2013年01月23日
こんにちは、パーチの長尾です。
3DCG写真制作の現場を取材して、早5回目になります。これまでの4回では、広告制作会社や印刷会社などに所属されている方を取材してきましたが、今回はフリーで活躍されている3DCGクリエイター、阿部司(あべつかさ)氏にお話を伺ってきました。
阿部司 3DCGクリエイター
建築パンフレット用のCGや、プロダクトのプレゼン用ムービーなどを制作する阿部氏は常に「フォトリアル」を追求し、3DCG制作の中でも特に「モデリング」を武器にされながら、活躍の場を広げられています。
今回は3DCG制作を始められた経緯、建築CGのクオリティを上げるポイント、制作環境、ライティングの重要性、3DCGならではの分業の形態についてなど、詳しくお話しいただきました。
独立して3年。建築CGを制作する3DCGクリエイターの仕事とこだわり
パーチ 阿部さんはフリーの3DCGクリエイターとして活躍されていますが、独立されて、どれくらい経ちますか。
阿部 3年になります。建築パース会社から独立して、現在は建築パンフレット用のCGやプロダクトのプレゼン用ムービーなどを制作しています。
パーチ そもそも建築ビジュアルや3DCGに取り組まれたきっかけは、どのようなものだったんですか。
阿部 昔から絵を描くことが好きだったんですが、それを仕事にできるとは思っていませんでした。でも「PCの技術があれば物づくりの仕事に関われるのでは」と考えて、CADの専門学校に行ったんです。そこで建築パースの授業が面白かったので、建築パースの会社でアルバイトを始めて、そのまま就職しました。
パーチ 当時、建築パースは手描きだったんじゃないですか?
阿部 はい、手描きでした。でもどんどんCGになってきたので、対応しないと生き残れないですよね。当時いた会社では「まず誰がやるのか」ということになり、自分が「やりたい」と手を挙げました。
建築内観:3DCGで制作
自転車:3DCGで制作
パーチ 建築系のビジュアルは、あっという間に3DCGに置き換わりましたからね。建築CGの「クライアント」について教えてもらえますか。
阿部 私はパンフレット用のCG制作をメインにしているので、広告代理店や設計事務所から仕事をいただきます。一人でやっていますから、大型マンションというよりは、都心のワンルームマンションなどが多いです。最近は設計事務所でCG制作をされるところもありますので、私がいただく仕事には、高いクオリティが求められます。
パーチ 「クオリティ」の部分について、もう少し詳しく聞かせていただけますか。
阿部 あくまで一例になりますが、建築CGは単にフォトリアルにすればいいわけではありません。たとえばマンションの外壁タイルの場合、「遠くから見たときは光が反射したりしてこの色に見えるが、実物のタイルはこちらの色なので、実物に合わせてほしい」などの指示があれば、それに合わせて制作します。
パーチ 建築CGならではの視点ですね。
阿部 はい。それからディテールを作っていくことも、クオリティアップには欠かせない作業です。たとえば店舗なら商品の陳列の具合で印象が変わりますし、美容院の椅子も安っぽく見えるのはNGです。そういう小物ひとつにしても、お客様からなるべくヒントをいただけるように、ヒアリングしています。
パーチ お客様の要望をこまめに確認していくことで、クオリティの高い物が完成するんですね。ちなみに、実写を合成することはしないんですか。
阿部 小物もCGで置くほうが馴染みやすいので、できるだけCGで作っていきます。CGだけで行けるところまで行きたいので、細部にわたって作り込んでいきます。
パーチ 阿部さんのこだわりなんですね。
阿部 「その時できる最高のクオリティを出したい。なるべくフォトリアルな物を忠実に作りたい」という気持ちが昔からありまして、「細かく複雑でも作れる」を売りにしています。作り込んでいて楽しいですし、完成したときの達成感は何とも言えません。
フリーで活躍する3DCGクリエイターの制作環境とは?
