2018年10月31日
今回は手間のかかる被写体の代表格、金属の撮影。上品なフォルムを持つバーテンダーツールを集め、端正な美しさを持つビジュアルを目指し、画面構成とライティングを行なった撮影技法を具体的に解説する。
1/13s f8 ISO100
撮影協力:中村雅也(凸版印刷) / 中島孟世(THS)
スタイリング:鈴木俊哉(BOOK.INC)
小道具協力:BAR TIMES STORE
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物撮影において手間のかかる被写体の代表格が鏡のように映り込む金属の撮影だ。ラウンドした金属にはカメラもライトも周りにあるもの全てが写り込んでしまうので撮影はそのコントロールに従事することになり、普通のライティングとは異なったノウハウが必要になる。また逆にライティング次第で表情を大きく変える魅力的な被写体でもある。
今回は上品なフォルムを持つバーテンダーツールを集め、端正な美しさを持つビジュアルを目指し、画面構成とライティングを行なった。ひとつひとつのフォルムをしっかり表現し、金属の持つ硬さ、冷たさ、滑らかさが伝わるように、というのがライティングのコンセプトだ。
このなんとも厄介で個性的な道具たちの個性を引き出しつつ、ひとつのイメージとしてまとめ上げていく。被写体の美しさを見極め、引き出していくのがライティングを施すフォトグラファーの仕事である。
ライティング図
【使用機材】
カメラ&レンズ(Sony+Canon)
α7Rlll
[1]
TS-E 90mmF2.8L マクロ
[2]
アダプター:METABONES MB_EF-E-BT5〈銀一スタジオショップ・レンタル〉
ライト(TGL+Fotodiox)
ルニック200〈アガイ商事取扱製品〉
[3]
J-500〈アガイ商事取扱製品〉
[4]
撮影の流れ
今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。前出のライティング図と合わせて見ていこう。
1. 被写体の特徴や映り込みを確認
バック板のトレーを額に見立て、きれいにその額に収まるよう特徴のある道具を並べていく。なるべくバリエーションに富んだものを選び、絵に面白みが出るように考慮する。また隣同士にある道具が映り込んでしまうので、その映り込みが画面構成を大きく邪魔しないよう丁寧に位置を決めていく。
この先の作業全てに影響するスタイリング
2. セットを組む
真俯瞰のセットを組み、カメラの映り込みを逃がすようにレンズ(TS-Eを使用)をシフトする。道具のフォルムを素直に美しく撮影するので、被写体にライトやレフなどがそのままの形で映り込まないようにユポでセットを囲む。ライトもレフも全てこの外側から行なうことを基本とし、道具ひとつひとつのフォルムを浮き出させることが可能なセットにした。
ユポはテグスを2本吊り、その上に被せるようにセット、この幅で額の中の微妙なトーンを作る。透明なテグスならセットに濃いシャドーが出ない。
ユポに穴を開けてレンズを出す
3. メインライトを決める
画面全体を縦に走る鈍いシャドーを少し右に寄せ、左に大きく明るい部分を作っているのでメインライトは左斜め上から打つ。これは真ん中下段にセットしたアイスピックにその先端からボディにつながる大きなハイライトを作るためだ。このハイライトがこの写真のキーになる部分だ。
メインライトで大きなハイライトを出す
4. 右側面のライティング
道具のフォルムをしっかり出すのに黒く締めていくやり方を使うことが多いが、今回は低い位置から上下2発のライトを入れ、ハイライトで輪郭を光らせる。あくまで金属の色と質感で表現していく。
影や映り込みなどで金属感が出る
5. 上面の明るさを調整
セットの空いている部分もユポを垂らして囲み、全体のトーンを整える為にトップ方向からライトをプラスする。濃いグレーに落ち込んでいたコークスクリューのグリップ上部を明るくし、主役である中央部にあるアイスピックとメジャーカップのハイライトを補強する。
ポイントとなるハイライトを強調
Tips
今回は映り込みのコントロールが撮影の肝なので、リアルタイムでライティングが確認できる定常光のLEDを選択。
ルニック200(TGL)
ルニック200(TGL)は200wの出力と調光機能に加え、ムラのない光源のため全体の光の方向性と露出のコントロールに使用。
J-500(Fotodiox)
J-500(Fotodiox)は調光に加えフォーカス機能による照射角の調整が可能なため、小さな被写体にピンポイントのライティングができる。また、灯体自体が小型軽量のためスタジオワークの自由度が高く、小型セットの物撮影では非常に使い勝手の良いツールだ。
6. セットが完成
完成したセット
囲んだユポに隙間があると、そこが被写体に映ってしまうので、注意する。金属は色被りにも気を使う被写体なので、各ライトの色温度を合わせてライティング完成。
7. 映り込みの消し込み合成
中央上部のメジャーカップが他のツールにかなり映り込んでいて、今回のクリーンな銀色の世界観を若干阻害しているので、これを外したカットを撮影し、映り込みのないカットに合成。他にも映り込みは存在するが、あまりやるとシズル感がなくなる。
シミュレーション
ここまで綺麗に光を回したライティングにあえてユポの内側に黒を差し込みガッチリと被写体に黒を入れてみる。綺麗に光がまわった状態だからこそ大胆な黒締めも美しく映える。こういうイメージも好きだが、今回はあえてこれをやらずに上品にメタルの光画を作るのが目標なのでこれはシミュレーションのみ。
被写体に黒を入れるセット
大胆に黒を入れた状態
バリエーション
セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。
1/13s f8 ISO100 ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
メイン作品を上品にまとめた後に、メタリック表現の王道とも言えるガッチリとシャドーの効いたイメージカットをバリエーションで撮影した。イメージはニュージャージーから見たマンハッタンの風景。立ち並ぶ高層ビルに見立てひとつひとつ順番を吟味しながら道具を並べていく。あの街並みの何処かに美味しいカクテルを入れるバーがある、などと想像を膨らませビジュアルにソウルを注いでいくのが楽しい。
黒を映り込ませるというより暗い空間に大きな窓ひとつ。というライティングを構築。左メイン、右黒!のシンプルライティングで完成。と思ったが、赤いカクテルにサイドから一発足して、「バーを開店」することにした。
道具をそのまま道具としてではなく、擬人化したりこのようにフォルムからインスパイアされて風景をイメージするビジュアルを作っていくこの感覚、何かに似ていると思ったらレゴを組み立てていく時のアレだった。レゴは今だに楽しい。
その物の本質をしっかりと見極めることはもちろん大事だが、クリエイターはそれだけにとらわれ過ぎてイマジネーションの扉を閉じてはいけない、と日々思うのである。
※この記事はコマーシャル・フォト2018年10月号から転載しています。
関連情報
当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。
価格は2,300円+税。
南雲暁彦 Akihiko Nagumo
凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。
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