Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-

第7回 モーターサイクルイベントの大型ポスターを想定してヘルメットを撮る

解説・撮影:南雲暁彦

今回はライティングの基本のひとつ「球体のライティング」。球体の中でも色々と演出要素のある「ヘルメット」を被写体に選び、力強さと静かな迫力を感じるように演出をしてみた。

img_products_still_life07_01.jpg 10s f22 ISO100
撮影協力:中島孟世(THS)
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ライティングの基本のひとつ「球体のライティング」が今回のテーマ。球体の中でも色々と演出要素のある「ヘルメット」を被写体に選んだ。グラフィックの効いたオフロードツーリング用のヘルメットで、普通のものよりバイザーやシールド、エアダクトなどディテールが凝っている。

フルフェイスのヘルメットは頭を守ることが目的だが、顔をすっぽりと隠してしまうので、顔そのものの役割も持つ。かっこいいビジュアルでイメージを創り、ライダー達のヘルメット選びに対するテンションを上げてもらうのもコマーシャルフォトグラファーの仕事なのだ。

これを装着すると強くなれるような力強さと静かな迫力を感じるよう写真に演出を施した。シールドの中を光らせたのはヘルメットの中に存在を感じさせることと、モビルスーツのような迫力を出す演出だ。宇宙にまで飛んでいけそうなヘルメットのポスターである。

ライティング図

img_products_still_life07_02.jpg 【使用機材】
カメラ&レンズ(富士フイルム)
 GFX 50S…[1]
 GF110mmF2 R LM WR…[2]


ストロボ(broncolor〈アガイ商事取扱製品〉)
 パルソG…[4]
 (ジェネレーター:スコロ3200 S)


アクセサリー(broncolor〈アガイ商事取扱製品〉)
 スタンダードリフレクターP70…[4]
 ハニカムグリッド(細・中粗・粗)…[5]
 バーンドア4枚羽…[6]


撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。前出のライティング図と合わせて見ていこう。

1. メインライトを打つ

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左手前から細グリッドをつけたライトを当て、このカットの芯になるキャラクターラインを浮かび上がらせる。このライトだけディフューザーを通さず生の光を当てているのは、この部分のシャープさとラメ入りの塗装を表現するためだ。またバック板にも少し光を漏らしてディテールを感じるようにしている。

さらにこのバック板の反射を透明なシールド部分が拾い、ハイライトを形成。こういったきめ細やかなコントロールをするため、グリッドに加えバーンドアを使用し、余分な光を丁寧に切っていく作業を行なう。バック板に光を漏らしていくのはこのライト1と後述のライト3のみに絞り、他のライトはヘルメットのみに効かせていく。

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ライト1を当てた状態


2. 球体の表現

メインライトで決めたキャラクターラインの幅に合わせ、繋げていくようにヘルメットの球体部分をライティングする。ここでは2枚の乳白アクリルを使用した。左サイドと頭頂部をカバーするようにラウンドさせて1枚、右サイドをカバーするように1枚をセッティング。計3灯のライト2~4にグリッドを付けて、アクリル越しに打っていく。バック板の映り込んだ一番外側のラインと、アクリルが映り込んで光っている内側のラインが2本の曲線を作り出し、それが美しい曲面や球体を感じせる表現となっている。

ライト2を当てた状態
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ライト3を当てた状態
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ライト4を当てた状態
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ライト2~4を当てた状態
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今回のヘルメットは、エアダクトが付いているのでこの部分にアクリルの継ぎ目を持っていくことができたが、完全な球体の場合は1枚の柔らかいディフューザーをラウンドさせて使うことになる。

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セット内の光の様子


3. バイザーの左側面を立体的に見せる

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メインライトでカバーしていないバイザー部分の立体感をプラスする。グリッドを付けたライトをアッパー気味に入れてハイライトをたて、バイザーのシルエットを強調。またメインと球体表現のライトの繋ぎの役割も果たし、左サイドのキャラクターラインを力強く表現するライトでもある。

