HP Zシリーズの実力

HP Z2 Mini G3は快適に4K編集ができて、撮影現場にも持ち込めるミニワークステーション

江夏由洋(映像ディレクター)

マリモレコーズの映像ディレクター江夏由洋氏は、これまで10年近くにわたって4K映像の制作に携わり、コンピュータで4K編集環境を構築するためのノウハウにも詳しい。その江夏氏が最近導入したのが世界最小のミニワークステーションHP Z2 Mini G3。どんな用途で使えるのか、使い勝手はどうかなど、HP Z2 Mini G3ついて話を聞いた。

img_products_hpz2mini_0.png HP Z2 Mini G3

高性能なグラフィックスと30万円を切る価格が大きな魅力

──Z2 Mini G3の導入の経緯について教えてください。江夏さんはすでにZ840などタワー型のワークステーションを導入されていますが、なぜ今回ミニワークステーションを導入されたのでしょうか。

江夏 いまマリモレコーズには10台ぐらい動画編集用のコンピュータがあるんですが、技術は日進月歩で進むので、クライアントや僕らが求める映像のスペックとマシンのスペックが時代とともに乖離していっちゃうんです。新しいカメラが出たら買い換えるのと同じで、動画編集用のマシンもアップデートしていかないといけない。

Z2 Mini G3は一目見て、これはすごいんじゃないかと思いました。僕はマシンのスペックで最初に見るのはグラフィックスなんです。Z2 Mini G3にはNVIDIAの高性能なGPUが入っていて、アドビの動画編集ソフトとの相性もいい。しかも価格が安いので、これを使わない手はないなと。

img_products_hpz2mini_1.jpg 映像ディレクターの江夏由洋氏

江夏 2010年にHP Z800を導入して以来、Z820、Z840とZシリーズをずっと使ってきましたが、Zシリーズは筐体のデザインや設計思想、スクリューレス構造をはじめとした技術力の高さ、それから電源を含めて動作が安定しているところなどがすごく魅力的だと思います。今回のZ2 Mini G3は、ものすごく小さな筐体なのにしっかりとZシリーズの冠がついていて、そういうところにもガジェット好きの心理がくすぐられました。

スペック表を見ながら、これを買えばこんなこともできるし、もしかしたらあんなこともできるんじゃないかとかワクワクしましたね。最近はカメラもそうなんですけど、スペックを見てもワクワクすることはあまりなくて、しばらく様子を見てから買うことが多いんですけど、Z2 Mini G3は久しぶりにワクワクしたり早く欲しいなと思ったマシンですね。

──江夏さんがマシン選びで重視するポイントはどこでしょうか?

江夏 マシンを選ぶ際には5つのポイントでスペックを見るようにしていて、みんなもそうだと思うんですけど、まずCPUのスペックを見ますよね。Z2 Mini G3は4コアになりますが、タワー型マシンと同じXeonプロセッサーを搭載しています。

次にメモリ。たくさん積めば積むほど、アプリケーションをたくさん立ち上げたり、メモリをたくさん使う動画編集で有利になります。Z2 Mini G3は最大で32GBまで搭載できます。

3つめがディスクですよね。ハードディスクかSSDかという種類の違い、容量の違いの他にも、ディスクをいくつ搭載できるのかも重要です。Z2 Mini G3は標準で1TBのハードディスクを搭載していて、これをSATAインターフェイスのSSDに換えることもできるし、さらにもう1つM.2インターフェイスのSSD「HP Z Turboドライブ」を増設することもできます。

4つめにインターフェイスだと思います。今はUSB3.1 Type-Cという新しい規格が話題になっていますが、Z2 Mini G3にはType-Cが2系統、USB3.0が4系統、DisplayPortが4系統あります。USB3.0はよく使うので、多ければ多いほどいいですね。

5つめにグラフィックスですね。僕はこれを一番重視しています。いま動画編集をする上ではCUDAアーキテクチャというものが欠かせなくて、CPUの性能よりも、グラフィックスがCUDAに対応しているかどうかの方が大事だと思っているくらいです。Z2 Mini G3はCUDAに対応したNVIDIA Quadro M620を搭載しています。

ポイントを5つ挙げましたけど、結局価格ってそのバランスなんですよ。お金をつぎ込めば速いCPUで大容量のメモリを積んだマシンも可能なんですけど、予算にも限度があるからトレードオフというか、どこを妥協してどこにこだわるのか、そして妥協した部分は何でリカバーするのかというのを考えながらマシンを組んでいくのが楽しいんですよ。このZ2 Mini G3はそのバランスがすごく絶妙なんですよね。30万円を切る価格でこのスペックは結構驚きですね。

Adobe Premiere Proで4K動画が快適かつ安定的に編集できる

──江夏さんが導入したマシンの構成を教えてください。

江夏 CPUは3.5GHzで、メモリは32GB、ストレージは「HP Z Turboドライブ」を追加しています。さらにカスタマイズするとしたらSATAのハードディスクをSSDに変えるぐらいですが、僕はそこまではしていなくて、外付けの高速なハードディスクを接続しています。USB3.1 Type-Cはまだ使っていませんが、インターフェイスが豊富なので、それぞれのスタイルに合わせていろんなシステムが組めるのがいいですよね。Z840などのタワー型マシンはカスタマイズできるところがもっとありますが、Z2 Mini G3は箱を開封したらすぐに作業ができるというのが魅力です。

