2010年12月25日
24.1型のColorEdgeには、CG245WとCG243W-Bの2モデルがある。両機種の基本性能はほぼ同じで、主な違いは内蔵キャリブレーションセンサーの有無。はたしてこの2機種のどちらを選べばいいのだろうか?
左:ColorEdge CG245W、右:ColorEdge CG243W-B
この記事が公開される2010年末時点でのColorEdgeのグラフィック用モデルラインナップは、5機種の構成になっています。このうちフラッグシップモデルとされている22.2型のCG221は、写真やグラフィックのマスターモニタとも言える性能のモデルですが、現在のラインナップの中では少し特殊な存在です。このCG221を除いたCGシリーズは、29.8型・24.1型・22.0型の3サイズ4機種です。
24.1型モデルだけ2機種存在していますが、これはColorEdgeシリーズで初めてキャリブレーションセンサーを内蔵したCG245Wと、キャリブレーションセンサーを内蔵していない標準的なモデルのCG243W-Bの2種類があるからです。今回は、24.1型モデルのCG245WとCG243W-Bの特徴を紹介しつつそれぞれにベストな使用環境を考えてみたいと思います。
ColorEdgeシリーズ構成表
http://www.eizo.co.jp/products/ce/index.html
IPSパネル搭載と輝度ムラ低減は2機種共通の基本性能
CG245WとCG243W-Bの違いは、内蔵センサーの有無です。それ以外の基本性能に大きな違いはありません。ここでは、両機種に共通する基本性能を検証していきましょう。
CG245WとCG243W-Bの大きなポイントは、なんと言ってもIPS液晶パネルの採用です。液晶モニターは、斜めから見たときに明るさや色が変わるという問題があります。IPSパネルは、構造を工夫することで明るさと色の変化を少なく抑えています。VAパネルと呼ばれる液晶を搭載していた前機種のCG241Wと比較すると一目瞭然です。
IPSパネル搭載機は、斜めから見ても明るさや色の変化が少ない(写真はCG243W-B)
VAパネルを斜めから見ると、IPSパネルに比べ画面が赤みを帯びる(写真はCG241W)。
CG241Wは、VAパネルの中でも視野角による変化を抑えたタイプを使用していました。そのため明るさの変化は少ないのですが、斜めからだと画面が赤味を帯びてしまいます。そのため数人で画像を確認する場合や画面に顔を近づけた際に周辺の見え方に問題が生じます。(*1)
このCG241Wの登場から経ること2年、2009年8月にCG243Wが登場します。IPSパネルを搭載したモデルとしてはCG211以来、じつに3年ぶりとなります。つづいて2010年4月に同じIPSパネルのCG245Wが登場し、同年7月、CG243WはCG243W-Bへとモデルチェンジし、現在に至るというわけです。(*2)
画面の輝度ムラ制御についてもさらに精度が上がった印象です。旧モデルのCG241Wもグレーのデスクトップを表示しているだけでは、ほとんどムラを感じることはできませんが、入力信号をOFFにすると四隅にかすかにムラがあるのがわかります。一方CG245W/CG243W-Bではこの状態でもほとんどムラを認識できませんでした。CG241Wにはかなり意地悪な検証ですが色ムラ・輝度ムラは少ないにこしたことはありません。
CG241Wの入力信号をOFFにした状態。四隅に若干のムラが見える。
CG245Wでは同じ状態でもほとんどムラは認識できない。
調べてみると、たしかに、CG245W/CG243W-Bのデジタルフォミュニティ補正の精度は向上しているのです。下の図を見てください。ただし筆者のCG241Wは、使い始めて2年半以上経っているので、上の結果は経年劣化の影響もあると思います。経年変化によりムラが目立つようになった場合は、工場に戻してユニフォミティサービスを受けることで、ムラを抑えることができるそうです。
CG241W(図上)、CG245W/CG243W-B(図下)の、工場出荷時のユニフォミティ。補正回路なしではどちらもムラが目立つが、補正回路ありではCG245W/CG243W-Bはほとんどムラがない。
また、ちょっと細かい話になりますが、現在のCGシリーズは、CG245W、CG243W-Bを含めて大半のモデルがフレックススタンドに変わりました。このスタンドの特長は、高さ調整の範囲が大きくなったことと、台座の回転が左右172°でほぼ真後ろを向くようになったことです。撮影現場では他のスタッフにモニターを見せたいことがよくあります。そんな時に回転角の大きいスタンドはとても便利なのです(個人的には移動時に手で持ちやすいハンドルがあればさらに嬉しいのですが)。
CG245Wはキャリブレーションセンサーを初めて内蔵
カラーマネジメントを実現する作業は、画像処理や撮影の前にやっておかなければならない基本です。しかしオペレーターやフォトグラファーにとっては、急ぎの納品や時間のかかる処理を先行させたいものです。CG245WはColorEdge初のセンサー内蔵モデルで、モニターキャリブレーションの手間を一気に軽減してくれます。
