2009年09月01日
これまでは主にカメラやソフト側から色再現を見てきましたが、今回は光の質と発色について考えてみましょう。写真の色再現を考えるときに、ライティングはとても重要な要素になります。
ここで言う光の質とは、色温度や演色性といった違いではなく「点光源と面光源」のようにライティングの違いです。皆さんは逆光より順光、面光源より点光源の方が写真の発色が良いと感じていると思います。これは、フィルムが主流だった頃から良く知られていた現象でした。「順光」と「逆光」は、光の質ではなく光の方向性です。
左:逆光で撮影。右:順光で撮影。
逆光のシャドー部に露出を合わせると、全体のバランスが崩れる。
上の写真を見れば、逆光は被写体の全面に光量が不足しているために、色再現だけでなくテクスチャ表現も充分にできないことがわかります。シャドー部に露出を合わせると全体のバランスが崩れてしまいます。ただし、逆光は奥行きや動きなどの表現には向いています。
右は表現として、逆光を利用している例。左の順光に比べると、フロント部分のディティールが犠牲になっているが奥行きが感じられる。
画像処理によって、被写体のコントラストを修正した。平面的な表現になる。
撮影現場の用語で「やわらかい光」、つまりコントラストが低く光が回っている状態では発色が悪く、コントラストが高い「かたい光」の方が発色が良いと言われています。実際にどれくらいの差になるのか比較のために、カラフルな塗り箸と色紙の見本帳を被写体に撮影しました。リフレクターだけのライティングとディフューザーを入れたライティングで比較します。
左:リフレクターだけのライティング。右:ディフューザーを入れたライティング。
全体を見るとディフューザーのない方がコントラストもあって発色がよく見えますが、ディフューザーを入れた方のヒストグラムを見るとレンジをいっぱいに使えていないためシャドー側の締まりがありません。シャドーを調整してそれぞれの部分を比較してみましょう。
それぞれ塗り箸を部分拡大。
塗り箸には、艶があるために映り込みの影響が大きく、ディフューザーを使用した場合には発色が抑えられています。艶感の表現は望ましいものですが、色味を中心に考えた場合ライティングを工夫しなければなりません。
色見本帳を部分拡大。上がリフレクターだけ、下がディフューザーを入れたライティング。上の方がハイコントラストだが、色についてはあまり差はない。
一方の色見本帳にはあまり差がみられません。レイヤー合成したもので確認すると同じと判断して差しつかえないでしょう。この色見本帳の用紙は、非常に細かいマット面で艶がありません。このように艶がない素材であれば、光源の大きさによる発色に違いが出にくいことが分かります。
実はフィルムを使用していた頃には、スキャナーがレンジ調整を受け持っていました。そのためにフォトグラファーは、レンジ補正を考える必要がなかったのです。現在は、Raw現像時にこの補正をする必要があります。ただし、塗り箸のように艶がある素材では写り込みの影響が大きいので、補正結果を考慮して「発色」と「質感表現」をうまくバランスさせたライティングをしなければなりません。
リフレクターとディフューザーを使う今回のテストでは、光源の大きさに変化がありますが、ライティングがやわらか過ぎるほどではありません。そこで参考までに前・上・左・右にほとんど明るさの差がないセッティングで撮影をしてみました。ヒストグラムを見るとカメラのダイナミックレンジを使い切っていないことがわかります。ここまでフラットなライティングだと被写体の表面状態による発色の差がよりはっきりわかります。
ほとんど明るさの差がないセッティング(計測値で0.5EV以内)。
リフレクターだけのライティング(1.7EV差)。右の緑のBoxが濃く見えるのは0.5EVほど落ちているため。クリーム色と水色のBoxを参考にしてほしい。
フラットなライティングだと艶のある素材は、色が出にくい。
反射の影響が少し出ているが、塗り箸に比べると発色は悪くない。
ところでこのテスト撮影の際に困ったことがありました。撮影用モニターに古いColorEdge CG18を使用していましたが、撮影とRaw調整を繰り返していると、現像設定によって色飽和を起こして見える部分が出てきました。はじめはテストに使用したカメラの問題かとも思いましたが、彩度を落とすと階調はつぶれていないことが分かりました。sRGB対応のCG18では色域が不足していたのです。撮影後の検証に使用したAdobeRGBの色域をほぼカバーしているCG241Wでは問題なく表示されていました。
CG241W(AdobeRGB相当)とCG-18(sRGB相当)の比較。(プロファイルによるシミュレーション実際にはもっと差がある)。CG18の方は、丸で囲んだ部分が分離できていない。
今回の執筆にあたって多くの検証をおこなってきましたが、プロカメラマンの多くは、新しい機材の検討や撮影方法のためにテスト撮影を行ないます。フィルムからデジタルカメラに機材が変わってもテスト撮影の必要性はまったく変わりません。それどころか、Raw現像やレタッチ作業まで行なうことからテストの必要範囲が以前よりも増えてしまっています。照明機材・撮影機材・ソフトウェアなど実に多岐にわたります。
フォトグラファーがテスト撮影やソフトウェアを試用する場合、最終形の印刷まで含めたテストを行なうことはあまりなく、モニターでの確認で終わることが多いはずです。このときに信頼できるモニターを使用しなければ、テスト結果が不安定なものになってしまいます。つまり、普段のテストにこそ信頼できるモニターでのチェックが不可欠と言えるのです。
BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。
- 第14回 ワークフローとカラーマネジメントの整備
- 第13回 ライティングによって色再現が変わることを知っていますか?
- 第12回 デジタルカメラの特性は、カメラだけではなくソフトも重要!
- 第11回 Rawデータで撮影するならモニターにもこだわろう
- 第10回 液晶モニターに適切な室内照明とは?
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- 第8回 人間の視覚は、意外といいかげん
- 第7回 色を見るときは、色温度だけではなく演色性にも気をつけよう
- 第6回 銀塩プリントのススメ
- 第5回 画像のコントロールは、ハイライト&シャドーから
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