Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-

第13回 Photo Worksとしてアンモナイトの化石を撮る

解説・撮影:南雲暁彦

今回はカメラに1億画素で撮影できるハッセルブラッドH6D-100cを使用。ブルーのLEDライトを当て、自ら発光しているようなイメージでアンモナイトの化石を撮影した。

img_products_still_life13_01.jpg 8s f16 ISO64
撮影協力:中島孟世(THS)
ロゴデザイン:井元友香(凸版印刷)
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カメラもライトも進化の先端にいるような機材を使ってのイメージ撮影である。逆に被写体は古生代シルル紀末期から白亜紀にかけてなんと3億5千万年もの間、繁栄していたというアンモナイトの化石だ。この個体は螺旋構造が美しいのもさることながら気室がカルサイト化し、たくさんの細かい水晶のような結晶ができている。気の遠くなるような長い時間が創り出した自然の造形は1億画素で撮影するぐらいしないと申し訳ないようなディテールを持った逸品である。

この特徴的なラインやエッジを特定の色に光らせることによりさらにその特徴を掘り起こし、自ら発光しているようなイメージを作り上げた。

アンモナイトの優れた造形は様々な分野の芸術家に愛され、多くの創作物のモチーフになっているが、フォトグラファーの心にも創作意欲を湧き立てる物なのだ。

ライティング図

img_products_still_life13_02.jpg 【使用機材】
カメラ&レンズ(ハッセルブラッド)
 H6D-100c…[1]
 HC Macro 4/120 II…[2]

ライト(LIFX)
 A19 LED Light…[3]


撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。前出のライティング図と合わせて見ていこう。

1. アングルを決める

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被写体が非常に完成度の高い美しさを持っているので、それに素直に正対してカメラを構えることにした。外径が15cmほどのアンモナイトを120mmのマクロレンズでほぼ画面一杯に納めるように真俯瞰でアングルをつくり、隅々までフォーカスがいきわたるように平行にセットする。

img_products_still_life13_04.jpgマダガスカル産のカルサイト化したアンモナイト

1億画素にもなるとフォーカスのシビアさは非常に大きくなる。回折が起きて解像力を下げない絞りで撮影したいのでしっかりと平行を取り、ベストの絞りで撮影できるようにする。今回のカメラは流石にミドルフォーマットだけあってそれなりに重量もあるので雲台もしっかりした物を使用し、三脚ではなく大型カメラスタンドを使った。

img_products_still_life13_05.jpg大型カメラ用のスタンドを使用して固定する


2. メインライト

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いきなり今回の撮影のハイライトでもあるアンモナイトのカルサイト化した部分(水晶のように結晶化した部分)に色をつけ、キャラクターラインを出すライトのセッティングである。この部分は光が透過し、そこだけが発光しているような表情を見せる(実際にカルサイトはブラックランプに反応する性質もある)。
img_products_still_life13_07.jpgLEDライトのカラーをブルーに設定
img_products_still_life13_08.jpgメインライトのみ当てた状態

このアンモナイトは平面に見えて実はかなり表面が立体的なディテールを持っているので、浅い角度からそのカルサイト化してエッジが立っている部分にブルーに設定したLEDライトを打つ。闇の中に芸術的なエッジが浮かび上がり、気持ちも上がってくる。


3. アクセントライト

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さらにグリっとした掴めそうな立体感を出すために、アンモナイト上部にハイライトの面を作る。トップに張ったアートレ越しに白色に設定したLEDをハレ角で打ち、ハイライトを作りたい部分以外の光をフラッグで切っていく(実はこのハイライトを入れるためにアンモナイトは極微妙に傾けてある)。
img_products_still_life13_10.jpg白色に設定したLEDを2灯使ってアクセントに
img_products_still_life13_11.jpgアクセントライトのみ当てた状態

ハイライトができた面でも窪んでいる部分は暗く沈み込むので造形が浮き立ち、強い立体感が生まれるのだ。これにもう一発白色でハイライトを伸ばし全体を整えるライトを入れて完成。


4. 拡大表示

img_products_still_life13_12.jpg1億画素が作り出すディテール


5. ライティングバリエーション

今回は色相と彩度をコントロールできるLEDを3発使用している。各々色を変えていくと無限ともいえるカラーバリエーションを作ることができる。ここはブルー、ここは白と色を変えてライティングしていく作業に、色セロファンを使わずスマートフォンで連続的に光源そのものの色相や彩度を変えていけるのは本当に便利で面白い。テスト撮影ではスローシャッターにして一発のライトの色を変えながらアンモナイトの周りをぐるぐると回ってみたりしたがそれもかなり面白い写真になった。

img_products_still_life13_13.jpg
img_products_still_life13_14.jpg
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3色のカラーバリエーション

Tips

A19 LED Light
img_products_still_life13_19.jpg 今回のライティングで使用した機材はLIFXというメーカーのスマートLED電球。Wi-Fiを経由し明るさや色などをスマートフォンの専用アプリで操作できる次世代ライトだ。色温度2500~9000K、調光1~100%、色相と彩度のコントロールによって1600万色のカラーバリエーションが作ることができる。微細なコントロールができるうえ1灯75W相当の明るさ、さらに複数台同時でコントロールできるため、創作意欲を刺激してくれる面白いライトだ。
img_products_still_life13_20.jpg専用アプリでコントロール可能
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専用アプリのインターフェース

img_products_still_life13_18.jpgアプリの調整のみでさまざまな演出が可能


H6D-100c+HC Macro 4/120 II
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ハッセルブラッドH6D-100cは35mmセンサーと比べ約2.5倍の面積比の53.4×40.0mmという大型センサーのハイエンドモデルのひとつ。アンモナイトに群生した結晶の微細なディテールを捉えるために、大型センサーによる1億画素の豊富な情報量と再現力はまさにうってつけだった。リモート撮影と現像ソフトはハッセルブラッド純正のPhocusを使用。リモート画面とビュ-アーがひとつのウィンドウにまとまっていて、非常に使いやすいインターフェースだ。

img_products_still_life13_22.jpgこれだけトリミングしてもA3以上の印刷サイズがある



バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

img_products_still_life13_23.jpg8s f16 ISO64  ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

建築や宝飾品、写真など、多くの芸術家にモチーフにされてきたアンモナイト。やはり自ら対峙してみるとそのフォルムには抗いようのない、大自然を前にした時のような畏敬の念を抱いてしまう。

時空から音を取り去り、色を取り去り、時間で切り取ったのが白黒の写真である。これ以上何かを取ってしまうとリアリティーは減少していくが、逆にこれ以上ないほど力強い現実として成り立つ物だと思っている。そのくらい物事を裸にして初めて本質が見えてくるというのが面白い部分だ。バリエーションカットでは今回の光の色で演出した写真をあえて白黒にしてみた。

また1億画素の利点を生かし、思いきりトリミングして螺旋の美しいカーブを拡大した(これでもこのサイズの印刷ではデータは縮小して使うほど大きい)アンモナイトのフォルムがむき出しになり力強い作品になったと思う。




※この記事はコマーシャル・フォト2019年6月号から転載しています。


関連情報

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

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南雲暁彦 Akihiko Nagumo

1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷(株)TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー。「匠」エキスパートクリエイター。コマーシャルフォトを中心に映像制作、執筆、セミナー講師なども行う。海外ロケを得意とし、世界300以上の都市で撮影実績を持つ。APA広告年鑑、全国カタログ・ポスター展グランプリなど国内外で受賞歴多数。APA会員。知的財産管理技能士。長岡造形大学非常勤講師。

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