2008年09月19日
コマーシャルや雑誌、カタログの撮影や画像処理には、主にMacintoshが使用されています。Macは早くから、画面で見たとおりのものを印刷やプリントで再現することに取り組んできました。また多くのDTP(デスクトップパブリッシング)用ソフトウェアも、最初のうちはMacだけに対応していました。こうして1980年代後半以降、印刷に関わる作業に使用するコンピュータは、Macだけという状況が長く続いてきました。
その後、写真撮影にデジタルカメラが使われるようになって、フォトグラファーがRaw現像処理などにMacを使うようになったのは自然な流れでした。また、WindowsとMacの間のファイル互換性の問題などもあって、Windowsはフォトグラファーから敬遠されていました。
私のスタジオではMacをメインマシンとして使用していますが、何台かのWindowsマシンも稼働しています。ファイルサーバーとして使用している以外に、スタジオ撮影用のマシンとロケ用のノートPCそして画像処理用もあります。実は数年前、あるメーカーのカタログ撮影を全てデジタルカメラに変更することになりました。何人かのフォトグラファーが撮影に関わり、多くのカットを処理しなければなりません。ところが、使用する予定だったデジタルカメラの専用ソフトウェアの処理動作が、Mac OSではあまりに遅くて撮影に支障があるほどでした。一方このソフトウェアがWindows 2000やXPに対応していて、とても高速に処理ができることが分かっていました。しかし、問題は「Windowsで正確な色が判断できるのか?」ということです。
Mac OSには、ColorSyncというカラーマネジメントシステムの機能がOSの一部として備わっています。このColorSyncがあることが、Mac OSが画像処理やグラフィックに向く理由の一つです。一方Windowsには、ICM2というカラーマネジメント機能があります。ColorSyncには及ばないものの、ある程度の機能は果たしてくれます。また画像処理ソフトの定番であるAdobe Photoshopは、独自のカラーマネジメント機能を持っていて、OSに頼らずに画像表示をしてくれます。
Macintosh(左)とWindows(右)を使い、それぞれLightroom 2で同じ画像を表示させたところ。LightroomはPhotoshopと共通の画像処理エンジンを備えており、上のようにMacでもWindowsでもほとんど同じ表示となる。 |
いろいろと試行錯誤した結果、「一定の条件を満たせばWindowsでも正確な色が判断できる」ということが分かりました。
1. Adobe Photoshopなど、アプリケーションがカラーマネジメントに対応していること
2. モニターのキャリブレーションソフトを使用すること
3. ビデオカードが必要な解像度と色数(フルカラー)に対応し、プロファイルの書き換えが出来ること
この中で一番やっかいなのは、3.のプロファイルの書き換えが出来るビデオカードです。これは正確に言うとLUT(ルックアップテーブル)の上書きのことですが、キャリブレーションソフトに書き換えを許可しないものが存在します。対応しているかどうかは、実際にやってみないと分かりませんでした。この問題については、テスト的に1台のWindowsマシンを導入し、上手く行かなければビデオカードだけ交換することにしました。
Adobe Photoshopと違ってカメラメーカー純正のソフトウェアは、Windows XPのICM2や、Windows VISTAのWCSというOS標準のカラーマネジメントシステムを利用しているようです。Windowsのカラーマネジメントシステムは、使い物にならないという評価を聞くことがありますが、いろいろな画像を表示させて検証してきましたが、今までのところ特に問題はありません。私がWindowsを導入した頃はまだCRT(ブラウン管タイプ)が主流で、19インチのFlexScan T765を使用していましたが、現在はColorEdgeシリーズを接続すれば、ハードウェアキャリブレーションの正確な環境で使用することができます。
Windowsは、いろいろなパソコンメーカーが製品を販売しているので、全ての機種が画像処理に適しているとは言い切れません。実際の使用にあたっては、多少の知識と経験が必要です。しかし、上手にMacとWindowsを使い分けることで作業時間を短縮できたり、それぞれのOSでしか使えないソフトが使えたりとより快適な環境をつくることができます。それは、仕上がりのクオリティにも少なからず影響があるはずです。
Mac版 Photoshop のプロファイル変換ダイアログの「変換方式」では、Mac標準のApple CMMとAdobe Systemsの ACEが選べる。 | Windows版 Photoshopでは、ICMが選べるようになっている。 |
カメラメーカー純正ソフトの処理時間を、Mac OS とWindows XP(BootCamp)で比較した。ハードウェアはMacBook Pro。 | Windowsではプリンタドライバの色補正ダイアログなどでもICMの利用ができる。 |
BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。
- 第14回 ワークフローとカラーマネジメントの整備
- 第13回 ライティングによって色再現が変わることを知っていますか?
- 第12回 デジタルカメラの特性は、カメラだけではなくソフトも重要!
- 第11回 Rawデータで撮影するならモニターにもこだわろう
- 第10回 液晶モニターに適切な室内照明とは?
- 第9回 色を正確に再現するだけでは美しい写真とはならない!?
- 第8回 人間の視覚は、意外といいかげん
- 第7回 色を見るときは、色温度だけではなく演色性にも気をつけよう
- 第6回 銀塩プリントのススメ
- 第5回 画像のコントロールは、ハイライト&シャドーから
- 第4回 Windowsで正確な色を表示するには
- 第3回 ホリゾントスタジオでは、撮影段階で色を追い込む
- 第2回 自然光スタジオでは、光の変化に気をつけよう!
- 第1回 デジタル一眼レフの背面液晶モニターは信頼できるか