2013年01月30日
Z420、Z620、Z820などHPワークステーション Zシリーズは写真・映像・3DCGなどの現場で使える最先端のマシンだ。Zシリーズを試用した様々なクリエイターに、その使用感を聞く。
代官山スタジオが提案する4Kワークフロー
左からZ420、Z620、Z820の各ワークステーション。
次世代の映像制作環境である4K高精細映像。各メーカーから4K対応カメラやモニターが相次いで発表されているが、膨大なデータを処理するためのワークステーションにも注目する必要がある。そこで、4K映像制作に詳しい代官山スタジオの映像プロデューサー藤本ツトム氏に、高速なインテル® Xeon® プロセッサーを搭載するHP Z420を使用してもらった。
──代官山スタジオでは、4Kのワークフローに力を入れているそうですね。
藤本ツトム Tsutomu Fujimoto
フォトグラファー、映像ディレクター。代官山スタジオ企画制作室にて映像プロデューサーを務める。日本大学芸術学部写真学科卒。2006年以降、映像・モーショングラフィック制作を始める。
藤本 代官山スタジオでは数年前から動画撮影のサポートや動画制作の受注を行なっています。お客様はフォトグラファーが多く、動画に対しても写真と同じ品質を求めるので、4Kについての関心は高いですね。
動画用の広いスペースとして、昨年、月島スタジオを新しくオープンしました。WebムービーやPV、小規模のテレビCM撮影などを想定したスタジオですが、このスタジオで4Kワークフローを提案しています。具体的に言うとRED 4Kによる撮影&制作のサポートです。
RAWデータは最近になってようやく映像の世界でも使われるようになってきましたが、写真の世界では10年以上前からRAWによる撮影が行われています。いわば10年間の経験の蓄積があるわけで、我々はそれを活かして、映画フィルムの代わりになるような絵作りをRED 4Kで提供できると思っています。
──これまでの4K制作の実績は?
藤本 フォトグラファー腰塚光晃さんが撮影されたラゾーナ川崎プラザのテレビCM、映像ディレクター木之村美穂さんのファッションムービーをはじめ、多くの4K RAW撮影をサポートしています。
ラゾーナ川崎プラザのCM撮影現場
ラゾーナ川崎プラザのCMでは、撮影現場に4K対応モニターを持ち込んで、その場で4K映像を確認できる環境を構築しました。4KのRAWデータはそのままではリアルタイムに再生できな いので、RED ROCKETという専用ボードを用意してMacBook Pro Retinaと接続しました。
このシステムはコンパクトですが、RED EPICの4K RAWデータをその場でリアルタイムに再生できましたので、現場での確認作業は非常にスムーズでした。
右側の大きなモニターがEIZOの4KモニターFDH3601。その下の白い箱がRED ROCKETを搭載した外付けの拡張シャーシ。MacBook Pro RetinaとThunderbolt経由で接続している。
ラゾーナ川崎プラザのテレビCM
フォトグラファーを対象として4Kのワークショップを開催
──そうすると、4Kでの制作はすでに実用段階と言っていいんですね。
藤本 はい。海外ではすでに、「VOGUE」をはじめ多くの雑誌の表紙がREDを使って撮影されており、それと同時に映像コンテンツも作られています。映像を作りながら写真が生まれる、写真を作りながら映像が生まれる、このような制作スタイルをRED 4Kが可能にしているのです。今後、日本の雑誌、広告の現場においてもこのような制作スタイルが必要とされます。
我々は、RED Digital Japanと共同で、2月9日に月島スタジオでフォトグラファーのためのREDワークショップを開催する予定です。このイベントでは、将来的に4K動画までを視野にいれているフォトグラファーさんのために、これからの表現とビジネス、両方の可能性を広げるためのRED 4K撮影とワークフローをご紹介します。同時に、4K映像の上映、そこから切り出した実際のプリントをご覧いただけます。
RED SCARLETで撮影中の藤本ツトム氏。代官山スタジオの映像プロデューサーであると同時に、フォトグラファーとしての顔も持つ。
完成されているように見える現在の広告手法にもいくつかの問題があります。例えば、実際にクライアントさんから相談されたことですが、テレビCMの映像とポスターの写真の仕上がりに違いがあるケース。多くの場合、テレビCMの映像とポスターの写真は別々の制作チームで作られるため、映像と写真における撮影や照明、レタッチ手法の違いから、仕上がりに差異が生じます。
我々はそこをクリアしたいと考えています。4Kを越えるフォーマットは、映像と静止画を同じテイストで同時に成立させることが可能です。わかりやすく言うと、4Kオーバーの映像を作り、そこから静止画を切り出すのです。統一感のあるビジュアルは立体的で速やかな製品訴求を可能とします。さらにこの方法は、高い品質を維持しながら、時間と費用の無駄をなくします。
代官山スタジオのクリエイティブチームには、撮影、照明、レタッチ、それぞれのスペシャリストがいます。4K、つまり水平方向4000ピクセルを越える映像は、写真で培った技術、感性を活かすことができる世界です。動画レタッチで言えば、2Kでは見えなかった違いが4Kでは見えます。写真のレタッチャーは、日々、6K〜8Kの画像サイズで繊細なレタッチを行ないます。我々の動画レタッチャーは、写真レタッチの高い技術を4K動画レタッチにおいても発揮します。2月9日のイベントでは、4K動画レタッチの品質もご確認いただければと思います。
