人々の歩み

価格の低下

第二章 1846−1855 ⑥

銀塩やフィルムの時代にも基準となったダゲレオタイプのサイズ

マンモスプレート
Mammoth Plate
13(または15)×17 inches
(33 (または38.1) × 43.2cm)
エキストラ
Extra(Imperial)
11 × 13 inches(28 × 33cm)
ダブルホール
Double Whole
12 × 16 inches(30.5 × 40.6cm)
ホールプレート
Whole Plate
6.5 × 8.5 inches(16.5 × 21.5cm)
オーバーサイズハーフプレート
Oversize Half Plate
4.75 × 6.25 inches(12 × 16cm)
ハーフプレート
Half Plate
4.25 × 5.5 inches(11 × 14 cm)
1/4プレート
Quarter Plate
3.25 × 4.25 inches(8 × 11cm)
1/6プレート
Sixth Plate
2.75 × 3.25 inches(7 × 8cm)
1/9プレート
Ninth Plate
2 × 2.5 inches(5 × 6cm)
1/16プレート
Sixteenth Plate
1.375 × 1.625 inches(3.5 × 4cm)

ダゲレオタイプはさまざまなサイズのものが作られました。ダゲールが使用したのはホールプレート(Whole Plate)と呼ばれるサイズ16.5cm×21.5cmのものでしたが、工場ではダゲレオタイプの考案者であるダゲールが使用したことからホールプレートをスタンダードサイズとして、その前後で大小のサイズを製造しました。そして、このスタンダードサイズが、後の銀塩やフィルムの時代となってもサイズの基準となりました。1/6プレート(Sixth Plate)は最も一般的なサイズで、このサイズで多くのダゲレオタイプが作られ、その次に作られたのが1/4プレート(Quater Plate)のものです。また、非常に小さなサイズのものが作られ、指輪やロケット用として楽しまれ、逆に33cm×43.2cmもあるマンモスプレートと呼ばれるサイズのものも時代の終りには登場しました。

初期の時代のダゲレオタイプにおいては1/6プレートの撮影で、撮影料は$5が支払われ、ダゲレオタイプが広まるに従って、1849年には$2.5まで撮影料が下がります。デービー(D.D.T.Davie)は当時の詳細なビジネスデータを残していますが、彼によれば、1853年当時、ニューヨークに暮らしていたオペレーターの撮影料は1/6プレートで平均$2.53、1/4プレートで$4.35を得た、と記されています。

市場の拡大・競争から生まれたチープ・ピクチャー

ダゲレオタイプの市場での拡大は、その質や技術の競争をもちろん生み出しましたが、同時に、その価格も競争の対象となりました。1853年の広告には1枚25セントというものまで登場します。この価格はおそらく指輪やロケットのためのダゲレオタイプと考えられますが、当時第一線で活躍していたブレディー(Mattew B.Brady)はあまりのひどい状況を憂慮し、新聞に広告を掲載しています。それによれば「ダゲリアン・アートを長い間探求してきた自分のダゲレオタイプは、ロンドンとニューヨークのアートフェアーでも評価を得、あのようなサイズ、価格、質の25セントや50セントでチープ・ピクチャーと世間で呼ばれているオペレーター達のものとは同等には扱って欲しくない」と言い切っています。しかし、この広告がどれほどの威力を発揮したのかは定かではありません。なぜなら、チープ・ピクチャーを写すオペレーター達の背後には、一点のダゲレオタイプに2ドルを払うことのできない多くの一般の人々がいたからです。

医者や弁護士、政治家達がこぞって押し寄せるゴージャスなダゲレオタイプ・パーラーでは、撮影後、顧客はサロンでくつろぎながら仕上がりを待てばよかったのですが、安く撮影してくれる所では、顧客は番号札を受け取り、番号を呼ばれた後、混んだ待合室から撮影室に移動し、壁の一点に向かって見つめるよう壁の向こうにいるオペレーターに指示されます。そして、撮影から仕上がりの引取りまでオペレーターが移動するのではなく、顧客が部屋から部屋へ巡回しました。その分、オペレーターの負担も少なく、価格も抑えることができたのです。オペレーターは単純な作業を繰り返し、盗むほどの高度な技術も顧客の表情を引き出すテクニックも学ぶことはなく、露光も「ショート」と「ロング」の二通りしか指示されませんでした。そして、なにより写していながらもオペレーターは肝心のその仕上がりを見ることもありませんでした。

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安友志乃 Shino Yasutomo

文筆家。著書に「撮る人へ」「写真家へ」「あなたの写真を拝見します」(窓社刊)、「写真のはじまり物語 ダゲレオ・アンブロ・ティンタイプ」(雷鳥社刊)がある。アメリカ在住。

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