めざせ!3DCGフォトグラファー

第10回 化粧品の3DCG写真制作現場を取材! 株式会社 メディア グラフィックスの事例

インタビュー:長尾健作

こんにちは、パーチの長尾です。

職業柄、紙でもWebでも3DCG写真を見かけると品質を確認するクセがあります。少し気をつけて見ていると、自動車や住宅設備はもちろんのこと、家電、家具、食品など実に幅広い業種・企業が3DCGを利用しているのが分かります。

しかし一般の方には「これは3DCGだ」とは分からない物も多く存在しています。実際、クライアントもそういう品質を求めていますし、3DCGフォトグラファーもこれまでの写真と変わらない表現にするために、日々技術を向上させています。

今回はその中でも特に難しい表現が求められる「化粧品」のビジュアルを制作している印刷・デザイン会社を取材しました。化粧品ならではの高品質な3DCG制作から、製版・印刷段階での色合わせのこだわりまで、詳しくお話しいただきました。

化粧品のデザイン検討や広告販促物に活用される3DCG

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勝山基樹 製版部長

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荒瀬崇文 3DCGクリエイター

パーチ メディアグラフィックスさんは、化粧品や文化芸術分野の高品質印刷ならびに各種印刷媒体のデザイン制作をされていることで知られていますが、3DCG制作にはいつ頃から取り組まれたんでしょうか。

勝山 3DCG制作サービスを始めたのは、4年ほど前になります。当社は元が化粧品グループの印刷会社ということもあり、化粧品のポスターやカタログ、雑誌広告等を多く手がけてきましたので、3DCGでも化粧品制作がメインになっています。

パーチ お客様は3DCGをどんなふうに使われていますか。

勝山 まず、製品開発段階で使われています。お客様は従来ならモックアップを使ってデザイン検討されていたんですが、それを3DCGに置き換えて、化粧品の容器の質感や色、デザインを検討されています。それから同じデータを流用して、広告販促物として使っていきます。3DCGなら静止画にも動画にも流用可能ですので、カタログやWebなど様々な媒体で活用できるんです。

パーチ 3DCGを導入したことで、製品開発のお手伝いや、色々な販促物のビジュアル制作もできるようになったんですね。

勝山 デザイン検討時に3DCGを使われたお客様からは、「これは便利だ」と喜んでいただけました。化粧品のプロダクトは、ガラスの厚みが1mm違うだけでも印象がずいぶん変わってくるんです。ガラスの写り込み、透明度がそれぞれどうなるのか、柔らかすぎず、硬すぎず、硬いけどラインが美しくて……という絶妙なところを探っていきますので、それを一段階ずつ確認できる3DCGは、モックアップと比べると重宝だと思います。3DCGソフトでは物理的な検証ができるので、実際に製品が完成した時には、3DCGとほぼ同じ物ができあがってきました。

パーチ 化粧品の精密なデザイン検討に、3DCGという強力なツールが加わったんですね。広告販促物について、お客様の反応はいかがでしたか?

勝山 「クオリティが高い」と驚かれていました。それにモックアップがない段階から制作を始められますので、撮影より早く完成しますし、撮影日の立ち会いもなく、全体的な制作期間が短縮できたと喜んでいただきました。

img_soft_3dcgmezase_10_03.jpg 化粧品:3DCGで制作(デザイン段階のもの)

スタジオライティングを参考にして、高品質な3DCG写真を制作

パーチ 化粧品の広告販促物は、撮影が大変難しい分野だと言われていますが、3DCGで制作される場合も、ほかの物と比べて難しいんでしょうか。

勝山 私たちが制作させていただいている製品は、形状も素材も色も大変こだわってデザインされているので、その美しさを伝えるためには、特有のライティング技術が求められます。滑らかな形や艶感を出すためにハイライトやグラデーションを上手く使って、蓋や瓶の質感がしっかり伝わるように調整していきます。そして商品イメージを伝えることが重要ですので、イメージ写真のスタジオライティングを参考にしています。

img_soft_3dcgmezase_10_04.jpg 化粧品:3DCGで制作

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3ds Maxで作業中の荒瀬氏

パーチ 撮影スタジオでは、蓋は蓋だけ、瓶は瓶だけ、というふうに素材毎に分けて撮影していきますが、3DCGでも同様のことをされるんですか。

荒瀬 同じです。たとえば蓋の素材がクロームの場合、撮影でも写り込みに気を遣うと思いますが、3DCGでも反射のコントロールが難しくて、見え方の検証を何度も行います。瓶にはガラスやプラスティック、ビニールなど複数の素材が使われていますので、色味や輝きなどを調整し、再現していきます。また、「素材片」という、製品の素材の一部をお借りすることもありますので、3DCGソフト内で作っているものと一致するようにじっくり観察して、制作していきます。

パーチ スタジオライティングと3DCGの制作手法は共通していると思いますか?

