2013年11月12日
カラーマネージメントモニターColorEdgeは印刷、写真、デザインなどグラフィック業界で広く使われてきたが、最近は映像制作の現場にも普及し始めている。映像の世界でColorEdgeがどのように使われているのか、実際のケースをレポートしよう。
静止画も動画もスタッフ全員がColorEdgeを使用
一眼レフムービーやデジタルシネマカメラの台頭に伴って、映像制作のワークフローが大きく変わりつつある。編集やVFXなどのマシンがPCをベースとしたシステムに置き換わり、同時にモニターもColorEdgeなどのPC用モニターが使われるようになっているのだ。
デジタルイメージングカンパニーの老舗フォートンは近年、広告写真のレタッチだけでなく、動画のレタッチやVFXまで手がけるようになっているが、写真も動画もすべてColorEdgeを使って作業をしているという。そこで、フォートンの代表・甲斐彰氏、その動画部門であるフォートンVFXの西山慧氏、宇江由美子氏に、ColorEdgeについて話を聞いた。
───ColorEdgeはいつから使っていますか。
甲斐彰氏
西山慧氏
甲斐 ColorEdgeは以前からずっと気にはなっていたんです。でも、フォートンの社内にはものすごい数のモニターがあって、一部だけ入れ替えるというわけにはいかない。もしもいいモニターが見つかったら、いっそのこと全部を入れ替えようと思って、そのタイミングを計っていたんです。そうしたらある時、ColorEdgeをじっくりと見せていただく機会があって、それを見てすぐに決断したんです。僕はいい物を見つけたら、即断即決ですから。実際には、昨年10月にオフィスを移転した際に、一斉にColorEdgeに入れ替えました。
西山 最初は20台ぐらい一度に導入したのですが、他のスタッフからもColorEdgeを使いたいと強い希望があったので、いまは40台ぐらいあると思います。メインで使っている27型のモニターはもちろん、サブモニターに至るまですべてColorEdgeで揃えています。以前使っていたモニターは機種によってスイッチの位置等も違っていたり、ハードウェアキャリブレーションに対応していなかったのでメインモニターとサブモニターの色が合わないという問題もありました。ColorEdgeにしてからはそういう問題がなくなって、スタッフも万々歳です。
宇江 ColorEdgeを入れたことで、モニターキャリブレーションがしやすくなりました。もちろんそれ以前もキャリブレーションは定期的にやっていたんですが、i1センサーを使ったソフトウェアキャリブレーションだったので、色を合わせるのに何回もやり直すことがあったりして。でもColorEdgeにしてからは、そういうことが減りました。
───導入されているColorEdgeはセンサー内蔵タイプですか。
西山 いえ、導入時期が過渡期だったため、センサー内蔵タイプはあまり数が多くないんですよ。実際に導入してみたら、センサー内蔵の方が便利なので、そちらで揃えた方がよかったなと思っているところです。
宇江由美子氏
宇江 センサー内蔵モニターとそうでないモニターの色を合わせるのは結構大変なんですが、センサー内蔵モニター同士だと色もぴったり合います。それからセルフキャリブレーションという機能があって、定期的に自動でキャリブレーションを実行してくれるので、メンテナンスがとても楽ですね。
西山 宇江はキャリブレーションセンサー内蔵タイプを使っているんですが、私が使っているモニターは内蔵タイプではないので、その都度自分でセンサーをつながないといけない。それがちょっと面倒だなという感じです。
───こちらでは写真の仕事だけでなく、動画の仕事でもColorEdgeを使っているとお聞きしました。
甲斐 動画部門はこれから「フォートンVFX」という新しいブランドで展開していくつもりで、ポストプロダクションの業界で標準となっているAutodesk Flameというシステムを導入し、スタッフも増員して8人体制になりましたが、全員がColorEdgeを使っています。
西山 私も宇江もフォートンVFXのチームですが、このチームはAdobe PhotoshopやAfter Effects、The Foundry Nukeなど静止画や動画の様々なアプリケーションを使って、PCベースで作業をしています。私たちの動画レタッチの技術はPhotoshopに基礎を置いているので、作業環境としては静止画とまったく同じなんです。Flameのオペレーションができるスタッフは2名いますが、彼らもPhotoshopやAfterEffectsを使いますし、FlameのモニターもColorEdgeです。
甲斐 フォートンは今年創業25周年を迎えましたが、動画に取り組むのは創業以来のテーマでした。しかも単なる動画ではなく、静止画と動画が連動した新たなコンセプトのデジタルイメージングが目標です。4KカメラのRED ONEが世の中に出てきた4〜5年前から研究や技術開発を始めて、2011年からは実際にテレビCMや劇場映画などのレタッチを手がけるまでになりました。
我々がやるからには動画のレタッチでも静止画のクオリティを実現したいと思ったので、技術のベースを4Kに求めました。4Kの動画データは膨大なのでコンピュータの処理速度は速くないといけない。幸いHPのワークステーションを導入することで速度の問題は解決できたのですが、4K対応のモニターはなかなか適当なものがなかった。EIZOさんにColorEdgeを見せてもらった時に、4KモニターのFDH3601も一緒に持ってきてもらったんですが、このモニターのクオリティが素晴らしかった。僕がモニターをすべてColorEdgeに切り換えようと決断したのも、この4Kモニターが素晴らしかったからという部分が大きかったと思います。
これからの映像制作には欠かせない4Kモニター
DuraVision FDH3601 / Screen image provided by THALES.
