レタッチの基本ワザ

第9回 モノクロームの処理基礎篇

画像処理・解説:大里宗也(VONS pictures)

最初からモノクロフィルムを使って撮影する銀塩写真と違い、デジタルフォトはカラー画像からモノクローム(白黒/モノトーン)画像に変換して作り上げることが多い。ここでは、どのようにすれば印象的なモノクーム写真に仕上がるかを解説してゆこう。

img_soft_retouch09_01.jpg img_soft_retouch09_02.jpg オリジナルカラー画像
Photo:片岡竜一
ロケ地:ブロークンヒル (オーストラリア)


モノクローム処理は複数の方法があることを知る

デジタルフォトでは、モノクローム写真にしたい場合でも、カラーで撮影を行なう。これはカラー画像(RGBデータ・24bit)のほうが情報量が多く、階調や濃度をコントロールしやすいからだ。

もっとも単純な方法が、Photoshopの「イメージ」メニューの「モード」から「グレースケール」を選択する方法だ。これは24bitのカラー画像が8bitのグレースケールへと極端に情報が削ぎ落とされてしまうので使わない。

画像処理でモノクローム処理を行なう場合は、基本的にRGBデータのままでモノクローム画像に仕上げる。そうした方法のひとつは、Photoshopの「色相・彩度」で「彩度」を0に設定するモノクローム処理だがややフラットな印象のモノクロームに仕上がる。

もうひとつは「色調補正」メニューの「チャンネルミキサー」で「グレー」に設定する方法が一般的にはよく使われる。

しかし現在、画像処理で使われるモノクローム処理の主流は、Photoshop CS3以降に「色調補正」メニューに追加された「白黒」機能だ。

「色相・彩度」によるモノクローム処理
img_soft_retouch09_03.jpg
img_soft_retouch09_04.jpg
この方法は、RGB各色が同じような濃度に変換される。そのため、画像成分にRGB各色が平均的に含まれる画像は、メリハリのないモノクローム写真に仕上がってしまうこともある。

「チャンネルミキサー」によるモノクローム処理
img_soft_retouch09_05.jpg
img_soft_retouch09_06.jpg
この処理方法はRGBが程よい濃度でモノクロームに変換される。しかし全体のバランスを見ながら調整しないと思わぬところに弊害が出てくる。上の画像は青空の濃度を濃くしたら「HOTEL」の文字が見えなくなってしまった例。

「白黒」によるモノクローム処理
img_soft_retouch09_07.jpg
img_soft_retouch09_08.jpg
「チャンネルミキサー」などよりも高精度に各色の濃度のコントロールができ、自由度の高いモノクローム処理が可能だ。この「白黒」はレッド系(R)、イエロー系(Y)、グリーン系(G)、シアン系(C)、ブルー系(B)、マゼンタ系(M)のRGB/CMYKの各カラーごとにモノクロ変換の濃度を細かく調整できる。

「マスク」を作り「トーンカーブ」で「覆い焼き」「焼き込み」を行なう

Photoshop CS3以降に追加された高度なモノクローム変換機能 「白黒」は、各色のスライダを動かすことで簡単に、直感的に濃度の調整が可能だが、そのままにしたい部分まで、調整が及んでしまうこともある。

そのため、もう一歩踏み込んで完成度を上げるためにはマスクを作り、部分的な調整をすることが不可欠である。

作例の場合は、空、地面と建物、建物の壁面部分の3つのマスクを作り、トーンカーブによって、それぞれ個別の調整を行なってみた。

こうした画像処理は、銀塩モノクロ写真のプリントで行なわれていた「覆い焼き」「焼き込み」を高精度に行なうのと同じ表現効果が得られる。ただし調整を加えすぎるとオリジナル写真のイメージが失われてしまう恐れもあるので、カラー画像と見比べながら調整することも大切だ。

img_soft_retouch09_09.jpg
img_soft_retouch09_10.jpg

img_soft_retouch09_11.jpg 地面と手前の建物のマスク画像を作成し、トーンカーブでコントラストの調整を行なった。

img_soft_retouch09_12.jpg
img_soft_retouch09_13.jpg

img_soft_retouch09_14.jpg 空は、トーンカーブで全体に濃くすることでディテールを強調。雲のハイライト部を残しつつ、濃度を濃い方向に調整することで、雲の形状をより鮮明な印象に仕上げた。

img_soft_retouch09_15.jpg
img_soft_retouch09_16.jpg

img_soft_retouch09_17.jpg 建物全体はコントラスト調整を行なったが、壁面のディテールが潰れ気味で、よく見えない。このような場合もやはりマスクを作成し、部分的に調整してみるとよい。

カラー画像の各色とモノクローム変換での見え方に注意したい例

オリジナルカラー画像

img_soft_retouch09_18.jpg Photo:片岡竜一 ST:曽我部将人 HM:中山夏子 モデル:VIKA.D(ブラボーモデルズ)

img_soft_retouch09_19.jpg
img_soft_retouch09_19b.gif
img_soft_retouch09_20.jpg
上の作例のようなカラー画像で明るめの花は、花びらが飛び気味になり形状が見えにくくなる。若干、コントラストを付けるだけでも存在感が出てくるのがわかる。

img_soft_retouch09_21.jpg
img_soft_retouch09_19b.gif
img_soft_retouch09_22.jpg
色の違いによって判別され、分離していたイメージが、モノクロームへ変換した途端に同化して単調に見えてしまう。作例の場合は周りの葉っぱとバラの花が同化して見えるので花を明るめにし、コントラストを付けている。

「白黒」のデフォルトでモノクローム処理した画像

img_soft_retouch09_23.jpg

「マスク」と「トーンカーブ」で部分的にコントラスト調整

img_soft_retouch09_24.jpg

大里宗也 Souya Ohsato

熊本工業大学附属情報技術専門学校メディアデザイン学科卒。2000年より株式会社VONSpictures所属。チーフCGデザイナー。http://www.vons.co.jp

関連記事

powered by weblio