僕の場合は4K60pとか割と無茶な作業が多いので、メモリもたくさん積んでおきたいし、CPUも速いほうを選びたいしっていう方向にはなります。だけどそれですごい差が出てくるかっていうと、安心感が得られるぐらいの違いで、そんなに変わらないんじゃないかなと思いますけどね。何をやるかにもよりますが、標準の構成でも問題ないと思います。

ちょっと話は逸れますが、僕は会社も経営しているので、機材が必要経費で買えるかどうかというのが実はすごく重要になってきます。仕事で使うカメラやコンピュータは高価なので、ほとんどの場合は必要経費とはならず、毎年減価償却をしてかなければいけない。「このマシンはまだ償却が終わってないな」とか、そういうことに気をつけないといけない。でもZ2 Mini G3はそれなりにカスタマイズしても税抜きで30万円未満に収められるので、全額を必要経費として計上できる。そのあたりはとても上手な価格設定だなと思います。

img_products_hpz2mini_2.jpg ディスプレイの下に見えるのがZ2 Mini G3。デスクの上においても場所を取らない

──具体的にどういう用途で使っていて、どういう場面でメリットを感じていますか。

江夏 一番メリットを感じるところは、4K動画がサクサク動くところですね。4K動画にもいろいろあって、ミラーレス一眼カメラの4K動画は意外と重いんです。ミラーレスの動画コーデックは、例えばソニーのαシリーズで言うとXAVC Sという規格になります。これはちょっと専門的な話になりますけど、1フレーム単位で圧縮するイントラフレームのコーデックではないので、描画するのが結構大変です。むしろ業務用の大きいカメラ、例えばFS7とかF55とかのXAVCという規格はイントラフレームなので、逆に描画がしやすいんです。

XAVC Sはビットレートを押さえるためもあるんですけど、とにかく複雑なコーディングなので、それをデコードする作業はパワーが必要。スムーズに再生できるかできないかは結構マシンスペックに関わってくるんです。Z2 Mini G3は、4K30pのXAVC Sの再生がサクサクですね。

さらに言うと、4K60pという規格があります。これはモンスターと言われている規格ですけど、数年前だと1000万円レベルの機材を導入しないと編集できませんでした。リアルタイム再生するのも大変だったんですけど、Z2 Mini G3ではPremiere Proの再生解像度を落とすことで、4K60pのまま編集することが可能になりました。なので僕はこのマシンを何に使いたいかというと、基本的には4K編集。すなわちハイエンドの動画編集に使いたいと思っています。

img_products_hpz2mini_3.jpg Z2 Mini G3の筐体は高さわずか5.8 cm、幅、奥行き21.6cmのコンパクトサイズだ

──編集ソフトはAdobe Premiere Proをお使いですよね。

江夏 先ほどのCUDAの話に戻りますけど、GPUを有効に使えるノンリニアの編集ソフトはアドビだけですね。Premiere ProにはMercury Playback Engineというリアルタイム再生のエンジンがついていて、これがCUDAを活用して描画していきます。従来はCPUの速度などに大きく依存したんですけど、そのタスクをGPUに全部割り振っているので高速に描画できる。だから僕としてはアドビ以外の編集ソフトは考えられません。

別に僕がアドビのブランドが好きだっていうわけではなくて、撮ったものがすぐに編集できて、自分の頭の中で考えていることがその場で形にできるということがすごく大事で、Premiere ProとかAfter Effectsがそれをすべて受け止めてくれる。コンピュータのGPUとソフトの組み合わせでワークフローが成り立っているわけです。

──Z2 Mini G3のグラフィックスが優れているので、Premiere Proで4Kの編集が快適にできるわけですね。

江夏 それが主な理由ですが、グラフィックスの性能だけではなくて、XeonというCPUを搭載していることも大きいですね。CPUの技術ではマルチコア並列演算処理が主流になってずいぶん経ちますが、実はスピードってあまり変わらないんですよ。10年以上ぐらい前からすでに3GHzぐらいのCPUはあったし、じゃあ何が変わってきたかっていうと、マルチスレッドになったことと、アーキテクチャが変わったこと。

Z2 Mini G3のXeonは、標準で3.3GHz、4コア、8スレッドです。クロックスピードだけでいうとCore i7にはもっと高速なものがありますが、Xeonはもともとサーバ用のCPUなので粘るというか、低速クロックでもレンダリングスピードが安定しているイメージが強いです。ゲームをやる人はCore i7とかを使えばいいんですけど、僕らは突発的な描画速度は必要としていなくて、4Kとかハイフレームレートの描画や、Adobe Media Encoderのレンダリングが安定しているほうがいい。だからXeonって聞くとちょっとホッとする感じがあります。

img_products_hpz2mini_4.jpg Z2 Mini G3はスクリューレス構造なので簡単に内部にアクセスできる。内部にはCPU用とGPU用の2つのファンが見える。左は6TBの大容量データを持ち運べる高速ハードディスク、ソニープロフェッショナルRAID

