2009年06月26日
このところ難しいテーマが続いていたので、今回は画像形式をテーマにしました。私は、主にコマーシャルフォトやカタログ用の撮影をしているので、ほとんどRaw記録モードを使用しています。また、私の周りのフォトグラファーも普段はRawモードを使用し、撮影内容や撮影後の処理方法によってRawとJpegを使い分けているようです。
ここ数年でパソコンの性能が飛躍的に進化したおかげで、デジタルカメラのRawデータを扱うことにあまりストレスを感じなくなってきました。最新バックタイプのように5000万画素近いRawデータでは快適とまではいきませんが、35mm一眼レフタイプの標準的な1500万画素程度であれば、1枚数秒で現像処理が終わります。ほんの3年前は、30秒~1分以上かかっていましたから本当に快適になりました。
ところで、このRawとJpegの使い分けのポイントとして「写真を大きなサイズで使用する場合はRawが良いのか?」というような質問を受けることがあります。これは半分「当たり」で半分「ハズレ」です。大きなサイズでの使用にあたって影響が大きいのは、解像力とシャープネス(輪郭強調)です。解像力は、画素数とレンズの性能に依存します。
単焦点レンズとズームレンズの解像力比較
(個体差があるので必ずこの通りにはならない)
ズームレンズの部分拡大 | 単焦点レンズの部分拡大。こちらの方が解像力が高い |
ですからJpeg記録であっても、フル画素数(Jpeg L)の低圧縮率(高画質)で保存されていれば、極端に画質が悪くなることはありません。画素(ピクセル)100%での出力であれば、Rawとの区別はほとんどできないでしょう。
原寸以上に拡大する場合には、Jpeg圧縮によるノイズよりも、保存時のシャープネス(輪郭強調)が悪影響を及ぼします。画素(ピクセル)拡大にあたっては、拡大後にシャープネスを適量かけるのが、画質低下をさせないポイントです。Jpeg撮影時、またはRaw現像時のシャープネスは「なし」または「弱」にすることで、拡大時の画質低下を回避できます。
元画像のシャープネスが強いと画像拡大時に悪影響が出る | ||
シャープネスを強めにしてJpegで撮影後、400%に拡大。エッジの縁取りも拡大されている | シャープネスなしでRawから現像後、400%に拡大。エッジは自然なままだ |
では、Rawデータの優位性は何かというと、カメラの性能をそのままに保存できる広いダイナミックレンジと豊富な階調なのです。Jpegの階調8bit(RGB各色256階調)に対して、Rawデータは16bitで記録されています(内部的には12bit〜14bitの機種もありますが、14bitの場合でもRGB各色16,384階調で、8bitの64倍となります)。
ダイナミックレンジとは、フィルムのラチチュードと同じと考えて問題ありません。Jpegモードでもカメラの設定でコントラストを低くしておけば、広めのダイナミックレンジを記録できますが、Rawデータには及びません。
画像補正がRawとJpegに与える影響
Raw+Jpegで風景を撮影、Rawは12bit記録
Jpegの補正後。横方向に筋状のトーンジャンプが見える | Rawの補正後。この程度の補正ではトーンにムラはない |
上の写真は、RawとJpegの同時撮影をしています。露出は適正ですが、コントラストが低く中間調部分が明るすぎるために「ぼけた感じ」になっています。そこでハイライト(白トビ)とシャドー(黒ツブレ)を調整して、中間調を落としてみました。両方の画像でトーンカーブは、同じように設定してあります。
Jpegの空にはわずかにトーンジャンプが見られます。オリジナルの画像をダウンロード出来るようにしましたので、Nikon D3のRawファイルを開くことができる方は確認してみてください。この作例のようにJpegの階調低下は、滑らかなグラデーションのほんの狭いところから起きるのです。
オリジナル画像のダウンロードはこちらをクリック( zip圧縮ファイル 18.9MB )
このようなグラデーションの確認に、モニターの輝度・色ムラは大敵です。画像処理にはできるだけムラの少ないモニターを使用したいものです。また、ソフトウェアキャリブレーションでは、プロファイル変換がモニター表示に影響します。ColorEdgeのようにハードウェアキャリブレーションであれば画像のトラブルもそのままに表示できることができます。
Jpegモードでは、カメラ内部で撮影設定に従ってRaw → Jpeg現像を行なっています。シーンや被写体に合った設定をすることで撮影後の後処理が不要になるのであれば、画質低下は起きません。しかし限られたカメラの撮影設定メニューでは柔軟性がない上に、撮影と確認、再調整を繰り返さなければ厳密な設定はできないでしょう。画像確認がカメラの背面液晶頼りとなれば、あまり精度は期待できません。
トーンに影響する撮影時のカメラ設定
設定による結果を確認するには、
一度撮影しないといけない。
BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。
- 第14回 ワークフローとカラーマネジメントの整備
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- 第12回 デジタルカメラの特性は、カメラだけではなくソフトも重要!
- 第11回 Rawデータで撮影するならモニターにもこだわろう
- 第10回 液晶モニターに適切な室内照明とは?
- 第9回 色を正確に再現するだけでは美しい写真とはならない!?
- 第8回 人間の視覚は、意外といいかげん
- 第7回 色を見るときは、色温度だけではなく演色性にも気をつけよう
- 第6回 銀塩プリントのススメ
- 第5回 画像のコントロールは、ハイライト&シャドーから
- 第4回 Windowsで正確な色を表示するには
- 第3回 ホリゾントスタジオでは、撮影段階で色を追い込む
- 第2回 自然光スタジオでは、光の変化に気をつけよう!
- 第1回 デジタル一眼レフの背面液晶モニターは信頼できるか