2012年02月06日
最近ではスタジオ機材の価格がかなり下がり、思いのほか簡単に自分のスタジオを作れるようになりました。「デジタルフォト達人への道」第2巻 からは、「第2章 ゼロからのスタジオ作り」を公開します。
SHUTTER SPEED: 1/20 SEC F-STOP: F/4 ISO: 100 FOCAL LENGTH: 180MM
PHOTOGRAPHER: SCOTT KELBY
思いのほか簡単で費用も安い
これまでは、スタジオを持つことができるのはフルタイムのプロの写真家だけでしたが、最近ではスタジオ機材の価格がかなり下がり、使い方も簡単になったおかげで、アメックスのプラチナカード所有者なら誰でも自分のスタジオを作れるようになりました。というのはもちろん冗談で、プラチナカードを持っていなくても(ゴールドカードがあれば)大丈夫です。
まじめな話、スタジオをゼロから作ることが容易になった最大の理由は、ライト1台あれば多くのことができるからです。この章では、ライト1台でプロ並みの写真を撮る方法に大部分のページを割いています。そもそもスタジオでは、ライトをただの「ライト」とはあまり呼びません。この呼び方では何に使うものかすぐにばれてしまうからです。その代わりによりプロフェッショナルに聞こえる「ストロボ*」を使います。
業界標準でストロボという呼び方は定着していますが。スタジオ撮影の実体は意図的に謎にされてきました。そうしたほうが複雑な方法で撮影しているように思わせることができるからです。実際にわれわれは、「複雑そうに聞こえるスタジオ機材の名前を考案する委員会(CCCSSGN)」を組織し、仲間内だけで使う紛らわしい専門用語を生み出し、初心者を除け者にする活動を行っています。
たとえば、光の色について話す場合、「室内照明」という用語は使いません。室内という言葉で感づかれてしまうからです。その代わりに「ケルビン」という色温度の測定単位を付けて、初心者を仲間外れにしています。使用例はこうです。
「あのストロボの光は5,500ケルビンぐらいだな」「もうちょっと高いんじゃないか? 5,900くらいだろう」「ああ、そうかもしれない。5,900ケルビンのほうが近いな」。
2人で意気投合して交際に発展しないのが不思議なくらいです。というわけで、ケルビンに触れるのはここまでにして、この章ではスタジオ照明について説明していきます。
*訳注:ストロボは米ストロボリサーチ社の商標です。いまや普通名詞化していますが、ニコン等ではスピードライトといっています。エレクトリックフラッシュ、もしくはスピードライトが普通名詞としては一般的です。
スタジオの背景
最も安価で一般的なスタジオ用の背景素材は、無地の背景紙です。長いロール状の紙で、最もよく使われているサイズは幅が約1.3mと約2.7mのもの。この背景紙のすばらしいところを挙げましょう。
(1) 値段が安い
1.3×11mの白のロール紙が$22程度(B&H Shop)、幅2.7mでも$40程度で購入できます。
(2) シームレス、つまり継ぎ目がない
床(あるいはテーブルの上)まで下ろしてから、そのまま手前に伸ばせるため、つながった一面の背景に見せることができます。
(3) 背景紙を支えるスタンドも安い
幅1.3mと2.7mのロール紙どちらにも兼用できるスタンド(たとえばサベージ社のエコノミー・バックグラウンド・スタンドサポートシステム)がたった$65程度で購入できます。悪くない価格です。
(4) さまざまな色が揃っている
白、黒、青、緑、その他あらゆる色があり、はじめてスタジオを作る方にとっては魅力的です。背景とスタンドを$100程度で工面できるのですから。
Column
ロール紙の幅は1.3mと2.7mのどちらを購入すべきか
テーブルに置かれた物や、人物の肩から上の写真だけを撮るのなら1.3m幅、被写体をもっと見せる必要があるようなら2.7m幅を選びましょう。
スタジオ用ストロボを使用する
多くの人がスタジオ用の照明機材に怖じ気づき、複雑そうだ、自分には専門的すぎると考えています。しかし、実際に使われているスタジオ用ストロボの大部分は、すでにみなさんが使い慣れている外部ストロボ(フラッシュ)の大型版にすぎません。外部ストロボ(ニコンSB-900やキヤノン580EX IIなど)との大きな相違点は2つ。
(1) スタジオ用ストロボはバッテリー電源でなく、壁のプラグを使う
(2) カメラに装着する(あるいは取り外して使う)ストロボより強力(発光量が大きい)
これだけです。スタジオ用ストロボがスタンドに取り付けられている点を挙げることもできますが、外部ストロボでスタンドを使うこともあるので、むしろ共通点と考えてよいでしょう。
スコットのおすすめ機材
フォトジェニック(Photogenic)StudioMax III(320ワット)* (約$260) | |
