デジタルフォト達人への道

プロが教える本当にシャープな写真の撮り方 第2回

解説:スコット・ケルビー 日本語版監修:早川廣行

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アメリカで大ベストセラーとなった書籍「The Digital Photography」が日本語に翻訳されて発売された。この「デジタルフォト達人への道」(発行:ピアソン桐原)、著者は全米Photoshopプロフェッショナル協会(NAPP)会長のスコット・ケルビー氏、日本語版の監修は日本におけるデジタルフォトの第一人者・早川廣行氏だ。Shuffle読者のために、第1巻から第3巻まで各巻のハイライトを特別公開する。

ピントのしっかり合った鮮明でシャープな写真を撮ることが、プロの写真家にとっては何より重要です。「デジタルフォト達人への道」第1巻からは、「第1章 プロが教える本当にシャープな写真の撮り方」を公開します。

スーパーシャープな写真を撮る:ミラーアップ

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Nikon
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Canon

連載第1回では、少しカメラのブレに集中しすぎてしまったようです。しかし、まさにそれこそがこの章の目的なのです。つまり、シャープでクリアな写真を撮る障害となる動きは、何であれ、取り除かなければなりません。

次のテクニックは、ニコンでは「露出ディレーモード」、キヤノンでは「ミラーアップ撮影」と呼ばれる機能を使うこと。撮影前にミラーを上げておき、シャッターを押してから露光が終わるまでミラーが動かないようにするものです。つまり、露光の間のカメラのブレを抑える機能で、よりシャープな写真になります。これがどれほど重要かと言えば、おそらく三脚で固定する次に効果があります。自分のカメラのミラーアップ機能設定画面をぜひ探してみてください(最近のデジタル一眼レフカメラには必ずこの機能が付いています。センサー部分をクリーニングするときにミラーを上げる必要があるからです)。

ミラーアップの設定をしたら、ニコンの場合はシャッターボタン(リモコンまたはケーブルレリーズのボタン)を1回押します。キヤノンの場合は2回押さなければなりません。最初はミラーを上げるためで、次が実際に撮影するためです。このテクニックは少し細かすぎるように思えるかもしれません。それほど大きな違いがあるのでしょうか? 確かに単独では大きな効果はないかもしれませんが、ほかの要素すべてにこれを加えれば、すばらしくシャープな写真へのさらなるステップになります。

手ブレ補正機能をオフにする

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最近のデジタルカメラ用レンズで人気なのが、手ブレ補正(Vibration Reduction=VR)機能を組み入れたニコンのVRシリーズやキヤノンのIS(Image Stabilizer)シリーズです。このタイプのレンズを使えば、暗い場所での手持ち撮影でもピントの合った写真が撮れるようになります。基本的には、シャッターの開いている時間が長くなってもレンズ内の動きを安定させることで、暗い場所でも手持ち撮影できるようにします。

三脚を使えないような状況(結婚式やスポーツ大会、街中での撮影、あるいは三脚使用を禁止されている場所など)では確かに見事な効果を発揮してくれます。そうした場所では、これらVRレンズやISレンズはおすすめです。

しかし、使用するレンズによっては、手ブレ補正機能をオフにしたほうがいい場合があります。ニコンのVRレンズで三脚を使用して撮影するのなら、よりシャープな写真を撮るためには、VR機能をオフにします(レンズ本体にあるVRスイッチをOFF側にするだけで切り替えられます)。

なぜそうすべきなのか、細かい技術的な話は抜きにして簡単にいえば、VRレンズは常に手ブレを想定しているからです。ブレが見つからないと、それをわざわざ探しに行きます。まったく手ブレが生じないときにも、ブレを探してしまうのです。そこで、このシンプルなルールに従ってください。手持ち撮影のときには、VR(IS)機能をオンにする。三脚を使って可能なかぎりシャープな写真を撮りたいときには、オフにする。

ただし、ニコンのVRレンズの一部と、古いタイプのキヤノンのISレンズには、この機能をオンにしたまま三脚撮影できるものもあります。そのため、オフにする必要があるかどうかは、レンズの使用説明書で確認してください。

ベストな絞りで撮影する

img_tech_kelby02_04.jpg SCOTT KELBY

プロが使うもう1つのテクニックは、可能な限り、そのレンズの最もシャープに撮れる絞り値で撮影することです。ほとんどのレンズの場合、それは開放値より2段絞ったあたりです(レンズのF値の2段階上の数字)。

たとえば、F2.8のレンズであれば、最もシャープになる絞り値はF5.6からF8になります(2.8から2目盛り絞るとF5.6)。もちろん、常にその絞り値を選ぶことはできませんが、それができる状況であれば(この点についてはあとのページで説明します)、開放値から2段絞って撮影すると、そのレンズを使った最もシャープな写真が撮れます。

とはいうものの、すべてのレンズにそれが当てはまるわけではありません。この方式が当てはまらないレンズを使っている場合は、どの絞り値で撮影したときにシャープな写真が撮れているかをチェックすることで、それほど時間がかからずに最善の絞り値を見付けることができるでしょう。撮影した写真のEXIFデータ(デジタル写真に書き込まれた撮影情報)を画像編集ソフトPhotoshopで見ると、それがわかります。