CG245Wの内蔵センサー。
CG245Wはキャリブレーターをセットする必要もなく、ColorNavigatorを起動するだけですぐにキャリブレーションをスタートできます。さらにセルフキャリブレーションを設定しておけば、毎回決まった間隔で決まった時間にキャリブレーションを実施してくれます。もし、実施時間に作業をしていた場合、キャリブレーションはパワーセーブ状態になるのを待って始まるので、作業の邪魔にもなりません。
ColorNavigatorを起動して、測定器の選択画面で「CG245W内蔵」を選べば、すぐにキャリブレーションがスタートする。
セルフキャリブレーションは、CG245Wの一次電源がOFFの状態でも自動的にスタートし、エージングと呼ばれるモニターのウォーミングアップを自動で行なったうえで実施します。ColorEdgeは「輝度ドリフト補正機能」のおかげで電源ON直後から表示が安定していますが、それでもキャリブレーションの際には最低30分が必要です。そこまで考慮に入れると、セルフキャリブレーションにより節約できる時間は相当なものになります。
良いことずくめのようなCG245Wですが、この内蔵センサーでは環境光の計測はできません。つまりこのモニターは、安定した環境光を作り出せる状態でこそ威力を発揮できます。
カラーマネジメントの作業はバックグラウンドで行ない、オペレーターは本来の作業に集中できるのが理想です。一度設定すれば常に安定した表示を実現し、使用者にキャリブレーションを意識させないCG245Wは、今後のグラフィック用モニターが進歩する方向性を示しています。
セルフキャリブレーションの設定画面。
セルフキャリブレーション実行中の画面。
CG243W-BはColorMunkiとのセットモデルがおすすめ
CG243W-Bは、単体で販売される以外に、センサーをセットしたモデルが2種類用意されています。i1 Dysplay 2セットモデルとColorMunkiセットモデルです。違いはセンサーだけですが、私のお薦めはColorMunkiセットモデルです。
ColorMunkiでキャリブレーションを実行しているところ。
i1Proと同じく分光光度計を持つColorMunkiの方がより正確な測色を行なえる上に、センサーの耐用年数も長いのです。このセットであればColorEdgeの性能を充分に引き出してくれるでしょう。
ただし、セットモデルのColorMunkiはX-riteのソフトウェアでは使用できないので、プリンタプロファイルの作成はできません。またColorEdge以外のモニターをソフトキャリブレーションすることも不可能なので、そのような用途を考えている場合はX-riteのColorMunkiとCG243W-Bの単体モデルを導入してください。
ColorMunkiを使うことで、ハウススタジオなどにモニターを持って行っても、環境光を考慮したキャリブレーションが可能になる。
CG243W-BとColorMunkiの組みあわせのポイントは、モニターを移動しなければならない場合でも環境光を考慮したキャリブレーションが可能だということです。もちろん、タングステンライトやミックス光のような極端な環境光下では、さすがのColorEdgeでもキャリブレーションできませんが、光源が少し変わったり明るさが変動した程度なら、環境光に柔軟に対応できることが強みとなるでしょう。
ColorMunkiとColorNavigatorを組み合わせると、環境光の測定が可能になる。
ColorMunkiには紙白の測定機能もある。
CG245W内蔵センサーの精度とCorrelation Utility
CG245Wの内蔵センサーは、i1 ProやColorMunkiのサイズと比較して非常に小さいので、その精度に疑問を持つ人も多いと思います。しかし実際には市販センサーに比べて同等かそれ以上の精度を保持しており、寿命についても密閉構造のためにセンサー部分の劣化が抑えられていて、長寿命を実現しているということです。
このセンサーは、モニターのベゼル(外枠部分)の上部から自動的に出現し、計測後には収納されます。モーターで稼働するために故障を心配される人もいるでしょう。実はColorEdgeを製造しているナナオは、医療用モニターの世界でも多くの実績を持っています。モニターの調整に手を煩わされたくない医師や医療技術者のために開発された自動計測システムは、すでに多くの医療機関で導入されています。CG245Wに内蔵の自動センサーシステムは、これらの技術をもとに開発されているそうです(内蔵センサーの性能について詳しく知りたい人向けに、詳細な技術資料PDFがナナオのWebサイトからダウンロードできます)。
CG245W内蔵センサーの性能について
http://www.eizo.co.jp/products/tech/files/2010/WP10-013.pdf
