めざせ!3DCGフォトグラファー

第9回 3DCG制作を始めた現場を取材! フォトグラファーから3DCGフォトグラファーへ 株式会社ピップスの事例

インタビュー:長尾健作

3DCG制作の現場リポート3回目は、撮影、画像処理など、ビジュアル制作全般を手がける制作プロダクションを訪ねました。

こんにちは、パーチの長尾です。

3DCG写真制作の現場を取材して、早3回目になります。今回はフォトグラファー、レタッチャー、そして3DCGフォトグラファーという3つの職種でマルチに活躍する、株式会社ピップスの御園生大地(みそのお たいち)氏にお話を伺ってきました。

御園生さんは、フォトグラファーという忙しい業務を継続されながら、去年3DCGソフトを習得されました。今回のインタビューでは、フォトグラファーの視点から見た3DCG写真制作の手応え、苦労された点、お客様からの評価などを詳しくお話しいただきました。

業界の変化を見据えて、積極的に新しい仕事に取り組まれている御園生さんのお話は、フォトグラファーの方はもちろん、2Dレタッチャーの方にも参考になると思います。

変化が激しい業界
フォトグラファーから3DCGフォトグラファーへ

パーチ まずは、フォトグラファーになろうと思ったきっかけを教えてください。

img_soft_3dcgmezase_09_01.jpg
御園生大地 3DCGフォトグラファー/フォトグラファー/レタッチャー

御園生 直接的なきっかけではないんですが、実家が現像所だったんです。建築現場の写真などをまとめて出力するようなところで、様々な写真を目にする機会が多くありました。

パーチ その時代はアナログですよね。

御園生 アナログでした。それが一斉にデジタルになり、仕事が変わっていくのも見ていたので、変化が激しい業界だと思っていました。でも、「Tokyo fashion story」という写真展に行ってから、写真に対する印象が大きく変わり、自分で撮りたいと思うようになりました。そこで観た写真、特に石田東さんや新津保建秀さんが撮った日本人モデルの写真がすごく格好良かったんです。それで撮りたくなったときに、家にはカメラ機材が一式ありましたから、勉強を始めました。

パーチ 写真は学校で学ばれたんですか。

御園生 はい。技術を身に付けたくて、写真学科で学びました。でもその頃「ファッションフォトグラファーとして、年齢を重ねても活躍し続けるのは難しいよ」ということを言われて、仕事として続けるには商品写真がいいかもしれない、と考えるようになりました。卒業後はピップスに入社して、今は主に建築系と商品写真を撮っています。

img_soft_3dcgmezase_09_03.jpg 御園生氏の仕事 ヨックモック 東京駅一番街店 竣工写真

img_soft_3dcgmezase_09_04.jpg 御園生氏の仕事 ライトアップショッピングクラブ HDカタログ用ビジュアル

パーチ 3DCGについては、いつ頃から関心を持たれたんですか。

御園生 2009年です。先輩フォトグラファーが3DCG写真の広がりを受けて、「いま取り組むべき」という判断をして、社内でデジタルに強かった自分が手を挙げました。それから3DCGソフトの性能が良くなり、制作時間・計算時間が短くなっている、ということも導入を決めたポイントでした。

パーチ フォトグラファーという忙しい仕事をされながら、新たにソフトを覚えることなどに抵抗感のようなものは感じませんでしたか。

御園生 全く感じませんでした。アナログからデジタルに変わるところも体験してきたので、今後は3DCGが求められるようになる、ということも想像がつきましたし、逆に早く取り組みたいと思いました。

パーチ 3DCG導入を積極的に進められたんですね。取り組む前はどんなことを考えられていましたか。

御園生 たとえば今はデジタルになったので、フォトグラファーでなく雑誌の編集者が撮影するというようなことが普通にありますよね。物撮りも3DCGが増えて、昔から比べると仕事量や単価も減少しています。そういう中で、フォトグラファーは新しいフィールドを作っていく必要があると考えていました。「3DCGフォトグラファー」という職種は、フォトグラファーのスキルを生かしながら活動の場を拡げられるので、これだ!と思いました。

現実のライティングの考え方が使えるので、
ソフトを習得すれば、カメラで撮影したのと同じ写真が作れるようになる

パーチ 3DCGを導入するための情報はどのように集めましたか。

御園生 まずはネットで調べました。パーチさんのHPもよく見ましたし、Autodesk主催の無料イベントにも行きました。そこで液体も煙も光も全部CGで作られている映像を見て、「これだったら何でも作れる!やりたい!」と思いました。

パーチ 3DCGで表現できないものは無いですからね。ソフトはどんなふうに決めましたか。

御園生 何を使って良いのか分からなかったので、主流で使われている3ds Maxを選びました。

パーチ デファクトであるということは、今後も無くならないので安心ですし、関連書籍も多く出ていて勉強しやすいですよね。それで、実際に3ds Maxを触ってみて、いかがでしたか。