EIZOの4KモニターDuraVision FDH3601は、36.4型の大画面に4096×2160ドットの高解像度を表示できるモニターで、主にメディカルの分野(兄弟機のRadiForce RX840)と、地理情報表示や航空管制など高精細画像を扱う産業分野をターゲットにしている。ColorEdgeとは製品の位置づけが違っているので、2011年の発売当初はモニターキャリブレーション機能がなかったが、自動車のデザインやドライビングシミュレーションなどの用途に対応するため、2013年の春に簡易的なキャリブレーション機能が追加された。この機能追加によって、4K映像やグラフィックアートの分野でもメリットが増えたことは言うまでもない。この4Kモニターをフォートンではどのように評価しているのか。
───4Kモニターを実際に使ってみていかがでしたか。
甲斐 4Kモニターを実際に見たら手放すのが惜しくなって、しばらくお借りして使ってみることにしました。最初は動画ばかり見ていたのですが、あるとき静止画を見てみたら、これもまた素晴らしかった。写真のレタッチをやっているスタッフに見せると、「きれいすぎて怖い」って。今まで見えなかったレタッチのムラまで見えてしまうぐらいだったんです。
西山 その後実際に購入したんですが、最初のうちはグラフィックボードの関係だと思うんですが、4Kモニターを特定のコンピュータにしかつなげなかったんです。そうなるとなかなか使う機会もなくてちょっと持て余し気味だったんですが、グラフィックボードをNVIDIA QUADRO K5000にしたら問題が解決して、最近ようやく4Kモニターを活用し始めたところです。
───実際に仕事で活用された例は。
西山 トヨタAQUAの「日本のハイブリッド」というCMがそうです。このCMはタイムラプス撮影といって、何秒かおきにカメラのシャッターを切って、その静止画をつなげて時間を早回しにしたような映像にしているんですが、通常のムービーカメラで撮影するよりもハイクオリティに仕上げるために、8000万画素のフェーズワンIQ180というスチール用カメラが使われています。
1本15秒のCMが4タイプあって、15秒の前後の「のりしろ」部分まで含めると、全部で約2400枚の静止画が必要になります。そのRAWデータをすべて私たちの方で現像しました。実際にはIQ180で撮影したのは3タイプで、残り1タイプは1800万画素のキヤノンEOS-1D Xを使っていますが、いずれにせよ通常のムービーカメラのデータよりも解像度が高いものです。
RAWデータの現像はものすごい枚数を見ながらやる必要があって、この時にFDH3601を使いました。4Kモニターで見ると一度にたくさん画像を見ることができて、ピントをはじめいろんな箇所をチェックしやすかったですね。
トヨタAQUAのCMでは、多数の画像を4Kモニターに並べてRAW現像を行なった。CMの動画はトヨタ自動車のWebサイトで見ることができる。
トヨタA自動車 AQUA 「日本のハイブリッド」篇 A&P=電通+ピクト
───それは4Kモニターならではの使い方ですね。
西山 画質について言うと、FDH3601はColorEdgeに比べて、白がすごくきれいで黒も締まっているなという印象です。たぶん色の作り自体は同じだと思うんですが、FDH3601の方がふくよかな感じを受けます。高精細だから、よけいに白がきれいに見えたりするんでしょうか。
───4Kの方が画素ピッチが小さく高密度なので、その分階調が深く見えたり、奥行き感が出てくるのかもしれませんね。 FDH3601の画素ピッチは0.1995mmで、27インチのColorEdgeは0.2331mmだそうです。
甲斐 それだけ高密度になると、今までデータとしてはあったかもしれないけれど、モニターが表現しきれなかった部分が見えてくるかもしれないですね。最終成果物が印刷の場合、印刷の網点ってけっこう粗いじゃないですか。だから今のモニターの解像度でも問題ないんですが、これが4Kモニターになると印刷で表現できない部分まで見えてしまって、オーバースペックになってしまう可能性もあるんですよ。
西山 印刷物の場合は、作業途中のデータを4Kモニターでお客さんに見てもらうと、細部まで見えすぎて余計な直しが発生するかもしれないので、ちょっときついかなあという気がします。でも制作途中の段階ではなくて、完成したデータを4Kモニターで見てもらうのはすごくいいと思いますね。