まず、「ファイル」メニューから「ファイル情報」をクリックします。次に「カメラデータ」をクリックすると、撮影時の絞り値が表示されます。シャープに撮れていると思う写真が特定の絞り値に集中していれば、それが探している場所ということです。

ただし、シャープさに気をとられて特定の絞り値を選ぶ最大の理由を忘れてはいけません。それは、その写真にどれだけの被写界深度を与えるかということです。それでも、被写界深度よりもシャープさにこだわりたいときのために、どの絞り値を選ぶべきかを知っておいて損はありません。

レンズの質が写真の出来を大きく左右する

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高品質のレンズを使えば、シャープさに大きな違いが生まれるのでしょうか?

その通り! 少し前に友人と一緒にユタ州のザイオン国立公園に撮影旅行に行ったときのことを話しましょう。彼はキヤノンの真新しいEF24-70mm F2.8Lを買ったばかりでした。実にシャープなレンズです。安くはありませんが、写真に関する(人生に関しても)ほかのすべてのことと同じように、本当によいものは高くつくのです。彼の持ってきたもう1本のレンズはずっと以前から使っている、かなり安い望遠レンズでした。新しい高品質のレンズと安いレンズのシャープさの違いに気づいた友人は、古い方の望遠レンズは二度と使う気になりませんでした。何年も使い続けてきたのに、ある日突然、シャープなレンズを使ったときとの結果の差に愕然として、もうこんなレンズは使っていられないと思ったのです。

もしあなたが$295のズームレンズを買おうと思っているのなら、シャープさは明らかに最優先事項ではないということです。質の高いレンズは一種の投資と考えてください。大切に使っているかぎり、安いレンズでは決して引き出せないような“抜群に切れのよい”シャープな写真を撮らせてくれます。

img_tech_kelby02_speak.gifレンズの質について話すとき、米国のプロの写真家は「レンズ」という言葉を使いません。わかりきったことだからです。その代わりに、「おい、ジョーがすごいガラスを手に入れたぞ」とか、「あいつはもっとガラスにお金をかける必要がある」などと言います。今度近くのカメラ店に行ったら、早速使ってみてください。店員が「あなたもプロのお仲間ですね」とでも言いたげに目をきらりとさせるかどうか、すかさずチェックしてみましょう。

*訳注:日本では、「ガラス」という言い方は今まで聞いたことがありません。日本では店員に無視されるか怪訝な顔をされるでしょう。


暗い場所でもISO感度を上げない

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薄暗い場所で撮影するときにも、三脚を使うのであればISO値(フィルム感度に相当するデジタルカメラの感度)を上げません。シャープでクリアな写真を撮りたければ、そのカメラの一番低いISO値に設定したままにします(ISO200、100、50などカメラによって異なりますが、一番小さい数字に設定します。上のニコンの設定画面を参照)。

ISO感度を上げると写真にノイズが加わります。それはぜひとも避けたいことです。もちろん、手持ち撮影で選択肢がない場合もあるでしょう。教会での結婚式などがその例です。

そのときはISO感度を上げる必要がありますが、三脚を使えるのなら、高いISO感度は疫病神と思って避けてください。そうすれば、常にシャープでクリアな写真が撮れます。

Column

三脚を使えないときはどうしたらいい?

撮影場所で三脚使用が禁止されているときなどは、もし十分に明るい場所であれば、手ブレを最小限に抑えるためにシャッタースピードをできるだけ速くして撮影します。カメラを「シャッター優先モード」にして、レンズの焦点距離と同じかそれ以上のスピード(180mmのレンズなら、1/200秒以上)を選びます。


※この記事は「デジタルフォト達人への道」第1巻から抜粋しています。

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スコット・ケルビー Scott Kelby

『Photoshop User』誌の編集者兼発行人。『Layers』誌(Adobe社製品に関するハウツー雑誌)の編集者兼発行人。人気ウィークリービデオショー『Photoshop® User TV』の共同司会者。全米フォトショップ・プロフェッショナル協会(NAPP)の共同創設者兼会長で、ソフトウェアのトレーニング・教育・出版会社ケルビー・メディア・グループの会長。写真家、デザイナーで、著書は50冊を超える。
・ブログ(英語) Scott Kelby's Photoshop Insider
・トレーニングビデオ(英語) Photo Recipes Live by Scott Kelby


早川廣行 Hayakawa Hiroyuki

電塾塾長/株式会社電画代表/東京藝術大学大学院非常勤講師/日本写真学会会員/日本写真芸術学会会員。デジタルフォトの黎明期から画像処理に取り組み、デジタルフォトの普及啓蒙・教育活動に努める。デジタルフォト関連の雑誌への寄稿、講演活動、書籍執筆(Photoshopプロフェッショナル講座シリーズ他多数)など幅広く活動している写真家・フォトディレクター。

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