2023年04月03日
スタジオスチルライフ撮影の
アイデアと 愉しみを 伝授
創造主ゼウスのように
光を操って 宇宙を創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界
家族写真やセルフブランディングポートレイトの撮影をしている金子遥さんが今回のゲスト。普段から和装することが多いという金子さんの着物を撮ることになった。金子さんはマネキンに着付けた着物のスチルライフ。ゼウス高井は「陰翳礼讃」から始まり、谷崎潤一郎的エロチシズムをたどる。
金子 遥(かねこ・はるか)
看護師経験を活かし経営者プロフィール写真、家族写真を中心に活動中。
URL:haruphotography.com
Instagram:@haluca_photography
松村礼子(まつむら・みちこ)
広島ドレスメーカー専門学校卒業後、Stylistの道に進む。
2015年に、着付技能士1級を取得し、ブライダルや撮影の着付けを手掛ける。
Instagram:@moikiti2
ハルカ姉さんの着物
ハルカ姉さん やばいよ もう終電間近 急がないとね
きょうで2日目 着物撮影 なかなか進まないみたいだな
いつもは ポートレイト撮影
モデル撮影で コミニュケーション 取りながら
素敵な写真を撮ってるのに
物とのコミニュケーションは 難しいみたいだね
たぶん 頭の中には
満開の桜の下 夕暮れ時の淡い光に 照らされた
闇の中にホワッと浮かぶ 艶姿 みたいなの
妄想してそうだけど
それを 1枚の写真に とどめるのはね なかなか だな
背景の桜のイメージは まとまってきてるみたいだけど
リアリティー 感じさせるには
光のコントロールと 撮影セットを うまく作らないとね
着付師のまっちゃん 呼ぶしかないかな
基本的な着付け ちゃんとできてないと
マネキンにも うまく着せられないしね
ライティングもおんなじ
ここは 基本に立ち返って カタログ撮影的な撮影
バンクライトで 明るさを作り
フロントからのグリッド直光で 立体感を 出していこうか
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Photo:金子 遥 着付け:松村礼子
ライト:❶broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70 ❷broncolor Pulso G Head+Softbox 60×60 ❸broncolor SIROS S+Standard Reflector P70+Honneycomb Grid
カメラ:Canon EOS R5 レンズ:EF24-70mm F2.8L II USM
1/100秒 f14 ISO200
ライティングの組み立て
背景はカラーフィルターを貼ったライト❶を乳白アクリルに透過。ライト前に木の枝を立てて背景に映し込んでいる。
右サイドからのバンクライトで、着物全体を描写。
手前からのグリッド付きライトで手前のシャドーを起こし、帯の立体感を出して完成。ライト❷❸の光が背景に回ると背景色が出ないため、ライトの角度と出力のバランスがポイント。
マネキンに着物を着付ける
仮の着付けでライティングをほぼ完成させた後、着付師・松村礼子さんに入ってもらい、金子さんも手伝って本番撮影用着付けを行なう。
ちなみに着付けにも色々な型があるそうだが、今回はカタログや雑誌表紙を想定してピシッと襟を立てた正統派。
被写体(着物)2灯、背景1灯の構成
フロントライト、バンクライト(ソフトボックス)、乳白アクリル背後からのバックグラウンドライトの3灯構成。
右のバンクライトの光が後ろに回ると背景の色が出ないため、角度と出力に注意(写真中央)。
フロントライトはグリッドを付けている。
背景は乳白アクリルボードの後ろから、リフレクターに青、アンバー、ピンクのカラーフィルターをずらして貼り、3色のグラデを作る。さらに花型に切ったカラーフィルターを木の枝に貼ってライト前に置き、背景に影を映し込んでいる。
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バリエーション Photo:金子 遥 着付け:松村礼子
陰翳礼讃 和の光を作る
“闇にまたたく蝋燭の灯と 漆の器とが
合奏する無言の音楽の 作用なのである”
なんてことを ね
谷崎潤一郎さんは 陰翳礼讃で
書かれているんですよ
漆のお椀のことを 幽玄に 瞑想するなんてね
西洋のピカピカで 曇りのないものを 嫌い
深みのある沈んだ 重々しいものを 尊ぶ
既に失われつつある 陰翳の世界を
せめて文学の領域へでも 呼び返してみたい とね
写真の領域でも
陰翳の世界でこそ 美は輝きを増す
着物撮影の時に そんなこと 考えた
眩しい光の中で 光と影のバランスで
立体感を再現する 西洋的絵画表現でなく
陰翳の闇の 隙間から入る僅かな
夕日で照り返して仄めく光 幽玄な灯 ゆらめく光など
東洋的な象徴的再現
日本画のような 観念的ライティング
濡れ縁から映り込んでくる光に 庭の草木の緑を 入れ込み
面光源にして 帯を照らす
点光源で 蝋燭の光のような 筋光を入れてみた
光が 濁るように 色温度の低い タングステン光
ピンスポットでね帯が解けたその間を ね
シュッ 帯締めのほどける音 浮かび上がる 白き肌
陰翳の闇の 艶やかな妄想 秘め事は 闇の中のお楽しみ
キラリ と 光る髪飾り たおやかに はずされ
髪に 群青色が満ちみちて
かすかな吐息が ぬくもりが
ひとつの塊になるべく とろけゆく
陰翳の さざなみ
美は艶やかに闇にとける
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Photo:高井哲朗
ライト:❶broncolor Pulso G Head ❷broncolor boxlite 40 ❸EriSpot
カメラ:Canon EOS 5D Mark IV/レンズ:EF50mm F2.5 コンパクトマクロ1/8秒 f13 ISO100
ライティングの組み立て
左サイドからのベアバルブ光❶。ライト手前下側を薄手の乳白アクリルボードで遮り、乳白アクリルボード越しのディフューズ光と、ボード上から入るベアバルブ直光をミックス。ライト出力は弱めで、着物の柄や扇子の絵が浮かび上がる程度。
奥(画面上)から乳白アクリルボード越しのボックスライト。帯紐の赤、帯の紫、青、扇子の緑に揃えて並べた短冊カラーフィルターを乳白アクリルボードの後ろ側に貼って、それぞれの色味を強調している。
手前(画面下)からタングステン定常光で髪飾りを中心にスポットを入れて完成。
3灯で日本家屋の「あかり」を表現
サイドからベアバルブ1灯、アクリルボードの後ろからボックスライト1灯、正面からタングステンタイプのスポットライト1灯、計3灯のミックス光撮影。
リフレクターを外したベアバルブ状態のストロボは発光部を縦にして配置。夕方の部屋に差し込む光をイメージして、出力は弱め。手前に乳白アクリルボードを置いて、影を弱めている。
背景は短冊カラーフィルターを透明シートに貼ったものを、テープで乳白アクリルボードに止めて、ボックスライトの光を透過させる。夕日に庭の緑が照り返し、日本家屋の白壁に反射するイメージ。
陽が落ちて部屋のあかりに浮かび上がる髪飾りというストーリーで、タングステン定常光のスポットライトをあてる。当然、光の角度は上からの天井光ではなく、枕元の行燈の位置から。
バリエーション。フロントの定常光スポットのみのライティングで、髪飾りの梅の花をクローズアップ。タングステンの色温度を活かした。
高井哲朗 たかい・てつろう
1978年 フリーとして活動開始。1986年高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
※この記事はコマーシャル・フォト2023年4月号から転載しています。
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