デジタルフォト達人への道

ゼロからのスタジオ作り 第2回

解説:スコット・ケルビー 日本語版監修:早川廣行

写真:デジタルフォト達人への道 2
アメリカで大ベストセラーとなった書籍「The Digital Photography」が日本語に翻訳されて発売された。この「デジタルフォト達人への道」(発行:ピアソン桐原)、著者は全米Photoshopプロフェッショナル協会(NAPP)会長のスコット・ケルビー氏、日本語版の監修は日本におけるデジタルフォトの第一人者・早川廣行氏だ。Shuffle読者のために、第1巻から第3巻まで各巻のハイライトを特別公開する。

最近ではスタジオ機材の価格がかなり下がり、思いのほか簡単に自分のスタジオを作れるようになりました。「デジタルフォト達人への道」第2巻 からは、「第2章 ゼロからのスタジオ作り」を公開します。

スピードリングの役割(およびこれを使うべき理由)

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みなさんが必要とする機材はこれまでのところ、

(1)ストロボ1台
(2)ストロボを固定するスタンド1台
(3)光を拡散させてソフトにするソフトボックス1個

でしたが、

(4)さらにスピードリング1個

が加わります。スピードリングはストロボとソフトボックスの接続に必ず必要な道具なので、ソフトボックスの標準装備と考えられています。

ところが、どういうわけかソフトボックスとは別売りされています。軽金属製でエッジ部分に穴が4つあるのが普通で、この穴にソフトボックスの四隅にある細い金属製ポールを差し込むようになっています。ポールを差し込むとソフトボックスの形状が箱の形にでき上がるので、それをそのまま(スピードリングとソフトボックスを一緒に)ストロボに装着します。

スピードリングを注文するときは、使用しているストロボのブランドに合った製品を選んでください。プロフォト製のストロボにキメラ製のソフトボックスを使う場合であれば、プロフォトのストロボに合うように設計されたキメラ製のスピードリングか、プロフォト製のスピードリングを買うことになります。私ならキメラ製を選びますが、その大きな理由は、このほうが$21.45と安いからです。

また、スピードリングの多くは回転させることができるので(つまり、ストロボに装着したソフトボックスを回転させて縦横を切り替えることができます)、この要素を重視する場合は(おそらくそうだと思います)回転タイプの製品を選んでください。

モデリングライトを使う

img_tech_kelby05_02.jpgSCOTT KELBY

スタジオで撮影する場合、被写体を照らす明かりはストロボだけというのが普通です。室内に別の照明があるとカメラの露出に影響が出るため、撮影中のスタジオは暗くするのが一般的なのですが、ここで問題が生じます。カメラのオートフォーカスを作動させるには、ある程度の明るさが必要になるからです。スタジオ用ストロボにモデリングライトが付いている理由の1つはこのためです。

モデリングライトとは、ストロボが発光されない間に点灯する薄暗い照明で、これを使ってカメラのオートフォーカスを作動させることができます。

モデリングライトを使うもう1つの利点は、被写体のどこに影ができるかを教えてくれることです(正確にではありませんが、予測できる程度のヒントを与えてくれます)。私は撮影中にモデリングライトをつけたままにしますが、オンとオフの切り替えスイッチがストロボの後ろ側に(セパレートタイプのパワーパックあるいはバッテリーパックを使っている場合はそちらに)付いています。

img_tech_kelby02_speak.gif スタジオ用ストロボは大まかに2種類に分類されます。
(1)モノライト*1
本書でスタジオ用ストロボというときはこのユニットタイプ(パワーパック、フラッシュバルブ、パワーコントロールなどすべてが一体になっている)を指します。壁のコンセントにプラグを直接差し込んで使用します。
(2)フラッシュヘッド*2
ストロボ本体のみを指し、コントロールはすべてセパレートタイプのパワーパックもしくはバッテリーパックのほうで行います。これにフラッシュヘッドを差し込んで使用します。

*1訳注:日本ではモノブロックタイプといっています。
*2訳注:日本でもセパレートタイプといい、電源部はゼネレーター(略してゼネ)といいます。


スタジオ用ストロボを発光させる

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シャッターボタンを押した瞬間にストロボを発光させるためには、カメラとストロボを同調させる必要があります。標準的な外部ストロボと同じように、シンクロコードを使うことでそれができます。コードの片方の端のプラグをカメラのシンクロコード用コネクターにつなげ、もう片方をストロボにつなげれば完成。

これでシャッターボタンを押した瞬間にストロボが発光されるようになります。シャッターを押すたびにストロボが発光されるのを止めたい場合は、コードを外してください。

Column

機材を購入しなければならない場合もある

念のためにいっておきます。本書ではいくつかの製品をすすめていますが、私はどのメーカーからもキックバックやボーナスや販売促進料を受け取っていません。撮影仲間の友人にアドバイスするであろう内容を、そのまま読者のみなさんに伝えているだけなのです(これが本書のテーマです)。この本は製品を売りつけるための書籍ではありませんが、プロ並みの写真を撮るためには、プロが使っているのと同じ機材を使う(買う)必要もあるということをあらかじめ理解しておいてください。


