人々の歩み

モールス

第一章 1839-1845 ③

誰が最初にポートレイト撮影を成功させたのか

この時期、多くの人々がポートレイトに挑戦していたことを考えると、最初のポートレイトの撮影者がだれであったのかを特定するのは非常に困難なことですが、記録として明らかであるのは、ニューヨークのモールス、ドレーパー、ウォルコット(Alexander Simon Wolcott)、ジャージー・シティーのディクソン(Johseph Dixson)、フィラデルフィアのコーネリアスらです。中でも、ドレーパーとウォルコットは他よりも早い可能性があります。

モールスが試みた第一回目のポートレイト撮影

1853年の記録によれば、モールスはポートレイトの撮影をダゲレオタイプを習得してすぐに開始したことが分かります。その第一回目は、1839年9月または10月に行われ、娘と彼女の友人たちを撮影したとあります。モールスは同じ時期にドレーパーがポートレイトの撮影に成功したとも記しています。この記録はその体験から16年後にモールスが記したものですが、そのためモールス自身も正確な日付を思い出すことができず、ダゲレオタイプ・プロセスでポートレイトを撮影しようと試みたものの、実際この時期、モールスが撮影に成功したか否かは非常に疑わしいものがあります。

なぜなら、モールスは10分から20分の露光時間が必要であると自身で定めたものの、最終的にはなにも写っていなかったのです。その最もな証となるのは、1839年11月19日付のダゲールに宛てた手紙の中で、ダゲレオタイプ・プロセスに挑戦はしたけれども異なる結果が出たこと、完全なプロセスとするためには温度管理を最優先するべきである、と伝えているからです。このようなことから、モールスがポートレイトに成功したのは、1839年11月19日以降、と思われます。

おすすめ商品・アイテム

写真:写真のはじまり物語

写真のはじまり物語ダゲレオ・アンブロ・ティンタイプ

アメリカの初期の写真、ダゲレオタイプ、アンブロタイプ、ティンタイプを、当時の人々の暮らしぶりと重ね合わせながら巡って行きます。写真はどのように広まったのでしょう。古い写真とみずみずしいイラストとともにめぐる類書の少ない写真文化史的一冊です。写真を深く知りたい人に。

安友志乃 著 定価1,890円(税込) 雷鳥社 刊

写真:安友志乃

安友志乃 Shino Yasutomo

文筆家。著書に「撮る人へ」「写真家へ」「あなたの写真を拝見します」(窓社刊)、「写真のはじまり物語 ダゲレオ・アンブロ・ティンタイプ」(雷鳥社刊)がある。アメリカ在住。

ブログ 水を歩く 月刊 富士山

関連記事

powered by weblio