2022年03月08日
何もない宇宙の始まり
創造主ゼウスのように
光を操って宇宙を 創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界 楽しい夢
高井哲朗が主催する「ゼウスクラブ」。日大 芸術学部 写真学科2年の新藤龍之介くんが持って来たのは、二十歳の記念に買った真新しい革ジャン。「これを自分で撮ってみたい」と言う。アドバイスを受けながらセットを組む龍之介くん。そんな真面目な彼に、ゼウス高井からちょっと大人のプレゼント。お酒とサングラス、バラの花を大切な革ジャンに添えて。
「光はあたってるだけじゃ写ってこないんだよ」
龍之介 これ 撮るのか?
――そうなんです
僕 20歳の記念に バイト頑張って
革ジャン 買ったんですよ
いま ツルツルの感じなんですけど
これから 歳をとっていくたびに
皺が 増えたりして
いい感じに 経年成長させたいんです
僕もこれから いろんなことが あるだろうけど
頑張って いい汗かいて いい皺 作っていくんだって
そんな気持ちで 買ったんですよ
ふーん 龍之介って なんだか とても真面目だな
俺の20歳のときなんて
チャラチャラ だったけどな
じゃ 今回は 真面目にちゃんと 撮ってみようか
正統的な スチルライフだね
ツルッとした 質感 出すのは
光量調節が 難しいね
黒の中の黒 どう表現するかだな
数学的に よく計算してね
得意だろ こういうの
頑張って 構築していくんだぜ
光は あたってるだけじゃ
写ってこないんだよ
光は あたってから 反射する
それが 写るんだよ
人生も そんなもんかも
いくら 努力しても
うまく 表現しないと
たくさんの努力は 全くの無駄に
自己表現 それも大切
生きてること 発言すること
Ph.1
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写真:新藤龍之介
Ph.1のセット
ライト:❶ broncolor Pulso G Head+Beauty Dish reflector(旧タイプ)/❷〜❻broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70
カメラ:Hssselbrad H4D-31/レンズ:HC MACRO 4/120 II /1/60秒 f22 ISO100
ライト❶のみ。オパライト(ビューティディッシュリフレクター)を使用。真正面からあてずに、斜め上からのダウンライトで、皺の陰影、革の質感を出す。またライトを下向き打つことで、背景には光があたらない。
レフを入れて首回り。胸元の光を補う。
ライト❶+背景から5灯❷〜❻。逆光で革ジャン周囲にハイライトを入れる(いわゆるエッジライト)。
革ジャンのセッティング
腕付きのトルソーに伸縮性のあるスポーツアンダーシャツ、セーター、革ジャンの順で着せる。アンダーシャツの内側には、気泡緩衝材(いわゆる「プチプチ」)を仕込んでいる。
革ジャン背面はクリップで留めて、ウエスト、腕のシルエットを絞っている。
黒背景から革ジャンを浮かび上がらせるために、背後からライトを打ち、革ジャンのエッジにハイライトを入れる。エッジライトは上下左右、真後ろから計5灯使用。5灯ともリフレクターにトレペを貼った「直トレ」ライト。
レンズには、逆光による余分な光が入らないように、黒ケント紙で長めのフードを作り、巻いている。
メインライトの出力で革の表情をコントロール
ソフトライトリフレクターをつけたメインライトは、フロントトップからのダウンライト。革ジャンの前面をかすめるように光をあてて、革の光沢を出す。[A]はメインライトオフ。[B]〜[D]の順でメインの出力を上げて最適な革の質感表現を探る。メインライトは下向きなので、出力を上げても背景は影響を受けずに暗いまま。
「黒い革ジャン 赤いカンパリ
手の内を見せたくない サングラス」
まったく なんて 言っていいのやら
好きにやっていいよって 言ったら
ほんとに好きなように やってら
俺が メールしてる ほんの1時間ぐらいで
背景 黒 吊って
メインライト オパライト エッジライト5灯かよ
トルソーに 革ジャン 着せて
光 暗くなりそうなとこには レフ 入れてる
おまけに ハッセルで 撮るんかよ
お前 何もん? 龍之介 すごすぎる びっくりだわ
あらま 俺の撮影スペース こんだけ か? しょうがねーな
ここで 組むしかないんだな すみっこ だ
すみっこ 俺が 20歳の頃だ
カウンターの はしっこ
友達が スナックのバイトやってて
学校帰りに ちょこちょこ よく行ってたな
確か 小説 『赤と黒』の主人公 ジュリアン・ソレル
お店の名前は ジュリアンだった
赤 軍服 黒 僧侶
男が出世するには
そのふたつ そんな時代の ジュリアンの 物語
先々に進んでいく そんな道に 出会う女との葛藤
まぁ そんなのは 今でも おんなじだけど
男と女 情の絡み合いだね
愛してる それは 心? からだ? いつでも 難問だね
ある意味での 戦いだ
そんなこと 思い出した
黒い 革ジャン 赤い カンパリ
手の内を見せたくない サングラス
大人になるって 楽しくもあり 苦しくもありだな
言い争いは 幸福な時間でもある
清濁 あわせ呑んで 嬉しいひとときだ
スチルライフ それは 静止した時間
魂の 記憶
たまには 酔うのも よし
Ph.1
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写真:高井哲朗
Ph.5のセット
ライト❶は長さ60cmの縦長ボックスライト(ストリップライト)。前面カバーが乳白アクリル製で、シャープなハイライトが特徴。サングラスにライトの映り込みを作りつつ、バラとボトル左側面を照らす。
ライト❷にはグリッドをつけて光を絞り、革ジャンに照射。
ライト❸はオプティカルスヌートのスポットで、ボトルラベルの輝きを出す。
ライト:❶ broncolor Striplite 60 Evolution/❷broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70+Honeycomb grid❸broncolor Pulso Spot 4+Optical snoot
カメラ:Canon EOS 5D MarkII/レンズ:EF50mm F2.5 コンパクトマクロ/1/100秒 f10 ISO100
ライティングの組み立て
ストリップライトでバラとサングラス、ボトル左サイドに光を入れる。サングラスは偏光グラスのため、ライトの映り込みはイエローになる。
グリッド付きリフレクターでボトル、革ジャンの明るさ出す。
レンズスポットのシャープな光でラベルを浮き上がらせる。
カメラ前に垂らしたフィルターで画面上部に赤い色をかぶせる。フィルターはポールに垂らしているだけなので、色をかぶせる範囲は簡単に調整できる。
スタジオに二つのセットを組んでの撮影。スタジオ全面を使った龍之介くんのトルソー撮影に対し、ゼウス高井は小規模テーブルトップ。トルソー撮影終了後、革ジャンをテーブルトップセットに移して撮影スタート。
革ジャンは内側にブロックを入れて形を整え、バラの花はコップに挿して、カンパリのポケット瓶の背後に置いた。
銀のボール紙をカットしてボトルの後ろに立てる。フロントからの光(主にライト❷)を反射して、ボトル内部を明るくする。
高井哲朗 たかい・てつろう
1978年 フリーとして活動開始。1986年高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
※この記事はコマーシャル・フォト2022年3月号から転載しています。
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