そうだったのか!デジタルフォトの色

第8回 人間の視覚は、意外といいかげん

解説:BOCO塚本

これまではデジタルフォトと正確な色の再現を中心にお話をしてきましたが、今回はちょっと視点を変えて人の視覚についてお話をしたいと思います。人の視覚はけっこういい加減なもので、同じ色がちょっとした条件の違いでまるで違う色に見えてしまうことがあります。それは、デジタルフォトに限らず写真やイラストを見るときに少なからず影響を与えます。写真で再現するのは難しいのでいくつかのイラストで確認してみましょう。

図A
AとBのグレー濃度は違って見えますが、実は全く同じ。クリックして図を切り替えて下さい。

まず、はじめの図A をご覧ください。これは、M.I.T.のEdward H. Adelson 博士が考案したCheckers shadowというイラストレーションです。正方形の板には、白とグレーのチェッカー柄がえがかれていて板の右に立っているグリーンの円筒形の影が盤面に落ちています。

それでは、A・Bとマークされた正方形に注目してください。AがグレーでBが白に見えますね。そこでこのイラストにグレーの長方形を縦方向に2本足してみましょう(イラストをクリックしてください)。いかがでしょうか? 実は、AとBの正方形は同じ濃度のグレーだったのです。ほとんどの方のにはAとBの濃度が同じようには見えなかったと思います。前後のイラストが同じに思えない方があるかもしれませんが、間違いなく同一のものです。

動画C図をクリックすると再生されます。ドーナツ状の図形のグレー濃度が変化します。動画D図をクリックすると再生されます。カラーの図形では、彩度の変化がみられます。

では、もう一つの例をみてみましょう。Cは平面的な図形ですが、ドーナツ状の図形が2つに分かれて動くにつれ濃度が変わって見えます。もちろん移動中に図形の色は変わっていません。これは、人の目というより脳がだまされているのです。この動画はモノトーンで表現されているので明るさの変化だけですが、カラーの場合は彩度が違ってみえます(D)。このような見え方の違いは、錯覚が原因で起きています。目でとらえた視覚情報を脳で処理するときに、周りの状況や形状のせいで、明るさや色の認識にずれができてしまうのです。

次は目の色順応によって起きる現象です。脳には関係なく目の調整機能によって起きる例です。一定時間画像を注視した後に画面が切り替わると、実際にはモノクロ画像なのにカラーに見えるというものが一時期Webで流行しました。簡単ですが、例を作ったので試してみてください(E)。

動画E

写真をクリックすると再生されます。画面が切り替わるまで中央の赤丸を見つめてください。約30秒かかります。

約30秒ほどかかりますが、中央の赤い点から目を離さずに注視してください。やがて画像が切り替わります。一瞬カラーに見えた画像が、しばらくしてモノクロになるでしょう。人の視神経は、同じ色を見続けると自動的に補正しようとするためです。視点をずらすと色もずれることから、この現象は網膜によるものだとわかります。

さて、最後に人の視覚と認識についてです。私たちの目は、上下左右に約180°の視野がありますが、文字や柄など複雑な情報を読み取る事ができるエリアは限られています。これも動画 Fで確認してみましょう。画面のセンターにあるピンクの丸をしっかり見つめてください。円から少し離れたところを、円をえがくように40文字ほどの文章が現れます。皆さんはどれくらい読み取ることが出来るでしょうか? 真ん中のピンクの円から目をはなさないでください。

動画F

図をクリックすると再生されます。画面中央のピンクの丸に集中してください。

どうでしょうか、簡単な平仮名はとらえることが出来るかもしれませんが、漢字のように複雑なものは難しいでしょう。私たちは、視界に入った物全てを見ていると思いがちですが、このように限られた情報しか脳に伝えられていません。実際に物を見るときには、視点を細かく動かすことで多くの情報を得ています。それを脳で組み立てることで視界を成立させています。今見ている風景の細部は記憶で出来ているのです。

その一方で、色についてはある程度認識できたと思います。細かい物を認識できない視界の周辺部分でも色についてはしっかり見ることができます。これは、視界の周辺部分の色彩であっても物の見え方に影響するということです。

人によって差はありますが、いままで述べてきたことは、ほとんどの方が実際に確認できたと思います。このような現象はプロフォトグラファーのように色彩について良く訓練された人間にも起きます。これらの現象を体験していただくと、物の見え方は周囲の状況によって影響を受けやすいということが分かります。

画像処理作業をする場合には作業場の光環境がとても大事だと、色々なところで言われています。厳密に言えば作業部屋の壁の色やデスク等の家具の色まで影響してきます。もちろんパソコンのデスクトップが色のついた画像だったり、真っ白や真っ黒でもやはり影響を受けるでしょう。これを機会に皆さんの作業環境をチェックしてみてはいかがでしょう。

図G

モニターで画像を確認するときも、デスクトップなど周辺の状態は影響します。クリックで拡大表示。

Edward H. Adelson

Professor of Visual Sciences at Massachusetts Institute of Technology

http://web.mit.edu/bcs/people/adelson.shtml

Edward H. Adelson 博士のWebサイトにはこれ以外にもいろいろな錯覚のフラッシュアニメーションが掲載されています。視覚の不思議を楽しんでみてください。信じられない方は、博士がおすすめする検証法を試してみてください。まずは、元の画像をダウンロードします。
http://web.mit.edu/persci/people/adelson//checkershadow_illusion.html

3つの検証方法
1. 画像をダウンロードしてPhotoshopのスポイトツールでデータを読み取る。
2. イラストをプリントアウトして正方形部分を切り取って比較する。
3.Macユーザーなら、ユーティリティフォルダーのDigitalColor Meterを使用して画面上でRGB値を計測する。

どの方法を使ってもAとBの色合いと明るさは同じだと確認できます。

写真:BOCO塚本

BOCO塚本 BOCO Tsukamoto

1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。

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