2018年08月20日
今回はリボン状のLEDでハーバリウムをライティングする。媒体はデジタルサイネージを想定。紙にはない発光感と実物のサイズを再現できる媒体自体の大きさが、ハーバリウムをより魅力的に見せるキーになる。
1/20s f5.6 ISO100
撮影協力:中村雅也(凸版印刷) / 中島孟世(THS)
レタッチ:川俣麻美(THS)
スタイリング(ハーバリウム製作):Evviva! Misa
スタジオ提供:THS
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撮影チームの中でリボン状のLEDを使ってみたいというアイデアが生まれ、それなら被写体はコレだろうとハーバリウムを大量に用意した。
ガラス物は透過光が綺麗だが、ハーバリウムの場合透過光だけだと、植物が逆光になり、色彩やディテールが出て来ない。かといって正面からライトを入れると瓶にハレが入り、クリアーさを損なう。Philips「Hueライトリボン プラス」ならば、瓶の側面に這わせ光を入れることができるので、透過光のような発光感も、瓶の中の植物のディテールも表現できる。
媒体はデジタルサイネージを想定。サイネージならではの発光感と実物大レベルのサイズを再現できる媒体自体の大きさが、ハーバリウムをより魅力的に見せるキーなのだ。
また、Rawデータの現像で一手間加えダイナミックレンジや色調のコントロールを行ない、HDR的な再現でビジュアルの世界観を構築した。
ライティング図
【使用機材】
カメラ&レンズ(Sony+Canon)
α7R III
[1]
TS-E90mm F2.8L マクロ
[2]
(アダプター:METABONES MB_EF-E-BT5〈銀一スタジオショップ・レンタル〉)
ライト(Philips+LIFX)
Hueライトリボン プラス
[3]
(延長:Hueライトリボン プラス エクステンション / コントロール:Hueブリッジ)
A19 LED Light
[4]
撮影の流れ
今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。前出のライティング図と合わせて見ていこう。
1. ベースのセッティング
ハーバリウムは液体に浸されていて、瓶の上部には若干空気が入っている。瓶を真横にしてしまうとその気泡が浮いて出てきてしまうのでギリギリまでバック板を起こし、気泡を瓶のフタのあたりに止まらせるようにセットを組む。ここにハーバリウムを積み重ね、LEDを這わせていく。
傾斜をつけた土台のセット
2. リボン状LEDライトによるライティング
「Hue」はリボン状のLEDライトで、延長することができる。今回は6mまで延長して、33本のハーバリウムの側面に這わせながら光を当てていく。全て均一に当てるとフラットになりすぎてしまうので、コントラストができるようにダイレクトにライトが入らないラインも作っていく。
ライトの向きを確認しながら這わせる
Tips 1
α7R lll+MB_EF-E-BT5+TS-E90mm F2.8L マクロ
カメラとレンズはソニー「α7R III」とキヤノン「TS-E90mm F2.8L マクロ」の組み合わせだ。デジタルサイネージ想定の撮影なので高画素機ではなく、豊かなダイナミックレンジが必要ということで新鋭「α7R III」を選択。また大量のハーバリウムを並べるので周辺まで解像度が保て、歪みが少なく大きなイメージサークルを持つ「TS-E90mm F2.8L マクロ」を使うことにした。
MB_EF-E-BT5
マウントアダプダーはMETABONES「MB_EF-E-BT5」を使用。高い剛性感を持ち、レンズの持つ全ての機能を損なわずに使用できる非常に優れたアイテムだ。
3. グラフィックのバランスを取っていく
「Hue」には裏表があり、片方向しか照らすことができないので、隣り合うハーバリウムの隙間に光の方向性ができる。つまり光が当たる面と当たらない面が出てくるのだ。絵全体にコントラストをつけていくには良いがハーバリウムは光を受けて白飛びしやすい物や黒く潰れやすい物があるので、光が強く当たる位置には濃い色のハーバリウムを、というようにライトに合わせて並び替えを行なう必要がある。サイネージで表示した時には一本一本が大きく見えるので、ディテールが全く見えなくなる物が無いようにする。
モニターで確認しながらハーバリウムを並び替え
4. 別ライトで背景に表情をつける