ストロボをワイヤレス発光させる

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シンクロコードは安価ですが(B&H Shopで見つけた4.5mのシンクロコードは最安値の約$10でした)、カメラとストロボがつながれた状態ではスタジオ内を自由に動き回るのに不便です。この問題を解決するのがストロボのワイヤレス発光で、これでもっと自由に、完全に束縛を解かれ、重荷を下ろし、足かせを外した状態で(色々な表現ができます)動けるようになります。ワイヤレスでの撮影に慣れたあとでシンクロコード撮影に戻ると、鎖でつながれたような気分になることでしょう。それでは、必要な手順を説明します。

まず、ワイヤレス機器2台が必要です。1台はカメラのホットシューに取り付けてワイヤレス信号の送信機にします。もう1台をストロボのシンクロコード用プラグにつなぎます。

私がこの方法を気に入っている理由は、プラグでつないで電源を入れるだけですむからです。何かをいじって面倒な設定をする必要はありません。これでシャッターを押した瞬間にストロボを─スタジオの反対側にあるものさえ─発光させられるようになりました。

私が使っているワイヤレストリガーは人気製品のPocketWizard(ポケットウィザード)PLUS IIで、小型で超軽量の、信じられないほどすばらしい働きをしてくれる信頼の置ける製品です。私の知るスタジオ写真家はすべてPocketWizardを使っています。$190ほどなので安価とはいえませんが(おまけに2台必要です)、感動ものの使い心地です。

代わりに定常光を使う

img_tech_kelby05_05.jpgCOURTESY OF WESTCOTT

スタジオ撮影でストロボに代わる手段として急速に台頭しているのが定常光です。

定常光は瞬間に光るのではなく、ずっと点灯しておく光なので、ライティングが驚くほど簡単になります。目で見たままのものを得られるからです。私のスタジオでも定常光を使っていますし(3台あります)、Photoshop Lightroomの実演ツアーを行ったときには、定常光がセンセーションを巻き起こしました。私がいくら本書で力説しても、実物が使われる場面を生で見るインパクトにはかないません。実演講習の参加者はすっかり夢中になっていました。私が使っているのはウエストコット社のSpiderlite(スパイダーライト) TD5sという、昼光を常時点灯する蛍光灯です(上の写真を参照)。

蛍光灯はほとんど熱を発しないため、撮影中ずっと“クール”に過ごせ、被写体も暑くならずにすみます。ストロボよりも自然でやわらかい光ですが、私はもちろんソフトボックスを装着して使っています。スピードリングがライト本体に組み込まれているので、スピードリングを買う手間が省けて便利です。

とりわけ最高なのは、非常に安価なところです。ライトスタンド、スパイダーライトTD5、ブラケット、60×80cmのソフトボックスをB&H Shopにて約$600で購入できます。まさに、すばらしいの一言です。

それでは、定常光の短所とは何でしょうか? 1つあります。瞬間的な光で被写体の動きを止めることができないため、被写体を静止させておく必要があることです。蛍光灯はストロボ光ほど明るくありませんから、被写体が大きく動かずにいてくれる場合にかぎり、すばらしさを発揮するのです。

ソフトボックスのサイズを選ぶ

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ソフトボックスのサイズを選ぶときには、いくつか考慮すべき点があります。第1に何を撮影するのか。第2に光をどの程度ソフトにしたいのか。

まず、「何を撮影するのか」を考えてみましょう。テーブルに置いた商品を撮影する場合は60×90cm程度の小さめのソフトボックスで大丈夫でしょう。肩から上のポートレートにも十分な大きさです。それより大きい人物写真を撮るのなら、もっと大型のソフトボックスが必要です。

すでに説明したとおり、光源が大きいほど光はソフトになりますから、超大型(90×120cmなど)のソフトボックスを購入すると、非常にソフトな光を広範囲に当てることができます。私のスタジオでは3サイズのソフトボックスを使用しています。60×90cm、人物撮影用に90×120cm、さらに直径190cmのエリンクローム・オクタバックもありますが、これは最高にソフトな美しい光が欲しいときに使っています。

スコットのおすすめ機材

img_tech_kelby01_yen1.gif フォトフレックス(Photoflex)ライトドーム 2×3’(約60×80cm)
(約$80)
img_tech_kelby01_yen2.gif キメラ(Chimera)Pro IIソフトボックス 3×4’(約90×120cm)
(約$185)
img_tech_kelby01_yen3.gif エリンクローム(Elinchrom)オクタバンク 7’(約190cm)
(約$1,138)

※この記事は「デジタルフォト達人への道」第2巻から抜粋しています。

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スコット・ケルビー Scott Kelby

『Photoshop User』誌の編集者兼発行人。『Layers』誌(Adobe社製品に関するハウツー雑誌)の編集者兼発行人。人気ウィークリービデオショー『Photoshop® User TV』の共同司会者。全米フォトショップ・プロフェッショナル協会(NAPP)の共同創設者兼会長で、ソフトウェアのトレーニング・教育・出版会社ケルビー・メディア・グループの会長。写真家、デザイナーで、著書は50冊を超える。
・ブログ(英語) Scott Kelby's Photoshop Insider
・トレーニングビデオ(英語) Photo Recipes Live by Scott Kelby


早川廣行 Hayakawa Hiroyuki

電塾塾長/株式会社電画代表/東京藝術大学大学院非常勤講師/日本写真学会会員/日本写真芸術学会会員。デジタルフォトの黎明期から画像処理に取り組み、デジタルフォトの普及啓蒙・教育活動に努める。デジタルフォト関連の雑誌への寄稿、講演活動、書籍執筆(Photoshopプロフェッショナル講座シリーズ他多数)など幅広く活動している写真家・フォトディレクター。

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