エリンクローム(Elinchrom)Style BX 500 Ri Multivoltage(500ワット)* ($625) | |
エリンクローム(Elinchrom)Digital Style RX 1200(1200ワット)* ($1,359) |
*訳注:スコットがすすめる製品リストは、日本で売られている製品に比べ極めて低価格です。1,200ワットのモノブロックストロボは、エリンクロームの日本代理店がテイクという機材商社で日本でも販売しています。
強力なスタジオ用ストロボをソフトにする
普段使っている外部ストロボでさえ強力なのですから、スタジオ用ストロボから発せられる光がどれほど明るくてパワフルなのか想像してみてください。これは実に強烈です。この強い光を拡散させてソフトにするためには、発光される光を大きくする必要があります。光源が大きいほど光がソフトになるという原則があるからです。
そこで、光を広げてソフトにするために、何か大きな物をストロボと被写体の間に置く必要が出てくるのですが、私がすすめるのはソフトボックスです。名前が表すとおり、ストロボの光をぐっとソフトにする機材で、プロのスタジオ写真家の間で非常に重宝されています(一流の写真家のほとんどがこれを選択しています)。
ソフトボックスをスタジオ用ストロボに装着すると(片側に穴があります)、ソフトボックスの大きい面にある白いディフューザーを光が透過するようになります。これで光が広がり、被写体に当てる光の光源を拡大することができます。その結果、被写体をより美しく見せる、やわらかい光になるというわけです。
このソフトな光を使えるのは人物写真だけではありません。商品撮影で全体にやわらかい影を作りたいときにも、ソフトボックスがあれば、まさにその効果が得られます。
私がアンブレラよりソフトボックスを好む理由
ソフトボックス以外にも、光を拡散させてソフトにするための機材としてストロボ用アンブレラがあります。驚いたことに、アンブレラはストロボと被写体の間には置かないのが普通です(置くこともできますが)。
まずストロボを被写体から180度の方向─つまり被写体と正反対の方向に向けます。次にアンブレラをストロボの前に置き、アンブレラの内側に向かって発光されるようにします。これで光がアンブレラに当たって広がり、バウンスして被写体のほうに送られます。アンブレラに当たった瞬間に光が広がるので、ストロボの光をかなりソフトにできるという仕組みです。それでは、なぜ私はアンブレラを使うことを好まない(すすめない)のでしょうか?
それはソフトボックスを使ったほうが光をボックス内部にしっかり封じ込めることができるからです。光がボックスの外に漏れないので、光の方向をよりコントロールしやすくなります。つまり、ねらったとおりの方向にぴたりと光を当てることができるのです。
ところが、アンブレラに当てた光は、どこに行くかわかりません。手榴弾を投げるようなもので─光はねらった方向を大雑把に目指して進み、ねらいどおりの位置に命中する確率はあまり高いとはいえません。
つまり、アンブレラはストロボ光の強烈さをやわらげ、ソフトで魅力的な光を作ることができますが、その光はあらゆる方向に散ってしまいます。それとは反対に、ソフトボックスを使うと光が閉じ込められるため、進む方向をコントロールしやすくなり、ほかの機材と組み合わせることで、光の幅をさらに狭めることも可能なのです。
デジタルフォト達人への道 1
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スコット・ケルビー Scott Kelby
『Photoshop User』誌の編集者兼発行人。『Layers』誌(Adobe社製品に関するハウツー雑誌)の編集者兼発行人。人気ウィークリービデオショー『Photoshop® User TV』の共同司会者。全米フォトショップ・プロフェッショナル協会(NAPP)の共同創設者兼会長で、ソフトウェアのトレーニング・教育・出版会社ケルビー・メディア・グループの会長。写真家、デザイナーで、著書は50冊を超える。
・ブログ(英語) Scott Kelby's Photoshop Insider
・トレーニングビデオ(英語) Photo Recipes Live by Scott Kelby
早川廣行 Hayakawa Hiroyuki
電塾塾長/株式会社電画代表/東京藝術大学大学院非常勤講師/日本写真学会会員/日本写真芸術学会会員。デジタルフォトの黎明期から画像処理に取り組み、デジタルフォトの普及啓蒙・教育活動に努める。デジタルフォト関連の雑誌への寄稿、講演活動、書籍執筆(Photoshopプロフェッショナル講座シリーズ他多数)など幅広く活動している写真家・フォトディレクター。