2011年03月28日
2回目となる3DCG制作の現場リポートは、これまで広告の製版・制作を手がけてきた会社が、時代の変化に応じて3DCG制作を導入した事例について取材してきました。
こんにちは、パーチの長尾です。
前回に引き続き、3DCG制作の現場をリポートしたいと思います。今回は去年3DCGを導入されたばかりの、株式会社 日庄さんにお話をうかがいました。日庄さんは、長く広告の製版業をやっていらっしゃいますが、時代の変化に応じて、2D画像制作はもちろんのこと、3DCG制作も開始。そのほか、撮影や印刷等の業務も行なわれています。そして、2月には最新のUstreamスタジオも作られたという、まさに先鋭的な会社です。
3DCG部門を立ち上げられた際には、パーチが開講している「デザインビズ(3DCG写真制作)クリエイター育成スクール」を受講いただきました。このスクールを契機に3ds Max を始められた古瀬氏、吉谷氏は、現在、3DCGフォトグラファーとして活躍されています。お二人には、制作していて難しい点や、気にかけている点などもお聞きできたので、これから始めたい!と思っている方には特に参考になると思います。
広告制作の経験を生かして、3DCGフォトグラファーに
事業開発局 局長 安島 一寿
パーチ まずは、3DCG導入のきっかけを教えていただけますか。
安島 Photoshopでの画像制作は、マーケットが成熟し過ぎていますよね。そこで、さらに差別化をしたいというところで、3DCGの導入を決めました。今後は3DCGのニーズが増えるでしょうし、3DCGなら、自分たちの人材とノウハウを生かせると思ったんです。
パーチ 3DCG制作担当になった古瀬さん、吉谷さんは、もとは何をされていたんですか。
古瀬 二人ともIllustratorとPhotoshopでDTPをしていました。それから3DCGに興味があったので、色んなソフトを試していたんです。
3DCGフォトグラファー 古瀬 哲由
3DCGフォトグラファー 吉谷 英雄
パーチ 3DCGに興味を持たれた理由をお話しいただけますか。
吉谷 最初は、偶然見たゲームのキャラクターがフルCGで、「ここまでできるのか!」と思って、自分でもソフトを触ってみたいと思ったんです。でも、実際に作ってみると、毎回行き詰まりました(笑)。
パーチ 具体的には、どんな問題点があったんですか。
吉谷 形状が滑らかにならないんです。色も思うようにつかないし。
古瀬 本を参考にして車とか作っていたんですが、 それこそ今のようにネットもないので、「どうやって作ればそうなるんだよ?」という感じで 。その後Maxをさわった時は、それまで使っていたソフトとは別物に感じましたね。元からある機能が高性能なので、出来上がりの品質が全然違いますし、チュートリアルを始め、制作時に知りたい情報もたくさん入手できます。
3DCGで制作(電球、机、壁面)
パーチ お二人は、Maxに最初に触られたのはいつですか。
古瀬 「デザインビズ(3DCG写真制作)クリエイター育成スクール」です。週1回で2ヵ月間、全部で9回の講座がありましたが、それでもかなりのハイペースだったので、業務の間も練習していました。たとえばショートカットキーなどは、毎日触っていないとなかなか使いこなせるようにならないので 。
パーチ 制作していて難しいのはどんなところですか?
吉谷 ライトとマテリアルです。ライティングがよくないと材質(マテリアル)が違って見えるんです。とにかく材質が課題で、たとえば電車に乗っていても、色んな人の洋服の材質が気になります。満員電車では、「こういうふうに皺がつくのか!」とか、つい観察してしまいます(笑)。
古瀬 モデリング(CGで作った物の形状)がある程度雑でも、マテリアルとライティング次第でよく見せることができるので、重要です。それから、3DCGでは同じ物を作るにしてもやり方が色々あるので、トライ&エラーで効率化を図っています。
3ds Maxで作業中の古瀬氏
時代の変化に応じてデジタル化、そして3DCGへ
パーチ デジタル化で、製版業には大きな変革が求められたと思いますが、いかがでしたか。
安島 14、5年前から、それまで手作業だった製版を、コンピュータでやるようになりました。新聞社がデジタル入稿を積極的に受けるようになって、それが業界の流れになったんです。どこでもMacのフォントを使うようになり、写植がみんな廃業になり、あっという間の変化でした。逆に、デジタル化にうまく乗れた人は、どんどん仕事をできるようになっていきました。
パーチ 業界全体の変化だったんですね。画像制作をされるようになったのも、自然な流れなんですか。
安島 始めは製版の一部として画像処理をやっていたんですが、技術が蓄積されて、画像制作会社と同等の作業ができるようになったんです。
レタッチャー 小島 昇
パーチ 製版会社で画像制作もできると、お客様にとってはどんなところが魅力的なのでしょうか。
安島 製版には特殊なノウハウがあって、媒体毎の印刷特性に合わせた色調整を行っています。印刷の適正に合わせるのって大変なんですよ。