すでにColorEdgeが存在する環境にCG245Wを投入する場合、これまで使用していたキャリブレーションセンサーとCG245Wの内蔵センサーの微妙なズレが発生することが考えられます。いかに高精度のセンサーを使用していても、必ずいくらかの個体差があります。この個体差を吸収し、CG245Wの内蔵センサーを、すでに使用しているセンサーに合わせ込むためのアプリケーションがCorrelation Utility(コレレーションユーティリティ)です。これにより複数台を1台のセンサーで管理している場合も、CG245Wは内蔵されたキャリブレーションセンサーを使って簡単に運用できます。
コレレーションの作業は、CG245WとつながっているPC/Macに既存のセンサーを接続し、Correlation Utilityのダイアログに従って作業を進めるだけです。次回CG245WでColorNavigatorを起動する際に、補正されたセンサーを選ぶことができるようになります。
次回からCG245WでColorNavigatorを起動する際に、補正されたセンサーを選ぶことができるようになる。
2機種のモニターはそれぞれどんな使い方に適しているか
さて、ここまでいろいろな角度からCG245WとCG243W-Bを紹介してきましたが、どのようなシーンでこの2機種を使えばよいのでしょうか。
まずCG245Wがマッチするケースを想定すれば、自ずとそれぞれの利用シーンが見えてきます。このモニターの一番の特徴は、セルフキャリブレーションを実現していることです。ユーザーにキャリブレーションを意識させずに常に一定の状態をキープします。パソコンの管理に時間を取られたくない、あるいは時間をかけられない方にはもちろんおすすめです。複数の人がいる職場でカラーマネジメントの理解が不十分なスタッフに割り当てるというのも有効でしょう。あるいは、スタジオ常備マシンなど管理者がはっきりしないパソコンへの導入も良い方法です。常時通電していなくても、セルフキャリブレーションの間隔を狭く設定しておけば、ACプラグをコンセントに差し込んだ段階でエージングとキャリブレーションを実行します。パソコンを起動する必要もありません。
ベーシックなセンサーレスモデルのCG243W-Bは、ColorMunkiやi1のように環境光計測ができる外部センサーをの組み合わせがおすすめです。様々な状況の撮影現場でも、キャリブレーション目標に環境光を反映させれば、より精度の高いキャリブレーションが可能となります。撮影現場でしっかり色を確認したいフォトグラファーにマッチするはずです。時間に余裕をもって業務に当たれるかたや、管理するモニターの台数が少ない場合にはCG243W-Bで大丈夫でしょう。
液晶モニターとしては、両機とも変わらない性能を持っているので、画面の表示はどちらを選んでも不満は出ないはずです。ポイントは、内蔵センサーの有無です。精度の高いColorEdgeでも意外と短期間で表示が変化します。こまめにキャリブレーションを実施しなければモニターの性能をフルに活かすことができません。どちらの機種を選んでも、定期的なキャリブレーションは必須だということを忘れないで下さい。
(*1)
良いことずくめに見えるIPS液晶パネルにも弱点はある。黒の締まりがVAパネルに比べて弱い事と、応答速度が遅いために動画の再生時にブレがでることである。実際にCG21(2003年発売)/ CG211(2006年発売)は、印刷シミュレーション時に実際の印刷仕上がりよりシャドー部が出過ぎることが知られている。2007年から2009年にかけて長い間、VAパネルがColorEdgeのメインであった理由はこのあたりにありそうだ。現行のCG303W / CG245W / CG243W-Bは、黒の締まりに問題は感じられない。2009年以降、再びIPSパネルが多く採用されるようになったのは、この問題が解決できたからではないだろうか。また動画のブレを抑える技術は「オーバードライブ」だが、静止画用途には不要である。モニターのOSDメニューのツールからON OFFができるので不要な場合はOFFにしておくと良いだろう。 >>戻る
(*2)
本文にもあるように、CG245Wは2010年4月、CG243W-Bは2010年7月に発売されたが、実はこの時期までColorEdgeシリーズの初期モデルであるCG19がラインナップに残ったままだった。CG19が発売されたのは2004年、生産中止となったのは2010年6月だが、IPSパネルを採用していたおかげで、足かけ7年ものあいだユーザーに支持され続けた。現在のグラフィック用モニターの主流は広色域/大画面/ワイドサイズだが、CG19はsRGB/19型/4:3サイズ。それでもロングセラーモデルとなったのは、それだけIPSパネルのファンが多かったということである。 >>戻る
BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。
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