液晶モニターQ&A

Q5. モニターとプリントの色を一致させたいのですが、どうすればよいでしょうか?

解説:小島勉

モニターとプリントの色合わせにおいて、まず前提として理解しておいてほしいのは、CMS(カラーマネジメントシステム)は「色を完全に一致させるためのものではない」ということです。それぞれのデバイス(モニター、プリンタ)が持つ固有の色を、CIE(国際照明委員会)が定めた、デバイスに依存しない色空間(CIE XYZ や CIE L*a*b* と呼ばれる人間の色覚測定をベースにした色空間)を通して、できるだけ近似させるのがCMSなのです。


モニターもプリンタもそれぞれ固有の色をもっており完全に一致させることはできないが、上の図のように共通の色空間(デバイスに依存しない色空間)に変換することで、色を近づけることができる。


【 STEP1 モニター白色点の設定 】
さて、モニターとプリント結果を合わせるには、やはり精度の高いキャリブレーションに対応したモニターを使うことが最も近道となります。そして合わせこみの最大のポイントは「モニターの白色点の基準をどこに置くか」です。モニターの白色点と観察光源(Q2の項を参照)の色温度を合わせるだけでも、モニターとプリントがかなり近づいて見えるようになるはずです(プリント時にPhotoshopでのCMS設定が正しく行なわれていることが前提ですが、ここでは説明を省略します)。

モニター白色点の設定には大きく分けて3つの考え方があります。汎用性の高い順に
1. 5000Kに合わせる
2. 観察光源の色温度に合わせる
3. プリント用紙の紙白に合わせる
となります(下表参照)。




① 5000Kに合わせる
1つめは、国際的な規格として定められている印刷用評価光源の色温度5000Kに合わせるという方法論です。規格どおりに白色点を設定するわけですから一番汎用性がありますが、観察光源の色温度は実際には5000Kを下回ることが多いと思いますので、モニターは多少青みを感じるかもしれません。


ColorNavigatorの「調整目標の新規作成」画面。「手動調整」を選んで、白色点を5000Kに合わせる


② 観察光源に合わせる
2つめは実際の観察光源を測定して、その色温度に合わせるというやり方です。汎用性は①よりも若干劣りますが、モニターとプリントの比較では①よりも近づいて見えるようになると思います。観察光源に使う蛍光灯は、演色性の高い「演色AAA(昼白色)」を使うことが重要になります。

そして、環境光を測定できるキャリブレーションセンサーが必要になります。ColorNavigatorと組み合わせて環境光を測定できるものとしては、X-Rite社の i1(Eye-One)、i1(Eye-One)Display2、ColorMunkiなどがあります(Datacolor社のSpyder2/Spyder3でも測定は可能ですが、ColorNavigatorと組み合わせて測定することはできません)。

ちなみに私の作業場の観察光源(バイタライトの蛍光灯スタンド)は5001Kでした。職場全体では三菱OSRAM製のAAA蛍光灯を使用していますが、壁面の色(クリーム系)の影響や蛍光灯の点灯時間により、現状では4700K前後となっています。


i1(Eye-One)を使ってバイタライトの蛍光灯スタンドを測定しているところ。

ColorNavigatorで環境光を測定する時には、上のような画面が表示される。


ColorNavigatorの画面で、観察光源の実測値が5001Kと表示された。


③ 用紙の紙白に合わせる
3つめは汎用性が低くなりますが、特定の用紙の紙白に合わせてしまうやり方です。このやり方ではかなりプリントに近づけたモニター表示ができます。プリンタはEPSON PX-5800を使用し、EPSON純正紙(写真用紙<絹目調>)で測定したところ、実測値では5242Kでした。白色点を決めた後、プリント結果に対して、ColorNavigatorの手動調整機能を使ってモニターの輝度や色相、彩度を微調整してしまえば、かなり色が近づくようになります。

汎用性が低い方法論なので商業印刷を前提とする場合は使えませんが、自分自身の作品制作のためであれば、この方法も「あり」です。ただし、特定の用紙を使用するときだけに成り立つものであり、用紙ごとに調整する必要性があることに注意してください。


i1(Eye-One)を使ってプリント用紙の紙白を測定しているところ。

紙白を測定する時には、紙からセンサーを25cm離して測定ボタンをクリックする。


【 STEP2 Photoshopの校正設定 】
モニター表示する場合に忘れてはならないのが、Photoshopでの校正設定です。「ビュー」 >「校正設定」>「カスタム」を選ぶと、下の画面が表示されるので、ここで設定を行います。

校正条件の「シミュレートするデバイス」の欄は、Photoshopでのプリント時に使用したプロファイルを選択します。下の画面では、PX-5800 + 写真用紙<絹目調> で出力したプリントとモニター表示を比較するために、「PX5800 Photo Paper(SG)」のプロファイルを選択しています。また、印刷の色をシミュレーションするためにCMYKプロファイルを使ってプリントした場合は、モニター表示でもそのプロファイルを選びます。

マッチング方法については、私の場合は「相対的な色域を維持」を選び、「黒点の補正」にチェックを入れています。


Photoshopの校正設定の画面


【 STEP3 ColorNavigatorの手動調整 】
ColorNavigatorの手動調整(輝度調整、6色調整)を使って、もう一歩追い込んで調整すれば、モニター表示とプリント結果をさらに近づけることができます。例としてフォトグラファー茂手木秀行さんの作例で合わせ込んでいる様子を撮影しました。


プリントを比較しながら、手動調整でモニターの表示を追い込んでいるところ。

ColorNavigatorの手動調整機能。

私が使用しているモニターColorEdge CG21は、印刷でのカラーマッチング(校正)を基準にキャリブレーションしています(モニターの白色点は汎用性が高い5000Kに設定)。モニターと比較している2枚のプリントのうち、左側(写真では下側)は茂手木さん自身がプリントしたインクジェットプリント(用紙は写真用紙<絹目調>)、右側(写真では上側)がDDCP(コニカミノルタイメージング社 デジタルコンセンサスプレミアム)です。

評価光源の色温度は、前述したとおり実測値で5001Kでしたので、汎用性の高い状態で観察できる環境です。Photoshopの校正設定はオフセット枚葉印刷の標準である「Japan Color 2001 Coated」です。

ColorNavigatorの手動調整で輝度と6色の調整を行なったところ、輝度:32.5%、色相:R "2、彩度:R +3、Y "2で、ほどよく満足できる結果となりました。この手動調整の使いこなしのポイントは、いろんなタイプの画像を表示させて調整し、それを少なくとも2人以上(理想は3人)で同時観察しながら調整するのがよいと思います。


Photoshopで画像を表示しながら、ColorNavigatorを起動して手動調整を行なう。

最後にもう一度繰り返しますが、印刷を前提としたオープンな汎用性を求められる環境では、「完全な色合わせは難しい」というCMSの前提を思い出してください。ここで述べたような方法論でモニターとプリンタの色合わせを行なったとしても、画像データに添付する色見本プリントは、写真、デザイン、印刷の各スタッフ間で、色の方向性について「共通認識を持つためのもの」ぐらいに考える方がよいでしょう。

写真:小島勉

小島勉 Tsutomu Kojima

株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作(プリマグラフィ)のチーフディレクター。1987年、旧・株式会社トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作(プリマグラフィ)を担当し現在に至る。イラスト、写真、CGなど、様々なジャンルのアート表現に携わっている。

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