そうだったのか!デジタルフォトの色

第12回 デジタルカメラの特性は、カメラだけではなくソフトも重要!

BOCO塚本

現在60機種以上が販売されているデジタル一眼レフカメラは、同じメーカーであってもそれぞれに異なった発色傾向があります。皆さんもカメラを新機種に入れ替えたときに今までのカメラと色の再現が変わってしまってとまどった経験があると思います。

カメラの発色が違う原因はさまざまですが、大きくハードウェア的な要因とソフトウェア的な要因に分けられます。ハードウェア的には、撮像素子(CCD・CMOS)の違いによるものが大きいでしょう。デジタルカメラの撮像素子は、それだけでは色情報を得ることはできません。それぞれの画素の前に、R(赤)G(緑)B(青)のカラーフィルターを配置して色のデータを生成しています。このフィルターの特性や撮像素子の感度、ダイナミックレンジ、さらにはノイズの低減方法などによってカメラの性格が大きく変わります。

そして、撮像素子から取り出された電気信号をデジタルに変換するのは、カメラ内部の画像処理エンジンと呼ばれる電子回路です。ほとんどの場合はAD(アナログ・デジタル)変換から、ノイズリダクション、各種設定を適用したJPEGへの変換までの画像処理を行ないます。

Raw記録の場合は、AD変換と一部のノイズリダクション処理を行なうだけですが、ここにもメーカーのノウハウが詰まっていて、それぞれの機種の特徴をソフトウェア的に作る要因となっています。Rawファイルの中には、カメラで設定された値が記録されています。カメラ専用ソフトを使い設定を変えずに現像すれば、カメラ内部で処理されたJPEGとほとんど変わらない画像が現像できます。

それでは実際に、同じライトセッティングのまま、複数のメーカーのカメラ(*1)で撮影した画像を見てみましょう。カメラの撮影時設定は、それぞれ最もナチュラルな再現をするプリセット「ニュートラル」を選んでいます。

boco12_1.jpgboco12_2.jpg
左が Nikon D3、右がEOS-1Ds Mark III である。露出とホワイトバランスのみを調整して、それぞれの専用ソフトでJPEGで書き出した。プリセットは共に、最も素直な設定の「ニュートラル」だ。背景のグレーは大きな差はないが、肌色の発色に差がある。

カメラの感度が違うので露光の設定は違います。また Raw現像は純正ソフトウェアを使用し、ホワイトバランスはRaw現像時にグレーチャートで取り直しています。背景のグレーは近似していますが、全体の印象は少し違うでしょう。

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上の2点の拡大。背景のグレーは比較的近いが、肌色の表現に差がみられる。特に腕のシャドーからハイライトへの色の変化を見てほしい。

腕の部分をアップにした画像を見ると、肌色のグラデーションとコントラストが違っているのがわかります。この写真は、背景に無彩色を使用しているため差を感じにくいですが、色味のある背景だと大きく印象が変わるはずです。

次の画像は、同じデータをサードパーティ製のソフトウェア(*2)で現像したものです。ホワイトバランスを取り直しただけで、それ以外の設定は初期設定のままです。肌色の印象がずいぶんと近くなりました。別々に見せられると、差は分からないはずです。

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Adobe Camera Rawを使用してホワイトバランスのみを調整後、JPEGに書き出した。露出調整をしていないので、メーカーソフトとは明るさに差がみられるが、専用ソフトに比べて肌色の差が少なくなった。

グレーバックの人物だけでは分かりにくいので、色紙の見本帳で比較しました。異なる3社のカメラで撮影したものを、同じRaw現像ソフトで現像し、その3枚の画像を合成してあります。色味の近いグループの発色を見ていただくと、ほとんど差がないことがわかります。

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上からキヤノン、フジ、ニコン。微妙な差は見られるが、色相のずれがほとんどない。一部に色飽和が見られるが、かなり古い機種で撮影したのが原因。

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Raw現像ソフトではカメラの機種ごとにプロファイルを持っていて、カメラのクセを吸収してるようだ。ソフトによって度合いが違うが、Adobe Camera Rawは比較的色が揃いやすい。ちなみにCapture Oneだとカメラ側の個性が強く残る。

このようにデジタルカメラの発色傾向は、カメラ本体とRaw現像ソフトウェア双方の特性で決まります。 カメラの選択は、ソフトウェアも含めて検討するべきだと言えます。

ここで気をつけたいのは、このように複数の写真を並べて微妙な色やグラデーションを比較する時には、できるだけグラデーションの再現性が良く、輝度ムラ・色ムラのないモニターを使用してほしいということです。色の正確さだけでなく、視野角による色の変化も重要となります。余談ですが、8月5日に発売になったColorEdge CG243Wは、IPSパネルを採用し、見る角度による色変化を抑えたモデルです。このような用途にも間違いなく応えてくれるでしょう。

boco12_7.jpgモニターで画像検証するには、明るさや色のムラがないモニターを使いたい。角度による色変化にも注意したい。画像の比較には、Photoshopの「ウインドウ→アレンジ→並べて表示」が使いやすい。

今回の比較で分かるように、デジタルカメラの発色傾向には現像ソフトが大きく関与しています。色の善し悪しはユーザーの好みによるところが大きいので、一概にどれが良いとはいえませんが、何枚かの写真を現像して見ればある程度の傾向が分かってきます。Raw現像ソフトは発色だけでなく、偽色・モアレの除去や解像感にも違いがあり、操作方法や機能面でも違いがあります。ソフトウェアごとにそれぞれ試用版がダウンロードできるので、カメラとの相性も含めて納得できるまでテストしてください。きっと皆さんの感性に合ったものが見つかると思います。

このような検証は、できるだけ条件の違う画像を使用したい。今回は適正画像が中心だが、露出の不適正な画像やフォーカスの芯が甘い画像も、検証の際には有効だ。

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空や緑の色再現や雲のコントラストの違い。

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原色系の被写体は、強調されている色味がよく分かる。

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無彩色の画像では、色味の変化は少ないがコントラストがよく分かる。

*1:EOS-1Ds Mark III(ピクチャースタイル:ニュートラル)と Nikon D3(ピクチャーコントロール:ニュートラル)を使用。現像はそれぞれDPP Ver 3.6.1、CaptureNX2 Ver2.2.0 
*2:今回はAdobe Photoshop CameraRawを使用。これ以外にもRaw現像ソフトとして、SilkyPix(市川ラボラトリー)、Phase Capture One(フェーズワン)などがある。

代表的なサードパーティ製ソフトウェア

Adobe Photoshop Lightroom2
SilkyPix
Capture One
DxO Optics Pro

 

写真:BOCO塚本

BOCO塚本 BOCO Tsukamoto

1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。

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