手前は藤本氏、奥に座っているのが動画レタッチャーの山本雅博氏だ。藤本氏が大まかな編集と使うカットを決めて、レタッチしたいところは隣の山本氏に渡して作業してもらう。
──それは楽しみです。1回だけの展示ではもったいなですね。
藤本 月島スタジオでのワークショップが終わったら、RED Digital Japanのショールームで展示する予定です。ショールームの方にもぜひ足を運んでいただければと思います。
海外では写真と映像の垣根を越えるような新しいチャレンジがたくさん行なわれていますが、日本ではまだまだ写真と映像のテリトリーがはっきりと分かれています。RED 4Kを通じて写真と映像の融合が進めば、最終的にはクライアントのメリットにつながるし、我々のビジネススキルとしても表現としても、新しい可能性が開けていきます。ワークショップを通じてそういうことをお伝えできればと思います。
※RED 4Kワークショップ当日の様子は、このページの最後に追記しました。
4K映像のワークフローではマシンパワーが大きな課題
藤本氏が制作したREDのための4Kムービー。写真と同じクオリティのレタッチが施されている。
P+Dir=藤本ツトム ST=JOE HM=松橋亜紀 Model=空(BELLONA) Retouch=山本雅博(代官山スタジオ) 撮影チーフ=高橋雄三(代官山スタジオ) 照明チーフ:松ノ下聖司(代官山スタジオ)
代官山スタジオ 動画撮影【動画レタッチ】のページ http://daikanyamastudio.jp/pg485.html
──写真と映像の垣根を超えていくには、それを支えるハードやソフトの環境も大事になりますね。
藤本 今回はRED EPICの大きな特徴である4Kハイスピード撮影を行なってます。4Kのハイスピードデータを編集、レタッチするには大きなマシンパワーが必要です。これまで使用していたMac Proに速度的な限界を感じて、それに代わるものを探していました。
たとえばHDサイズの肌修正であれば、極端に言えばぼかすだけでもなんとかなります。 ところが、4Kサイズの映像では、毛穴やまつ毛の先のホコリまで見えてしまうため、繊細なレタッチを重ねる必要があります。言い換えれば、肌の質感やメイクのグラデーションを残しながら、全体を整える高精細なレタッチが可能です。これはビューティ、ファッション映像でとくに効果的です。
このような高品位なレタッチを行なうため、我々は写真と同様にAdobe Photoshopを使います。まず静止画を抜き出してPhotoshopでレタッチを行ない、その結果を動画に適用します。具体的には、Photoshopの修正レイヤーをAdobe After Effectsに持ち込み、動画の動きに追随させます。この際、動画を解析してトラッキングデータを作成するためにmocaというプラグインを使うのですが、我々のMac Proでは、1秒間の4K動画の解析に何分間もかかっていました。
──けっこう時間がかかりますね。
藤本 そこでMac Proでの作業をあきらめて、自分たちで動画に適した最新のパーツを集めて組み立てることにしました。スペック的にも、コスト的にもほぼ、HP ZシリーズのハイエンドであるZ820に相当しますが、この自作マシンだとmochaの解析は数秒間で終了しました。Macとの差は圧倒的でしたね。
このように動画レタッチでは、Photoshop以外にAfter Effectsのようなコンポジット系ソフトを多用します。それを4K動画で行ない、作業結果を即座にプレビューするためには、大きなマシンパワーに加えて各パーツの性能が求められます。複合的な動画レタッチの作業を細かく説明することは難しいのですが、とくに4Kデータの処理ではWindowsの方が多くの場面で有利でした。
動画レタッチではPhotoshopのレイヤーをAfter Effectsに持っていく。上はmochaというモーショントラッキング用のプラグインで、静止画のレイヤーを動画に反映させるためのもの。
──その自作マシンと並行して、今回HP Zシリーズを使ってもらいましたが、いかがでしたか。
藤本 エントリーモデルのZ420を使ってみましたが、そのコストパフォーマンスの高さには感心させられました。体感速度は我々の自作マシンに近いですね。それから、自作マシンはもし何かトラブルがあったら自分で解決しなくてはいけませんが、ZシリーズならHPさんのサポートを受けられるので安心です。
Z420はQuickTimeの書き出しや動画レタッチで威力を発揮
──Z420ならではのメリットは何かありましたか。
藤本 3840×2160ピクセルのRAWデータを、H.264のコーデックで、1920×1080のQuickTimeムービーに書き出してみたのですが、ものすごく速かったですね。10秒間のRAWデータをRED CINE-Xで書き出すと130秒かかっていたものが、Adobe Premiere Pro CS6では11秒と、ほぼリアルタイムでした。4Kの素材をチェックしてもらう時に、このフォーマットで制作会社に渡すことが多いのですが、これだけ速いと本当に助かります。
RED RAWデータのQuickTime書き出し速度
RED CINE-X | 130秒 |
Premiere Pro CS6 | 11秒 |
