デジタルフォト達人への道

プロのようにスタジオを使いこなす 第1回

解説:スコット・ケルビー 日本語版監修:早川廣行

写真:デジタルフォト達人への道 3
アメリカで大ベストセラーとなった書籍「The Digital Photography」が日本語に翻訳されて発売された。この「デジタルフォト達人への道」(発行:ピアソン桐原)、著者は全米Photoshopプロフェッショナル協会(NAPP)会長のスコット・ケルビー氏、日本語版の監修は日本におけるデジタルフォトの第一人者・早川廣行氏だ。Shuffle読者のために、第1巻から第3巻まで各巻のハイライトを特別公開する。

前回までの連載でゼロから作り上げたスタジオは、さらに充実させることができます。「デジタルフォト達人への道」第3巻からは、「第2章 プロのようにスタジオを使いこなす」を公開します。

img_tech_kelby07_01.jpg SHUTTER SPEED: 1/200 SEC F-STOP: F/8 ISO: 200 FOCAL LENGTH: 116MM
PHOTOGRAPHER: SCOTT KELBY

ゼロから作り上げたスタジオをさらに充実させる

前回まで、財布にすっきり収まる薄いプラスチック片(アメックスのカード)さえあればできる、ライト1台から始める基本的なスタジオ作りの方法を紹介しました。すると、その章を読んだ読者から、深い分析に基づいた、示唆に富んだ質問が次々と舞い込みました。

たとえば、「ライトを2台使いたいときは?」「2台目のライトを追加したいときは?」、さらに「ライトが1台ありますが、もう1台必要だと思ったときは?」といった質問です。正直な話、かなりうろたえました。スタジオについては第2巻で語りつくしたつもりだったので、これ以上何かを知りたいという読者がいるとは思いもしなかったのです。そのため、この第3巻の企画を立てたときには、スタジオ撮影のテクニックに関する章はまったく考えに入れておらず、それどころか、スタジオ(studio)やテクニック(techniques)という言葉も一切含めず、念のため「s」や「t」を含む言葉さえ使いませんでした。

しかし、そこで気づいたのです。「s」と「t」なしで本を書くということは、自分のファーストネームすら書けないことになると。自分のことを3人称で言及することもできません(「スコットはスタジオ撮影のテクニックについてもう教えたくありません」とか「スコットは保釈金を払いました」のような文章です)。

私は新鮮な目でコンセプトを見直す必要に迫られました。すると、第2巻で終わったところから始まるスタジオの章を付け加える必要があるだけでなく、私自身のスタジオもゼロから作り直す必要があるとわかったのです。というのも、第2巻が完成し、その章を書き終えてから、私は大きな焚火で機材のすべてを燃やしてしまったからです。それがスタジオ撮影のテクニックの終わりに“ふさわしい”と思ったからなのですが。もちろん、これは冗談です。本当は、スコットはすべてを組み立て直すことが好きではないのです。スコットは財布から薄いプラスチック片を取り出すのが好きではないのです。スコットは副業を必要としているのです。

真っ白の背景を簡単に作る方法

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真っ白の背景(子どもやファッションの撮影には理想的です)を作るのは簡単ではありません。通常は2灯のライトで、均等に照らす必要があるからです。どちらか片方が明るすぎることのないように、うまくバランスをとらなければなりません。

そこで、私はLastolite(ラストライト)の「ハイライト・バックグラウンド(HiLite Illuminated Background)」を使うようになりました。これで完璧に真っ白な背景をいつでも(ロケーション撮影であっても)準備することができます。折り畳み式の「ハイライト」をぱっと開き、ストロボヘッドを左右どちらか(あるいは両方)の内側にはめ込み、後ろ側の壁に向けます。そして、ストロボの出力を「1/4」程度に落とします。ストロボを発光させると、光は「ハイライト」の後ろ側に当たって均一に拡散し、完璧な白になります。両側にライトをはめ込む場所がありますが、私はストロボ1台で使っています。それでも完璧です。

ただし、ストロボが熱くなりすぎないように、必ずリフレクターを取り付けるようにしてください。「ハイライト」は大型のレフ板のように折り畳めるので、撮影場所に簡単に持ち運ぶことができ、セッティングには3分もあれば十分です。さらに、片手で持てるほど軽量です。このセッティングで撮影した実際の写真は、www.kelbytraining.com/books/digphotogv3で見ることができます。

Column

撮影リストを用意して成功のチャンスを高める

スタジオ撮影の準備をするときに、2分かけて撮影リストを作ってください。どんな写真を撮りたいと思っているかの手書きリストです。使ってみたいライティング、試してみたいポーズ、組み入れてみたい小道具など、すべてをリストアップします。事前に計画を立てることで成功するチャンスが高まります。


ワイヤレス機能内蔵のストロボは最高!

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前項でおわかりのように、私はつねに物事を簡単にする方法……そう、できるだけ多くのことを簡単にする方法を探し求めています(結局、簡単であればそれだけ撮影に時間を割けますから)。そこで、こんな機材はどうでしょう。

Elinchrom(エリンクローム)の新しいストロボ「BXRi」にはスカイポートと呼ばれるワイヤレス受信部が内蔵されています。作動させるにはトランスミッターが必要で、これはカメラの上部のホットシューに取り付けます。さらに、もっと役立つ機能といえるかもしれませんが、トランスミッター経由でカメラからすべてのストロボの発光量をコントロールできるのです。

