2011年02月22日
3DCG写真の必要性がますます高まっている広告業界。実際の制作現場で活躍するプロダクションを訪れ、3DCGを手がけるクリエイター達の生の声をお届けします。
こんにちは、パーチの長尾です。
今回から数回にわたり、実際に3DCG写真制作をされている方にインタビューしていきたいと思います。導入のきっかけや、当初苦労した点、今どんな仕事をされているのか等、お聞きできればと思っています。取材第1回では、大阪で活躍されているプロダクション「2055」の代表であり、フォトグラファーの村田成仁氏と、3DCGクリエイターの田中大介氏にお話を伺いました。
2055さんは数年前に社名を「スタジオ2055」から「株式会社2055」に変え、「撮影に限らず、ビジュアル制作を総合的にサポートする」、という指針を打ち立てられました。その一貫として、3DCGに取り組まれています。
撮影からCGに代わっていく制作現場
村田成仁 代表・フォトグラファー
村田 5年くらい前から、それまでカメラで撮影していた住宅設備関係の仕事がCGになっていったんです。まずは背景がCGになって、撮影は商品・小道具のみになり、セットの建て込みがなくなりました。次の年には商品もCGになり、撮影は小道具のみ、その次の年には全てがCGになりました。他の制作会社でもCGをやっているところの活躍が目立つようになって、実感としてこのままじゃマズイ、CGを仕事にしないと生き残れないと思いました。
パーチ 3DCG写真は、フォトグラファーの仕事の延長線上にあると思っていましたか。
田中大介 3DCGクリエイター
パーチ アナログ撮影からデジタルへの移行も率先して進められていましたよね。
村田 2055では2000年からデジタルの導入を推進し始めました。同時期に「関西電塾」というデジタルフォトのセミナーを始めました。このデジタル化が進んだことで、レタッチやWeb、動画など職種の垣根がなくなったんです。そこに3DCGも加わってきました。
ア・ダンセ シアバター石鹸(植物のみCG) 入手困難なシアバターの葉と実をCGで表現、撮影現場に合わせてライティング。
パーチ じゃあ3DCGの導入は、すぐ決断されたんですね。
村田 設備の金額も下がってきたので、導入もしやすいタイミングでしたね。
パーチ 導入を決めて、どんなところから取り組んだんですか。
村田 まず1年間、CG専門学校の講師の方にMayaを教わりました。月に1度来ていただいて、毎回数時間、社員全員で参加して。でも1年経って、改めて考えてみると、仕事ベースでやるのは無理だなぁ、と実感しました。
パーチ 専任でやらないと、習熟するのは大変ですよね。それで、経験者を採用されたんですね。どんな人材に来てほしいとか、希望はありましたか。
村田 まずは、3DCGのオペーレーションができる人。ただし、オペレーションができるだけではクリエイティブな仕事ができませんので、写真のことや、動画のことも理解できるマルチな人が希望でした。
SHIMANO ALFINE CADデータからCGデータへ変換しての仕様。フォトグラファーによるライティング・アングルハントで商品のイメージカットを作成。
初めて静止画を作ったとき、ライティングの本を購入
パーチ 田中さんの3DCGクリエイターとしてのキャリアについて教えていただけますか。
田中 1年制の専門学校で、Mayaを勉強していました。ゲーム、CM、映画をやりたい人ばかりの環境で、自分も動画しかやっていませんでした。
パーチ 静止画の学習は、学校のカリキュラムにはなかったんですね。
田中 学校に写真プロダクションの方が会社説明に来て、「静止画(3DCG写真)」というニーズがあることを知ったんです。その企業課題で初めて静止画を作ったときは、参考に「ライティング入門」とかの本も買いました。フォトグラファーってこんなに色々なことやるんだ、って驚いて 。
パーチ 初めて3DCGの静止画を作ったとき、問題などありましたか。
田中 Mayaって表現方法はいくらでもあるので、どの機能を使えばいいのか分からなくて、時間ばかり過ぎていきました。
パーチ なるほど。静止画に最適なツールや考え方が分かるまでは、大変ですよね。
田中 本当にそうですね。そして、卒業後はその会社に入社しました。そこでMaxを覚えたんです。
3ds Maxで作業中の田中氏。
パーチ MayaからMaxに移行されたんですね。
田中 当時はV-ray for Maya(Maya対応のレンダリングソフト)がなかったので、必然的にMaxでした。
パーチ 3DCGのオペレーション力があったとはいえ、静止画制作を「仕事」でやっていくのは難しかったんじゃないですか。
田中 大変でした。ディレクターやレタッチャー、フォトグラファーの完成イメージを、見よう見真似で確認しながら制作していました。
パーチ 学校で学んだことはどんなときに役立っていますか。
田中 仕事はどんなエラーでも対応しないといけないので、原因を究明する力が必要です。学校に行けばエラーも含めいろんな経験ができるので、引き出しを増やした、という点ですごく役立っています。その機能を知っているのか、知らないのかで表現方法も変わっていきますし。
パーチ 3DCGクリエイターから見た「フォトグラファーの力」ってどんなものですか。
田中 2055に来てから、フォトグラファーに直接指示をもらうようになったんですが、「光ひとつ変えただけで見え方がこんなに変わるんだ!」と実感しました。たとえば、CGクリエイターでMaxの技術がすごくある人でも、その人が作った3DCG写真を見てみると出来がよくなかったりします。これって、フォトグラファーにアドバイスをもらえれば、もっとうまくできると思うんです。
