがはっきりとわかる。これにより、ボケが柔らかく見える。

F2.8では絞りの形が見えてくるがフラットな円盤状のボケであり、柔らかなボケと高い解像感がバランスしている。F4ではボケの縁にリングがつき始め、少しボケは硬い印象。F5.6も同様だがF8以降では、ボケの縁のリングはさらに強くなって、ボケは中に穴の空いたドーナツ状になってくる。この状態ではボケはざわついた印象、線状の被写体では二線ボケとなる。


後ろボケ(周辺部) ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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周辺ではボケ方の傾向は中心と同様だが、よりボケの形に着目する。F1.2〜F1.4では、口径食によってボケの形が楕円になっている。しかしながら、アポダイゼーションによるボケそのものの明度変化によって楕円であることは気にならないレベルと言える。

F2では絞りの角が見えて来るもののほぼ円形である。F2.8でははっきりと7角形である。F5.6、F8ではボケはドーナツ状でざわついた印象だが、F11、F16では回折ボケが加わり、円形のボケに戻っている。


「周辺光量落ち」はごく自然で、どの絞りでも気にならない

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FUJIFILM XT-2 F1.2 1/3500s ISO200 絞り優先オート WB:オート

周辺光量落ちは、最大で1.3絞りほどである。しかし、中心から大変滑らかに明度が落ちていくので、心地よい落ち方だ。


周辺光量落ち ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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周辺光量落ちはF4で解消されるようだが、F2.8ですでに目立たない。平面物の複写や建築物の精密な複写をするのであればF5.6とすればよいが、それはこのレンズの使い方ではない。実写ではどの絞りを使っても周辺光量に違和感を覚えることはないはずだ。


ゴースト、フレア、収差などの要素は非常に少ない

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FUJIFILM XT-2 F2 1/2s ISO800 マニュアル WB:オート

大原を見下ろす、太東崎灯台から花火を撮影した。花火は輝度が高くゴーストを生みやすい被写体だが、このカットのほか多数のカットでもゴーストを認めらるものはなかった。シャドウ部の描写もよく、ゴーストやフレアが大変に少ない。

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FUJIFILM XT-2 F1.4 30s ISO400 マニュアル WB:オート

参考として夏の天の川の写真を掲示する。星空雲台にカメラを搭載しての撮影だ。F1.2からF2までの撮影を行った。星の光は完全な点光源であり、レンズの収差の状態を写野全面にわたって確認しやすい。


収差(中心部) ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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収差(周辺部) ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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上段が画像中心、下段が画像左上最周辺である。まず画像中心では、F1.2では明るい星にフリンジがつき、色収差が大きく残っている。これをF1.4に絞るとフリンジは激減し、F2ではほぼ色収差を感じない。周辺ではサジタルコマと非点収差の様子がわかる。これもF2でほぼ解消しており、写野全面にわたって、点が点として写っている。


グリーンからイエローにかけての「光の透過率」は非常に良い

スペクトルメーターを使って、光の波長ごとにレンズの透過率を測る検証を今回も行った。測定方法については連載第2回を参照してほしい。


光源のみの測定結果 ※クリックで拡大

レンズを通した結果 ※クリックで拡大

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スペクトル分光グラフ

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ホワイトバランス補正量を示すグラフ

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演色評価指数のグラフ

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演色評価指数とは、国際規格の基準光と比較して、その光源がどれだけ色がずれていないのかを0〜100の指数で表したもの(100が最良)。評価にはR1〜R15の色票が用いられるが、平均演色評価数(Ra)はそのうち8色(R1〜R8)の平均値。R1〜R15がどんな色なのかは、それぞれのグラフの色で示している。