甲斐 4Kの解像感は人間の目に近くて自然な感じがします。今までの液晶だとどうしてもモニターで見ている感じが拭えないんだけど、4Kになると実際に肉眼で見ている感じに近い気がします。ただこれ以上はいらないなっていう感じがしますね。印刷でも一昔前に700線、800線くらいの高精細印刷が流行ったことがありましたが、確かにきれいなんだけど、眠い感じになって力がなくなっちゃいますから、今後さらに8K、16Kと解像度を上げればいいってものではない。一番自然なのが4Kかなっていう気がします。
───テレビの方は2014年には4Kの試験放送も始まりますし、これから急激に環境が変わる可能性もありますよね。
甲斐 4Kは早晩テレビの本流になると思います。3Dテレビがたくさん売り出されたときはどうして3Dなの?という疑問があったけど、4Kはもっと人間の感覚に近いから、すんなり受け入れられるんじゃないかな。これまでの写真や映像の長い歴史は、4Kまでたどり着くための必然的な流れだったような気がします。
西山 私たちが普段使っているモニターは、元のデータが4KでもフルHDでもそれほど違いはありません。でも4Kのモニターで見ると、フルHDと4Kの差がはっきりとわかるんです。だから動画の仕事でクオリティを管理するという意味では、4Kのモニターはなくてはならないものです。いまFDH3601のほかに、84インチの4Kテレビも社内にあるんですが、これからは4Kモニターの数も増やしたほうがいいなって思っています。今年になって4Kの素材で受け取ることが増えていますし、来年、再来年はもっと増えていくと思います。
───逆に4Kになることで、何か問題はありませんか?
宇江 これはモニター側の問題ではないんですが、4Kのデータを再生するときに、データによってはカクつくこともあります。プレーヤーか何かが原因ではないかと思うんですが。
西山 コンピュータはかなり性能の高い物を使ってますし、中にはスムーズに再生できるデータもあるので、原因はプレーヤーなのか、コーデックなのか、フレームレートなのか、そのあたりをいま究明しているところです。原因が分かって対処できれば、4Kで作業しているデータをそのまま4Kモニターで再生できるので、仕事の流れがよりスムーズになるかなと思っています。
マスターモニターの色をColorEdgeでエミュレーション
新しいスタジオにはEIZOのモニターが並んでいる。左からCG275W、CG243W、FDH3601、CG222W。
前述の通りフォートンは昨年10月オフィスを移転しているが、それに合わせて静止画と動画が連動した新しいコンセプトのスタジオをオープンさせている。このスタジオの概要と、動画部門の「フォートンVFX」についても話を聞いた。ここからはVFXスーパーバイザーの山際一吉氏にも話に加わってもらっている。
───新しいスタジオについて教えてください。
山際一吉氏
山際 ここはFlameルームって言われているんですけど、AutodeskのFlameが1台とFlare * が1台入っています。その隣にあるHP Z420 WorkstationにはAfter EffectsやNuke、3DCGソフトが入っていて、FlameやFlareとは別の作業ができるようになっています。
*Flareとは、Flameのマシンとネットワークでつなげることで、Flameと同じ機能が使えるコンパニオンソフトのこと。
宇江 監督や制作会社の方をこちらの部屋にお呼びして、Flameで作業をしているエディターの隣で、監督がマスモニ * と家庭用のテレビを見ながら、絵作りや色などをチェックをしていくという場所です。マスモニと家庭用テレビ以外のモニターはすべてColorEdgeとなっています。
*マスターモニターの略。テレビ放送の色彩や解像度等の基準になるモニターのこと。
───作業の流れとしてはどんな感じですか。
西山 動画レタッチの流れとしては、1カットずつPhotoshopやAfter EffectsでレタッチしたものをColorEdgeで見ていただいて、どういう絵にするかが決まったら、次に動画上でレタッチします。それをFlameでつないでから、マスモニでチェックしていただくという感じです。
山際 After Effectsなどで1回書き出してからFlameに持っていきますが、そんなに時間はかかりません。Z420のハードディスクの中にパーティションが切ってあって、書き出したものをそこに入れると、そのままネットワーク経由でFlameから呼び出せるようになっています。
宇江 Z420から直接マスモニに映像を出すこともできるので、Flameを介さないで、Z420でチェックするということもあります。
───ColorEdgeでみなさんが見ている色と、マスモニで監督がチェックする時の色は同じですか。
