人々の歩み

露光時間

第一章 1839-1845 ②

人々は風景よりポートレイトを撮ることを望んだ

[*露光時間 単位・分]
時刻 8時 9時 10時 11−1時 1−2時 2−3時 3時以降
日没まで
完全な快晴 15 8 6 5 6 7 12−30
晴れ 16 12 7 6 7 8 15−40
晴れ時々曇り 25 18 14 12 14 16 25−40
曇り時々晴れ 30 20 18 16 15 20 35−50
完全な曇り 50 30 25 20 20 30 50−70

(シーガの露光時間表1840年American Repertory of Art. Sciences and Manufactures3月号より)

ポートレイト撮影のために改良すべき点

初期のダゲレオタイプは風景や静物に被写体が限られていました。それは、ポートレイト撮影としてはあまりにも長すぎる露光時間のために、じっと座っていることが物理的に不可能だったからです。モールスがこの点に着目したのは、彼が肖像画家でもあったためで、そもそも1839年3月にダゲールを尋ねた理由も、ポートレイトの可能性を探るためでもあったのです。当時ダゲールは、風景を写すことには成功していましたが、ポートレイトには成功しておらず、ダゲレオタイプ・プロセスでポートレイトを撮る際のいくつかの改良しなければならない希望的観測をモールスに伝えています。

アメリカ国内で初めて発表された露光時間表

露光時間はダゲレオタイプにとって改善しなければならない最初の課題でしたが、その露光時間表を作ったのはシーガーです。これは、1840年American Repertory of Art. Sciences and Manufactures3月号に掲載され、アメリカ国内で初めてのダゲレオタイプ撮影の際の基準となる露光時間表となりました。シーガーの露光時間表は、1839年10月から翌年2月までのアメリカの天候と一般的な町並みを写す場合を基準に作られたもので、好天候であれば5分、悪天候であれば70分の露光が必要となっています。しかし、この露光時間表は屋外での撮影には有効だったものの、ポートレイトを撮影する場合にはあまり役には立ちませんでした。一般の人々は、風景よりむしろ収入の糧となるポートレイトを撮ることを望んでおり、ダゲールのプロセスがどのような条件下で作られたのか、その化学的要素もあまり理解されておらず、多くは風呂場やリビングで人物を撮影していたためです。

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安友志乃 Shino Yasutomo

文筆家。著書に「撮る人へ」「写真家へ」「あなたの写真を拝見します」(窓社刊)、「写真のはじまり物語 ダゲレオ・アンブロ・ティンタイプ」(雷鳥社刊)がある。アメリカ在住。

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