背景(白い大理石を使用)に表情を出すために「Hue」と同じくネットワークに接続し、スマホで操作可能なLIFX「A19 LED Light」を1灯プラス。ブルーに調光し全体の雰囲気を作る。ハーバリウムにはほとんど影響のない位置からライティングした。色温度や光量などスマホで細かく調整が可能で雰囲気をリアルタイムで確認できるので面白い。頭の中で設計したグラフィックを作る上でも、さらなる意外性の発見も、こういった機材を使うことで生まれてくる。新しい制作スタイルだ。
LIFX「A19 LED Light」を青色に調光
Tips 2
Hue ライトリボン プラス
今回の肝となる照明機材はともにネットワークでコントロールできるLEDライトで、メインとなったのはPhilipsの「Hueライトリボン プラス」という商品だ。これは自由な形状に曲げられる透明なリボン状の支持体にいくつものLEDが組み込まれており、必要に応じて短く切ったり最大10mまで延長したりすることも可能という面白い特徴を持つ。別売りのブリッジを使用してネットワークに接続し、色や光量をコントロールすることが可能。プログラミングされた光の演出や音に反応させることもできる。
A19 LED Light
もうひとつの電球型のものはLIFXの「A19 LED Light(のプロトタイプ)」でコントロールは「Hue」とほぼ同じことが可能だ。これらはともに撮影用に用意された機材ではなく家庭やショールームなどで使われることが多い商品であるが、こんなに面白いものを撮影に使わない手はない。
バリエーション
セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。
1/8s f2.8 ISO100 ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
「Hue」のリボン状の利点を活かして、鳥の巣の様にぐるぐるとランダムに丸め、光の巣をつくり、そこにハーバリウムをデコレートしていくという撮影も行なった。
この撮影では、「Hue」の張力も利用してハーバリウムを配置している。まさに「Hue」使用の真骨頂ともいえる使い方である。
バック板に石を敷き全体をブルーに調光、深い海の底のようなビジュアルをイメージして撮影した。
Tips 3
Philips「Hue」やLIFX「A19 LED light」は色相や彩度、光量を自由にコントロールできるので様々な光のバリエーションをリアルタイムに作ることが可能だ。両製品ともに、色のコントロールは専用のスマートフォンアプリから操作可能。アプリでの画面は下の写真のようなインターフェイスになる。
右がHue、左がLIFXのコントロール画面
色相環の上に指を這わせればその色にライトが変わっていき、魔法使いにでもなったような今までの照明にない面白さを味わえる。この画面では色相、彩度のコントロールの画面だが、色温度でのコントロールや最初からプログラムされたライティングを使用する場合は違う画面に切り替わる。本当に多彩である。いずれのアプリも非常にわかりやすいインターフェイスで直感的にコントロールが可能、脳みそを刺激し、撮影やライティングのアイデアが湧かせる道具だ。
撮影で使用する場合、あまり派手な色に設定すると再現不可能な色になるが、上手くコントロールすると面白いバリエーションができる。画像処理ソフトで行なうのではなく、実際にこの色に光っている状態を見て判断できるのは面白い。これからのライティングはこういうことが当たり前になるかもしれない。
また、色の変化する様を動画で撮影しておけば、サイネージの動画コンテンツとしても面白い。「Hue」は1600ルーメンという高い光出力があるので、最大出力にすると眩しいくらい明るい。このままショーウィンドウに飾って、プログラミングしたライティングで連続的に表情を変えるなり、音に反応させるのも面白いと思う。
【動画】ライティングの色相・彩度・光量をコントロール
Philips「Hue」のみコントロール
Philips「Hue」とLIFX「A19 LED light」両方でコントロール
写真の撮影というと光を取り込んで印刷物やプリントのような反射原稿に変えていくイメージがあるが、光を取り込み、また光として解き放っていくモニターやサイネージという媒体ではこのようなビジュアル製作が効果的なのではないだろうか。
※この記事はコマーシャル・フォト2018年8月号から転載しています。
関連情報
当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。
価格は2,300円+税。
南雲暁彦 Akihiko Nagumo
凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。
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