2008年07月15日
コマーシャルやカタログの撮影では、正確なライティングをするために外からの光が入らないスタジオをよく利用します。専用ペイントで真っ白に塗られていて、床と壁あるいは壁どうしの接合部を曲面にしたホリゾントスタジオ(ホリスタ)が一般的です。ところが、最近はハウススタジオと呼ばれる、自然光を取り入れたスタイルのスタジオが流行しています。
自然光の入るハウススタジオ。協力:Studio SALA http://www8.ocn.ne.jp/~sala/ |
ハウススタジオは撮影専用に設計された洋風・和風の建物で、天井が高く引きも十分にありながら、撮影すれば不自然に広く見えないように工夫されています。さらに窓の開口も大きく、天窓を設置するなど採光にも配慮されています。外のロケーションを背景に使えるようにしているスタジオも多く、都心部よりも少し離れたビルや民家の少ない場所にあるのも特徴です。風景が良く自然光を使えるので、ナチュラルなイメージにはぴったりで、気候の良い時期はとても気持ちよく撮影ができます。
しかし、このふんだんに取り入れられた自然光が、デジタルフォトのチェック時に問題になるのです。反射の多い室内では、デスクトップでの作業を考慮したモニターフードでは、深さが足りず周りの影響を受けてしまいます。そんな時は、純正にこだわらず自作フードで対応します。私は、軽量で加工が簡単な発泡アクリルを素材にしています。
筆者自作のモニターフード。メーカー純正品よりフードが深いので、ハウススタジオのような場所でも、モニターの表面に余計な光が入り込むのを防いでくれる |
自然光は時間と共に変化し、たとえ晴天で安定した天候であっても、午前・午後・夕方では色や明るさが変わります。特に冬期は昼間が短く、日没ぎりぎり、あるいは日没後の残光で撮影することも珍しくありません。夕方には刻一刻と光量が少なくなり、モニターがどんどん明るく見えてきます。ずいぶんと前の話ですが、そのような状況で友人の撮影を見学する機会がありました。その頃、彼はデジタルでの撮影を始めたばかりで、モニター表示に頼った撮影をしていたために、撮影が進むにつれて露出がどんどんアンダーになっていたのです。幸い段階露光を撮っていたおかげで大事には至りませんでした。
ハウススタジオでは刻々と光の状況が変わるので、モニターの見た目だけに頼っていてはダメ。モニターでは適正露出に見えても、ヒストグラムを見るとアンダーであることが分かる。 |
RAWでの撮影なら多少の露光調整が可能ですが、カメラによっては、過度のアンダーは補正できないものがあります。上の写真は、そんな状況を再現したものです。見たところモニター表示は適性に見えていますが、右下のヒストグラムが1絞りほどアンダーを示しています。このような状況では、モニターの輝度を調整しなければなりません。周りの明るさが変化しやすい状況では、常にヒストグラムを確認できるようにしておくのは、カメラの背面液晶だけではありません。
さて、このような環境では明るさの他に色の問題もあります。スタジオごとに雰囲気を変えてあるので、床や壁の材質・色が違います。そして窓の配置や向きが違っていれば、入ってくる光の色温度や色味が変化してしまいます。
試しに3つのスタジオでカラーチャートを撮影して色温度をソフトで確認してみました。写真はすべて色温度5000K 色合い(色かぶり)0で現像したものです。グレー部分でホワイトバランスを取った場合、ソフトでの表示は、スタジオ1: 4600K +13、スタジオ2:4750K +9、スタジオ3:5100K +15 となりました。色温度は最大で500K変わっています。これは、スタジオに問題があるのではなくて、内装の材質や光の入り方によるものなのです。
スタジオ1 | スタジオ2 | スタジオ3 | ||
内装の材質や光の入り方によって、写し込んだカラーチャートの色は微妙に異なってしまう |
この程度の差であれば、撮影画像の色の違いはチャートを利用すれば簡単に解消できますが、問題は液晶モニターの見え方にも影響することです。スタジオ1の場合で言うと、5000Kに調整したモニターで見ると、白いはずの壁や商品がどうしてもシアンかぶりを起こして見えてしまいます。赤みがかったスタジオの光に目が慣れているせいですね。
このような環境光に起因する液晶モニター表示との色の差異は、こまめにモニターキャリブレーションを行なうことで解決できます。ColorEdgeの専用ソフトColorNavigatorでは、調整目標の設定を環境光に合わせることができるようになっています。これはモニターの設置場所の光の色を計測して、キャリブレーションのターゲット値に設定する機能です。ColorNavigatorを使ったハードウェアキャリブレーションは非常に短時間で調整できるので、面倒がらずにキャリブレーションするようにしましょう。
でもそうは言っても、時間が限られた自然光撮影では、キャリブレーションする時間さえ惜しくなるものです。もし本当に時間がない場合には、「なぜモニターの色が違って見えるのか?」を一言説明するだけで、スタッフや立ち会いの不安が解消すると思います。
環境に合わせてキャリブレーションはこまめに行なおう | ColorNavigatorの目標設定画面 |
BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。
- 第14回 ワークフローとカラーマネジメントの整備
- 第13回 ライティングによって色再現が変わることを知っていますか?
- 第12回 デジタルカメラの特性は、カメラだけではなくソフトも重要!
- 第11回 Rawデータで撮影するならモニターにもこだわろう
- 第10回 液晶モニターに適切な室内照明とは?
- 第9回 色を正確に再現するだけでは美しい写真とはならない!?
- 第8回 人間の視覚は、意外といいかげん
- 第7回 色を見るときは、色温度だけではなく演色性にも気をつけよう
- 第6回 銀塩プリントのススメ
- 第5回 画像のコントロールは、ハイライト&シャドーから
- 第4回 Windowsで正確な色を表示するには
- 第3回 ホリゾントスタジオでは、撮影段階で色を追い込む
- 第2回 自然光スタジオでは、光の変化に気をつけよう!
- 第1回 デジタル一眼レフの背面液晶モニターは信頼できるか