光源のみの測定結果 

レンズを通した結果 

保存日時 2017/09/03 00:12:36
タイトル FUJINON-56-1.2_01_5612K
測定モード 定常光
デジタル / フィルム デジタル
色温度 [K] 5612
⊿uv -0.0016
照度 [lx] 27600
基準色温度 [K] 5500
LB指数 [MK⁻¹] 4
LB カメラフィルター --
LB 照明フィルター --
CC指数 0.2G
CC カメラフィルター CC025G
CC 照明フィルター L278 1/8 PLUS G
演色評価 Ra 96.3
演色評価 R1 97.7
演色評価 R2 97.4
演色評価 R3 92.5
演色評価 R4 97.1
演色評価 R5 95.8
演色評価 R6 92.1
演色評価 R7 98.7
演色評価 R8 99.5
演色評価 R9 97.8
演色評価 R10 91.1
演色評価 R11 95.6
演色評価 R12 71.5
演色評価 R13 98.7
演色評価 R14 95.4
演色評価 R15 96.5
保存日時 2017/09/03 00:12:37
タイトル FUJINON-56-1.2_02_5310K
測定モード 定常光
デジタル / フィルム デジタル
色温度 [K] 5310
⊿uv 0.0005
照度 [lx] 9210
基準色温度 [K] 5500
LB指数 [MK⁻¹] -7
LB カメラフィルター 82
LB 照明フィルター --
CC指数 0
CC カメラフィルター --
CC 照明フィルター --
演色評価 Ra 95.3
演色評価 R1 96.5
演色評価 R2 96.7
演色評価 R3 93.1
演色評価 R4 95.3
演色評価 R5 94.4
演色評価 R6 91.8
演色評価 R7 98.1
演色評価 R8 96.8
演色評価 R9 91.2
演色評価 R10 89.3
演色評価 R11 94
演色評価 R12 70.9
演色評価 R13 97
演色評価 R14 95.8
演色評価 R15 96.8

透過率のテストは上に掲げた表の通りである。光源自体の色温度とレンズを通した色温度の差は約300Kであり、やや黄色味がかかる。CC指数では色かぶりを示すがG補正が減っているので、0.2Mマゼンタ寄りである。

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上図は、スペクトル測定グラフのキャプチャーをPhotoshopレイヤーに取り込み、描画モードを「差の絶対値」にして重ねたもの。重ねる際に、レンズを通した測定結果のレイヤーを下方に移動させ、最も透過率の良いポイントを重ねている。このため、カラーのついた部分は最も透過率の良いポイントに対して、さらに透過率が落ちている周波数を表している。カラーが付かず、グラフが全て黒になれば、全ての周波数を均一に透過していることになる。

本レンズで透過率のピークは3箇所ある。530nm付近、590nm付近、630nm付近である。またこの間の透過率は大変によい。これら波長はグリーンからイエローとなるが、対して赤と青の透過率は若干低い。自然風景を撮影した時、木々は明るく、青空/夕日は暗く色濃くなると考えられる。


焦点外内像のテストで「前ボケと後ろボケの対称性」が実証された

この連載ではレンズ評価のために「焦点内外像」の検証を毎回行っている。あまり耳慣れない言葉だと思うが、簡単に言えば、ピンホール光源を撮影した時のボケの形状から、レンズ収差の発生状況や前後ボケの非対称性などを読み取れるものだ。連載第1回でわかりやすく解説しているので、詳しくは第1回の焦点外内像についての説明を参考にしてほしい。


中心部 合焦時 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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本レンズは85ミリ相当の中望遠であるので、実使用で多用されるであろう1.5mにピンホールをおいた。キャプチャーの拡大率は800%。まず中心部であるが一見すると開放からF16まで、像の大きさが変わっていないように見える。そこで点像の集光度と周りにつく軸状色収差によるハロに注目する。

F2に絞った時に軸状色収差は大きく減って、点像の集光度が高まったことが見て取れる。F2.8では軸状色収差はほぼなくなるものの、F2と比較して集光度はさほど高まってはいない。F4では若干集光度は高まり、F5.6も同様、F8以降は集光度が低下していく。本レンズ中心部でもっとも解像感が高くなるのはF4の時であると考えられる。


周辺部 合焦時 ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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画角最終端の収差を見てみよう。上の画像は画面右上を拡大したものである。周辺部はサジタルコマの影響を受けるが、F1.2としては大変に少ないものであると思われる。

F2.8でサジタル方向へのハロは無くなるが、星空の実写からすると明るい点でなければF2でサジタルコマが消えて見えるはずだ。また、無限遠撮影である星空の実写ではF2の時、やや非点収差が残っているように見えるが、撮影距離1.5mとしたピンホールではその傾向は見えていない。

