2018年07月17日
今回は雑誌などの広告媒体での使用を想定し、赤い革のバッグを被写体とした撮影を設計。様々なコンテンツのなかで埋もれないような目を惹くビジュアルを目指した。広告はまず目立つことが大事であり、その上で何をアピールするのかが重要だ。
1/80s f8 ISO100
撮影協力:中村雅也(凸版印刷) / 中島孟世(THS)
スタイリング:鈴木俊哉(BOOK.INC)
※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
表現要素は大きく2つ。バッグの革の質感と、透過光による生地の表情コントロールで、この2つのバランスを取ることで質感と浮遊感のあるビジュアルを作っていく。そして昨今の予算や時間が限られた中での制作ということも加味して合成なしの一発撮りである。ライティングでの質感表現やドレープのスタイリングなど迷わずに一発で決めていく、大人職人の撮影方法だ。何が自分の目指すビジュアルか、しっかりと頭にイデアを浮かべてそれに向かって写真を作っていく、予算や時間がなくてもそういう審美眼があれば目標に到達できると思っている。
ライティング図
【使用機材】
カメラ&レンズ(Sony)
α7Rlll
[1] FE 50mm F2.8 Macro
[2]
ストロボ (Profoto)
ProHead Plus
[3] (ジェネレーター:Pro-10)
アクセサリー (Profoto)
Zoom Reflector
[4] RFi Softbox 2×3
[5] RFi Softgrid 50° 2×3
[6]
Snoot for Zoom Reflector
[7] Grid 20° 180mm
[8] Air Remote TTL-S
[9]
撮影の流れ
今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。前出のライティング図と合わせて見ていこう。
1. 透過光によるバック板の表情作り
まず乳白のアクリルとガラス板を合わせたものをバック板にし、その上に背景の表情を作る生地、商品となるバッグを置いていく。バッグは少し浮かした感じに角度をつけ、ドレープを潰さないようにする。この時にバッグの設置位置、カメラアングルをしっかりと決めて作り込 まないといけない。少しでもカメラ位置を変えるとドレープの見え方が大きく変わってくるからだ。下からの透過光のみ最初に決めていく。光源の位置と強さで見え方は全く変わる。 透過光のライト
透過光を当てた状態
ドレープのスタイリング
レンズを決め(今回は背景も重要なので50mm)バッグの設置位置とカメラアングルが決定したら、細部のスタイリングを詰めていく。今回は背景の生地のドレープが写真のテイストを大きく司る重要な要素なため、モニターでリアルタイムに確認しながら作り込んでいく。見ている位置がレンズ位置と少しでもずれると、思った絵にはならないのでライブビューでの確認は必須。フォトグラファーとスタイリストが意見を出し合って方向性を定めていく。
スタイリストによるドレープ作り2. メインライト
グリッドの入ったバンクでバッグ上面をライティングする。革のしっとりとした質感を出すために逆光気味の位置から面でハイライトのグラデーションを作る。この際しっかりとシャドー部もできるようにライトの位置を決めていくのが重要だ。取手や縁の影がしっかりとシャドー部を作り、ハイライトと共に質感や色を表現していく。 バンクにグリットを組み合わせたメインライト
3. タッチライト
バッグの厚み部分をライティング。メインの上面より暗めになるよう光量を調整し、光を入れていく。これは立方体を撮影するときと一緒で、各面で明るさを変えて立体感を出すためだ。光源はスヌートを使い、ここでもしっとりとした質感を損なわないように、逆光気味に低い位置からライトを打つ。 スヌートを使用したタッチライト
4. 全体のバランスを調整する
全てのライトを点灯させ全体のバランスを確認。非常にシンプルな3灯でのライティングで方向性も強いのだが、各々が少しずつ干渉しているので最後に全体を見ての微調整を行なうのだ。特に下からの透過光はそれだけを見て判断した時よりも、上の2灯が入ったことにより透過感が弱くなっているので調整が必要。バッグ自体も透過光でエッジに白が滲んでくるのでその度合いも確認する。これが浮遊感に繋がる。
完成したライティングセット全てのライトを当てた状態
5. バリエーションからベストを探る
このライティングの面白いところは下から入れている透過光のコントロールで様々な表情が簡単に作れること。今回はストロボでの撮影だが、モデリングランプを撮影に使用して色温度を変えてしまうのも結構面白かった。それに連動してドレープも少し弄くると、大きくテイストの違うバリエーションカットが短時間で生まれることになる。画像のように光量を上げていくだけでこれだけドレープの表情が変わってくる。まるでドレープ自体を動かしているように見えるが、全く触っていない。
バリエーションを比較
撮影した3パターンの画像をモニター上で比較して、どのパターンが最も適した表現なのかを探る。バリエーションを作りやすいライティングではあるが、それを選んで決めていく作業は真剣そのもの。事前に設計したビジュアルは、最終的には現場で具現化されるわけだが、このような作業を通してコンマ何ミリの細部のこだわりとの格闘の末、産み落とされると毎回思う。
パターンを並べてセレクトを行なうバリエーション
セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。
1/80s f8 ISO100 ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
下からの透過光を弱くするとこのように生地に色が乗ってくるのだが、このカットもちょっとドレープを変えて光量を調整しただけで簡単に作ったバリエーションである。
今回は雑誌広告という印刷を前提としたメインカットの撮影を行なったが、広告では当然Web展開ということも頭に入れなくてはいけない。このバリエーションカットは印刷より色域が広くコントラストの高いスマートフォンやタブレットのモニターの再現力を意識したものにした。ブルーグリーンのようなそもそも印刷の色域から外れている色をこってりと乗せたもので、モニターで見るとかなり鮮やかで目をひくカットになっている。
※この記事はコマーシャル・フォト2018年7月号から転載しています。
関連情報
当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。
価格は2,300円+税。
南雲暁彦 Akihiko Nagumo
凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。
- 第17回 専門誌のキービジュアルを想定してバイオリンを撮る
- 第16回 メーカーのイメージビジュアルを想定してバイクを撮る
- 第15回 飲料水のイメージビジュアルを想定してシズルカットを撮る
- 第14回 ブランド広告を想定して香水瓶を撮る
- 第13回 Photo Worksとしてアンモナイトの化石を撮る
- 第12回 カタログのイメージカットを想定してコーヒー器具を撮る
- 第11回 広告媒体のキービジュアルを想定してスニーカーを撮る
- 第10回 Photo Worksとしてパウダーが舞う瞬間を撮る
- 第9回 Photo Worksとして水面の煌めきを撮る
- 第8回 専門誌のグラビアページを想定してミニチュアカーを撮る
- 第7回 モーターサイクルイベントの大型ポスターを想定してヘルメットを撮る
- 第6回 ファッションブランドのルックブックを想定して洋服を撮る
- 第5回 キッチンツールフェアのキービジュアルを想定してメタリックツールを撮る
- 第3回 デジタルサイネージを想定してハーバリウムを撮る
- 第2回 雑誌広告を想定してブランドバッグを撮る
- 第1回 商品カタログを想定してアンティークカメラを撮る