2010年07月12日
3DCGソフトの発達によって、カメラで撮った写真と3DCGで作られた画像との間に、品質的な差がなくなってきました。この連載では、フォトプロダクションやレタッチカンパニーなど、これまで写真を仕事にしてきた会社や個人に向けて、「3DCG写真」の現状と基礎知識をお伝えしていきます。
広報宣伝活動に3DCGを利用する企業が増えている
3DCGソフトを使って作られた写真(3DCG写真)を目にすることが多くなってきました。3DCGは、広告の表現力を上げる一要素として、ロゴや小道具の一部として利用されることもありますし、また、製品写真そのものを作ることもできます。
この連載では、そんな3DCG写真制作に興味を持つ方に向けて、「まず知りたい情報」をお伝えしていきます。たとえば、どんな仕事があるのか、どんなふうに作っていくのか、どんな機材が必要か など。これを読むことで、「3DCGフォトグラファー」の仕事や業界動向、基礎知識がわかるようになります。
改めまして、株式会社パーチの長尾と申します。私たちは3DCG導入サポートを専門にしています。制作会社に向けた導入コンサルティングを始め、3DCG写真制作に関するセミナーや講演を多数実施しています。今後3DCGを使って写真を制作することは必須になりますので、業界全体に向けて、業務移行がしやすいように、製造メーカー・制作会社の両方をサポートするのがパーチの役割だと思っています。
2年前に登壇した「デジタルフォト&デザインセミナー2008」では、3DCG写真はまったく新しい分野として注目され始めたというところでしたが、あの頃から比べても、3DCG写真は随分進化したと実感しています。
私たちの調査では、広報宣伝活動に3DCGの利用を検討されている企業さんはどんどん増えています。2010年現在で、3DCGを既に導入、または導入を検討している企業は、自動車、住宅、建材、住宅設備、家電、飲料などの業界大手で、ほぼ100%となっています。
今回は、このように利用が広がる3DCG写真について、「3DCG写真が増えている理由」「今後の業界動向」などをお伝えしたいと思います。
「3DCG写真」とは? 3DCGフォトグラファーとは?
3DCG写真は、製品設計時に作られるCAD(キャド)を利用し、3DCGソフトを使って作られる写真です。業界では、ほとんどの制作会社・クリエイターがAutodesk社の3ds Max、Autodesk Mayaのどちらかを使われています。もとは映画やゲーム制作をするために作られたソフトですが、高性能で高品質な画像が作れるため、3DCG写真制作でも使われるようになりました。以前はこんなにソフトが発達していなかったので、とても「3DCG写真」と言えるようなものは作れませんでしたが、今では写真と同品質のものが制作できるようになっています。
3DCGソフトの発達で、写真と同品質の「3DCG写真」が作られるようになった写真撮影された製品
CGで制作された製品(3DCG写真)
3DCG写真には、「フォトリアル」が求められている!
