ColorEdge 特集

写真の色と光を見るための液晶モニターの条件

解説:宮本准 構成:小泉森弥

2007年10月2日、アップルストア銀座で行なわれたコマーシャル・フォトのセミナーイベントMonthly ProPhotoの採録。グラフィック広告の世界で活躍するレタッチャーの宮本准が、Photoshopのプロの立場からカラーマネージメントの重要性や、業務用モニターの条件を紹介する。聞き手はコマーシャル・フォト編集次長・川本康がつとめる。

フォトレタッチの仕事とは

司会 今月の「Monthly ProPhoto」は、レタッチャーの宮本准さんにおいでいただきました。宮本さんは博報堂フォトクリエイティブ(HPC 現・博報堂プロダクツ)で10年近く活躍された後、2年ほど前にデジモという会社をお作りになられた。現在は主に広告のお仕事にAdobe Photoshopを使って参加されていらっしゃいます。

宮本 レタッチャーといっても、言葉通りのレタッチ(修正)から、全面的に合成を使ったもの、その逆にアナログ的な手触りを大事にしたものまで、いろんな仕事があります。

司会 合成がメインの場合、どれくらいの規模の合成になるんですか。

宮本 そうですね、たとえば日産自動車の「X-TRAIL」では、車体全体に雪がまとわりついたまま、ショールームに置かれているビジュアルを作りました。アウトドア向けの車ですから激しい姿を見せよう、と。スタジオでは車だけを撮影して、美術さんがさまざまな素材を吹き付けて雪を表現してくれましたので、それぞれ段階に分けて撮影し、その写真を組み合わせて仕上げました。だいたい15点ぐらいの合成ですね。

司会 黄金色の激しい波が印象的なサッポロビールの「凄味」も宮本さんの仕事ですね。一見、一枚写真のように見えますが。

宮本 いえ、12枚の写真を合成しています。こんなに凄い波は現実にはありませんから。さらに波の中に発泡酒の泡を薄く重ねたりもしています。もうひとつ気を遣ったのは色。波が発泡酒に見えるよう時間をかけました。

司会 日本コカ・コーラの「スプライト」では、モデルの背中に水の羽が生えています。CGのようにも見えますが、どこからどこまでがPhotoshopで作った絵ですか?

宮本 羽の部分はほとんど写真をベースにしています。カメラのシャッターと同期して水しぶきが飛び散る装置を、わざわざフォトグラファーの方が作って撮影してくれたんです。そこで撮りためた写真を素材にして、切り抜きと貼り付けを繰り返しています。

司会 地道な作業ですね。冒頭にお話しいただいたアナログ的な仕事というのは。

宮本 KAT-TUNを起用したスカイパーフェクTVのポスターでは、実際にアナログ的手法で仕上げました。肌修正したものをプリント出力して、それを切り貼りして、1枚のポスターを作ります。それを複写してまた色調整して、といった流れです。手作業でしか出せない質感もあるんですよね。

司会 ひとくちにレタッチと言っても実に幅広い仕事なんですね。


ColorEdgeとCinema Displayのデュアルモニターで作業

司会 ではここからは宮本さんの仕事の様子を見ていきたいと思います。まずは仕事場の写真から。作業は何人で行っているのでしょうか。

宮本 僕を含めて3人です。僕の席はこのモニターが2台あるところ。右側がアップルの「Cinema Display 30インチモデル」。左はAdobe RGBに対応したナナオの「ColorEdge CG221」です。机の上にはWACOMの「intuos3」のA3モデルが置かれています。

司会 大型のTVもありますね。

宮本 65インチです。Macと繋がっていてポスターをこのサイズで見られるんです。イメージを掴むのにとてもいい。新聞であれば30段がまるまる入るサイズですね。プリンタは2台ありまして、1台はEPSONのPX-6500。A2ノビで出力できます。もう1台はA4のPX-G5100。マット系の紙、グロス系の紙を作品のイメージによって選んで出力しています。

司会 続いては宮本さんの仕事のフローを整理してみたいと思います。まず、宮本さんの手もとに持ち込まれるデータですが、多いのはデジタルデータですか。

宮本。全体の8割がデジタルデータです。残りの15%がプリントかネガ。5%がポジ。プリントやポジの場合は外注でデータにしてもらいます。

司会 そのデータをPhotoshopで開き、デュアルモニターで見ながらレタッチしていくんですね。

宮本 そうです。仕上がったらインクジェットプリンタで出力し、完成データと一緒に納品します。プリンタの出力は色見本にします。フローの全体でカラーマネージメントを行なっています。

司会 データの納品についてですが、最近ではRGBでのやりとりが増えていると聞きますが、宮本さんの場合はいかがですか。

宮本 ほとんどのケースでAdobe RGBですね。媒体によってはCMYKで納品してくれ、と言われるケースもありますが最近は少なくなりました。Adobe RGBのデータを扱うノウハウを、印刷会社の皆さんが蓄積されてきたのではないでしょうか。


カラーマネージメント「以前」と「以降」

司会 このフロー自体、数年前とはずいぶん違いますよね?

