ColorEdge 特集

「ナナオ本社工場」訪問記

レポート:大浦タケシ

正確な色再現のためにColorEdgeシリーズはすべて工場で1台ごと調整されている というのは有名な話だが、それを実際に確かめるべく石川県にあるナナオ本社工場を訪問! 品質第一主義を貫く同社の物作りに対するこだわりの数々をレポートする。

履物から制服や手袋まで、徹底した静電気対策

多くのプロやアドバンスドアマチュアから支持されるナナオのColorEdgeモニター。その理由は、正確な色再現性をはじめとする高い信頼性からなる。私自身もColorEdge CG241Wのユーザーであるが、モニターとしてこれ以上のものはないと常日頃実感するばかりである。そのCG241Wの生まれ故郷であるナナオの生産工場を訪問する機会が得られたのでリポートしよう。

ナナオの本社および工場は石川県白山市にある。普通、会社の本社機構というと東京に構えることが多いが、このように地方都市にあると地方出身者である私はなぜか妙な親近感を覚えてしまう。ちなみにナナオのある白山市は、空港のある小松市と県庁所在地である金沢市のちょうど中間にあたる。ナナオの敷地周囲には田園が広がり、遠くには白山を望むことができる。訪れたのは4月上旬。敷地の中を流れる灌漑用水路の脇には蕾を赤くした桜並木があり美しい。この工場から日本中へ、いや世界中に送り出すEIZOブランドのモニターがつくられると思うとちょっと感慨深いものがある。

ナナオの敷地内には建物が4棟立ち並ぶ。いずれも大手電機メーカーのような巨大な建物ではないものの、シンプルで洗練されたそれらは最新のモニターを生産するに適した感じのするものである。正面玄関より一番奥手に建つW2棟といわれる建物が主にモニターの生産を行なう工場となる。

はじめに見学したのが3階の生産ラインだ。まずはフロアに入る前に「静電スリッパ」に履き替える。一見、どこにでもありそうなスリッパだけど、フロアにはこれなしでは入れない。デジタルデバイスの生産では静電気が厄介者だ。製造中に静電気が発生すると半導体や液晶パネルの破壊につながってしまい品質低下の原因になってしまうからである。

生産ラインで働く人たちは静電気の発生しにくい帯電防止服に帯電防止手袋を着用するほか、体のなかの静電気を逃がすリストストラップも着用している。同様な理由から導電靴を履いており、静電気を導電床にも逃がすようにもなっている。ちなみに見学者は部品に直接触れるようなことはないので、「静電スリッパ」のみで問題ないとのことであった。

ナナオの研究開発棟


見学者はここで「静電スリッパ」に履き替える


組み立てから品質チェックまで、人の手で丁寧に

このラインではスタンダードなパソコン用モニターシリーズであるFlexScanを主に生産する。ラインはベルトコンベア式。組み立てを直接担当するのは女性が大半を占め、いずれも皆さん丁寧かつ迅速に、液晶パネルに一枚一枚手作業で基板を組み込んでいく。基板は大きいものが3〜4枚ほど。別のフロアから無人の運搬車でラインまで届いたのにはビックリした。

通常ラインというと何十人もズラリと並んだ様子を思い浮かべるけど、ここではごく限られた人数で作業に当っている。その分、組み立てへの責任も重くなるが、十分にスキルを積んだ人たちで構成されており、少数精鋭といった感じである。

各自の作業台の前にはベンチレーターのような吹き出し口を持つ白い箱が置いてある。訊けば部品に帯電している静電気を除電するイオンブロアという機械とのこと。また、作業を行なうフロアには大型の加湿器がいくつも設置されており、静電気の発生しにくい一定の湿度に保つようになっている。徹底した静電気対策に驚くと同時に、高い信頼性はこんなところからもくるのかと関心してしまう。

モニター組み立ては、スタンドを最後に取り付ければ終了となる。ちなみにスタンドは、どのナナオのモニターのものもまったく同じものに見えるが、大きさや重量によって細かく仕様が異なっているという。流用できればコスト的に負担が少なくなるが、組み合わせによっては不安定となり転倒の可能性も高くなる。そのため新しいモニターが登場する度に設計を行ない、金型を新たに起こしているとのことである。スタンドの形状ひとつにしてもナナオらしいこだわりがあるのだ。

組み立て終了後は不良箇所がないか、製造した一台一台の入念な検査に入る。出来上がったモニターはそのままでは正確な表示はできない。しかも個体によって特性の微妙な差がある。そこでこのような検査を必要としている。まず最初の工程では、モニターに表示されたパターンをCCDカメラで読み込み最適なものへと調整を行なう。

ここでは基本的な調整のみで、次にエージングといってモニターを一定時間通電させて調整する工程へと引き継がれる。時間をかけてする検査はとても大事なことで、モニターのパネルごとの個体差がしっかりと把握でき、正確な調整が可能になる。エージングなしには色の調整や明るさの調整をしても無意味になってしまうかのである。しかもナナオの場合はこのFlexScanをはじめとする全製品行なうというから驚き。品質を一番とする同社のスゴイところである。

エージングが終わると、ホワイトバランスの調整や、作動を含む初期不良のチェックを行なう。担当の作業員が専用の機械や目視で手順に従い入念にチェックするとともに、スピーカーを内蔵するものはヘッドフォンでも確認を行なっている。最後に丁寧に梱包された後、ここ白山から世界中へと飛び立っていく。

