そうだったのか!デジタルフォトの色

第6回 銀塩プリントのススメ

解説:BOCO塚本

デジタルフォトのプリント出力にはいくつかの方法があります。大量部数をプリントする商業印刷、主にオフィスなどで利用されるカラーレーザープリンタ、家庭や小規模オフィスで使われることが多いインクジェットプリンタなどですが、もう一つフィルムの頃から写真出力のメインであった印画紙プリントがあります。今回は、この印画紙プリントにスポットをあててみましょう。


6P(6切)サイズにコンタクトシートをプリント。店舗の対応や混み具合にもよるが、
筆者が利用しているところは混んでいなければ50枚を30分で出してくれる。

一般的に、レンズを通して光学的に露光したフィルムから、薬剤を使いケミカル処理によって像を得る方法を銀塩プリントと呼びます。一方、画像データをレーザーなどで印画紙に露光するものを「デジタル銀塩プリント」(*1)と呼び、フルアナログタイプと区別しています。デジタル銀塩プリンタには、レーザーで露光するタイプとLEDを使うタイプがありますが、現在は大きなサイズまで対応出来るレーザー方式が多いようです。印画紙にはネガカラープリント用をベースにデジタルプリント向けにチューニングされたものを使用します。

印画紙プリントは、意外と早い時期からデジタルデータに対応していました。まだフィルムが主流だった頃から、KodakのEプリントのようにフィルムスキャニングをしてデジタルプリントをするシステムがありました。DPEショップなどで使用されているミニラボ機も、10年ほど前からプリント部分はデジタル化されていたのです。皆さんが何気なくネガカラー現像&プリントを頼んだものは、すでにデジタルプリントだったかもしれません。

DPEショップなどにも入っているミニラボ機なら、305mm幅のロール紙を使い最大四切ワイドまでのプリントが可能です。それ以上のサイズではラムダプリンタ(*2)が有名です。最大1,250mm幅のロールペーパーを使用できます。どちらの機種も大型の業務用機で、設置面積やコストも大きく、個人レベルの導入は現実的ではありません。出力する場合は、DPEショップやプロラボに発注することになります。

印画紙のガモット(表現できる色域)はインクジェットに比べて狭く、ほぼsRGBに相当します。そのために以前のデジタル銀塩プリンタの多くはsRGBに準拠した仕様で、iccプロファイルを認識せずカラーマネジメントに対応していませんでした。しかし、カラーマネジメントが運用できないと今のデジタルワークフローにはマッチしません。全世界で50%を超えるシェアを持つノーリツ鋼機の現行ミニラボ機は、入力ソースのiccプロファイルを読めるだけでなく、Eye-Oneなどで作成したそれぞれのプリンタのプロファイルをセットできるようになっています。(*3)

インクジェットとデジタル銀塩プリントの色再現域
Eye-Oneで測色したインクジェットプリントとデジタル銀塩プリントのガモットを見ると、再現色域の違いがわかる。 デジタル銀塩プリントの方が全体に狭いが、グリーン&シアン方向はほとんど変わらない。風景写真によって鍛えられた成果だろう(インクジェットプリンターの機種や印画紙によって異なる)。オフセット印刷(Japan Color 2001 Corted)も掲載しているので参考にしてほしい。

一昔前のプリンタ出力は、高倍率ルーペで拡大すると露光のためのレーザー走査が認識できることもありましたが、現在ではほとんど分からなくなっています。インクジェットプリンタのようにインクのドットではなく、粒子で階調再現をしているので、とても滑らかなグラデーションが特徴です。インクジェットプリンタの写真画質も非常に滑らかで、それだけを鑑賞していれば何の違和感もありません。しかし、同じデータからプリントしてみるとスペックだけでは分からない差があります。

私も普段の出力にはインクジェットプリンタを使用していますが、写真展の出品など作品用途には必ずデジタル銀塩プリントで出力するようにしています。インクジェットプリンタの上級機は6色や8色といった多色機が主流ですが、銀塩プリントはシアン・マゼンタ・イエローの3色だけでプリントされます。そのため色変換に無理がないのか、色のつながりが良くトーンが綺麗に再現されるようです。(*4)

