2008年10月31日
前回はモニターの中で起こっている色の変化や、経年変化による表現性能の低下などについて書きました。今回はそのモニターの周囲、環境光やキャリブレーション、プリンタとの関係性などについてお話ししたいと思います。
こびとのくつの社内は二重の遮光カーテンによって、暗室のような環境になっています。その理由は、明るい環境の下では、緻密なマスク作成作業や暗部の表現の際に、目に見えないミスをしてしまうからです。たとえばPhotoshopでマスクを作成する際に、間違ってブラシで軽く触ってしまい、そこの数値だけ255ではなく254や253になっていたとします。ぱっと見ただけではわからなくても、きちんとした表現域のあるモニターと適切な照度環境、念入りにチェックをする慎重なレタッチャーの目があれば、その多くは発見することができます。
業務時間中のこびとのくつの室内。アロマキャンドル(右)が欠かせないアイテムとなっている。 |
作業プロセスにおいて抜け漏れのないように進行をしていくのが一番ですが、それでも間違いは発生してしまうものです。それが大きな問題になるのを未然に防ぐために、優れた機材の力を借りて保険をかけるようにしています。
連載の第1回目にも書きましたが、以前、私は中古のCRTモニターを使用していて、モニターの表示性能のせいであやうく画像の切り抜きミスを犯しそうになりました。しかし、優れた機材の力を借りれば、このような間違いも防げるはずです。
そのモニターをメンテナンスし、色を一定に保つために使用しているのがキャリブレーションツールです。現在は様々な種類・価格帯のものが発売されていますので、モニターとの相性やそれぞれの環境に合わせた購入をお勧めします。
キャリブレーションツールは機能と性能によって、5万円以下から数十万円まで様々な価格の製品がある。
たとえば『キャリブレーションするのはどこからどこまでなのか』。モニターだけで充分なのか。モニターとスキャナーなのか、さらにプリンタも加えるのか、はたまたカメラは? などなど。それぞれの納品形態、チェックの方法、使用機材などによって、キャリブレーションツールの選択は違います。
もしも、どんなものが適しているのか自分ではよく分からないという場合は、ナナオ主催のキャリブレーションセミナーなどに参加して、自分の使用している機材との相性や、環境に合わせて色の整合性を取るための方法などを、相談してみるのも良いと思います。参加してみると、同じようなことで悩んでいる人もいたりして、よいコミュニケーションの機会にもなります。
こびとの場合は、案件の切り替わりの時期を見計らって、定期的にキャリブレーションを取っています。案件の途中でキャリブレーションをしてしまうと、それまで見ていた状態と微妙に変わってしまいますし、1%や2%の色の差でも気づく方たちが、こびとのお客様だからです。
こびとの場合は、モニターとプリンタが極力マッチングするようにしています。ということはモニターで見た印象と、プリンタの出力物を色評価台で見た印象が、非常に近いと言うことです。大型の色評価台の他にも、同じメーカーの小さな色評価用光源を用意して、プリンタの出力とモニターの印象が近くなるように画像を調整しています。 | 大判プリンター | ||
大型の色評価台 | 卓上用の色評価光源(左) |
その際に重要なのは、輝度の印象が近いということ、そしてコントラスト、あとは色味です。色が合っていても、輝度が大きくずれていたり、コントラストが違っていると、印象は随分違って見えます。
ただし輝度がずれていても、モニターの表現の限界である場合や、逆に紙の白色度が高い場合があります。高すぎる輝度は、何よりも目に負担をかけますから、長時間作業をする場合などは特に注意が必要です。機材は買い替えられますが、自分の目は代替できない大切なもの。無理のない快適なワークフローを心がけて、良い仕事ができる環境をカスタマイズしてみてください。
工藤美樹(こびとのくつ) Miki Kudo
7歳より油画・水彩・陶芸・書道を学ぶ。株式会社アマナを経て、こびとのくつ株式会社を設立。精密さと早さを重視した職人集団、こびとのくつの現代表取締役。
http://www.kobito.co.jp/
主な仕事:花王『AUBE』『GRACE SOFINA』、NTT DoCoMo『Anser』、サントリー『DAKARA』『角』、東京ディズニーランド『20周年記念』、TOYOTA『LEXUS』『COROLLA ALTIS』など。