西山 いえ、それがけっこう違っていて、悩みのタネなんです。PhotoshopやAfter Effects、Nukeで作業している時はColorEdgeをsRGBの設定にしていますが、マスモニは放送用の設定になっているので、そもそも色温度からして違うことがあります。まず色は合わないですよね。でも、マスモニを見た監督からは「色はこうしてほしい」という注文が入るので、色をすべて補正することになります。最後の段階になってから色を補正するのは、けっこう大変な作業なんですよ。
山際 Webムービーの場合はsRGBのままで問題はないんですが、テレビでオンエアするものに関しては必ずマスモニでチェックしていただくという流れになっていますね。
甲斐 実際はマスモニだけじゃなくて家庭用テレビでチェックするっていう傾向が相当強いみたいですね。この部屋も複数メーカーのテレビを並べておいてありますが、メーカーによって色がばらばらですからね。特に肌なんかは全然違います。
西山 監督や制作会社さんも、もちろんテレビの色にばらつきがあるのは分かっていて、何台も並べて大体こんな感じに見えるんだなっていうのを確認するらしいですよ。でも色が適正かどうかはやはりマスモニで見る、というところはありますね。
───マスモニは何を使っていますか。
甲斐 ソニーのTRIMASTER ELという有機ELを使ったマスターモニターです。静止画ではマスモニっていう概念はないので、ちょっと戸惑いもあるんです。CMの制作会社さんからの問合せでは必ず「マスモニはありますか」って言われるので、しょうがなくマスモニを置いているようなところがあって、本音で言えばColorEdgeで充分じゃないかとも思っている。聞くところによると、ColorEdgeを擬似的にマスモニと同じ色にできるらしいじゃないですか。
───それはたぶん、ColorNavigatorのデバイスエミュレーションという機能ですね。もともとはiPadなどのタブレット端末や、他のPCモニターの色などをエミュレーションするためのもので、それをマスモニにも応用するんだと思います。
甲斐 要するに、いま使っているColorEdgeがマスモニに似た表示になるということですよね。これは我々にとって画期的な機能ですよ。今度のInterBEEでマスモニのエミュレーションのデモがあるそうなので、それをすごく楽しみにしています。
西山 ColorEdgeの色がマスモニに近くなるのは本当に嬉しいですね。最初からマスモニの色を見ながら作業ができるようになればとても効率が上がるので、これは私たちのために開発してくれたのかな?と思っているぐらいです(笑)。
───Webブラウザが動くデバイスだったら何でもエミュレーションできるので、おそらくPCにつないだマスモニにカラーパッチを表示させて、それをi1センサーで測定して、そのプロファイルを元にエミュレーションするっていうやり方だと思います。
甲斐 それはすごいよね。いま静止画系の人が動画にどんどん流れてく勢いがあるじゃないですか。静止画の人たちはたいていColorEdgeを使ってるので、同じモニターでマスモニの色が再現できるなら、その流れが加速すると思うね。
西山 今はColorEdgeの設定を静止画用のAdobe RGBと、動画・Web用のsRGBの2つを作ってあって、用途によって設定を切り替えています。これにマスモニの設定が加わって、3つを切り替えて使えるようになると最高に便利ですね。今後は映像業界でもColorEdgeが主流になるんじゃないでしょうか。
フォートンが目指す新しいデジタルイメージングとは
このようにColorEdgeによってグラフィック業界と映像業界がますます密接になっていくことは確実なようだが、いっぽうフォートンも静止画と動画を連動させた新しいデジタルイメージングを目標として掲げている。フォートンが目指す新しいデジタルイメージングとはどんなものなのだろうか。
───こちらのFlameルームは、いわゆるポスプロとどこが違うんですか。
山際 ポスプロでやっているオンライン編集はMAという音声編集の作業を伴いますが、ここではMAまではできないので、別のポスプロさんのスタジオに入って最終仕上げという形になることが多いですね。ここでは絵作りに集中して、1カット1カット作っていく感じです。
西山 クライアントさんによっては白完パケ、つまり文字等のテロップが入ってない状態まで作り込むことがありますね。
宇江 文字も入れる時もたまにあるんですけど 。
甲斐 でも、フォートンはポスプロを目指さないというのは公言していますから。
───ポスプロを目指さないという、その心は?
