吉田尚記のあさっての話

物理学者に、世の中はどう見えていますか?|山崎詩郎

今回の対談相手は、“コマ博士”の異名を持つ東京工業大学理学院物理学系助教の山崎詩郎さん。コマ大戦優勝を期に、科学と遊びを融合した「コマ科学実験教室」を日本各地の科学館や小学校で行ない、物理学の世界をやわらかく子どもたちに伝えている。一方で、クリストファー・ノーラン監督の映画『TENET テネット』では字幕科学監修を担当するなどSF博士としても知られている。今回の対談のキーワードは“ローカルミニマム”。物理の世界だけでなく、人はローカルミニマムにハマりやすい。では、そこから脱出するにはどうすればよいのか。世の中の“当たり前を疑う”ことの重要さが詰まった対談です。

20220325_asatte_1.jpg吉田尚記

吉田 山崎さんにはどういう風に世の中が見えているのか、それが今回のテーマです。「これがなぜ残っているのかわからない」というルールってありますか?

20220325_asatte_2.jpg山崎詩郎

山崎 多数決で物事を決めていくことは少しおかしいなと感じます。それは日常生活から政治まであらゆるところにありますが。物理は、何か現象があったら、「あ、こういうことだったのか」という原因があり、答えが自然に1つに決まる学問なんですね。

吉田 “そもそも思考”ですよね。「そもそもこういうことなんだよ」ってことを徹底的に突き詰めていく。

山崎 そう。原因は人が多数決で決めるのではなく、実験で正しいものが正しい。だから、どうしても多数決は苦手ではありますね。

吉田 正直、多数決って人類を正しく導く方法にはまったくならない。

山崎 本当にそう思います。私の物理的な感覚だと、多数決は“重さ”に似ています。車が急に止まれないのと同じように、今まで前に進んできたからそのまま前に進もうとしてしまう。

誰か1人が、前は誤りで後ろが正解だと発見しても、圧倒的な“重さ”をもつ99人を止めることはできない。相転移みたいなことが必要になるわけです。

吉田 納得するということと正しいということは違いますよね。

山崎 物理では“ローカルミニマム”という考え方があるんです。例えば、寒い山の頂上から、暖かい海まで行きたいとします。簡単です。どんどん下へ進めば必ず海に出られるはずです。

ところが、もし山中に湖があったらどうなるでしょう。下に進むだけでは海に出られず、一時的に山を登らなければ、湖に永久にハマってしまいます。ここで言う湖のようにハマる場所を“ローカルミニマム”と言います。人類は、湖を海と勘違いしてそこにハマり続けてしまうことがあります。

吉田 物理学者の方はそれがわかるだけに、もどかしいと思うんですけど。

山崎 もどかしさについては、教育にも感じます。簡単に言ってしまうと、知識を詰め込む暗記型ではなく、考えて発信する探求型の教育にシフトした方がいいのではないか。とはいっても学校の先生はニュースになるほど忙しい。なので、私のような子ども教育に興味を持っている研究者が訪問して、一緒にプチ研究するような機会が増えればいいなと。

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科学と遊びを融合したかった
コマを軸足にしたら
自然と回り出した

吉田 以前MITの科学者に「今までの人類の最大の発明はなにか?」と問うたら、答えが「幼稚園」だったという話を思い出しました。幼稚園には基本カリキュラムがない。遊び道具とかがたくさんあって、近くにいる大人は子どもたちのサポートをすることが基本。教育は本来、そういうものであり、先ほど仰っていた思考力が本当に養われるのはそこだろうと。

山崎 それはとても心に響きますね。私も「コマ科学実験教室」というのを200回ぐらいやってきましたが、そのコンセプトはまさに「科学と遊びの融合」でして。「今日は授業を一切忘れて、僕と一緒にコマで遊ぼう」とコマをいっぱい出して楽しむ。コマはどうして倒れないのかという科学もあれば、そもそもおもちゃとして遊べるものでもある。科学と遊びの融合にぴったりだったんです。