具体例を挙げましょう。ブームに取り付けたストロボをヘアライト(トップライト)として使っているときに、それが明るすぎると思ったら、カメラで光量を下げることができます。わざわざブームスタンドを下ろす(あるいは脚立に上る)必要はありません。4グループまでのストロボをコントロールできるので、1つをメインライトに、1つをヘアライトに、1つを背景用ライトに割り当てれば、カメラから離れることなくすべてをコントロールできます。実に便利です。

B&H Photoで500ワットのBXRiストロボヘッド2個、26インチ(約66cm)のソフトボックス2個、ライトスタンド2本、ケース2つ、そしてワイヤレスで作動させるのに必要なトランスミッターの入ったセットを約$1,550で購入することができます。機材の質を考えると間違いなく格安です(私自身も1セット持っています)。

背景用セットを使う

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SCOTT KELBY

スタジオ撮影を数多くこなすうちに、おそらく白、グレー、黒の背景紙を使った撮影に飽きてくるはずです。これを打破する簡単な方法は、自分で背景用のセットを作ることでしょう(心配はいりません。思いのほか簡単です)。お気づきかもしれませんが、私はセットを“建てる”とは書きませんでした(それでは大仕事になってしまします)。セット作りに必要なことは以下のとおりです。

(1)

近所の救世軍、慈善団体、古道具屋に出かけ(あるいはガレージセールに目を光らせて)、よろい戸タイプの衝立(ついたて)、大型の額縁、コーヒーテーブル、古い長椅子、スタンドランプなど、何か背景として使えそうな「物」を買い求めてください。これから述べる理由のため、それが何であるかはあまり問題ではありません。

(2)

白、グレー、黒の背景紙と被写体の間にスペースを空け、そこに買ってきた家具類を配置します(並べる順番は、後ろから背景紙、1m前後のスペース、家具、1m前後のスペース、そして被写体です。右上の写真撮影時のセッティングは、www.kelbytraining.com/books/digphotogv3へ)。

そして、これが特に大切なのですが、

(3)F2.8やF4など開放に近い絞り値で撮影します。

こうすると背景にあるものがぼけ、撮影場所が大邸宅なのか、あるいは寝室、スタジオなのかわからなくなります。背景にちょっとした物を置くだけで写真の見栄えがぐっとよくなることに、いつも驚かされます。また、ブームスタンドに何か掛けるものが見つかれば、天井からぶら下がっているように見え、さらに効果的です。覚えておいてください。このセット撮影を成功させる秘訣は、背景とセット用の家具、被写体それぞれの間にスペースを空け、被写界深度をできるだけ浅くして撮影することです。結果を見れば、みなさんも驚くはずです。

撮影中のBGMは必須

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人物撮影を専門にしているプロの写真家は、撮影中に必ず音楽を流しています。BGMを流すと被写体となる人はリラックスし、くつろいだ気分になるため、それが出来上がりの写真にも影響するのです(被写体がリラックスして楽しそうであれば、写真にもその雰囲気が現れます)。必要なものはiPodなどのポータブルメディアプレーヤーだけ。音楽を何曲かダウンロードし、iPod対応の小型スピーカーにつなげれば準備完了です。

ここで注意すべきポイントは、BGM効果を高めるには、自分の好きな音楽だけをかけてはいけないということです(それでは自分がリラックスし、くつろぐだけです)。被写体となる人が好みそうな音楽をかけてください。撮影中に聞こえてくると、思わず「これ、私の好きな曲!」と口にするような曲です。

この本を書くにあたって、私はたくさんのプロのモデル(男性も女性も)を撮影したので、そのときにどんなタイプの音楽が好きかを聞くようにしました。残念なことに、往年の正統派ファンクや80年代ハードロックは見向きもされず、彼らが選んだのは家や車でいつも聴いている音楽─R&B、ヒップホップ、ロック、ラップといったところでした。

そこで、友人の写真家テリー・ホワイトに電話して、どのように音楽を選んでいるのかたずねてみました。彼が撮影中にかけているBGMはいつもすばらしかったからです。別に驚くことではないのですが、彼はモデルの1人に選んでもらっているといいました。おかげで他のモデルからは、ほとんど例外なく音楽センスを絶賛されているとのことです。彼は自分のプレイリストをiTunes iMixで公開して私がダウンロードできるようにしてくれました。そして、親切にも、そのiMixを本書の読者と共有することにも同意してくれました。www.kelbytraining.com/books/digphotogv3のリンクをクリックするとiTunesにつながり、そのプレイリストを入手できます。クリックするだけで、そのリストにある曲を1曲でも全曲でも購入できます。


※この記事は「デジタルフォト達人への道」第3巻 から抜粋しています。

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スコット・ケルビー Scott Kelby

『Photoshop User』誌の編集者兼発行人。『Layers』誌(Adobe社製品に関するハウツー雑誌)の編集者兼発行人。人気ウィークリービデオショー『Photoshop® User TV』の共同司会者。全米フォトショップ・プロフェッショナル協会(NAPP)の共同創設者兼会長で、ソフトウェアのトレーニング・教育・出版会社ケルビー・メディア・グループの会長。写真家、デザイナーで、著書は50冊を超える。
・ブログ(英語) Scott Kelby's Photoshop Insider
・トレーニングビデオ(英語) Photo Recipes Live by Scott Kelby


早川廣行 Hayakawa Hiroyuki

電塾塾長/株式会社電画代表/東京藝術大学大学院非常勤講師/日本写真学会会員/日本写真芸術学会会員。デジタルフォトの黎明期から画像処理に取り組み、デジタルフォトの普及啓蒙・教育活動に努める。デジタルフォト関連の雑誌への寄稿、講演活動、書籍執筆(Photoshopプロフェッショナル講座シリーズ他多数)など幅広く活動している写真家・フォトディレクター。

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