荒瀬 はい。ライティングの表現力を高めるために、撮影スタジオを見学させてもらったこともあります。「この角度でグラデーションが出るんだな」と確認したり、ディフューザーをよく観察してきましたので、それを3DCGでより効果的な形で再現するようにしています。それと3DCGではライティングだけでなく「マテリアル」も調整して質感を変更できるので、より写真らしさを出すために合わせて調整していきます。

パーチ 「写真らしさを出す」というのは?

荒瀬 ちょっとした不規則感がリアルさにつながるので、たとえば一つのマテリアルの上に艶のあるコーティングを掛けたり、場合によってはわざとノイズや歪みを入れたり、インク感を出してにじませたりします。あと、最後にPhotoshopも使います。質感がどうしても出にくいときやアクセント付けとして、それからPhotoshopのほうが効率が良いときに使います。

パーチ 細かな気配りが積み重なって、品質の高い3DCG写真が仕上がっていくんですね。

3DCG制作も製版・印刷も、「正しい色」を出すために

パーチ 化粧品の広告販促物は、色や質感表現に非常に厳しいとお聞きしていますが、3DCG制作から製版・印刷までの流れを教えてもらえますか。

勝山 やはりカタログを見て買われる方も多いので、色や質感表現にはかなり気を遣います。容器を魅力的に見せるのはもちろんですが、口紅などの色玉は、忠実に再現できるよう努力します。量産するカタログでも品質の良い物を出すために、校正と仕上がりにズレがないように、本機校正をしています。

パーチ 本機校正をされているんですね。特色も使われるんですか。

勝山 モノによりますが、透き通った色やラメなどは特に難しくて、工場とテストを重ねて作っていきます。それから3DCGのRGBデータもCMYKに持っていってから再調整するなど、とにかく仕上がりが忠実になるようにしています。

パーチ 色の再現性が徹底されているんですね。

勝山 お客様の考え方は一貫されていて、「色が正しくクオリティが高い物を出したい」ということなんです。私たちはその正しい色を出せるように3DCGを制作したり、印刷機の調整を常に行ない忠実に色再現できるように管理しながら、ギリギリのところで赤転びしないとか、黄色っぽく濁る手前とか、絶妙なところで色を出しています。この一連の作業によって、消費者の方に安心して購入いただけるんだと思います。

img_soft_3dcgmezase_10_06.jpg 化粧品:3DCGで制作(海外用ブローシャー)

img_soft_3dcgmezase_10_07.jpg 化粧品:3DCGで制作

光や色の表現技術を生かして、より良い3DCG写真を提供していきたい

パーチ 今後3DCGをどのように活用していきたいと考えていますか。

勝山 化粧品が主になっていくとは思いますが、光や色の表現が得意ですので、それを生かした制作を広げていければと考えております。よりクオリティを上げて、デザイン検討段階からカタログ・ポスター制作やWEB、AR等の電子媒体まで、スムーズにご提供していきたいですね。化粧品以外にも色々なお仕事をいただいておりますので、たくさんのお客様に便利にご活用いただきたいと思っています。

荒瀬 今後も技術を上げるために、世に出ている3DCG写真・写真・現物を見比べて、改善点を見つけ、作り込んでいきたいですね。いつも広告写真やムービーを見るたびにライティングの重要性を再認識しますので、ライティングのスキルをもっと深めていきたいと思っています。

パーチ 高品質な3DCG写真を求める企業は多いので、手がけられる分野はますます広がっていくでしょうね。今後のご活躍も楽しみにしています! ありがとうございました!

インタビューを終えて 
−3DCG制作から製版・印刷まで、高品質を極める化粧品の広告販促物−

今回は3DCG写真制作の中でも特に難しい表現が求められる「化粧品」の制作現場を取材しました。高品質な3DCG写真を作るために行なわれている作業を詳しくお話しいただいたので、従来の写真と3DCG写真の見分けがつかない理由も分かってきましたね。また広告販促物で「正しい色」を出すために、3DCG制作から製版・印刷まで一貫して行われる厳しい色確認からは、製品に対する並々ならぬこだわりが伝わってきました。今回は成果物の中から数点掲載させていただきましたので、質感表現や色の再現性、ライティングに特に注目して見てみてください。

次回も3DCG制作の現場を取材しますので、ご期待ください。


株式会社 メディア グラフィックス

1955年創業。化粧品を始め、文化芸術分野の高品質印刷/高精度画像処理、広告・SPツールデザイン、企業ホームページなどを制作する印刷・デザイン会社。


http://www.mediagraphics.jp


写真:長尾健作

長尾健作 Kensaku Nagao

広告ビジュアル制作のデジタル化/3DCG 化 (ビジュアライゼーション) を業界最大手の株式会社アマナで実現。それに必要な戦略立案、市場開発、表現技術開発、人材開発、などを手がけ現在はこのビジュアライゼーションの新しい利用シーンを拡大させる活動等を行っている。 http://www.perch-up.jp

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