小島 製版会社は出力環境まで分かるので、効率的だと思います。当社なら、フィニッシュを想定しながら制作を進められるので、たとえば「印刷では出ない色」があるということが早い段階で分かります。それから、出力する紙による見え方の違いをシミュレーションできるので、最終的なイメージが湧きやすくなりますし、最後の最後になって色が出ないといった問題が起こりません。
パーチ なるほど。デザイナーさんにとっては仕事が楽になりますね。
安島 できるだけ、お客様のニーズに対応したいと思っています。3DCGもその一環で、PhotoshopやIllustratorでは無理でも、3DCGなら作れる物ってありますよね。まだ実物がない物とか、現実にはあり得ない画像とか 。3DCG部門を立ち上げたことで、お応えできることが広がっています。
久光製薬:ブテナロックV
商品、タレント、稲妻をレタッチ。手や商品に伝う稲妻は、数種の素材を元にPhotoshopで制作
パーチ ちなみに、3DCG部門と2D部門では、どんなふうに業務を分けていますか。
小島 案件毎に相談しています。ここはPhotoshopが早いとか、物が撮れないときは3DCGで作るとか。お客様が最終的に望まれる画像はどんな物で、どういう工程を踏めば一番効率的か、など一つ一つ考えていきます。
パーチ 毎回、最適な作り方を検討されるんですね。
小島 そうですね、社内のいろんな人と協力していきます。やはり、どんなにデジタル化しても、相手と接すること、コミュニケーションが大事で、それができると、最終的によい物が完成します。
時代のニーズに対応して、Ustreamスタジオを新設
シニアプロデューサー 藤田 昌利
営業 佐藤 泰浩
パーチ ところで、日庄さんではUstreamスタジオをオープンされたばかりですよね。
佐藤 2011年2月にプレオープンしたばかりです。製版業を軸に、時代のニーズに対応した新たな取り組みを積極的に行なう、というのが当社の方針なんですが、その一つとして、Ustreamスタジオを新設しました。
パーチ カフェが併設されているスタジオというのは珍しいですよね。
藤田 はい。既にご利用いただいたお客様からも、「カフェでその後の打ち合わせもできるから、使いやすい」など、ご好評いただいています。利用者は、これまでにお付き合いのあった広告関係の方だけでなく、新たな出会いも多いです。Ustream配信をされている方を始め、クチコミなどを通して、いろいろ広がっています。
パーチ これまでにあった他のUstreamスタジオと比べるとかなり本格的な造りで、十分な広さがあって、雰囲気もいいですよね。
佐藤 ありがとうございます。スタジオはもちろん、カフェとしても本格的なメニューを提供できますので、多くの方にご活用いただけると嬉しいです。(※Ustreamスタジオ&カフェ「NIHONBASHI CAFEST」http://www.cafest.net/)
パーチ ところで、完成前にこのスタジオの3DCG写真を見せてもらいましたが、やはり日庄さんで制作されたんですか。
古瀬 私が担当しました。2次元CADデータを使って、図面を見て作りました。マテリアルは、建築素材をもとに制作しています。営業から、事前にお客様に見せたいという要望もあったので、色々な角度から見た画像を作りました。
藤田 それこそ、実際の建築物の制作と3DCG制作が同時進行でした。本物のスタジオが出来上がる前に3DCG写真ができていたので、完成前から営業できました。
2011年2月にオープンしたUstreamスタジオ(撮影)
建築工事と並行して制作された3DCG写真
パーチ 最後に、今後の目標など、教えていただけますか。
安島 そうですね。やはり多様化するお客様のニーズに最適な形で対応できるよう、当社にある人材とノウハウを生かしていきたいですね。製版、印刷はもちろんですが、2D、3DCGを始め、グラフィックにまつわることは全て提供できるようにしていきたいです。
パーチ 今後のご活躍も楽しみにしています! ありがとうございました!
インタビューを終えて −マルチメディア展開をする広告制作会社−
今回は、3DCG制作を行なっている企業として取材させていただきましたが、お聞きしているうちに、製版業を母体として、2D、撮影、Web、そして最先端のUstreamスタジオまで展開されている、という姿が見えてきました。いま業界で求められている企業として、とても参考になる例だったと思います。
次回も3DCG制作をされている方を取材します! ご期待ください。
株式会社日庄
1967年創業。 製版・印刷を始め、 グラフィックデザイン、2D画像制作、3DCG制作、撮影、Webなど、広告ビジュアルに関する業務を一貫して提供している。
Ustreamスタジオ&カフェ「NIHONBASHI CAFEST」はこちら。
長尾健作 Kensaku Nagao
広告ビジュアル制作のデジタル化/3DCG 化 (ビジュアライゼーション) を業界最大手の株式会社アマナで実現。それに必要な戦略立案、市場開発、表現技術開発、人材開発、などを手がけ現在はこのビジュアライゼーションの新しい利用シーンを拡大させる活動等を行っている。 http://www.perch-up.jp
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