2019年03月19日
今回は、肉眼ではほとんど見ることのできないカラフルなパウダーが舞う瞬間を撮影し、ハッとさせる美しさを持った「凄くて綺麗な作品」を目指した。
1/100s f22 ISO200
撮影協力:中島孟世(THS)
レタッチ:川俣麻美(THS)
ロゴデザイン:井元友香(凸版印刷)
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肉眼ではほとんど見ることのできない瞬間の世界には、驚きに満ちた美しさが存在することがある。今回はカラフルなパウダーが舞う瞬間を止め、見るものをハッとさせる美しさを持ったビジュアル制作を目指した。
暗闇の中に浮かび上がるパウダーの舞いに花をあしらった画面構成を行ない、スタジオ撮影ならではのテクニックに満ち溢れた「凄くて綺麗」な作品になったはず。もちろん一発撮りである。
フィルムの時代であれば現像まで、どう写っているのか全くわからなかったことを思うと、こういったエキセントリックな撮影もハードルが下がったのではないかと思う。ブラシを擦り上げるときの微妙な力加減や、ブラシへの乗せ方で舞い方が変わるパウダーに苦心しつつも、美しさを生み出すために何度も挑戦する気持ちが生まれるのは今の時代の撮影システムのおかげだろう。
ライティング図
【使用機材】
カメラ&レンズ(Canon)
EOS-1D X Mark II
[1]
TS-E135mm F4L マクロ
[2]
ストロボ(Profoto)
Proヘッド プラス
[3]
(ジェネレーター:Pro-10)
アクセサリー(Profoto)
RFi ソフトボックス 30×40cm
[4]
ズームリフレクター
[5]
グリッド 180mm
[6]
Air Remote TTL-C
[7]
撮影の流れ
今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。前出のライティング図と合わせて見ていこう。
1. セットを組む
花の後ろに距離をとって黒布を広げ、余計な反射を避けた黒く沈み込む背景を作る。花をまっすぐに立てて固定し、その手前にブラシをセッティングする。パウダーが飛び散ることを想定してワーキングディスタンスを取るためにTS-E135mm F4 Lマクロを使用し、あおりを効かせてフォーカスをブラシと花の両方に来るように調整する。
花の後に黒布を垂らし反射を避ける
まずはトップライトをバンクで組み、花全体を浮かび上がらせつつ、ブラシの先端が光る感じを出す。パウダー用のライトはグリッドを使用。左右からそれぞれのブラシに当てられるように2灯用意し、サイドから逆光気味でセットする。パウダーの飛び散る位置を想定したライティングなので、この状態では本当に効かせたいところは見えていない。花びらのエッジにもライトを効かせ、光るであろうパウダーに負けない立体感を作っておく。
バンク1灯、グリッド2灯でライティング
2. パウダーの動きを想定したライティング
今回の主役は舞い踊るパウダーなので、基本的にそれを想定したライティングとなる。トップのバンクは下地であり、芯のあるグリッドはパウダーを目がけてセットする。
3. ブラシを固定してセッティング
ブラシは同じ場所で擦り合わせることができるようにブームの先端に付けて回転軸を固定、これはフォーカスとライティングの位置決めのために非常に重要。基本的に人力で筆を動かすのでパウダーの舞いは毎回少しずつ違う表情になるのだが、フォーカスとライティングはしっかり押さえておく必要があるのだ。これをやっておけばパウダーの動きを見ながらグリッドの微調整を行ない、ベストを探ることができる。
ブラシを固定してフォーカスとライティングを決める
ライティングが完成した状態
4. ブラシの動きとレリーズのタイミングを合わせる
ハイスピードストロボと高速連写が可能なカメラのコラボなので、なかなかドラマチックな暗闇に浮かび上がるシークエンスを見ながら撮影することができる。セットができてしまえばあとは撮りまくるだけなのだが、パウダーをブラシに付け直す作業が毎回大変なので、一回一回大事に、かなり真剣に息を合わせての撮影になる。
しかし、ブラシやパウダーといった繊細で微細な物の動きは100パーセントコントロール下に置くことは叶わず、逆にそれが撮影の面白さ、ビジュアルの神聖さのエッセンスになる。
Tips
今回の機材はストロボ高速連写の最強ユニットとも言えるProfoto「Pro-10」とCanon「EOS- 1D X Mark II」の組み合わせである。
Pro-10
「Pro-10」は最高1/80,000秒の閃光時間で瞬間を切り取り、秒間50コマまでの撮影に対応する。今回はかなり絞りを深くし、感度も上げたくなかったので1/20,000秒程度の閃光時間、約10コマ/秒で撮影した。
EOS-1D X Mark II
レリーズタイムラグの少ない「EOS-1D X Mark II」はこういった撮影で非常に頼もしい。また画素数が抑えられているのでダイナミックレンジも広く発光感を演出した被写体も高画質に表現してくれる。A3程度までなら最高レベルの画質を叩き出してくれるので、TS-Eレンズを装着した「EOS-1D X Mark II」は物撮りカメラとしても最強の部類に入ると思っている。
熊野筆と蛍光顔料
ブラシは高品質なリスの毛を使用した熊野筆を使ってみた。また、パウダーには発光感を出すために蛍光顔料を使用した。かなり細かいので撮影時は強力な防塵マスクが必要だ。
バリエーション
セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。
1/100s f22 ISO200 ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
サブカットでは花は白、パウダーは赤と青という反対色を選択。水中でパウダーが漂うようなイメージを狙った。
暗闇に白い花が貝のように佇み、画面に落ち着きを持たせ、ブラシとパウダーの赤と青は熱帯魚のベタを連想させる。ブラシ同士が擦れ合いまだギリギリ接触している状態だが、上下に真っ直ぐ伸びるように飛び散る瞬間が撮影できた。パウダーは飛び散るというより、煙のようにブラシから離れて行くような動きだったので水中感が良く出た。
またパウダーとブラシで4分割された画面はデザイン的な面白さも作り出している。僕には美しい花を奪い合うように拮抗した力を持つ者がぶつかり合っているようにも見えた。瞬間の世界には様々な物語が眠っている。
※この記事はコマーシャル・フォト2019年3月号から転載しています。
関連情報
当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。
価格は2,300円+税。
南雲暁彦 Akihiko Nagumo
凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。
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