FlexScanの生産ライン


製品ごとに細かく仕様が異なるスタンド


CCDカメラで表示パターンを読み込み調整を行なう


動作状態のまま一定時間放置するエージングの工程


目視でモニターをチェック

ColorEdgeの生産ラインでは調整を1台ごと念入りに行なう

続いて見学したのが4階の生産ライン。このラインこそがカラーマネージメントモニターColorEdgeシリーズの誕生するラインである。私が本テキストを作成するにあたり使用しているモニター(CG241W)も、このラインで製造されたか思うと妙な親近感を覚える。ここでは医療用モニターRadiForceシリーズなども生産しており、よりシビアな描写特性を要求されるモニターの生産ラインといえる。

基本的には3階のフロアと雰囲気、広さともよく似ているが、生産ラインはベルトコンベア式ではない。専用のカートを使い1台1台を人間が運ぶセル式が採用されている。セル式は製造を担当する作業員の職人的技やスキルによって成立するとともに、次の担当者への受け渡し時に申し伝えのできる製造方法。いかに精度の高い組み立てが行なわれているかを立証するものといえる。生産ラインは多品種少量生産を得意とししており、1日1ラインで複数の機種が製造可能とのことだ。

最新のColorEdge CG222にかかる組み立て時間は先に見たFlexScanの2倍程度で、基板の枚数や組み立ての難易度が異なるため一概にはいえないが、さらに緻密につくられているかが分かる。またエージングにもより長い時間を費やしている。これはモニターをより電気的に安定させるとともに、細かく調整を行なうからである。フロアにはエージング中のモニターがズラリとならび、壮観な風景だ。

エージングが済むと次ぎにDUE調整を行なう。これはモニターの明るさや色のムラの調整を行なうもので、遮光カーテンに包まれた専用の暗室で行なわれる。モニターキャリブレーションと同じような仕組みで調整は行なわれるが、我々が通常目にしたり使用する、いわゆる測色機のようなものではなく、パネル面から離れたところにある専用のカメラで行なわれる。暗室がいくつも並び、こちらの検査風景も圧巻。

すべてのColorEdge および RadiForceシリーズにこの検査を行なうと思うと、同社のモニターに、どことなくカスタムメイドや手作り感に近い感覚を覚えてしまう。

最後にFlexScanの組み立てと同様の最終チェックを行なった後、梱包となる。ColorEdgeシリーズのユーザーなら分かると思うが、このとき箱の中に個体別のデータシートがモニターとともに封入される。これは先に説明したDUE調整後の、特性の測定結果が記されたもの。データは長期的に保存もされ、製品の品質管理の元にもなっているものだ。このデータシートの存在こそがナナオの品質第一主義を表す最たるものといえるだろう。

機種ごとに電動ドライバーのトルクを調整


エージング工程。これが全てColorEdgeだ


1台ごとに暗室に入れて個別に調整を行なう


最後にもう一度肉眼でチェックを行なう


1台ずつに同梱されるデータシート

開発から製造、検証までを1ヵ所で行なうことで品質を高める

ナナオの工場内には製品の開発や品質管理に関わる部門も備えている。まず最初に目にしたのが集中信号源室という部屋。ここでは現在あるテレビの地上波、衛生波の正確な電波信号をつくりだしている。同社の製品はパソコンのモニターばかりのように思えるが、液晶テレビFORISシリーズなどもラインナップされている。アイテム数としてはモニターに比べると少ないものの、それでもこのような大掛かりな装置を備えているのだ。

続いて見たのが振動実験室。モニターを梱包する段ボールの箱が何やら機械に上に載せられている。しかもよく見ると細かく振動している。これは輸送時の振動をリアルに再現して、中のモニターがどのような影響を受けるか検証しているという。実験により梱包材の形状や材質、梱包方法などを検討したりしている。国内のみならずワールドワイドに製品を送り出すナナオならではの実験室といえる。

電波暗室なるものをご存知だろうか? 外部からの電波を完全に遮断するとともに、内部で発生した電波を壁で吸収してしまう部屋のことである。電機関連のメーカーでもこの電波暗室を持っているところはさほど多くはないとのこと。部屋は巨大でバレーボールぐらいの試合だったらできそうなくらいだ。ナナオではどのような用途に使うかというと、モニターの発する微細な電波を測定し、研究や開発へ反映させるのである。ちなみに、ここで測定した結果はEMC関連認証を受けることができるほど精度の高いものだという。このような設備にはそれなりの投資を必要とするはずだが、よりより品質を追求するためなら妥協しない企業姿勢の現れのように思えた。

最後に見たのが、様々なナナオ製のモニターが電源をONにした状態で並んだ部屋だ。工場で見たエージングの工程と同じように見えるが、モニターの種類は1つだけでなく歴代すべてのものとなるのが大きく異なるところ。これは製品が使い続けられる過程で、どのような変化が現れるか検証している。特に液晶パネルなどの経年劣化は製品の品質に直接関わることだけに、このような設備を設けているという。

この工場内では製品の開発・設計から製造まで、はたまた様々な研究や検証が行なわれている。分業化のすすむ現在では、どちらかといえば珍しいことのように思える。しかしながら何度も繰り返すようだが、品質第一主義を貫き通す同社ならではのこだわりである、それが結果として高い信頼性につながっている。実際、EIZOブランドのモニターは写真やデザイン、印刷関係者をはじめ精度の高い再現性を必要とする多くの分野で圧倒的な支持を得ている。今回の工場見学で、物づくりに対するナナオの真骨頂を垣間見たような気がした。

輸送時の振動をシミュレーションする実験室


液晶モニターの発する電波を測定するための電波暗室


電波暗室での測定結果を隣の部屋でモニターする


歴代のモニターの経年変化をチェックする

写真:大浦タケシ

大浦タケシ Takeshi Oura

1965年宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、編集プロダクション、デザイン企画会社を経てフリーカメラマンとなる。現在、カメラ誌等を中心に一般誌、コマーシャル、セミナー等で活動中。カメラグランプリ選考委員

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