2009年07月01日
CRTモニターの観察条件を定めた国際規格 ISO12646では、モニターと観察者の間の照度を32 lxと規定しています。これはかなり薄暗い暗室に近い状態です。画像編集作業でシャドウ側の再現性を確認するためにはこのような暗い環境が好ましいことがあります。
私自身もPhotoshop以前の画像処理専用ワークステーションで作業していた頃、モニター上で各版(CMYK)のシャドウの階調を確認する時に、その都度、作業部屋の照明を暗くしていたことがあります。もともとCRTモニターの輝度はそれほど高くなかったと思いますが、モニターフードを設置して周囲からの映り込みを抑えつつも、職場の照明を暗くすることで、よりディティール細かくチェックすることができていました。
このようにモニター単独で完結するものであれば、確かに暗闇の中で作業したほうが効率が良いかもしれません。しかし多くの人はモニターとプリントを比較しながら作業したいと思うでしょう。
ISOにはそのほか、印刷物やプルーフなど、ハードコピーと言われるものを観察するための規格ISO3664があります。これには、2つの印刷物(またはプルーフ)を同時に比較する時の照度を定めた「P1条件」と、1枚の画像として判断する時の「P2条件」という2つの規格が存在します。それぞれの概要は表の通りです。
現在、ColorEdgeに代表されるカラーマネジメントモニターが普及しているなかで、モニターに表示された色を参考にして、印刷される色をシミュレーションすることが可能になりました。ハードコピーとモニター表示を比較しながら色調を追い込むことができるようになると、それぞれの見え方を合わせたほうが良いということになりますね。その場合、環境照度の基準となるものはISO3664のP2条件ということになります。P2条件はもともと1枚の印刷物を評価するための基準ですが、モニターと印刷物を比較する場合にも適用してもよいことになっています。
ところがISO12646、3664はともにCRTモニターを前提として策定された規格なので、液晶モニターが当たり前となった現状では時代遅れの感がぬぐえません。液晶モニターはCRTモニターに比べて明るくなっていますから、モニター輝度や、モニター観察の環境照度はもっと明るくても構わないはずです。
そこで2008年に新たに策定されたのが、ISO12646 : 2008です。これは液晶モニターによるソフトプルーフのための規格で、モニターとプリントを比較することも想定しています(モニターとプリントの比較は色見台を使用します)。
ColorEdgeシリーズの製品保証の要件は CG301W、CG242W、CG241Wで120 cd/㎡ 以下なので、「モニター輝度」が160 cd/㎡ 推奨というのは少し明るすぎるくらいです。ここは、モニター製品保証の数値を優先した方がよいでしょう。
また「モニター表示面の照度」の項目は少し分かりにくいのですが、理論値で言えばモニター輝度が160 cd/㎡ のとき、モニター表示面の照度は62.8 lx 以下推奨、最大でも125.7 lx という計算となります。120 cd/㎡ のときは47.1 lx 以下推奨、最大でも94.2 lx となりますが、これは理論値なのでもう少し明るくても構いません。120 cd/㎡ のときでも100 lx以上の普通の部屋の明るさぐらいで大きな問題はないはずです。
というわけで、最近の液晶モニターを使っているなら、普通の明るさの部屋で作業するのが合理的だと思います。部屋を真っ暗にするのは、シャドウ側の階調を確認するなど特別な作業の時だけです。
環境光の色温度については、Q2「モニターの色温度は5000Kなのか6500Kなのか」で詳しく解説していますので、そちらをお読みください。一言だけ付け加えるなら、印刷物の評価は自然光に近い5000Kで行なうべきですが、私は色温度だけでなく演色性に重点を置いています。
小島勉 Tsutomu Kojima
株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作(プリマグラフィ)のチーフディレクター。1987年、旧・株式会社トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作(プリマグラフィ)を担当し現在に至る。イラスト、写真、CGなど、様々なジャンルのアート表現に携わっている。
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