──他のソフトでもCUDAテクノロジーは有効ですか。

江夏 After Effectsも同じようにGPUを活用しますから非常にいいですね。アドビ以外だと、REDCINE-XというREDの現像ソフトもCUDAを使えるので現像スピードが大きく変わってくるでしょうし、DaVinci ResolveもGPUに大きく依存しているので、カラーグレーディングをする上ではZ2 Mini G3は1つの選択肢になるかなと思っています。

After Effectsはスチルの連番のRAWデータを動画として読み込めるので、高品位なタイムラプス映像を作ることができます。スチルのRAWデータってかなり重いので、この作業はZ840でやってもかなりのタスクになるんですが、Z2 Mini G3でも作業はできました。

After Effectsでの作業はメモリが非常に重要で、描画したデータを全部メモリに書き出してプレビューを行うので、メモリ容量イコール、プレビューできる時間となりますし、メモリが足らないとフリーズしてしまいます。メモリは32GBあれば十分なので、Z2 Mini G3はAfter Effectsの4Kタイムラプス動画にも耐える仕様になっていますよね。

動画でも写真でも撮影現場に持ちこんで本格的な作業ができる

──スチルのRAWデータの話が出ましたが、フォトグラファーの仕事にも向いていますか。

江夏 最近フォトグラファーさんと仕事をすることが多いんですけど、現場ではiMacとかMacBook Proをよく見かけます。コンピュータとカメラをつないでテザー撮影をして、その場で確認して、写真を選んでいくという一連の作業は、だいたい皆さんMacでやっていますが、僕はZ2 Mini G3もいいと思いますよ。本体が小さくて持ち運べるし、大きいディスプレイをつなげられるし、プロセスも速い。半分素人目線で申し訳ないですけど、テザー撮影だとメモリ容量が大事なんですよね。1つの画面に100枚とか200枚の写真を並べて選んでいくから。

最近スチルのカメラは富士フイルムのGFXなど5000万画素クラスのカメラが出てきましたが、これだけ画素数が多くなると、MacBook Proの15インチのRetinaディスプレイで画像を確認できるかというと難しいでしょう。やっぱり30インチクラスの4Kディスプレイできちっとフォーカスやディテールを確認する必要性が出てくるでしょうね。もちろんMacでもいいんですけど、カメラの画素数が増えれば増えるほどZ2 Mini G3の出番じゃないかな。写真の現場では間違いなくすごく活躍すると思いますよ。

img_products_hpz2mini_5.jpg 江夏氏はZ2 Mini G3をEIZOの31.5型4Kディスプレイにつないで使用している。EIZOでは自社のColorEdgeやFlexScan製品とZ2 Mini G3を事前に動作検証しているので、安心して使用できる環境と言えるだろう

江夏 冒頭にも話をしましたが、カメラとマシンのスペックは併走してないといけないんですよ。カメラのスペックが上がっているのに、コンピュータが追いつかなかったら、後工程で何もできなくなってしまう、カメラとマシンの両方のスペックが上がると何ができるかというと、今までできなかったアウトプットができる。5000万画素の写真がミラーレスで撮れて、それを現場でチェックして納品できるとなったら、これって夢のような世界じゃないかと思うんですよね。4Kディスプレイを現場に持ってくような時代ってそんなに遠くないと思いますけどね。

新しいMacBook ProはインターフェイスがType-Cしかありませんが、Z2 Mini G3はType-CもあるしUSB3.0もある。ハードディスクなどの周辺機器はまだまだUSB3.0が主流だから、どちらが現場で使いやすいかというとZ2 Mini G3だと思います。やっぱりインターフェイスってすごく大事ですよね。もちろんMacBook Proがダメというわけではないけど、Z2 Mini G3のポジションはそういうところにもあるんじゃないかと思います。

──これだけ本体のサイズが小さいと動画の撮影現場でも活躍しそうですね。

江夏 例えばスタジオで撮影があるとします。オンセットで、その現場で撮影素材を仮で並べてクライアントに見せる時は、大きなデスクトップのマシンをカートに積んで持っていかなきゃいけないんですけど、Z2 Mini G3ならカバンに入る大きさなので、ディスプレイを持っていく必要はありますけど、その場でネイティブで編集して見せることも可能だと思います。

ノートブックとの比較でいうと、ノートブックはあくまでもサブマシンなんです。打ち合わせに持っていったりとか、あるいはプレゼンに持っていったりという機動性の良さはありますけど、それで編集をすることはなくて、デスクトップのメインマシンでちゃんとやる。それに対してZ2 Mini G3は、持ち運びもできるし、メインマシンにもなるところが大きな違いですね。オンセットでの編集ができるので、とても可能性が広がると思います。

撮影:坂上俊彦


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