パーチ ところで、「3DCG」と聞くと、「一人でやるのは難しいんじゃないか」「機材管理が大変なんじゃないか」と考える方が多いようですが、そのあたりのことをお話しいただけますか。
阿部 私は一人でやっていますが、問題ありません。昔なら「レンダリング」という計算処理に膨大な時間が掛かったので、PCを何台も追加で買う必要があって大変でしたし、ソフトへの投資も大きかったと思います。現在は、制作用PC1台で行っています。しかしこれではレンダリング中に作業ができませんし、レンダリングが立て込んだときに対応できないので、外部のレンダリングファームを有料で利用しています。
建築内観:3DCGで制作
パーチ 機材は本当に安くなりましたよね。今後の設備投資についてお聞きしても良いですか。
阿部 レンダリング用PCを検討しています。それから外部のレンダリングファームの費用や使い勝手を比較しています。
パーチ フリーの方には機材の置き場なども気になるところだと思いますが、作業はどちらでされているんですか。
阿部 自宅の一室でやっています。
パーチ 毎日一人で制作されていると思いますが、時間管理はどうされていますか。
阿部 時間に関しては、家族がいるので規則正しいほうだと思います。子どもたちが早く起きますから、それに合わせています(笑)。
3DCGソフトの進化に伴い、カメラの知識が必要に。
スタジオライティングを参考にして、3DCGを制作。
パーチ フォトリアル3DCGを制作するために、ライティングのときに気を付けていることなどがあれば、お話しいただけますか。
阿部 ライティングについては、3DCGソフトが進化するにつれて、設定項目がカメラとほぼ同じになってきたんです。そこで私も、最低限でもカメラのこと、実際の現場のことを知っておかないとダメだと思い、玄光社のライティングの本を買い漁りました。
建築内観:3DCGで制作
カメラ:3DCGで制作
パーチ 最近の3DCG制作は「現実の環境」に合わせたものに変わったので、従来の撮影ノウハウが生きるということですね。その本を参考にライティングして、いかがでしたか。
阿部 なかなか思うようにはできませんでした。でも色々試しているうちに、ライトの数は極力少なくするとか、複数のライトを打ったときでも1灯ライトに見えるようにするなどのポイントが徐々に分かってきました。
パーチ 3DCG制作におけるライティングの重要性を感じられているんですね。
阿部 ライティングは重要です。3DCGソフトで作るのでも、実際にやるのは本物のカメラの作業だと思っていますから。パーチさんが開講されているスクールも、フォトグラファー視点で3DCGを学べるということで、貴重だと思います。
パーチ あのスクールをフォトグラファーの方が受講されると、やはりカメラ設定やライティングのところが面白いようです。「3DCG写真」と聞くと、従来の写真とは全く別の表現をするかのように思われがちですが、作るのはこれまでと同じ「広告写真」ですから、フォトグラファーの美的表現やノウハウを入れ込む必要があるんですよね。
阿部 それに関連するところで、カメラの勉強を始めた頃、カメラの講習にも行ったんですが、「フォトグラファーさんがCGやるほうが良いだろうな」と思いました。アングル、ライティングはCG制作の武器になるので、フォトグラファーさんや写真を勉強している学生が取り組めば、習得が速いと思います。
自分の武器はモデリング。
PC任せにできないところで、スキルアップを続けたい。
パーチ フォトグラファーが3DCGに取り組むとき、「アングル、ライティングが武器になる」ということでしたが、阿部さんの強みはどんなところにありますか。
阿部 モデリングです。モデリングが必要なときは、呼んでください!
パーチ 「モデリング」というのは、3DCGソフト内でオブジェクトを作る工程のことですよね。私たちもCADがないときにモデリングをしますが、ライティングとは全く異質の物なので、そこは阿部さんのように得意とされる方に任せるほうが効率的でしょうね。
阿部 動画制作などの大きなプロジェクトの場合は、「モデリング」「マテリアル」「モーション」「ライティング」「編集」などを分業する形態がよくあり、私も「モデリング」の部分だけを担当させていただくということがあります。
パーチ モデリングは3DCGの土台になる物ですので、ここが良くないと後工程でどんなに頑張ってもダメという、大変重要な工程ですよね。たとえばモデリングの段階で、正しくない形状の物や細部まで詰めて作られていない場合、マテリアル設定やライティングをいくらこだわっても、良い物にするのは難しいと思います。
阿部 そうですね。あとPC任せにできないのがモデリングで、同じ作業をするのでも、扱いやすいデータというのがあるんです。私はそういう物を作っていきたいと思っています。
パーチ 得意なことを更に突き詰めて、フィールドを広げられているんですね。では最後になりますが、今後の目標などをお話しいただけますか。
阿部 そうですね 基本的には現在も好きなことを仕事にしていますので、このまま継続して、それを伸ばしていきたいと考えています。日々スキルアップしたいですし、また、個人の仕事やプロジェクトの参加などを通して色々な経験をして、仕事の質を高めていきたいですね。
パーチ 今後のご活躍も楽しみにしています! ありがとうございました!
インタビューを終えて
自分の武器を持ち、フィールドを拡大していく3DCGクリエイター
手描きの建築パース制作から3DCG制作へ転身。独立後は建築CGに留まらず、プロダクトCGの制作もされている阿部氏は、終始穏やかに、ご自身の経歴や仕事内容についてお話ししてくださいました。3DCG制作を進める中で、ライティングの研究をしたり、モデリングの技術向上に取り組まれていることもごく自然に語られていましたが、着実に表現力を増して、活躍の場を広げられています。
阿部氏のお話をお聞きしていて、今回一番印象に残ったのは、「モデリングが自分の武器で、アングル・ライティングはフォトグラファーさんの武器になる」ということでした。長年3DCG制作に従事されてきた阿部氏が、「フォトグラファーの撮影ノウハウが3DCGの品質を上げる」と考えられているのが伝わってきて、フォトグラファーの技術やノウハウを3DCGの分野に継承していく必要性を改めて感じました。
次回も3DCG制作をされている方を取材します! ご期待ください。
関連情報
「実際に3DCG写真制作を体験してみたい」という方は、パーチ(info@perch-up.jp)までご連絡ください。次回、「フォトグラファー&レタッチャーのための3DCG体験セミナー(無料)」を実施する際に、先行してご案内致します。
aspic-works
阿部 司
CAD専門学校在学時に建築パースに興味を持ち、桁デザインに入社。約13年間手描き・3DCG建築パース業務に従事する傍ら aspic-works を立ち上げプロダクトCGを中心に個人活動を開始。2010年に独立し、プロダクトCG・建築CGを中心に業務を開始!!フォトリアルCGをこよなく愛し、また得意とする。
長尾健作 Kensaku Nagao
広告ビジュアル制作のデジタル化/3DCG 化 (ビジュアライゼーション) を業界最大手の株式会社アマナで実現。それに必要な戦略立案、市場開発、表現技術開発、人材開発、などを手がけ現在はこのビジュアライゼーションの新しい利用シーンを拡大させる活動等を行っている。 http://www.perch-up.jp
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