そうだったのか!デジタルフォトの色

第9回 色を正確に再現するだけでは美しい写真とはならない!?

解説:BOCO塚本

私が写真を撮りはじめた頃には、「撮影した写真が、いまひとつ思った通りに撮れていない!」とか、「どうもプリントとイメージが違う!」ということがよくありました。皆さんもきっと経験があるのではないでしょうか。構図やアングルに違和感を感じたり、ライティングや露出が合っていない等、原因は様々でした。フィルムカメラが主流だった時には、現像やプリントができあがるまで撮影結果を見ることが出来なかったのですが、デジタルカメラが主流になってからは、撮影後すぐに確認ができるために構図やアングル、あるいは露出が原因の場合はすぐに「おかしい!」と気がつくようになりました。

しかし色やトーン、コントラストについては、確実にキャリブレーションされたモニターや、カラーマネジメントを適用して出力されたプリントで確認するまで厳密に判断できないことは、これまでの連載で理解していただけたと思います。

ところが、このような状態で色彩を確認しても撮影時のイメージとずれがあって違和感を覚えることがあります。実際の風景や製品とデジタルフォトの色を正確に再現しようとすれば、i1(Eye-One)やColorMunki(カラーモンキー)などの測色計で実際の色を計測し、その値をもとに色を合わせることが可能です。また、直接計測することができない風景などの場合は、少し高度な計測機器が必要になりますが、不可能ではありません。ところが、実際の色を忠実に再現した写真が必ずしも美しいと感じないことがあります。

i1(Eye-One)Proを使用して、被写体の色を実測。この色をPhotoshopのレイヤーにコピーしたりすれば、実測値を元にした色合わせが可能になる。色再現の違和感は、色空間の違いも大きな要因。グレーに変化する部分はAdobeRGBでは再現不可能。

前回(第8回)の連載で人の目の不思議について触れていますが、こういった現象も撮影した写真がイメージに合わない原因となっています。特に「人の視覚と認識」の段落にあるように、人の視野内で詳細に認識できる範囲(注視点)はとても狭く、部分的な記憶をつなぎ合わせて全体を認識しています。さらに視野の100%を注視することは不可能で、不足している部分は経験や予測(想像)で補っているのです。撮影時の記憶は、実際の風景に比べて注視した部分が強調されていることが多いはずです。


私が撮影時に注視できている範囲のイメージ

人が視野の全てを認識できないことを実証する作例をFlashで作ってみた。左の写真をクリックすると別ウィンドウでFlashの再生が始まり、約20秒間かけて写真の一部が徐々に変化する。テレビ番組でよく見かけるものより変化が少ないので、注意して見てほしい。

 → 答えはここをクリック! 

このようにしてできあがったイメージに対して「記憶色」という言葉がよく使われています。記憶色とは、「撮影時に自分の脳に記憶された風景や被写体などの色彩のことで撮影時の状況や撮影者の心理状態などで変化するもの」と言われています。さらに過去に見たことのある写真や印刷物の記憶のように過去の経験も大きく影響します。記憶色の影響が大きい例としては、「空の青」「植物の緑」「肌の色」などがあります。


空の色・植物の緑などに記憶色の影響が顕著に表れる。

さくらの花びらの色をi1(Eye-One)Proを使って実測したところ、L* :88 a* :3 b* :4 (3回計測の平均値)でした。PhotoshopのカラーピッカーでL* a* b* を設定してみてください。ほぼピンクではありません。もっともピンクが強かったつぼみは、L* :76 a* :13 b* :1でした。遠目には、混じりあってピンクに見えるのでしょう。これなどは「記憶色」と言うより「概念色」といえるかもしれません。

i1(Eye-One)Proで桜の花びらを実測した。実測値は記憶色と異なることがある。

これまでカラーフィルムやカラープリントペーパーは、感度や粒状性以外にカメラマンが期待する発色に近づけるように色々な改良が加えられてきました。特にリバーサルフィルムでは、「記憶色」に近い発色が得られるように作り込まれていて、シーンや被写体の違いによって撮影者が期待する発色に応えるためにチューニングが違うフィルムが用意されています。もちろんフィルムで表現できない色については、ラボでのカラープリントや印刷の際にさらに調整が加えられます。

デジタルカメラでも「記憶色」を再現するために、撮影画像に対してコントラスト・トーン・彩度を調整する必要があります。デジタルフォトでは、フィルム以上に細かな調整が可能ですが、調整範囲が広すぎてどこから手を付けてよいのか分からないこともあります。そのためにデジタルカメラには、プリセットされた調整設定が用意されています。フィルムの種類を選ぶようにプリセットを選択するわけです。35mm一眼レフタイプでは、撮影時にいずれかの設定を選ばなくてはいけません。


Rawデータは現像時にプリセットを適用する。
上はプリセットによる色再現の違いを示したもの。

ただし、撮影時の背面液晶のプレビュー表示やヒストグラムは、それぞれの設定が適用された状態で表示されるので注意が必要です。 Rawデータであれば撮影後の変更も可能なので色々設定を変更して比較することで自分のイメージに合った設定をさぐれます。カメラによっては、ソフトでプリセットの設定を自由に変更できるので自分にあったプリセットを作ってみるのもよいでしょう。

デジタルフォトの現像設定は、とても神経質で少しの変更で大きく印象が変わります。その変化を確認するためには、しっかりした階調再現ができるモニターが必須です。また、きちんとキャリブレーションされていなければ意味がないことは言うまでもありません。ヒストグラムやRGBの数値に置き換えることのできない「記憶色」は、あなたの目と感性と正確なモニター色再現のどれが欠けても成立しないのです。


ニコンのカメラのプリセットを変更できるNikon Picture Control Utility。
Capture NX2やView NXから利用できる。



キヤノンのカメラのプリセットを変更できるCanon Picture Style Editor。
DPPとは別ソフトで、キヤノンのWebサイトからダウンロードできる。

写真:BOCO塚本

BOCO塚本 BOCO Tsukamoto

1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。

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