フォトグラファーのライティング指示を元に、3DCGソフトの中にスタジオを再現していく。
CGクリエイターとフォトグラファーの連携で完成する3DCG写真
パーチ なるほど。では、逆にフォトグラファーから見た「3DCG写真制作」ってどんなものですか。
村田 最初3DCGソフトのライティング方法を見たとき、「あ、写真と全く同じだ」と思いました。でも、製品写真のライティングはCGクリエイターだとできないじゃないですか。ハイライトや反射についての経験がないので、出来上がりが製品写真にならないというか 。たとえばアシスタントも、指示を出せばその通りにハイライトを入れておくことはできるけど、指示がないと自分では作れないですよね。だから3DCGクリエイターとフォトグラファーが共同作業すれば、いい3DCG写真ができる、と思ったんです。
パーチ 共同作業をしていて、問題点とかありますか。
田中 当初問題だったのは、指示がカメラ用語で出て、それを3DCGソフト上の数字に置き換えるのが大変でした。「半段落として」とか、ですね。「引きで」と言われても、どの画面を指しているのか、分からなかったりして。ほかにもV-rayと現実のシャッタースピードが違うとか、慣れるまではお互い大変でした。
村田 以前は3DCGソフトの中にライトやレフ板を自由に置いていましたけど、今はレンダリング時間が最小限で済むようにやっています。
マトリョーシカ(大阪宣真高等学校キャラクター: 学校案内ポスター・パンフレット) 2Dイラストレーターのキャラクターを3DCGで立体化。フォトグラファーによるライティング指示をもとに制作。質感では「木造・刷毛で塗ったかのような塗装」に重点を置き、表現した。
村田 私からは、何のためにこのライティングをするのか、とか、完成イメージを明確にしてから指示出しするようになりました。3DCGになったことで、純粋なライティングをするようになった感じです。今は感覚より理論で考えて伝えるようになりました。
田中 あと、お互いの仕事を理解しておくと、表現の領域が変わります。どこまでCGで作るのか、ここから先はPhotoshopのほうがいいとか。
村田 それぞれ異なる領域のプロなので、その連携が大事です。
パーチ お互いの業務内容が分かると、作りやすくなるんですね。
村田 2055では、全員がそれぞれの職のプロですが、自分以外の作業もある程度分かるようにしています。フォトグラファーもCGクリエイターも、お互いの業務内容を分かっていると、最終の仕上がりがよくなります。たとえばPhotoshopの機能を分かっているフォトグラファーと、そうでない人だと、仕事の進め方が全然違いますよね。
パーチ 広告制作プロダクションが3DCGに取り組む意義ってどんなものでしょうか。
村田 数年前に社名を「スタジオ2055」から「株式会社2055」へ変えたんですよ。2055なら写真撮影だけでなく総合的にいろいろできるよ、というイメージにしたくて。総合プロダクションだからこそできる、ということはたくさんあると思うんです。広告制作では、現物がなければCGで作るし、現物があって撮影のほうが安ければ撮影にする、とかいろいろ提案していけますよね。2055では動画撮影もレタッチも1ヵ所で対応できるので、ワンストップで制作できます。
パーチ 3DCGならではのメリットとか、ありますか。
田中 現実世界では作れないような物を自由に作れる、というのは大きいです。イラストをCG化することで、立体として存在しているように見せたりできます。これなら小道具を作らなくて済みますよね。ありえないような巨大空間が自在に作れるのも、CGならではです。
村田 営業の可能性も増しましたよ。新規のお客様も広がって、既存のお客様の仕事の領域も広がりました。
パーチ 最後に、今後の目標など、教えていただけますか。
村田 やっぱりワンストップソリューション、ですね。デジタルが核で。アンドロイドも、iPhoneアプリも、電子書籍も、Ustreamも、ARも 。いろんな可能性を持って広げていきたい、何にでも対応していけるようにしたいです。
パーチ 今後のご活躍も楽しみにしています! ありがとうございました!
インタビューを終えて −2055さん制作の3DCG−
話が弾んで、あっという間の取材でした。それから、3DCGの制作物もたくさん見せていただきました。静止画も動画もありましたが、フォトグラファーと3DCGクリエイターの連携が取れていて、まさに「フォトリアル」でした。こういうふうに作られた3DCGが、気付かないくらい自然に、写真として世に出ているんですね。
次回も3DCG制作をされている方を取材します! ご期待ください。
株式会社2055
広告用ビジュアルの企画・制作プロダクション。関西最大級のスタジオスペースを所有し、ハイエンドデジタル撮影、画像制作を中心に、3DCG、映像、レタッチ、コーディネートなど、クライアントニーズに対応した制作を一貫して行なっている。
長尾健作 Kensaku Nagao
広告ビジュアル制作のデジタル化/3DCG 化 (ビジュアライゼーション) を業界最大手の株式会社アマナで実現。それに必要な戦略立案、市場開発、表現技術開発、人材開発、などを手がけ現在はこのビジュアライゼーションの新しい利用シーンを拡大させる活動等を行っている。 http://www.perch-up.jp
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