3DCG写真に求められるのは、「フォトリアル(写真のようにリアルであること)」です。広告写真の役割は「製品を魅力的に見せること」ですので、3DCG写真にもそれと同じことが求められます。
3DCG写真制作をするクリエイターは「3DCGフォトグラファー」と呼ばれています。この仕事には、3DCGソフトのオペレーション力と、製品を魅力的に見せる力(広告写真の制作ノウハウ)の2つの力が必要ですが、始めから両方を持っている方はほとんどいません。しかし、広告写真制作の経験がある方は、フォトリアルな3DCG写真を作るための基礎力を持っていると言えます。
誰が制作しているのか
「3DCG写真」は職種の垣根無く作られています。写真プロダクションの方を始め、製版・印刷会社でも作られています。2Dレタッチャーだった方が3DCGに移行されるケースもあります。
私たちは3DCGフォトグラファーを育成するスクールも開講していますが、受講者の職種は様々で、3DCGソフトに初めて触れる、という方が多いです。そこでは2ヵ月で一連の作業の基礎技術を学べるようになっていますが、3DCG写真に求められるのは「フォトリアル」ですので、広告写真制作の経験がある方は、やはり習熟が早いです。
広告主が3DCG写真を使う2つの理由
3DCG写真が増えたのは、3DCGならこれまで広告主が抱えていた問題を解決できるからです。
現在は商品ライフサイクルが短いため、新商品開発はいつもぎりぎりの日程で行なわれています。そうすると、撮影に必要なモックアップの制作が間に合わなかったり、広告制作が遅れ、充分な販促期間が確保できない、というようなことがよくあります。そこで、CADを利用した3DCG写真の登場です。3DCGで写真を作れば、モックアップの制作期間が要らなくなります。すると、広告制作期間を前倒しでき、販促活動も充分行なえます。
また現代の広告主は、カタログやポスターだけにとどまらず、WebやCMなど、幅広い媒体に向けて販促活動をしたい、と考えています。3DCGデータは、静止画から動画まで流用が可能ですので、それを使えば、全体的なコスト削減に繋がります。
今後3DCGはどんな風に広がっていくか
3DCGソフトは品質が高まり、進化する一方です。また、ハードの計算処理スピードも上がっているため、制作しやすくなっています。さらに、以前に比べてかなり安くなり、低投資で導入できるようになりました。広告主からのニーズも増えている今、3DCGフォトグラファーへの関心は高まっています。
製品写真として、またロゴや小道具・背景の一部として使うのでも、ビジュアル制作で3DCGが使われる場面が増えていくのは間違いありません。「ロケ撮影による写真と、3DCGによる製品写真を合成する」こともあれば、「背景が3DCGで、他の物を実写する」という組み合わせもあるでしょう。3DCGが使えると、広告表現の可能性は広がっていきます。
製品(プリンター)を始め、背景から小道具まで3DCGで制作された写真(※机の上の写真・壁に掛けられた額の中の写真・窓の外の風景は、実写したものを合成)
ロケ撮影した背景に、3DCGで制作した写真(製品=プリンター)を合成した写真
今回は3DCG写真が増えている理由や業界動向をお伝えしましたが、いかがでしたか。「3DCGフォトグラファー」の仕事と、みなさんの現在の仕事との共通項が見えてきたかもしれません。
特にクリエイターの方には、まずは必要機材が気になるところだと思います。機材に関しては、今後の連載でも詳しくお伝えする予定ですが、私たちのHPに「3DCG写真制作に必要な機材」をまとめたページがあります。このページをご覧いただくと、よりイメージが湧きやすくなると思いますので、先にご紹介しておきます。
http://www.perch-up.jp/design-viz/dvizinfo_07_hardSoft.html
次回は具体的に、どんな仕事があるのか、3DCGが作るのが得意な物、使われている媒体、などをお伝えしていきます。ご期待ください。
長尾健作 Kensaku Nagao
広告ビジュアル制作のデジタル化/3DCG 化 (ビジュアライゼーション) を業界最大手の株式会社アマナで実現。それに必要な戦略立案、市場開発、表現技術開発、人材開発、などを手がけ現在はこのビジュアライゼーションの新しい利用シーンを拡大させる活動等を行っている。 http://www.perch-up.jp
- 第13回 オリンパスイメージングと創建ホームズのビジュアル制作現場を取材!グラウンド株式会社の事例
- 第12回 印刷会社が3DCG写真を作る現場を取材! サンメッセ株式会社の事例
- 第11回 フリーで活躍する3DCGクリエイターの現場を取材! aspic-works 阿部司氏の事例
- 第10回 化粧品の3DCG写真制作現場を取材! 株式会社 メディア グラフィックスの事例
- 第9回 3DCG制作を始めた現場を取材! フォトグラファーから3DCGフォトグラファーへ 株式会社ピップスの事例
- 第8回 3DCG制作を始めた現場を取材!株式会社 日庄の事例
- 第7回 3DCG制作を始めた現場を取材!株式会社2055の事例
- 第6回 フォトリアルな3DCG写真を制作するには?
- 第5回 3DCG写真制作に必要な機材
- 第4回 3DCG写真制作の用語解説
- 第3回 製品写真(静止画)制作の流れ
- 第2回 どんな仕事があるの?
- 第1回 3DCG写真が増えてきた!