御園生 まず、3DCG特有の4面ビュー(連載第4回参照)の位置関係を把握するのが大変でした。それから、初めのうちは実際のライティングを3DCGソフト内で忠実に再現しようとしたんです。強いライトを上に向けて、天井をバウンスで照らすとか。でも、そうすると計算時間がものすごいことになってしまって(笑)。

img_soft_3dcgmezase_09_02.jpg 作品 3DCG写真

img_soft_3dcgmezase_09_05.jpg 3ds Maxで作業中の御園生氏

パーチ フォトグラファーの方は「どうしたら商品が魅力的に見えるか」というライティングを頭の中でイメージできるので、それを3DCGソフトに落とし込むことになりますが、具体的にはどんなふうに克服していきましたか。

御園生 3ds Maxの教科書と、パーチさん主催の「3DCG写真制作 クリエイター育成スクール」で勉強しました。教科書で基本的な操作方法を確認して、スクールでは3DCG写真で必要なノウハウを学びました。あのスクールは、すごいです! 多くのことを学びました。

パーチ そう言っていただけると主催者として嬉しいです。フォトグラファーの御園生さんにとって、あのスクールのどんなところが良かったですか。

御園生 まず、フォトグラファーが3DCGの勉強を始めたときに、習得が難しいと感じるポイントは3つあります。

1、フォトグラファーという本業の合間に勉強するしかないので、充分な時間が取れない。

2、3DCGの用語やソフトの操作感覚は独特で、フォトグラファーになじみのないものが多く、理解するのに時間が掛かる。

3、3DCGの書籍はゲームや映画制作の解説本が大半で、3DCG写真制作のノウハウがほとんど流通していない。

1については、スクールが週1回だったので通えました。2と3については、スクールが3DCG写真制作にフォーカスしていたので解決できました。それから講義ではこれでもかと質問して、毎回疑問点を残さないようにしました。

パーチ お役立に立てたようで何よりです。いまフォトグラファーならではの視点から、習得のポイントをお話しいただきましたが、ではフォトグラファーが3DCG写真を制作する際の利点はどのようなものでしょうか。

御園生 基本的に現実のライティングのテクニックが使えるので、ソフトを習得すれば、カメラで撮影したのと同じ写真が作れるようになります。それから、フォトグラファーとCGクリエイターが協業して制作すると打ち合わせの時間が要りますが、私の場合はCGのことも写真のこともよく分かるので意志決定が早く、お客様にもスムーズに提案できます。

パーチ なるほど。フォトグラファーとして既に持っているスキルを生かせるので、勘所もつかみやすいですよね。実際に業務をされたとき、お客様の3DCGに対する評価はどんなものでしたか。

御園生 この前、以前から撮影の仕事をいただいているクライアントから、3DCG写真制作を受注しました。従来の写真と同じ物ができたので、全く問題ありませんでした。

パーチ 順調ですね。写真ではなく3DCGを利用したいというクライアントの思いはどのようなところにあるんでしょうか。

御園生 素材やデザイン変更が頻繁にあるんですが、それをPhotoshopで修正すると、パースが付けられないので不自然になってしまうことがありました。3DCGにすると形状に沿って綺麗に修正できるので、リアリティが増しました。

それから撮影日にモックの手配が間に合わないことがあるんですが、3DCGならモックが要らないので先行して制作を進められるようになりました。

パーチ クライアントにとってもクリエイターにとっても仕事がスムーズになり、より良い物ができるようになったんですね。

フォトグラファー、レタッチャー、
3DCGフォトグラファーの三本軸で活動する理由

パーチ 御園生さんはフォトグラファー、レタッチャー、3DCGフォトグラファーの三本軸で活躍されていますが、その理由も教えていただけますか。

御園生 あくまで個人的な意見ですが、専門性が大事だと思う一方で、現代は1つのことだけやっているとリスクになりかねないと思うんです。業界でフォトグラファーの仕事が減っていても、逆に3DCGはこれから伸びる分野なので、私は今、会社の理解も得てのびのびと、閉塞感とは無縁で仕事をしています。今まで培ってきた技術を、新しく成長している分野で存分に発揮できる喜びは格別です。

パーチ クリエイターとして活躍し続けるために、リスク分散されているんですね。それに、3DCGができるようになったことで、表現の領域も広がっているのではないでしょうか。たとえば下の作品は3DCGも交えているんですよね。どうやって作られているんですか。

img_soft_3dcgmezase_09_06.jpg 作品(メイン3DCG制作、ライム撮影、背景制作、全て御園生氏が担当)