RAWデータのサイズと尺:QFHD(3840×2160)/ 10秒、QuickTimeムービーのサイズとコーデック:フルHD(1920×1080)/ H.264 使用コンピュータ:HP Z420(スペック:CPU=インテル® Xeon® プロセッサーE5-2687W 3.1(8コア)、メモリ=16GB、HDD=1TB 7200 RPM SATA 1st HDD、グラフィックボード=NVIDIA Quadro 4000、OS=Microsoft Windows 7 64bit SP1)
──驚きの速さですね。
藤本 4K RAW収録においても、素材チェック用にはQuickTimeムービーで書き出す必要があります。これを撮影現場で当日に求められことがあるため、REDの撮影では専用ボードであるRED ROCKETが必須でした。この専用ボードがあればリアルタイムプレビューとムービー書き出しが可能です。
ただし、RED専用であるため価格も操作性も一般的ではありません。今回使用したZ420の検証結果は、このような状況を大きく改善するものです。専用ボードがなくても、Z420単体で最低限必要なQuickTimeムービーH.264をほぼリアルタイムで書き出せるのですから。
このことは、時間的にも予算的にも、できるだけコンパクトに4K RAW収録を行なう必要がある場合に、とても効果的です。さらに、これから4K動画にチャレンジするフォトグラファーの可能性を大きく広げます。
──そのほかに、Z420の速さに関するエピソードはありますか。
藤本 さきほど動画レタッチの方法についてお話ししましたが、もうひとつ具体例を挙げます。4Kデータの尺が10秒、レイヤーが19枚ある状態で、After Effects上で再生してみましたが、RAMプレビュー(メモリに割り当ててから再生する機能)が始まるまで125秒。一見、時間がかかるように思えますが、4Kのデータにレイヤーが19枚乗っているわけですから、実はものすごいことなんです。普段我々が使っているMac Proではそもそも動きませんでしたからね。
RED EPICの4KデータをAdobe After Effectsを使って、動画レタッチを行なっているところ。右側のウィンドウを見ると、相当な数のレイヤーがあることがわかる。
──最後に、今までの話をまとめると、どういうことになりますか。
藤本 現在、写真業界ではMacユーザーが多いですね。また、映像業界でもFinal Cut Proが普及しているし、ProResが業界標準のコーデックになっているので、Macの方が便利だと思います。
でも、写真と映像が融合するRED 4Kのワークフローでは少し事情が違います。RED 4Kでは、PhotoshopやPremiere Pro、After Effectsなどアドビのソフトをうまく組み合わることで、写真での経験を生かしてクオリティの高いビジュアルを作ることができる。また、アドビはRED RAW(.R3D)にいち早く対応しています。RED 4Kのワークフローにおいては、HP Zシリーズは速度面、安定性の面で注目すべき存在になると思います。特に動画レタッチなどの重い処理は、Windowsの方がMacより有利です。
写真もHD動画も、4Kも、これ1台ですべて間に合いますし、Z420はエントリーモデルなのでそれほど高価ではない。フォトグラファーがマシンを乗り換える際に有力な選択肢になると思います。
盛況だったRED 4Kワークショップ
展示会場の様子
ワークショップの様子
──「RED 4Kワークショップ」のイベントが終わりましたが、いかがでしたか。
藤本 2月9日の「RED 4Kワークショップ」は、おかげさまで大盛況のうちに無事終了致しました。告知期間が短かったにも関わらず、写真業界だけではなく出版、テレビ、映画業界を含む約150名の方々にご来場いただきました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。
ワークショップにおいて皆さまの一番の関心事は、「膨大な4Kデータをどのように扱うのか?」でした。もっと端的に言えば「MacとWindowsでは、どちらが適しているのか?」です。安易に比較すべきでないことは十分に承知しているのですが、エンドユーザーの立場としては当然のご質問です。
私の答えは明快で「RED 4K(.R3D)ならば、Windowsマシン」です。その理由は、今回の検証作業で証明された圧倒的なマシンパワーにあります。メインツールとなるアドビ製品との親和性の高さは、更にそれを後押しします。
実際にワークショップでは、Z420+Adobe Premire Pro CS6でデモを行いました。
4Kシーケンスで多くの .R3D素材レイヤーを重ね、フレーム単位の編集に加えて、タイムリマップを多用したにも関わらず、作業は軽快で、標準的なビデオ、HD素材における編集作業と同様の快適さでした。
Adobe Premire Pro CS6での編集画面
※2013年2月25日追記
関連情報
日本HP ワークステーション 製品ページ
HP Z420
拡張性・信頼性を備えたエントリーワークステーション。最新のインテル®「Sandy Bridge」アーキテクチャー採用したインテル® Xeon® E5-2600/1600ファミリー搭載。最大8コア(16スレッド)CPU、ハイエンドグラフィックス、最大64GBメモリ搭載可能。最小構成価格は141,750円から。詳細
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