この際バック板に光が漏れないようにしないと、その反射がヘルメットにも影響を及ぼしコントラストが下がり、エッジ部分のクリアさが損なわれてしまう。アッパー気味にライトを当てていくのはそのためでもある。

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ライト5を当てた状態


4. 鏡でシャドー部の金属ディテールを拾う

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アゴの部分にある金属メッシュのパーツを鏡で起こしていく。左側面はメインライトでライティングされしっかり見えているが、右側面は全体的に暗く落としていく演出なのでほとんど見えていない。普通に右からライトを当ててしまうと明るくなりすぎ、全体のコンセプトを壊してしまうので、局部的にミラーを使って鈍く光らせ、金属の渋い迫力を出していく。
img_products_still_life07_17.jpgシャドー部を起こす前
img_products_still_life07_18.jpgシャドー部を起こした状態

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鏡をヘルメットの右側面に設置


5. 全てのライトを合わせて調整

これでヘルメット外側のライティングは完成。全てのライトにグリッドを使用しており、どこに光を当て強調するかをしっかりと決めて作っていくライティングだ。

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ライト1~5を当てた状態
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メーカー名やヘルメットの形を普通に出していく写真ではなく、球体の丸みとエッジのシャープさを強く押し出す「物の持つ形」からインスパイアされた迫力のあるイメージビジュアルになり、完成に近づいた。

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完成した外側のライティング


6. ゴーグルの内側を光らせて目を演出

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最後に飛び道具的な演出を施す。シールドの内側にユポを貼り、中に小さなバッテリーライトを仕込んで光らせ、「目」を作る。このライトの露出に合うようにスローシンクロ(10s)で撮影。これで一気に即物的なヘルメットのカットに強い意志を含んだ存在感が生まれ、物語を想像する写真として完成する。
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バッテリーライトとユポの確認
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ヘルメット内に仕込む

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ヘルメット内にライトを入れた状態


Tips

img_products_still_life07_28.jpgGFX 50S
今回は大型ポスターの想定のため5140万画素の高解像度カメラ、富士フイルム「GFX 50S」を使用。流石にダイナミックレンジが広い中判フォーマットセンサーだけあって、シャドー部の粘りとハイライトの階調性が豊富で、撮影段階でかなり攻めたライティングができた。

現像はLightroom Classic。富士フイルムのフィルムシミュレーションも反映できる。今回使用したPROVIA / スタンダードは色ノリのよさとシャドーの締まりによって、程よく重みのあるトーンを作り出す。データの耐性もあるため、これをベースにトーン調整をしていく。

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スコロ3200 S
ストロボはbroncolor「スコロ3200 S」を使用。ジェネレーターに無線機能を内蔵しているため、グリッドのみの撮影時には向かないフォトセルやシンクロケーブルの煩わしさから解放される。グリッド使用時に気になる色温度のバラツキもないため、非常にストレスが少なく撮影に集中できる。

バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

img_products_still_life07_29.jpg1/8s f2.8 ISO100  ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

クールでシャープな寒色系イメージのメインカットに対して、趣きや雰囲気の強いバリエーションカットを作ってみた。手法としてはストロボのモデリングランプを使った撮影に切り替え暖色系の光にし、右サイドからライトを一発追加。絞りをf2.8まで開け、光の柔らかさと空気感の厚みを加えた。自然なボケ足と重厚な空気感は大型センサーの美点だ、これでシャドーの中に浮かび上がるAraiのロゴに存在感が生まれてくる。シールド内のライトはそのままなので「目」は青いまま、これがまたいい感じに存在を主張する。

メインカットは宇宙をイメージするようなカットだと思うが、こちらは中世の騎士を想わせるようなイメージになった。統合すると、私の頭の中にあるヘルメットのイメージは「宇宙の騎士」だったようだ。昔、ロボットに騎乗し宇宙を駆け巡るヒーローがいたのを思い出した。




※この記事はコマーシャル・フォト2018年12月号から転載しています。


関連情報

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

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南雲暁彦 Akihiko Nagumo

凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

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