御園生 プラスティックケースとお菓子が3DCGで、ライムが撮影、背景はPhotoshopで制作しました。

パーチ 3つの職種を兼任していることを象徴する画像ですね。

御園生 そうですね。何を撮影にして、何を3DCGにするか、どこから先をPhotoshopにするか、ということを全部一人で決められるので、効率的に制作できます。

パーチ 3DCGは御園生さんにとってどんなものですか。

御園生 先行して新しい武器を手に入れた感じです。今伸びているものってAR(拡張現実)やiPhoneアプリを始め、IT系のものですが、これって3DCGとの親和性が高いんです。これからはフォトグラファーも撮影にプラスして、もう一歩進んだ成長戦略を描けたら、より可能性が開けるんじゃないかと思っています。デジタル化の前は師匠の撮影を横で見て身につければ良かったのですが、これからは、それだけでやっていくのは難しくなっていくのではないかと……。

パーチ 目指すのは次世代のマルチクリエイターですね。

御園生 実はいま、プログラミングの技術を持った会社とパートナーシップを組んで、ARのアプリを開発しているところです。ちょっと、これを見てもらっていいですか?(開発中のiPhoneアプリを起動して、カメラをある方向に向けると、そこに存在しないはずの椅子が画面に浮き上がる)

img_soft_3dcgmezase_09_07.jpg iPhoneのカメラを向けた方向には、実際には何もないが、iPhoneの画面には白い椅子が見える。

パーチ (iPhoneに浮き出てきた3DCGを見て)この椅子はAR用に作られたんですか。ARの画像って高品質な物をあまり見掛けないんですが、これは3DCGフォトグラファーの御園生さんだから作れる物ですね。

御園生 ありがとうございます。楽しく作っています。

img_soft_3dcgmezase_09_08.jpg 作品(AR用3DCG)

パーチ ところで3つの仕事の割合はどんな感じですか。

御園生 撮影が5、レタッチが4、3DCGが1です。3DCG制作については、市場の広がりに間に合ったと思っています。波が来たときに準備してあれば、乗れますからね。

パーチ 今後はどういう割合にされたいですか。

御園生 それは世の中のニーズに決めてもらえればと思っています。時代がどちらに行ってどんなことを求められても、自分は3つの看板を掲げておいて、フレキシブルに、どれでもできるようにしておきます。状況次第では、看板のうちいくつかを入れ替えることも辞さないつもりです。

パーチ なるほど。今の時代は本当に変化が激しいので、それくらいの気概がないと厳しいのかもしれませんね。時代への対応力が求められていると思います。

御園生 対応力と言えば、最近は思い切って、Photoshopも3ds Maxも英語表記にしています。最初は英語版の操作に手間取りました、英語のほうが色々な情報が手に入りますし、長期的に考えるとクリエイターは英語対応できると、より活躍の場が広がると思うんです。

パーチ フィールドを世界レベルで考えているんですね。最後に、今後の目標などお話しいただけますか。

御園生 良い写真やCGを作るだけでなく、打ち合わせから納品までの間に私と関わった「体験」全てが、クライアントにとって素晴らしいものにしたいと思い、エネルギーを注いでいるところです。

パーチ 御園生さんとお話ししていると、それが伝わってくる感じがします。今後のご活躍も楽しみにしています! ありがとうございました!


インタビューを終えて −マルチクリエイターとしてフィールドを拡げること−

御園生さんは3枚の名刺をお持ちです。そこにはそれぞれ「フォトグラファー」「デジタルレタッチャー」そして「3DCGクリエイター」と書かれています。変化が激しい時代だから、求められる仕事に対して柔軟に対応できるよう、準備されているんですね。現在は海外とのビジネスも視野に入れて、英会話の勉強も始められているということでした。クリエイターとしてだけでなく、ビジネスマンとしても参考になるお話でした。

次回も3DCG制作をされている方を取材します! ご期待ください。


img_soft_3dcgmezase_09_09.jpg

株式会社ピップス

1975年創業。撮影、ストックフォト、パノラマムービー、3DCG、画像処理など、ビジュアル制作全般を行なう広告・イメージフォトの制作プロダクション。


http://www.pips-inc.co.jp/


御園生大地 Webサイト

http://misonoo.com

ツイッターアカウント「@y31kai」

http://twitter.com/#!/y31kai

Google+アカウント「Taichi Misonoo」

https://plus.google.com/104612013805309071455/posts?hl=en

写真:長尾健作

長尾健作 Kensaku Nagao

広告ビジュアル制作のデジタル化/3DCG 化 (ビジュアライゼーション) を業界最大手の株式会社アマナで実現。それに必要な戦略立案、市場開発、表現技術開発、人材開発、などを手がけ現在はこのビジュアライゼーションの新しい利用シーンを拡大させる活動等を行っている。 http://www.perch-up.jp

関連記事

powered by weblio