2008年06月23日
こびとのくつ株式会社の工藤美樹です。レタッチャーとしてモニターと向き合う時間は、1日10時間前後とかなりの長時間。そのためモニターの性能が積もり積もって健康状態にも影響します。レタッチャーとしての立場から、こびとにおける環境整備のお話を中心に紹介させていただこうと思います。
独立当初、資金に余裕がなかったため、相当安い中古CRTモニターを購入しました。作業が一通り終わってプリントしてみると、黒の中に微かに切り抜いた画像の切抜き漏れが 。しかしモニターに目を凝らしても、プリントで見られるような漏れは見当たりません。Photoshopのトーンカーブで極端に明るくしたり暗くしたりすれば判別はできるのですが、非常に怖くなったのをおぼえています。モニターの表示性能のせいで、本来なら見えるべきものが見えない。白が白ではなく、黒が黒ではないかもしれないということです。このままこのデータを納品すれば、この会社のクオリティーはこの程度、と判断され記憶されるということです。その時点で、その人が受注できる仕事のレベルは決まってしまいます。
仕事のクオリティーを支える要素について考えると、
1. 本人の技術力の高さ・感性の良さ。
2. その技術力と感性を発揮でき、かつ作品として他者にみせられる仕事があること。
3. 能力を押し上げ時間を短縮し、将来的リスクを軽減できる環境整備。
などなど。1と2は個人差があると思いますが、3についてはできるかぎり良いものをそろえるべきだと思います。
はじめのモニターで大失敗をしたあとに購入したのが、EIZO ColorEdge CG21でした。まだCRTから液晶に切り替わり始めた時期で、いまでは当たり前の薄さに、当初は違和感を覚えていました。
ただ、EIZO/NANAOの名前を知ったのは製品としてのモニターからではなく、デザインディレクター/医学博士の川崎和男氏の著書『デザイナーは喧嘩師であれ 〜四句分別デザイン特論〜』からでした。車椅子や人工心臓のデザインも手掛ける川崎氏は、EIZO/NANAOブランドに関してはプロダクトのみならず、CIをも手がけられ、このEIZOの一連のプロダクトデザインは、グッドデザイン選定、インターフェイスデザイン賞などを受賞、また広告展開は『省スペース広告デザイン賞』を受賞していました。プロダクトとしての魅力と、グラフィックとしての広告展開の面白さ、そして高い品質から、CG21の購入に至りました。
こびとのくつでは、メインモニターはCG211、サブモニターはFlexScanで環境を統一している。
弊社の場合は、メインモニターのCG211に加えて、サブモニターを使用していますが、こちらはFlexScan S1921/S2000を使用しています。スタンドの形状がメインモニターと同じで、全員がこの環境で作業しているため統一感があり、また機器が統一されているため、緊急で他の人のデスクで作業する場合も、違和感なく作業することができます。
レタッチという精細な仕事は、1ピクセルの単位で切り抜き用のマスクを抜いたり、1%レベルで色の補正を行うなど非常に神経を使います。丁寧で心のこもった仕事で、クライアントの要望に応えることが、自分たちがいちばん大切にしていることです。ではそこまでして精緻に作り上げた、成果物についての判断の基準は何になるのかというと、それは人や会社によって、モニターだったり、プリントだったり、ヒストグラムだったり、RGB/CMYKの数値だったり、といろいろなわけです。
製作したものをクライアントに確認してもらうための方法のひとつに、JPEGデータをメールで送る方法があると思いますが、モニターの種類や表示性能も多種多様な状況において、まったく同じ色を見ている訳ではありません。環境や性能の違うモニターで色を確認する際のリスクを、もっと意識してクライアントにも啓蒙しなければ、こちら側の信用問題にもつながります。
たとえば色の確認だけはプリントでしてもらって、修正に関する部分はJPEGなどによるメールチェックで、というようにきちんと使い分けることが大切ですし、その際には、クライアントサイドの環境などもヒアリングしておくのがいいと思いますね。
筆者のデスクにはColorEdgeが2台。左側のCG221は現在テスト中 | スタッフのデスクには、いずれもCG211とFlexScanが各1台ずつ並んでいる |
工藤美樹(こびとのくつ) Miki Kudo
7歳より油画・水彩・陶芸・書道を学ぶ。株式会社アマナを経て、こびとのくつ株式会社を設立。精密さと早さを重視した職人集団、こびとのくつの現代表取締役。
http://www.kobito.co.jp/
主な仕事:花王『AUBE』『GRACE SOFINA』、NTT DoCoMo『Anser』、サントリー『DAKARA』『角』、東京ディズニーランド『20周年記念』、TOYOTA『LEXUS』『COROLLA ALTIS』など。