吉田 今、小・中・高でカリキュラムに従ってやっているけれど、ある意味その12年間で、幼稚園と同じように遊ばせていたほうがよっぽど知的にすごいものが生まれるんじゃないかとも思います。

山崎 最近は子どもたちの好奇心を育てる“探求学習型”の塾とかも増えてきて、今の子は選択肢が多い分幸せだと思います。

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自分で走る「自走モード」に
入ったら自分から好きなだけ
やるようになるからそれに
どうやって入れるかがすべて

吉田 最近、受験の本で、わりとポジティブだなと思ったのが「自走モード」という言葉があって。自分で走るモードに入ったら、好きなだけ自分からやるから、それにどうやって入れるかがすべてだと。

山崎 別の言い方をすれば「火を点ける」。受験のための塾も賛成ですが、好奇心に火を点けるための塾もあっていい。火が付いてしまえば自分で走り出すので。

吉田 今は受験勉強だけをやればいいやとローカルミニマムにハマってしまっている人がたくさんいる。自走モードに入れば、もうひとつすごいところまで到達できる可能性は十二分にあるのに、今のシステムだとその可能性が潰されてしまっている。

山崎 教育って社会全体を変える可能性のある重要な要素で。だから、教育をよくすればいずれ社会全体がよくなるはずと信じているのですが、もどかしいのが、探求型学習がしにくい環境にあるという点。ただ、ここ10年でだいぶ変わったとも思います。そこはまだ希望が持てるところなので、自分にできることは積極的に手伝っていきたいな思っています。

物理学者をやっていると「占いって本当にあたるんですか?」と多くの方から聞かれる。実は、あたるかどうかはどちらでもいいんです。占いがはるか昔から今まで受け継がれてきたことには何らかの理由がある。むしろそちらに興味がある。物理学で“自発的対称性の破れ”という単語があって。例えば、ペンを立てようとすると、右か左に倒れてしまう。もし右と左が対称なら倒れるはずがない。でも、自発的に倒れるんです。それと同様のことが人生においても言える。人生の岐路で右か左か選ばなければならないこともある。論理的に考えたら永遠に選べない。そんな時、占いに頼って右か左を決めてもいい。占いには”自発的な対称性の破れ”を促す効果があり、そうやって”ローカルミニマム”から脱する人だっているんです。

吉田 連載に出ていただいた矢野和男先生も易の話をしていました。ローカルミニマムから脱するには占いのようなもので「揺り動かす」ことが大切なんですね。

山崎 物理では一度温めてから冷やすという手法をとりますが、人間のローカルミニマムの脱し方は、占いの場合もありますが、人のアドバイスを聞くって言うのが一番普通かもしれません。いずれにせよ、外部の力が加わらないと、いつまでもローカルミニマムから脱することができない。

吉田 ただ、もちろん揺り動かしたことで悪い結果になることもあるわけですよね?

山崎 それはあります。揺り動かすリスクもあるけど、少なくとも状況を変えるガチャにはなる。

吉田 一見、関連がなさそうな物理の世界と社会とがこんなに絡み合っているとはすごく面白かったです。またぜひ面白い話を聞かせてください!

よしだ・ひさのり
1975年12月12日東京生まれ。ニッポン放送アナウンサー。第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。現在、『ミューコミVR』と週10本前後のPodcastを担当。最新刊は石川善樹氏との共著『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました』(KADOKAWA)。ほか著書多数。

やまざき・しろう
物理学者/コマ博士/SF博士。東京工業大学理学院物理学系助教。コマ大戦優勝後にコマ博士として科学と遊びを融合、「コマの科学」(講談社)を著す。映画「TENET テネット」の字幕科学監修、「クリストファー・ノーランの映画術」(玄光社)の科学監修を務めたSF博士。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年2月号から転載しています。


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