2018年06月21日
格好良い、美しい、面白い物撮影の世界をビジュアルとプロセスで紹介する連載。ライティングテクニックや見せ方のアイデアなど、ビジュアル提案を行なうための糧にしてほしい。
第1回目のモチーフとして、カメラのカタログを想定した撮影を行なった。使用した被写体はハッセルブラッド1000Fという、もはやクラシックカメラの領域に入るものだが、その美しさは今になって輝きを増して見える。この時代のカメラ達は本当に様々なデザインの物がありディテールも非常に面白い物が多いが、撮影にもそういった多様性を喚起させるべく、あえてこのようなカメラを被写体に選んだ。
1/80s f16 ISO100
撮影協力:中村雅也(凸版印刷) / 中島孟世(THS)
スタイリング&小道具:鈴木俊哉(BOOK.INC) / 竹内義尊
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撮影のテーマは「光、闇、反射」という写真の3大要素とも言えるものをビジュアルの基軸にし、写真機のイメージを創り上げること。ファインダーから伸びる強い光の束、闇に鈍く光るボディの金属部分、水面に映る少し歪んだ鏡像、この3つの要素が作り上げるカメラと写真の世界観である。
要は、なんかカッコイイ!と思わせるのが目的であるが、テクニック以前に「何を表現するか」は大事なのである。
ライティング図
【使用機材】
カメラ&レンズ(Canon)
[1]EOS 5DS R [2]TS-E135mm F4L マクロ
ストロボ (Profoto)
[3]Pro-10 [4]ProHead Plus
アクセサリー (Profoto)
[5]Zoom Reflector [6]RFi Softbox Rectangular 2×3
[7]RFi Softbox Rectangular 3×4 [8]Air Remote TTL-C
撮影の流れ
今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。ライティング図と合わせて見ていこう。
1. 光束
まずはキービジュアルとなるファインダーから伸びる光線のライティングである。カメラと被写体の位置を決め、後ろにバウンス板を使ってスリットを作る。あとボケの領域なので使う絞りによってこのスリットは太さが変わる。使用する絞り値を決めて撮影画像を確認しながらスリットの位置と幅を決めていく。暗闇の中に光る光束を表現するために、バウンス板には黒いウールペーパーを貼り不要な反射を避ける。スリットの後ろにLバンク、光に色味をつけるためブルー系のフィルターをかける。
2. カメラ左側面
バウンス板とユポでボックスを作り、柔らかく光を回す。BOXの上方外向けにストロボを向けてバウンス。ハッセルの金属の縁取りを鈍く浮かび上がらせる。
3. カメラ右側面
左と同じようにボックスを作り、光を回していく。黒い皮の部分には強いハイライトが入らないようにし、全体的にしっとりとした質感を出すようにする。
背面・左右のライティングセット
この時点でのセットを上方から見るとこのようになっている。ただ柔らかく光を回しているわけではなく、光の方向性がはっきりしているのがわかる。この高さが必要なのはハッセルの金属の縁取りやファインダーがラウンドしており、その部分のハイライトを綺麗に繋げるため。
4. カメラ正面
レンズの大きさの穴を開けたユポを垂らし、レンズ上部からバンクを使ってライティングをする。左右のライトでできた金属のハイライトを繋げていくように光量と位置を決める。
レンズ上部のライト ユポの穴からレンズを出す
5. 天面
金属部分の上部に残った濃いシャドーをなじませるためにボックスの上を白で塞ぐ、金属のシャドー部が柔らかくなり、鈍い金属の質感が出てくる。今回はスタジオの巨大なディフューザーを使ったが、ここまで大きい必要はない。
セット上部を塞いだ状態
上部正面左右にライトを当てた状態
Tips
ストロボはProfoto「PRO-10」を使用した。1/10f-stopというかなり細かい光量の調整が可能でアクセサリーも豊富だ。ダイヤルやコネクト部分、ハンドルなど各部の操作性も優れている。レンズは新鋭Canon「TS-E 135mm F4 L マクロ」を使用。カメラをなるべく下向きにしないようにシフトさせ、被写体となるハッセルのボディにパースがつかないようにする。またティルトでフォーカスをコントロールし、絞りだけに頼らないフォーカス深度を設定。被写体をシャープに写し出す。
6. 水による反射の演出
水の形状を整える
ハッセルが少し歪んで映り込むように少しずつ水を足しながら写り込み画像を作っていく。スリットからの光を活かすように右側には少し水のないスペースを残した。
7. 細部の補正
現像時の調整でスリットのライトに仕込んであったブルーのフィルターを活かす方向に全体の色調を持っていく。その上で光束のボケ(にじみ)部分が青く発光しているようにトーンカーブで調整、またファインダーから光が伸びているように画像処理で光束を伸ばした。
補正前補正後
バリエーション
セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。
1/80s f16 ISO100 ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
今回のメインカットは光、闇、反射の3要素で写真機や撮影のイメージを構築した。水面に映った鏡像は本体と全く同じものではなく、波立ち、歪み、欠けている部分もある。そこに被写体と写真の関係性を見出すのである。
絵を作っていて思ったのは、スターウォーズとかガンダムIIIのポスターにいかに自分が影響を受けていたかということ。ライトセーバーやビームライフルの光がハッセルから伸びている光束となって再構築されている。カメラとは、フォトグラファーにとって被写体に立ち向かっていくライトセーバーでありビームライフルなのかもしれない。
バリエーションカットではあえてメインの光束を取り除き、その現実世界と、フォトグラファーが切り取る写真の部分だけをフィーチャーしたシンプルなビジュアルを抽出した。デザイナーもこれなら文字が入れやすくて喜ぶのかもしれない。
※この記事はコマーシャル・フォト2018年6月号から転載しています。
関連情報
当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。
価格は2,300円+税。
南雲暁彦 Akihiko Nagumo
凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。
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