2008年09月01日
連載第1回と2回で、こびとの仕事環境について触れましたが、3回目は作業する時の環境のこと、データ作成時の決まりごとについて少し書かせていただきます。
こびとのくつは数名のレタッチャーによる個人技とチームワークによる製作フローを持っています。チームで仕事をするためには共通のルールがないと、データ管理やチームメイトとのやり取りが煩雑になってしまいます。
たとえばこびとではデュアルモニターを使用していますが、セカンドモニターのパレットの並び位置や表示の内容などはおおよそ共通しています。データの管理は共通のフォルダ名を使用して、例えば IN / PSD / FINAL / PRINT / PREOPE / LAYOUT などに案件ごとに振り分けて管理をしています。こうしておけば、誰かが休んだ時もデータの場所を探しやすく、引き継ぎもスムースで、クライアントに迷惑をかけなくても済みます。どれが最終だったかということで間違いを起こしませんし、製作途中は必要だったけれども、納品後は不要なデータの削除も簡単です。
クリックで拡大 セカンドモニターのパレットの並び位置や表示の内容は全スタッフで共通となっている | データの管理は共通のフォルダ名を使用して、他のスタッフにも分かりやすくなっている |
こびとの場合は、ビルボードやB倍の駅ばりポスターなど、マス媒体が多いため、1案件で使用するハードディスク容量は40GB〜70GBにもなります。撮影データから納品完了データまで、整理して保管することで、時間と手間を効率的に省くことができます。われわれにとってデータがすべてです。膨大な時間とエネルギーを費やしたものですし、何よりもクライアントの資産のひとつでもあります。3年前のデータをもう一度欲しいといわれても大丈夫な環境は、長くクライアントから支持されるためには必須条件だと思います。
また媒体が大きい場合や、絵が複雑になればなるほど、レイヤーの数も増えてゆきます。こびとではレイヤー数の多い仕事が普通なので、作業のしやすさと変更が迅速に行なえるという観点からレイヤーの順番に関してルールを作り、エフェクトの階層位置、修正の階層位置、カラーの階層位置、レイアウトの階層位置などを統一しています。
そうしなければ、納期がないときに瞬間的に全員でデータを分担しながら、アクセルを踏んで作業にあたる事が難しいのです。デジタルカメラの普及とも相まって、製作期間の短縮とクオリティの維持への要求は、強くなる一方です。
ですからレイヤーの構造を、納品までの流れ、クライアントのクセ、考えられる変更への迅速な対応が可能である状態に組んでおくのも、プロフェッショナルなレタッチャーの能力のひとつとして、重要なのではないかと思います。
それぞれの個性と才能を、余計なことにエネルギーを取られる事なく仕事へと昇華・集中させるためには、あえて統率の取れたシステマチックな環境設定の方が効果的であることがあります。
データの保管はカートリッジ交換による外付けハードディスクで行なっている
工藤美樹(こびとのくつ) Miki Kudo
7歳より油画・水彩・陶芸・書道を学ぶ。株式会社アマナを経て、こびとのくつ株式会社を設立。精密さと早さを重視した職人集団、こびとのくつの現代表取締役。
http://www.kobito.co.jp/
主な仕事:花王『AUBE』『GRACE SOFINA』、NTT DoCoMo『Anser』、サントリー『DAKARA』『角』、東京ディズニーランド『20周年記念』、TOYOTA『LEXUS』『COROLLA ALTIS』など。