F4に絞るとシャープな楕円となる。F5.6ではより円形に近い楕円。F8で完全に円形となるので、写野全面にわたって均質な像になるのはF8であるが、中心部のピンホール像と合わせて考えると写野全体で解像感が高くなるのはF5.6である。F11以降は集光度が低くなるので、解像感も失われる。


中心部 焦点内像:前ボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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内像の撮影は、ピントを無限遠に置きピンホールを1.5mに置いているので、大きな前ボケとなる。開放からF2.8程度まで前ボケは非常に素直なボケである。F2.8から周辺に弱いリングがつき始めるが、この傾向はF5.6までは気にならない。

F8以降は強いリング、あるいはドーナツ状となるので、ボケ味は二線ボケ傾向となりざわついた印象になる。F1.2およびF1.4ではっきりとボケ周辺部が暗くなっているのが、アポダイゼーションフィルターによる効果である。機構上F4を少し越えたあたりまで効果があるはずであるが、実写でも、ピンホールでも効果を見て取れるのはF2程度までである。


周辺部 焦点内像:前ボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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写野最周辺では口径食の影響を受け、ボケが欠けて見える。量は多めであるが、内像のボケであることを考えると特に問題であるとは言えない。F2.8で口径食はほぼ解消している。周辺ではF5.6までアポダイゼーションフィルターの効果を得ているようである。F8以上でボケがリング状になるのは中心部と同様である。


中心部 焦点外像:後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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外像の撮影はピンホールを1.5mに置き、ピント位置は最短0.7mとしている。内像と同様、アポダイゼーションフィルターの効果をはっきり感じられるのはF2程度まで、F2.8で弱いリング状、F5.6でリングが気になり始める。以上から前ボケと後ろボケの対称性が非常に良いことがわかる。前ボケも同様であるが、F1.2、F1.4ではボケに縁が存在しないかのようであり好ましい。


周辺部 焦点外像:後ろボケ ※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

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外像周辺部では、口径食の影響が小さく、F1.2でも実写でも気にならない程度であったことが確認できる。F2では、少し欠けがあるものの、実写では全く気づかないレベルである。さらに絞っていくと倍率の色収差が気になり始める。内像ではこの傾向は少ないが、RAW現像時に倍率色収差補正をかけると良いだろう。


まとめ

蕩けるボケという言葉が、本レンズのキャッチフレーズであるが、ボケ量の多さと柔らかさ、滑らかさはそのフレーズ通りだ。一方、開放での解像感は弱めであるもののF1.4、F2では改善されるので、解像感とボケの美しさを両立させるにはF1.4からF2の間で使うのがお勧めだ。

周辺部のボケの欠けを考慮した場合、後ろボケを活かす作画ならF1.4〜F2、前ボケを優先する作画とするならF2.8、前後をバランスさせるならF2という選択になるだろう。いずれにせよ、前ボケ、後ろボケの対称性が非常に良いので、ボケを活かした作画のしやすいレンズであると同時に、距離感の表現も前後ともに滑らかだで自然だ。

一方、F8以上に絞るとボケは強いリング状になる。明るい点が画面に含まれると明らかなリング、ドーナツ状のボケとなってしまい、美しいボケとは言えない。さらに解像感も低下するので、本レンズには深い被写界深度でシャープな表現は向いていない。これら特徴は、本レンズが56mm、フルサイズで言えば86mmであり、ポートレートを撮る事に向いたレンズであることを補完している。

全体として解像感の低い描写であるが、それは高周波を分解していないのみで、低周波となる、物体の輪郭を分解していないということではない。ポートレートでは肌の肌理を柔らかく表現しつつ、人物の顔のパーツや輪郭はシャープに捉えらるということだ。惜しむらくは絞りは円形とはいうものの、F2.8程度でボケに角が生まれてしまうことで、この傾向のレンズであるならF4程度までは円形を維持してもらいたいと思う。

いずれにせよ、アポダイゼーションフィルターの効果ははっきりとしており、ボケ円盤の明度変化はガウス状に分布しており、ボケの理想である「ただボケること」を実現している。万能ではないが、ポートレートやボケを活かした心情表現において掛け替えのない描写を提供してくれるだろう。蕩けるボケながらエッジの効いた一本である。


写真:茂手木秀行

茂手木秀行 Hideyuki Motegi

1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。

個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」

デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/

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