吉田尚記のあさっての話

経営者にとっての意思決定とはなんですか?|山内奏人

まとめ:粟野亜美

今回の対談相手は、20歳にして「WED」の代表取締役を務める起業家の山内奏人さん。2016年、わずか15歳という若さで起業。誰もがゴミとしてきたレシートを1枚10円で買い取るという画期的なアプリ『ONE』を17歳で開発し、世に出したことで話題となった人物だ。よっぴー曰く、そんな山内さんを「経営者と意思決定のマニア」と称する。今の20代が考える“意思決定”とは何を意味しているのだろうか。今回は、ジェネレーションを超えた対談です。

20220531_asatte_1.jpg吉田尚記

吉田 20歳の山内さんの世代にとって今の社会の見え方は全然違うだろうなと思ったんです。以前は、社会に反抗する若者像があったけれど、今はそれがなくなっていっている気がするんです。

20220531_asatte_2.jpg山内奏人

山内 僕らの父親世代のロックって、いわゆる反体制的な意味があった。でも、最近のロックはオルタナティブロック。つまり、過去を肯定しながら、でも改善できる部分もあるよねというスタンス。「否定も肯定もしない。でも、自分のスタンスを貫く」、僕らはそんな世代なんじゃないかなと思う。これまでは「理解してくれないのはクソだ」=ロックだったけれど、理解してくれないのもわかるというスタンスをとるのが面白いなと思って。

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否定も肯定もしない
でも、自分のスタンスを貫く
僕たちはそういう世代
なんじゃないかなと思う

吉田 当時どうしてそんなに社会に反抗していたのかと言うと、ごく少ない選択肢の中からどれかの選択肢で社会に参加しなければならなかったからではあると思うんです。参加する社会が気に入らなかったら壊すしかなかった。逆に今は異常に選択肢が多い。だからこそ、つらい部分もあるのではないかなと。

山内 敵がいないのかもしれないですね。今までの反抗って明確に上の世代を敵だと見ていたところがあったけど、最近は、敵の対象となるものが漠然とした、抽象度の高いものだと思うので。時代の変化が自分の思った通りになっていないことに対しての憤りみたいなものがあるのかもしれないですね。

吉田 以前は実行に移す手段もないという時代だったのが、今やほぼすべての人に実行する自由がある状態になった。でも、「俺たちの人生このままでいいし、余計なことしないでくれ」と言う人がたくさんいる。それはそれでわかるけど、それは本質的に生きていることにはならないなと。どんな人でも毎日決断すべきだと思うので、そこに疑問がある。もちろん、日本という国は間違いなく停滞していますが、停滞の中で「なんとかしないといけない」とやり続けるべきだと思うんですよね。

山内 これまでも正解を作ってきた人たちって、正解の意思決定をしてきたのではなく、意思決定を正解にしてきた。江戸時代には今では考えられないような法律もありましたど、当時、それを正解にした人がいたはずなんです。それによって政権が長く続いたこともあった。そういう意味では、正解の意思決定をしようとするのではなく、意思決定を正解に近づけるというほうが感覚的に近いかもしれないです。

吉田 それはめちゃめちゃヘビーですよね?のちのちの正解にすることが伴必要だとすると意思決定の精度がすごく重要になる。

山内 ただ、意思決定の精度は、意思決定をすることでしか上がらないと思うんですよ。それも経験値になるのは失敗の部分だけ。成功したことより、失敗したことのほうが印象に残るので。意思決定の失敗をどれだけ積み重ねられるかが重要なのかなと思う。それと、意思決定において、ボールを投げ込む感覚は最近、意識していることかもしれない。例えば、現場のメンバーが何かのプロジェクトで動いていると一部にフォーカスしてしまう。そんなときに僕は高い目線から物事を見て、突如、違うアイテムを投げ込む。すると、そこが活性化することがある。

吉田 それって意思決定も促し、失敗も促していますよね。それぐらいやらないと社会に対するインパクトあることを起こせない。

山内 起こせないし、成長しないですね。自分自身もそうだし、組織もそうだと感じます。

吉田 もしかすると山内さんは意思決定と経営者のマニアと言っても良さそうですね。

山内 経営者はみんな詐欺師なんですよ。「未来はこうなります」と言うけど、そうなる時もあれば、ならない時もある。宣言とそれに対する履行、それがちゃんとできている人が経営者なんだろうなと。

吉田 世界を目指すなら、詐欺師の要素はどこかに必要だということですね。よくできた詐欺がだんだん現実になっていくのが最もすごい意思決定だなと。

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よくできた詐欺がだんだん
現実になっていくのが
最もすごい意思決定だなと

山内 レシートを買い取った2018年6月12日。この日は僕にとって忘れられない大きな意思決定の瞬間だった。でも、あのときは本当にどんなビジネスにしようか何も考えてなかったんですけど。

吉田 意思決定の重要性は身に染みてわかっていて、めちゃくちゃ精査するのに、その時点ではそこまで考えていない意思決定だったということですか?

山内 今思えば、あのときは無謀だったなと思う。人が集まり、日常的に使ってくれるサービスを作れば、その先でビジネスを作ることはできるのは理解していた。でも、レシートの買取りが本当にビジネスになるかはわからなかった。自分の中で筋書きみたいなものはあったけれど、何するかは具体的には決めずに、とりあえず出してみたものが『ONE』でした。それがある程度うまく軌道にのったのは、僕らは適切なマーケティングや適切なデザインと、適切な技術を用いることができたからかなという感覚はあります。

吉田 意思決定をせずに日々を過ごす人も世の中にごまんといるわけですが、そういう人は見ていてじれったくないですか?

山内 いや、決してそんなことはないですよ。誰にでも得意不得意はあると思うし、お金を集めて起業してもそれがうまくいかなければ取り返しのつかないことになる。僕や友人の経営者とかは、そのリスクに対する感覚がおそらくバグっている。でも、バグっている人にしか作り出せない世界観もある。それに自分の人生をかけてもいいやと思えるのはひとつの才能だと思う。ゲームでエリクサー(不老不死になる薬)ってありますね。あれを早い段階で使える人はそういう人なんだろうなと。多くの人はもったいなくてなかなか手が出せないで結局使えずに終わる。でも、使える人は使えない人より強いし、展開も速い。今まで自分が作り上げてきたものとか、自分のステイタス、自分の能力みたいなものを、一切考えずに、新しいことができる人はやっぱりすごいなと思うし、飛び込める勇気がちゃんとある人はカッコいいです。

吉田 エリクサーを使えるかどうかって、めちゃくちゃ面白い指摘ですね。確かにその思い切りの良さが“バグり”にもつながる気がします。年齢とか関係なく、本当に面白いお話でした。今日はありがとうございます!

よしだ・ひさのり
1975年12月12日東京生まれ。ニッポン放送アナウンサー。第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。現在、『ミューコミVR』と週10本前後のPodcastを担当。最新刊は石川善樹氏との共著『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました』(KADOKAWA)。ほか著書多数。

やまうち・そうと
2001年東京都出身。10歳から独学でプログラミングを始め、2012年に「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞を受賞。2016年に現・WED株式会社を創業。2018年にレシート買取アプリ「ONE」をリリースし、同年Forbes 30 Under 30 Asia 2018に二部門選出される。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年1月号から転載しています。


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