西山 ポスプロって時間貸しとか箱貸しみたいなイメージがすごく強いじゃないですか。フォートンの場合はそういうことではなくて、作業の内容にもっと着目して、監督や制作会社の人と一緒にクリエイティブに関わっていくことを重視しています。ほかのポスプロさんだと1つのスタジオに1人のエディターさんがついて、限られた時間の中で作業をしていくと思うんですが、お客さんがずっと横について見ていられると、なかなかアイディアも出てこないと思います。
うちの場合はそこまで時間に追われないシステムですし、何人かのチームであれこれ考えながら作業をしていきます。Flameルームでの立ち会いはこちらでかなり作り込んだものをお見せするようにしているので、お客さんにとってはある意味ブラックボックス的な作業が多くなるんですけど、でも、ある程度の時間をとっていろいろ考えたり、試行錯誤したり、技術開発したりとか、そういうことがますます重要になってくると思うんですね。そういう時間を大切にしたいという考え方があります。
───フォートンVFXという名前がそれを表しているんですか。
西山 そうです。ポストプロダクションの作業を全般的にやるというよりも、ビジュアルエフェクトを専門にやっていきたいという思いをそこに込めています。
甲斐 今の映像業界のワークフローは、撮影した後の作業はすべてポスプロがやるという仕組みになっていますが、僕からするとそれはちょっと違うんじゃないかと思っています。うちのようにVFX専門とかいろんな会社が今後いっぱい出てくると思うんですが、それは何も既存のポスプロと競合するということではない。
ポスプロという存在は静止画で言うと印刷会社みたいなポジションだと思うんですよ。かつては印刷会社で製版もやるし、印刷もやるし、レタッチまでしていたわけですよね。そこへフォートンのようなレタッチカンパニーがたくさん出てきて、そこでレタッチしたものを印刷原稿として入稿するようになった。それと同じような感じで、映像業界も変わっていく時期に差し掛かっているんじゃないか。
こういう業態をどう呼ぶのかはまだはっきり決まっていないと思いますが、ポスプロではないということを明確にしたいので、VFXっていう位置づけを名乗っているんです。Flameが入っているとポスプロだと思われがちなので、敢えてMAの機材やHDCAMのVTRなんかは入れないで、クリエイティブな部分だけをやろうと思っています。
───山際さんは以前ハリウッドで働いていたそうですが、こういうVFXの会社はあちらにたくさんありますよね。そういう会社は何て呼ばれているんですか。
山際 だいたいVFXスタジオと呼ばれていますね。僕がいたのはLOLA VFXという会社で、僕は主にフェイシャル、つまり人の顔とか肌を中心に仕事をやっていて、ほとんどフォートンVFXでやっていると仕事と同じです。それから、社内のみんなでいろいろディスカッションをするところも同じですね。僕はこちらに4月に入ったばかりですが、これから日本もこういうスタイルになっていくだろうなって思います。1人だけで作品を仕上げていくと、仕事に追われて作業がルーチンになってしまうので、「こういうロジックで、こういうソフトウェアを使ったらもっと良くなるんじゃないか」といったディスカッションはすごく重要だなと思います。
西山 このFlameルームは山際のほかにもう1人、大部というムービーレタッチャーがいて、2人でよく会話をしているよね。
山際 よく話しています。どういうふうにしたらもっと効率化できるのかとか、そういうことを日々話し合っています。
西山 山際はハリウッドのVFXスタジオ出身だし、大部はもともとポスプロのFlameアーティストなので、映像業界の王道と言われていたポストプロダクション作業をよく知っています。いっぽう私や宇江のムービーレタッチは、グラフィックのレタッチ技術がベースになっています。この2つがコラボレーションしながら、お互いに刺激を与えながら仕事をしている感じです。
宇江 私は3年くらい前にフォートンに入社して、西山と一緒にムービーレタッチの技術を開発しながら、グラフィックのレタッチの方も学んできました。わりとグラフィックと動画の中間にいる立場なんですけど、でも動画の最終工程ではどういう処理が行なわれているのかを知らないままだったりもするので、山際や大部と話をしながら仕事ができるのは、とてもいい環境にいるなと思います。
甲斐 いまフォートンVFXは8人のチームなんですが、まだまだ大きくしていきたいと思っています。あまり大きくなりすぎるのも考えものですが、海外から映画の話もいくつか来ているので、いまあれこれと構想を練っているところです。
───これからのフォートンVFXに期待しています。ありがとうございました。
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撮影:竹澤宏
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