1200dpiでスキャニングした部分比較 下の写真をクリックすると原寸で表示される。その状態を120dpiのモニタースクリーンで見た場合、10倍ルーペで観察している状態に近い。

[デジタル銀塩プリント]

レーザーの走査の跡も見えず粒状性も良い。

[インクジェットプリント]

これは顕著な例だが、少し粒状感が残る。

[ネガカラーフィルムから光学的にプリント]

古い印画紙だからか粒状性が良くない。

[175線のオフセット印刷]

プロがDPEショップを利用するというのは意外かもしれませんが、フィルムのようにデリケートな原稿を扱うことがなくなりました。データ通りにプリントするなら、ショップ側に画像調整のスキルがあるかどうかはあまり気にする必要がないのです。ただし、データ通りにプリントする場合にはいくつかのポイントがあります。

1. 店頭で必ず補正なしで発注する

2. データ作成前に必要解像度を確認する
 (メーカー・機種によって300dpiと400dpiがある。ラムダは400dpiだが、ラボによっては200dpi指定もある)

3. 出力機が対応する色空間(カラープロファイル)を確認する

4. 作成データサイズでプリントするには「等倍」の指示も忘れずに
 (指示がないと自動リサイズ&トリミングになる)

5. Jpegフォーマット以外は受け付けないショップもある
 (逆にプロラボはTiffフォーマットが基本)

カラーマネジメントに対応していない機種でも、sRGBでデータを作成しておけば、sRGBに近い状態で仕上がります。印画紙や薬液の種類で多少のずれはありますから、さらに追い込みたければチャートを出力してもらって、Eye-Oneなどでプロファイルを作成した方がいいでしょう。カラーマネジメント対応機種を置いているならAdobe RGBでも問題ありません。

デジタル銀塩プリントの裏面
上:日付・ファイルネームのほか補正データが記録されている。補正なしを指定すると赤枠の部分が、N N N N−−−となる。インクジェットでカラーマネジメント対応プリントをする際に、補正なしを選択するのと同じ。

下:出力時に補正されてしまった例。これでは、モニター通りのプリントは得られない。
お詫びと訂正 本記事の初出時に「補正なしを指定すると赤枠の部分が、N N N N NNとなる」と書きましたが、正しくは「赤枠の部分が、N N N N−−−となる」でした。お詫びして訂正します。(2009.01.08)

出力側がカラーマネジメントに対応しているなら、こちらの作業環境も整えたいものです。銀塩プリントペーパーの色域はsRGBに近いと前述しましたが、実際にはグリーン&シアン系に広い色域を持っているので、CG241WのようにAdobe RGB相応のキャリブレーションモニターを使って作業する方が、より正確なシミュレーションが可能です。これらのポイントをクリアすれば、銀塩プリントでもキャリブレーションされたモニター通りのプリントが得られるようになります。

デジタル銀塩プリンタは、業務用ということもあって短時間出力も魅力の一つです。発注先の混み具合で大きく変わることもありますが、基本的には出力時間は短くてすみます。前出のノーリツ鋼機の新型機種では四切サイズを360枚/時間で出力できる性能を持っています。急ぎで大量枚数をプリントする必要がある時にはその力を発揮することでしょう。もちろん、お店側の納期がありますから発注前に確認してください。


カラーマネジメントの基本は、キャリブレーションされたモニター環境である。
入力&作業環境がしっかりしていないと安定したプリントは望めない。



(*1)このタイプのプリントの正式な呼称ではありません。

(*2) Durst Lambda 130(イタリア ダースト社 ラムダ130)

(*3)現在稼働しているすべての機種がカラーマネジメント対応しているわけではないので、必ず店頭で確認するようにしてください。

(*4)プリンタのドライバーは、RGBデータをインクの色数に変換しているため、データ階調がぎりぎりの場合モニターでは確認できないトーンジャンプなど階調の破綻が見られることがあります。

写真:BOCO塚本

BOCO塚本 BOCO Tsukamoto

1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。

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