宮本 モニターとプリンタのカラーマネージメントが一般化する前は、人それぞれ自分の感覚で色を見て作業していたんですよね。ですから、第三者に意図が伝わりにくかった。仕方がないから、とりあえず富士フイルムのピクトログラフィーで出力して、それをもとに色を直して、また出力して‥‥その繰り返し。ただし、モニターと出力物の色は違いますから、頭の中で“この緑はこうなって、赤はこうなって”と変換しながら見ていたんです。

司会 カラーマネージメントはずいぶんと進化しましたよね。

宮本 最近は、モニターと出力の差が少なくなったので楽になりました。CG221のような、Adobe RGBが表現できるモニターが登場したことも大きい。アートディレクターと一緒に画面を見ながら、“ここはこうしよう”みたいな調整ができるんです。出力は最終的な確認のような感覚ですね。カラーマネージメントの進化によって、他のスタッフとイメージを共有できるようになったことが最も大きな変化です。

司会 今お話しいただいたことをまとめてみると、モニターと出力物の色が一致することで、何度もプリントと色修正をくり返すという手間が省け、印刷の仕上がりもモニターである程度確認でき、モニターが色の基準になるので作業がスムーズになる、といったメリットが生じたといったところでしょうか。

宮本 ええ。仰るとおりだと思います。


プロの厳しい目にかなった「ColorEdge」

司会 モニターの話を進めていきたいのですが、まずはこの図を見てください。印刷とモニターの色域の図です(写真下左)。宮本さんがお使いになっているCG221はAdobeRGBですから、雑誌広告の基準カラーである「JMPAカラー」を完全にカバーしています。つまり、印刷で出る色はすべてこのCG221の画面に出るということになる。そのあたりの実感というのはいかがですか?

宮本 初めてCG221を見たとき、やはり違うなという驚きがありました。特に緑や青の彩度の高い部分、この図の上の方にあたる部分が違うと感じましたね。

司会 逆に、印刷よりも広く出るので、こんな色は印刷では出ないよということもあるわけです。それによって判断が狂うことはありませんか?

宮本 僕の考え方なんですが、こちらとしてはベストの状態のものを納品するというスタイルで臨みたい。そのベストの画像をどう扱うかは印刷のプロに任せるという形が望ましいと思います。こちらの仕上がりがよくて、どうしてもこの色を出したいということになれば、もしかすると特色を使って出してもらえるかもしれないですし。

司会 なるほど。


司会 モニターの設定について伺いたいと思います。色温度についてはどうされていますか?

宮本 5,000K(ケルビン)でやっていますね。印刷物の作業にあたってはモニターの色温度を5,000Kにしましょうという業界基準があるので。ちょっと黄色いなと感じることはあるのですが、まあ、紙も黄色いですからいいのかな、と。

司会 モニターの明るさについてはどうですか?

宮本 80から100 cd / ㎡(カンデラ/平方メートル)ぐらいが推奨内だと思うですが、僕の場合は室内が暗めのところで作業することが多いので80 cd /㎡で作業しています。

司会 プリントを見る光源については?

宮本 打ち合わせスペースの蛍光灯スタンドだけですが、色評価用の蛍光灯を設置しています。それも5,000Kで統一しています。東芝製ですね。あと気を遣っているのはデスクトップの壁紙。壁紙をグレーにしておくと、キャリブレーションがズレてきたときに、そのズレに気がつきやすいからなんです。もうひとつ、モニターの遮光フードがないのは、自分一人だけで作業するのではなくて、アートディレクターが隣にいて複数のメンバーで作業することが多いからです。本当はつけたほうがいいんですが。

司会 2つのモニターの使い分けは?

宮本 30インチの方は、大画面で作業がしやすい。そちらで作業しつつ、CG221の方で色味を見るといった使い方ですね。Cinema Displayは12bit内部演算処理ですが、CG221は16bitなので階調も滑らかです。それに加えてハードウェア・キャリブレーションによって色のレンジをいっぱいに使うことができるので、階調がより滑らかになっていると感じます。

司会 実は今回、宮本さんに「CG241W」という新しいモデルを1ヵ月ほど使っていただきました。宮本さんが普段お使いの「CG221」のおよそ三分の一、20万円弱で購入できるモデルです。CG241Wの色域はAdobe RGB 96%カバーということですが、使ってみていかがでしたか。

宮本 値段を考えるとすごくいいと思います。色域の違いについては、CG221と比べてもほとんど印象は変わりませんでした。唯一違うのは斜めや上から見たときの色の変化。CG241Wの液晶パネルはVA方式、CG221はIPS方式という違いがあって、IPSは斜めから見ても色の変化が少ない。アートディレクターと一緒に作業することの多い僕は、IPSパネルのCG221を選びますが、1人で作業する方ならCG241Wで十分だと思います。

司会 なるほど、非常に勉強になりました。宮本さん、長い時間ありがとうございました。

写真:宮本准

宮本准 Hitoshi Miyamoto

1974年 東京都生まれ。1998年 現・博報堂プロダクツ入社。2005年 同社退社。株式会社デジモ設立、現在に至る。NewYork ADC 入賞、ONE SHOW ブロンズ、日経広告部門賞3回、その他。

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